■7人が行くシリーズ


1 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 22:10:34.52 :mKKnLKOo0

あらすじ
吸血鬼、再び。

前3話
松山久美子「7人が行く・吸血令嬢」
伊集院惠「7人が行く・狐憑き」
持田亜里沙「7人が行く・真鍋先生の罪」
から設定を引き継いでいます。前3話含めた話なので、先読み推奨。

あくまでサスペンスドラマです。
設定はドラマ内のものです。

それでは投下していきます。


2 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 22:11:21.94 :mKKnLKOo0

メインキャスト

SWOWメンバー

1・大和亜季
2・持田亜里沙
3・太田優
4・仙崎恵磨
5・松山久美子
6・財前時子
7・伊集院惠

刑事課警部・東郷あい
刑事課巡査・藤原肇

柳清良

高垣楓
松永涼
白坂小梅

関裕美


3 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 22:12:56.57 :mKKnLKOo0


目を覚ましたら、夜空に浮かんだ月が私を見降ろしていました。

ここはどこだろう。

天国かな、地獄かな。

あなたのそば?それとも……

自分の頬を撫でてみる。うん、ツヤツヤ。

辺りを見回す、眠りに着く前に見た景色と同じ。学校の屋上、どこまでも見慣れた景色。

つまり。

私は天国にも地獄にも行っていない。

太陽光を浴び続けたのに。

私はもう怪我すらしていない。

そう思うと、ポロポロと涙が出てきました。

さびしい。

どうしてこんなことをしたのか。

寂しい。

わかってる。わかっています。

さみしい。

あなたが恋しい。どこまでも恋しい。

ううん、あなただけじゃない。

孤独。

私は独り。

さみしいよ。

あなたのことを思って終われたら。

それでハッピーエンドだったのに。

誰か、私を止めて。

天国にも地獄にも行けずにさまよっている、私を。

さみしいよ。

独りは寂しいよ……

……

そんな気持ちが喉の渇きにかき消されて、私は立ち上がる。

血が欲しい。

序 了


4 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 22:14:48.96 :mKKnLKOo0


SWOW部室

SWOW
セブン・ワンダーズ・オブ・ワールドの略称で名目上旅行サークル。最近は不思議なものに首をつっこむことが活動内容。

仙崎恵磨「暑い!」

仙崎恵磨
SWOWメンバー。S大学4年生。おそらく、発熱量が人より多い。

松山久美子「最近、ほんと暑いよね」

松山久美子
SWOWメンバー。S大学4年生。只今、胸元にうちわで風を入れている。

恵磨「まだ7月にもなってないのに!」

太田優「あっつーい。アッキーもサマーカットしなきゃ♪」

太田優
SWOWメンバー。S大学4年生。すでにホットパンツ姿。

久美子「ねぇ、そこの温度計見て」

伊集院惠「いいわよ。えっと、31℃?」

伊集院惠
SWOWメンバー。S大学4年生。立ち振舞いはクール。

恵磨「そりゃ、暑いわけじゃん!」

優「外はもっと暑いんでしょー?」

久美子「考えるだけで滅入るわ……」


5 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 22:16:08.71 :mKKnLKOo0

持田亜里沙「なら、考えないようにしましょ」

持田亜里沙
SWOWメンバー。S大学4年生。小学校教諭のタマゴ。

優「亜里沙ちゃんは楽そうだねー」

亜里沙「あのね、私にとって大切なことがあるの」

久美子「何?」

亜里沙「公立の小学校って、クーラー付いてない可能性があるの」

優「それは……」

久美子「割と深刻な問題ね……」

亜里沙「だから、これくらいなら平気になってないとね」

惠「現状が暑いのには変わらないわ……」

恵磨「あの、時子ちゃん!」

財前時子「なによ」

財前時子
SWOW代表。S大学4年生。高そうな扇子を片手に、表情は不機嫌。

恵磨「暑い!」

時子「そんなの知ってるわよ。余計暑くなるから静かになさい」

恵磨「クーラーは?」

惠「使用禁止って貼ってあるわね」

恵磨「なんで!?」

時子「前にも説明したでしょう。節電要求よ」

久美子「えー」

時子「ピークタイムは原則使用禁止、夕方から朝までは使っていいわ」

恵磨「なんで、そんな……」

惠「昼間から部室棟にいるな、ってことでしょう」

時子「その通りよ、惠。ただでさえ、微妙な立場のサークルなのよ、今さら部室没収とかなりたくなければ我慢なさい」


6 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 22:16:59.11 :mKKnLKOo0

惠「恵磨ちゃん、アイスでも食べて我慢しましょう」

優「あ、アタシも食べるー♪」

亜里沙「あら、ソーダアイス」

恵磨「最近、良く買ってるよね」

惠「……そうね。時子ちゃんも食べる?」

時子「遠慮しておくわ」

久美子「それじゃ、私がもらっていい?」

惠「ええ、どうぞ」

優「冷たーい♪」

恵磨「むー、どうやったら涼しくなるかなぁ」

時子「そこの人でも見習ったら?」

恵磨「……ていうか、なにしてんの?」

時子「聞けばいいじゃない、亜季?」


7 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 22:19:05.97 :mKKnLKOo0

大和亜季「……」

大和亜季
SWOWメンバー。S大学4年生。趣味はサバゲーとプラモデル。

時子「亜季!」

亜季「な、なんでありますか!?」

時子「さっきからどうしたの、腕なんか組んだりして」

久美子「心頭滅却すれば、なんたら、ってやつ?」

亜里沙「火もまた涼し、ね」

亜季「そんな高尚なものではないであります」

優「それじゃ、なんなのかなー?」

亜季「お恥ずかしい話ですが」

恵磨「恥ずかしい?」

亜季「お金が足らないであります」

優「……え?」

亜季「心も財布も涼しいであります。肝まで冷えている状況であります」

久美子「……上手いこと言ったつもりなのかしら」

亜里沙「さぁ……?」

惠「亜季ちゃんのことだから、夏の遠征費が足らないだけでしょ」

亜季「な、なんでわかるでありますか!?」

惠「毎年恒例じゃない……」

時子「そう、なるほどね」

亜里沙「何がなるほどなの?」


8 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 22:20:09.94 :mKKnLKOo0

時子「亜季、水着は持ってるかしら」

亜季「水着でありますか?お恥ずかしながらジムで使う競泳水着しかありません……」

時子「むしろその方がいいわ」

優「海水浴にでも行くのー?」

時子「違うわよ」

亜季「なら、何のお話でありますか」

時子「バイトよ、バイト」

惠「バイト?」

時子「S大学の学生で、私の知り合い、かつ体力自慢ならすぐにでも採用されるわ」

恵磨「何のバイトなの?」

時子「何って、中学校のプールの監視員だけど」


9 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 22:21:05.39 :mKKnLKOo0


SWOW部室

恵磨「ねぇ、時子ちゃん」

時子「なによ」

恵磨「亜季ちゃんはすぐにバイトの面接に行ったけど」

久美子「本当に即日なのねぇ……」

惠「もしかして、忘れてたとか」

時子「ちがうわよ。うん、ちがうわ」

優「あやしー」

時子「ごほん。ところで、恵磨は何が言いたいのかしら?」

恵磨「亜季ちゃんはともかくアタシ達は涼しくならないよ?」

時子「……それで?」

恵磨「涼しくしてよ!」

惠「無理よね」

亜里沙「無理かな」

時子「わかったわよ。どこかに涼みに行くわよ」

優「うーん、ならぁ、カラオケにでも行く?」

久美子「私はいいわよ」

亜里沙「ええ」

惠「いいんじゃないかしら」

恵磨「アタシもさんせーい」

時子「決まったなら、さっさと行くわよ」

亜里沙「……我慢してたのね」


10 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 22:21:48.01 :mKKnLKOo0


幕間

まるで芽吹くように。

私達は目覚める。

たった一つの気持ちを抱いて。

私達は動き始める。

さぁて、誰から喰い殺してあげましょうか。

幕間 了


11 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 22:23:44.85 :mKKnLKOo0


翌朝

奏陽泰校・プールサイド

奏陽泰校
そうようたいこう。S大学から自転車で行ける距離にある私立女子中学校。何事にも寛容な校風になった。

奏陽泰校プール
色々な経緯があって、室内に設置されている。25m×6レーン。

亜季「おはようございます!」

シーン……

亜季「まだ授業前でありますし、誰もいるわけありませんな」

高峯のあ「……おはよう」

高峯のあ
奏陽泰高校職員。経営担当。スーツも似合う麗人。

亜季「……!びっくりしたであります!おはようございます!高峯先生」

のあ「……先生ではないわ。ただの職員」

亜季「そうでありました。高峯殿はこちらには何のご用で?」

のあ「初日だから、挨拶を。よろしく、大和さん」

亜季「こちらこそよろしくお願いします」

のあ「……今日も、暑くなりそうね」

亜季「プール日和でありますな」

のあ「日差しが強いのは嫌だわ……」

亜季「高峯殿は肌も弱そうでありますからなぁ」

のあ「……ええ。身を焦がす、あの感覚は好きになれない」

亜季「身を焦がすとは物騒な言い方であります」

のあ「……時間ね……よろしく」

亜季「了解であります!」


12 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 22:25:37.75 :mKKnLKOo0


SWOW部室

時子「おはよう」

久美子「あら、珍しく早いのね」

時子「そこまで驚かなくてもいいじゃない。あなたこそ早いのね」

久美子「良いコーヒーメイカーあるから、朝は来るの。亜季ちゃんも良く居るわよ」

時子「ふーん」

久美子「時子ちゃんこそ、なにかあった?」

時子「別に何もないわよ」

久美子「寝ぐるしかった?」

時子「……なんで、そう思うのかしら」

久美子「そうなんだ。暑かったらクーラー使えばいいのに」

時子「負けた気になるじゃない」

久美子「体が大切でしょ?」

時子「贅沢してたら、心まで腐るわ」

久美子「辛辣ねぇ」

時子「亜季はちゃんとバイトに行ったかしら」

久美子「特に連絡ないなら大丈夫でしょ。というか、どっからバイトの話を聞いたの?」

時子「父親から話が回って来たのよ。プールの安全対策がどうのこうので、補助金がでるからどうのこうの、って。女子校だから云々とかね」

久美子「へー」

時子「すっかり忘れてたわ」

久美子「……ねぇ、それって」

時子「なによ」

久美子「時子ちゃんに頼んだんじゃ……」

時子「……ハァ?」

久美子「娘に社会勉強させるつもりだったとか?」

時子「いずれにせよ、余計なお世話よ。そういう所が嫌いなの」

久美子「そうね、時子ちゃんはそう思い通りにならないものね」

時子「なによ、その言い方」

久美子「頼み方が悪かった、って話。ま、亜季ちゃんがやってくれるならいいじゃない」

時子「そうね。私なんかより全然いいわ」

久美子「……女王様は中学生にはちょっと刺激が強いもの」ボソ

時子「何か言ったかしら」

久美子「なんでもなーい。コーヒー飲む?」


13 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 22:27:10.17 :mKKnLKOo0


奏陽泰校プール

アハハ、キャハハ

亜季「本気で泳ぐ感じでもありませんし、平和でありますなぁ」

輿水幸子「ふふーん、ボクがいるクラスなら当然ですよ!」

輿水幸子
奏陽泰校2年生。スクール水着の名前は「幸子」。

幸子「淑女なボクをお手本にしてますからね!」

亜季「泳がないでありますか?」

幸子「プールの大きさにも制限がありますからね!ボクは譲ってあげてるんで……」

ビチャーン!

幸子「だ、誰ですかぁ!?」

亜季「いつの間にウォーターガンを……」

幸子「な、七海さんですね!こんなことして……」

浅利七海「問答無用れすー」

浅利七海
奏陽泰校2年生。サバオリ君とかいうウォーターガンを所持。水着の名札は「七海」。

幸子「きゃあ!」

七海「うふふー、悔しかったらついてくるれすー」

幸子「ゆ、許しませんよ!」

亜季「そこ!プールサイドを走らない!」

幸子「ウォーターガンはいいんですか!?」

亜季「そうであります。持ち込みも許可されておりま……」ピュー

三好紗南「隙あり!」

三好紗南
奏陽泰校2年生。ただいま水鉄砲2丁拳銃。水着の名前は「三好紗南」。


14 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 22:28:36.34 :mKKnLKOo0

亜季「……ふ」

幸子「ふ?というか、お姉さん背が高いんですね」

亜季「そうか、そうでありますか」ガシャン

紗南「え、えまーじぇんしー」

七海「ピンチれすー」

幸子「そ、そんな水圧が強そうな武器はどこから……」

亜季「決まっているであります」

幸子「決まってるんですか?」

亜季「私物であります。さぁ!覚悟するであります!」

ビチャーン!!

亜季「……」ビチャビチャ

幸子「……」ビチャビチャ

七海「銃口以外の穴から水が噴き出したれすー」

紗南「ふふふ」

矢口美羽「……あの」ビチャビチャ

矢口美羽
奏陽泰校2年生。名札の「みう!」についての狙いは不明。

亜季「手入れを怠ったばかりに……申し訳ありませぬ」

美羽「これ、って」

幸子「これって?」

美羽「オイシイってことじゃないですか!」

亜季「そうでありますか……?」

幸子「そうですかねぇ……?」

美羽「そうですよ、そう!」

七海「なら、くらうれすー」ピュー

美羽「……」ビチャビチャ

亜季「幸子殿、美羽殿。やりかえさないのは女がすたるでありますよ」

幸子「ええ!行きますよ!」

美羽「はい!」

亜季「プールサイドは走らないように!」


15 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 22:29:38.95 :mKKnLKOo0


奏陽泰高校・プールサイド

亜季「あの、隅で何をしているでありますか?」

森久保乃々「ひっ」

森久保乃々
奏陽泰校2年生。まだ一滴も濡れていない。名札は「森久保」。

亜季「そんなにおびえなくてもいいであります」

乃々「もりくぼはしずかにしてます……」

亜季「せっかくの機会でありますよ。泳ぐのも良いかと思うであります」

乃々「すみっこが出来なので……」

二宮飛鳥「そうだよ。嫌がることを強要するのかい、監視員さん?」

二宮飛鳥
奏陽泰校2年生。さすがにエクステは外している。名札には凄い達筆で「飛鳥」。

乃々「そうです……静かにすごしたいんです」

亜季「……」

飛鳥「そうだろう。そもそも水泳なんて強要されるものでは……」

亜季「泳げないでありますか?」

乃々「……」

飛鳥「まさか、そんなわけないだろう」

亜季「なんだ、それなら話は早いでありますな!こういうのは習うより慣れろ、であります」

乃々「ひっ」

飛鳥「やれやれ。年貢の納め時のようだよ、森久保君?」

亜季「飛鳥殿でもありますよ」

飛鳥「……いやいや」

亜季「ほら、いくであります。何なら担いで行くであります」

飛鳥「水泳、それが人生の役に立つとは思えな……」

亜季「ん?体を動かすのは楽しいことでありますよ?」

乃々「ひゃあ、本当に持ち上げないでください……」

飛鳥「話が通じないようだね。ボクは……」

亜季「わかったであります。行きますよー」

飛鳥「わ、わかった。自分で行ける。だから、持ちあげようとしないでくれ」


16 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 22:30:53.01 :mKKnLKOo0


奏陽泰校・プールサイド

神崎蘭子「ククク……涼しき調べ、実に甘美なるぞ」

神崎蘭子
奏陽泰校2年生。学校の自由を象徴する存在。微熱があるため見学中。

亜季「えっと、神崎殿?」

蘭子「水の煌めき、無垢なる者の舞、鼓動が高鳴るわ!」

亜季「ええと……」

池袋晶葉「大和さん、メガネを取ってくれないか」

池袋晶葉
奏陽泰校2年生。名札は固いフォントで「池袋晶葉」。

亜季「このピンクのメガネでよろしいですな」

晶葉「ありがとう。視界が悪いと不安でな」

亜季「ふむ、目は大切にするでありますよ」

晶葉「善処するさ。そうだ、メガネを取ってくれたお礼に良いことを教えてあげよう」

亜季「何でありますか?」

晶葉「蘭子はな、プールに入りたいだけだ」

亜季「……え?」

蘭子「……」ウズウズ

亜季「あー、そういうことでありますか。ダメでありますよ」

蘭子「生命の起源、人はそこに戻らんと願う」

亜季「えっと、いやいや、プールはダメでありますよ」

晶葉「ほら、ダメだぞ、蘭子」

亜季「なんでありますか、それ」

晶葉「手習いで作ってみた体温計だ。ほら」

蘭子「我が体は業火を備えん……」

亜季「37度2分はただの微熱でありますよ」

晶葉「あげた薬はちゃんと飲んだろ?時期に治るさ」

蘭子「悪魔との契約が必要か……」

亜季「どういう意味でありますか?」

晶葉「悪いことをするから、許してくれないか。そんな感じだ」

亜季「ダメであります。親御さんから預かってる身でありますから、許しません」

蘭子「……」プクー

亜季「言葉づかいだけで、中身は14歳なのでありますなぁ……」


17 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 22:31:57.41 :mKKnLKOo0


奏陽泰校・プールサイド

関裕美「ふー。疲れちゃった……」

関裕美
奏陽泰校2年生。オデコと癖っ毛がチャームポイントの14歳。名札は「関」。

蘭子「ククク……汝に魂の救済を」

裕美「ありがと。隣、大丈夫?」

蘭子「他愛無い」

亜季「大丈夫でありますか?」

裕美「うん……えっと」

亜季「大和亜季であります。真面目に泳いでいたようでありますからな。スポーツドリンクを飲むでありますか?」

裕美「うん、ありがと、亜季さん」

亜季「えっと、紙コップは、ここでありますな。神崎殿も飲むでありますか?」

蘭子「良きに計らえ」

亜季「どうぞ」

裕美「貰っていいの?」

亜季「水分補給は大切でありますよ。水泳は激しい運動でありますから、熱中症の危険もあるであります」

裕美「熱中症?プールなのに?」

亜季「ええ。それにこれは高峯殿からの差し入れであります」

裕美「高峯殿、って、のあさん?」

亜季「ええ。だから遠慮しなくていいでありますよ」

裕美「そうなんだ。それじゃいただきます」

亜季「そろそろ授業も終わりの時間でありますな」

裕美「そうだね。大変じゃなかった?」

亜季「何が、でありますか?」

裕美「その、元気な人が多いから」

亜季「どういうことでありますか」

裕美「えっと……その」

蘭子「?」


18 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 22:33:13.27 :mKKnLKOo0

亜季「ああ、そういうことでありますか。なーんの問題もないでありますよ」

裕美「そうなの?」

亜季「ええ。私のサークルはこんなもんではないであります」

裕美「そ、そうなんだ」

亜季「元気なくらいが好きでありますよ。迷惑かけてくれるくらいが、安心できるであります」

裕美「ふふ、不思議な人なんだね」

亜季「お節介なだけ、かもしれないであります」

裕美「いいと思うよ、そういうの」

ピーピーピー

亜季「おっと、時間でありますな。さ、次の授業に間に合うように行くでありますよ」

裕美「うん」


19 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 22:35:03.75 :mKKnLKOo0

10

奏陽泰校・プールサイド

亜季「ウワサでありますか?」

椎名法子「うん、ウワサなんだけどね」

椎名法子
奏陽泰校1年生。ドーナツ型の浮き輪を持参。

亜季「他の人も聞いておりますか?」

乙倉悠貴「聞いてますよっ」

乙倉悠貴
奏陽泰校1年生。背が高く、大人びた印象。

亜季「聞かせてもらって良いでありますか?」

法子「うん。でも、そんなことに興味があるの?」

亜季「色々とありましてな。例えば、なんでありますか」

悠貴「こっくりさん、とか」

法子「うんうん。狐に取りつかれるとか」

亜季「……」

悠貴「そんな苦い顔してどうかしました?」

亜季「色々とありまして。その、こっくりさん、はしたでありますか?」

法子「やろうと思ったけど」

悠貴「してないよね」

亜季「それが良いであります。しかし、何故でありますか」

法子「なんかね。やろうと計画してたら、女の人が来たんだ」

悠貴「うん。やめておきなさい、ロクなことにならないわよ、って」

法子「凄いタイミングよかったから、怖くなって」

亜季「結果的にやらなかったのなら良かったであります」


20 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 22:36:56.00 :mKKnLKOo0

法子「他にもあったから、いいかなって」

亜季「他には何か?」

悠貴「そうですね……」

小関麗奈「とびっきりなのがあるわ!」

小関麗奈
奏陽泰校1年生。既にニヤニヤとしている。

悠貴「なにかあったかな?」

麗奈「驚くんじゃないわよ、ドッペルゲンガーよッ!」

亜季「ドッペルゲンガー、でありますか」

麗奈「聞きたい?」

法子「えー、その話はいやだなぁー」

亜季「あ、行ってしまったであります」

麗奈「それで、アンタは聞きたいの?」

亜季「ええ、お願いするであります」

悠貴「麗奈ちゃん、それでどんな話なの?」

麗奈「聞いたことぐらいあるわよね?」

亜季「ドッペルゲンガーでありますか。そうでありますな」

悠貴「自分と同じ顔をした人がいるって話?」

亜季「同じ顔した人物に会うと」

麗奈「死んじゃうって話よ、有名よね」

亜季「でも、ウワサでありましょう」

麗奈「そうね、会ってしまったら死んじゃうじゃない、だけど、今回は違うのよ」

悠貴「違う?」

麗奈「これは目撃談なのよ。心して聞くがいいわ!」

亜季「ふむ」

麗奈「この近くにね、髪の長いお嬢様が住んでいるのよ」

亜季「誰でありますか?」

麗奈「どうでもいいでしょ、そんなこと。いい、そのお嬢様はね、小学生高学年から中学生くらいだったかしら」

悠貴「えっと、どういうこと?」

麗奈「ちっちゃいってことよ、うん。そう」

亜季「それで、どうなったのでありますか」

麗奈「急かすんじゃないわよ。いつも同じ時間にいつも同じ道を通っていたの。だけど、その日は違った」

亜季「違った?」

麗奈「別の道をね、歩いてくるのを見た人がいたのよ。お嬢様を、ね」

悠貴「同じ時間に?」

麗奈「そう!それこそ、ドッペルゲンガーよ」

亜季「同じ顔をした、他人」

麗奈「でも、それだけじゃないわ。お嬢様とドッペルゲンガーの距離は日に日に近づいていったの」


21 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 22:37:57.15 :mKKnLKOo0

悠貴「そ、それじゃあ……」

麗奈「日に日に近づいていった、ついに1本離れた通りになったのよ。そうしたら次の日に……」

悠貴「次の日に……」

麗奈「そのお嬢様は起きてこなかった。ドッペルゲンガーに殺されたんだわ!」チラッ

亜季「ん?」

悠貴「ひゃいいいん!」

亜季「あー、そういうことでありますか」

悠貴「せ、背中を撫でたのは誰ですかっ!?」

麗奈「流石よ、葵!」

首藤葵「成功っちゃ!」

首藤葵
奏陽泰校1年生。ただいま、歯を見せた満面の笑み。

麗奈「ずらかるわよ!」

葵「いえーい!」サブーン

亜季「飛び込みは禁止であります!」ピピー!

麗奈「そうそう!あの話、全部噂だから!信じた?」

悠貴「もうっ、麗奈ちゃん!」

麗奈「アーハッハッハ!騙されるのが悪いのよ!」ドボン!

亜季「言ってるそばから飛びこまない!」

悠貴「ふー、びっくりしましたー」

亜季「話の方がメインではなかったのでありますなぁ」

悠貴「そうみたいですねっ。でも、全部デタラメなんですか?」

亜季「そうでありましょう。なぜなら」

悠貴「なぜなら?」

亜季「結局、会ってないあります。ドッペルゲンガーは『見たら死んでしまう』なのに、お嬢様はまだ見てもいないであります」

悠貴「あー」

亜季「話自体も適当に拵えたものでありましょう」

悠貴「なるほど」

亜季「ま、変な噂にのめり込むのもホドホドにするでありますよ」

悠貴「はーい」

亜季「良い返事であります」


22 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 22:39:00.45 :mKKnLKOo0

11

奏陽泰校プール

亜季「ん?」

村上巴「なんしょーるん、大和の姉御。名簿を見ながらキョロキョロと」

村上巴
奏陽泰校1年生。様はつかないお嬢。クラスでの呼び名は巴組長。

亜季「一人、いないであります」

巴「うん、そうじゃな……また、くるみのやつがおらん」

亜季「くるみ殿でありますか、えっと」

巴「苗字は大沼じゃ」

亜季「あったであります」

巴「また隠れとるみたいじゃの」

亜季「また?」

巴「まったく、堂々としてりゃええのに。組長として探しにいかんと」

亜季「いえ、私が行くでありますよ」

巴「ほうか。ならお願いするんじゃけえの」

亜季「お任せであります。ところで」

巴「何かあるんか?」

亜季「その組長というのは?」

巴「組の長は組長、当然じゃろう」

亜季「あ、学級委員のことでありますか?」

巴「一般的にはそうゆうな」

亜季「独特でありますなぁ」

巴「それで、くるみのことじゃが、くるみはいい奴なんじゃが、如何せん自信がなくての」

亜季「ふむ」

巴「……ほう」ジー

亜季「じっと見られると照れるであります」

巴「大和の姉御なら説得力あるかのぉ。任せる」

亜季「了解であります」

巴「離れてる時は、うちが見とったるけぇ」


23 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 22:40:38.13 :mKKnLKOo0

12

奏陽泰校・プール更衣室

亜季「いたであります」

大沼くるみ「ひぅ!」

大沼くるみ
奏陽泰校1年生。なんらかのコンプレックスがある模様。

亜季「そんな端で座っていて、何かあるでありますか?」

くるみ「べ、べつになにもないもん」

亜季「そうでありますか。それでは」

くるみ「え……」

亜季「とはいかないであります。私はお節介でありますから」

くるみ「……」

亜季「何かあるなら言ってみるであります」

くるみ「うんとね、あのねぇ……」

亜季「泳げないであるなら教えるでありますし、体調が悪いなら言うでありますよ」

くるみ「ちがうもん……」

亜季「なら、なんでありますか?」

くるみ「くるみ、スタイルが悪くて、恥ずかしいの……」

亜季「へ?」

くるみ「男の子でも女の子でも、じっと見てくるの……」

亜季「起立!」

くるみ「ふえ?」

亜季「いいから立つであります」

くるみ「う、うん……」

亜季「背筋を伸ばしてみましょう」

くるみ「こ……こう?」

亜季「はい。良いであります」

くるみ「どうしたの……?」

亜季「自信がないから猫背と首をおろしがちになってるであります。自信を持つでありますよ」


24 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 22:41:14.82 :mKKnLKOo0

くるみ「でも……」

亜季「ま、同年代よりも豊かなのは認めるでありますが、それは欠点ではないではありますよ」

くるみ「あの……監視員さんは悩まなかったの?」

亜季「悩む?」

くるみ「……お胸のこと」

亜季「なってしまったものは悩んでいられません!しいて言うなら……」

くるみ「なぁに……?」

亜季「ほふく前進の時に邪魔であります。それぐらいでありますよ!」

くるみ「ぷふ」

亜季「ん、何かおかしなことを言いましたか?」

くるみ「ぷふふ、面白いの」

亜季「うーん、腑に落ちないでありますが、元気が出て良かったであります。ですが……」

くるみ「じっと見て……どうしたの?」

亜季「そもそも水着があってないですな。今日は我慢して、買い換えることをオススメするであります。その、ハジケそうであります」


25 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 22:43:09.96 :mKKnLKOo0

13

放課後

奏陽泰校・プールサイド

亜季「こんな時間にどうしたでありますか?」

白菊ほたる「監視員さん……」

白菊ほたる
奏陽泰校1年生。少々、不幸体質の少女。日差しも苦手。

亜季「授業ではないでありますな?」

ほたる「はい……放課後です」

亜季「何か、探しものでありますか?」

ほたる「よくわかりますね……そうです、その、ブレスレットがなくて……」

亜季「ブレスレット?」

ほたる「はい……先輩から貰った、ビーズの可愛いものなんですけど……」

亜季「ふーむ。わかったであります、探しておくでありますよ」

ほたる「お願いして、いいんですか」

亜季「もちろんであります」

ほたる「ありがとうございます!」

亜季「そんなにかしこまられても困るであります。名前を、教えてもらってもよいでありますか?」

ほたる「は、はい。白菊ほたるです」

亜季「白菊ほたる殿でありますな。明日には届けるであります」

ほたる「あの、お願いします」

亜季「ええ。気をつけて帰るでありますよ」

ほたる「はい、さようなら」

亜季「さようなら」


26 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 22:45:07.17 :mKKnLKOo0

14

夕方

SWOW部室

亜季「ただいま戻ったであります!」

恵磨「おかえりー!」

亜季「うわ、酒臭いでありますよ。日本酒でありますか」

久美子「別に酒盛りしてるわけじゃないわよ。食べる?」

亜季「豚肉でありますか」

恵磨「うん、酒蒸し。おいしーよ」

亜季「いただくであります。これは時子殿が?」

時子「ええ、そうだけど」

亜季「なら期待していいでありますな」

久美子「荷物置いてきたら?」

亜季「ええ」

恵磨「ついでに、このビン、台所に置いてくれる?」

亜季「了解であります」

時子「それが料理酒よ。良い甘みが出てくれたわ」

亜季「……」

久美子「どうしたの?」

亜季「純米大吟醸と書いてあるのですが」

時子「実家から貰って来たのよ。それが何か?」

亜季「いえ、なんでもないであります」


27 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 22:46:20.20 :mKKnLKOo0

15

SWOW部室

恵磨「お、あずささんがテレビ出てる」

三浦あずさ『みなさーん、こんばんは~』

三浦あずさ
765プロ所属アイドル。まさかの生放送情報番組でレギュラー。

久美子「同い年なんだよね、あずささん」

時子「というか、同じ大学じゃない」

恵磨「あれ、そうだっけ?」

亜季「短大の方でありますよ。卒業してるであります」

久美子「よく食堂にいたよ」

恵磨「へー」

あずさ『続いてのニュースはこちらです』

亜季「うむ、美味しいであります」

恵磨「だよね。時子ちゃん、イメージと違って料理出来るよね」

時子「どんなイメージを持ってるのよ」

久美子「そりゃねぇ」

亜季「使用人をこき使ってるイメージであります」

時子「あのねぇ、本人を前に言うかしら?」

恵磨「まーまー」

時子「そもそもあなたが言い出したんでしょうに」

久美子「ねぇ、これ近所じゃない?」

亜季「ホントでありますな」

時子「なに、襲撃事件?物騒ね」

亜季「でも、なんだかおかしいでありますな」


28 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 22:47:25.22 :mKKnLKOo0

恵磨「……献血車?」

久美子「献血車襲撃事件、よね」

時子「献血車ぁ?」

亜季「献血車が4人組に襲われたようでありますな」

恵磨「献血車は持っていかれちゃったのか」

久美子「4人組は顔をガスマスクで隠していた。ただし、4人とも小柄だった」

亜季「学生の可能性もある、でありますか」

久美子「小中学生ってこと、なのかな」

恵磨「よくわからないね。どう思う、時子ちゃん?」

時子「そうねぇ、中学生ではないでしょうね」

亜季「何故でありますか?」

時子「運転できないわよ。日本は無免許で運転させてくれないわ。少なくとも、奪うほどの運転技量は習得できないわ」

亜季「なるほど」

恵磨「それなら、小柄な女の人?」

時子「だけど、なんで献血車を襲ったのかしら」

恵磨「うーん。売上金があるわけでもないよね」

久美子「献血車が目的とか?」

亜季「高く売れるのでありますか?」

恵磨「そんな特注品簡単に売れないよ」

時子「海外かしら」

亜季「海外?」

時子「売血できる国もあるんじゃないかしら」

恵磨「だいぶ犯罪組織のニオイがしてきたね。でも、ホントにそんなんあるの?」

久美子「さぁ……?」


29 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 22:48:23.57 :mKKnLKOo0

惠「ただいま」

恵磨「あ、お帰りー。どこ行ってたん?」

惠「ちょっとね」

久美子「ねー、惠ちゃん」

惠「なに?」

久美子「売血できる国ってある?」

惠「……したいの?」

久美子「違う違う!これ見て」

惠「……」

久美子「例えば、売血できる国で使うとか……惠ちゃん?」

惠「……そうなんだ」

亜季「何か言いましたか、惠?」

惠「いいえ、何でもないわ。売血ね、日本では出来ないけど出来る国はいくらでもあるわ」

時子「へぇ」

惠「犯罪集団がらみなら、ロクなものじゃないわね」

亜季「そうでありますな」

久美子「近所だし、気をつけないとね」

時子「小さいギャングに襲われるのは嫌ね」

惠「……そうね」

あずさ『今日の特集は、デパートスウィーツ最前線!まぁ、楽しみですね~』

恵磨「惠ちゃんも食べる、豚?」

惠「ええ、いただくわ」


30 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 22:49:28.20 :mKKnLKOo0

16

SWOW部室キッチン

ジャブジャブ

時子「手伝わせて悪いわね、亜季」

亜季「お安いごようであります」

時子「疲れてるでしょうに、洗い物じゃんけんに付き合うことなかったじゃない」

亜季「いいえ。バイトは楽しかったでありますよ」

時子「そう。それならいいわ」

亜季「個性的で楽しい所でありますよ」

時子「そうなのね。教育方針変えたとは聞いていたけど」

亜季「以前はどうだったのでありますか?」

時子「凄いお堅い女子校よ。過保護な親が好きそうなね」

亜季「へぇ。今はとても自由な感じでありますよ」

時子「話を聞く限り、そうみたいね」

亜季「ええ」

時子「明日もバイトなのね」

亜季「はい。行ってくるでありますよ」

時子「お疲れ様」

亜季「いえいえ。体力仕事、子供の世話、私向きであります」

時子「……羨ましいわ」

亜季「時子ちゃんもやるでありますか、時給も良いでありますからな」

時子「違うわ、そういう意味じゃない」

亜季「なら、なんでありますか」

時子「何でもないわ。忘れなさい」

亜季「よし、これで終わりであります」

時子「さて、私達も帰るとしましょう」

亜季「了解であります。ボディーガードをするでありますよ」

時子「亜季を困らせるほど、弱くないわよ」


31 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 22:51:30.11 :mKKnLKOo0

17

幕間・刑事東郷あい・1

某神社境内

藤原肇「警部」

東郷あい「藤原君か。彼女の様子はどうだい?」

東郷あい
刑事課警部。スーツを着込んだ、ほぼ男装状態の麗人。

藤原肇
東郷あいの部下。あい曰く、経験が浅いながらも冷静かつ有能、とのこと。

肇「小康状態になりました」

あい「ふむ」

肇「意識もあります。会いに行きますか」

あい「そうするとしよう。彼女は何か言っていたか」

肇「喉が乾いた、と」

あい「……そうか」

肇「はい。行きましょう。時間がありません」


32 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 22:52:10.54 :mKKnLKOo0

18

幕間・刑事東郷あい・2

某神社・娘の寝室

あい「大丈夫かね」

道明寺歌鈴「……東郷さん?」

道明寺歌鈴
神社の一人娘。先ほどまで意識すら朦朧としていた。

あい「熱は……下がっているね」

歌鈴「……あの」

あい「なんだい?」

歌鈴「お水を貰えませんか、の、喉がとっても、乾いてて」

あい「……ああ。急に飲むと体に触るからな。口に含ませてあげよう」

歌鈴「ありがとう、ございましゅ……ゲホゲホ」

あい「せっつくな、体に障るぞ」

肇「……警部、その」

あい「……足は大丈夫か?」

歌鈴「えっ、大丈夫、ですよ。冷たくて」

あい「……そうか。ゆっくり休むといい」

歌鈴「……はい」


33 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 22:53:27.61 :mKKnLKOo0

19

幕間・刑事東郷あい・3

某神社境内

あい「症例は、同じか」

肇「はい。神谷奈緒の症状と同様とみられます」

神谷奈緒
都内某所に住む女子高生。先日S大学付属病院で亡くなった。死因は現在のところ不明。

あい「……長くは持たないな。足が壊死していた」

肇「……ええ」

あい「お払いは、効かなかったようだな」

肇「悪霊の仕業ではなかったようですね」

あい「ははっ。真面目だな、君は」

肇「そうですか?」

あい「ジョークだよ。私だってそんなのだとは思っていない」

肇「では、なにでしょうか」

あい「例えばウィルス」

肇「それは冗談ですませられません」

あい「本当ならな。もしくは薬物」

肇「……」

あい「なんだ、君も考えていたんじゃないか」

肇「はい。私見ですが、何らかの薬物が原因かと思います」

あい「根拠を言ってみたまえ」

肇「神谷奈緒の遺体は骨がほぼ焼いた際に残りませんでした」

あい「骨組織に大きな影響か。可能性としては、ドラッグ」

肇「はい」

あい「まぁ、葬式でもそんな話が出ていたからな。ただその話では問題がある」

肇「薬物が検出されなかったこと」

あい「そういうことだ。それをどうとらえる?」

肇「既に薬物は体外に排出されていると考えます」

あい「なるほど、それで?」

肇「それで、あとは狂わされた脳が体を勝手に壊すのかと」

あい「ふむ。やはり、刑事が医学的な仮説を議論しても仕方がない。私達のすべきことは何かわかるか、藤原君?」


34 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 22:54:21.67 :mKKnLKOo0

肇「薬物もしくはウィルスだとしても、感染経路がある」

あい「そういうことだ。そもそも、私達は刑事だ。事件性がなければ来ていない」

肇「はい。それを辿るには……」

あい「待て」

肇「……」

あい「行くぞ。人影が動いた」タッタッタ

肇「行きます」タッタ

あい「……逃したか」

肇「……見えましたか」

あい「いや、影だけだ。覗いていたのは間違いないだろう」

肇「犯人でしょうか」

あい「それは、わからない」

肇「騒がしくなってきました。歌鈴さんが……」

あい「残念だが、悲しんでいる余裕はないぞ。これが特例でないなら、被害者が増える可能性がいくらでもあるんだ」

肇「……はい」

あい「まずは、被害者からだ。行くとしよう」

幕間 了


35 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 22:55:40.19 :mKKnLKOo0

20

翌日

奏陽泰校・校門

亜季「なんだか、騒がしいでありますな」

のあ「大和さん」

亜季「おはようございます、高峯殿。なんの騒ぎでありますか?」

のあ「……これよ」

亜季「銅像が破損しておりますな」

のあ「……創立者の像よ。最近は軽視されているけれど、志は尊いもの」

亜季「破損されたのはいつ頃でありますか?」

のあ「……深夜から早朝にかけて」

亜季「ふーむ、誰かのイタズラでありましょうか」

のあ「……」

亜季「どうしたでありますか?」

のあ「……考えごとを。今日もよろしく、大和さん」

亜季「おっと、時間でありますな。行ってくるであります」

のあ「……これは名案かしら」


36 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 22:56:52.61 :mKKnLKOo0

21

奏陽泰校・プールサイド

亜季「今日は、関殿は見学でありますか」

裕美「うん。少し熱が出てたから無理しないことにしたの」

亜季「体調は大丈夫でありますか?」

裕美「心配しないで。薬も飲んだから」

亜季「了解であります。そのメガネは、池袋殿のものですな」

裕美「うん、預かってるの。それで、あの、監視員さん」

亜季「大和でも亜季でも呼んでください」

裕美「じゃあ、亜季さん」

亜季「なんでありますか?」

裕美「そのブレスレット、どこから?」

亜季「ああ、落としものでありますよ。1年生の白菊殿が探していたであります」

裕美「そうなんだ」

亜季「今日はプールには来ないでありますから、昼休みにでも届けようかと」

裕美「……どう?」

亜季「どう、とは?」

裕美「かわいい、とか、素敵、とか……」

亜季「そうですなぁ……こういうものには疎いでありますが」

裕美「……」

亜季「カワイイでありますよ」

裕美「良かった」

亜季「良かった?」

裕美「なんでもないの。そ、そんなことより、亜季さん首にもいいのしてるよね!」

亜季「ええ、友人からもらった銀の弾丸であります」

裕美「……銀」

亜季「どうかしましたか?」

裕美「ううん、なんでもない。大切にしてね」

亜季「もちろんであります」


37 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 22:58:23.46 :mKKnLKOo0

22

奏陽泰校・プールサイド

亜季「池袋殿、お休み中もうしわけありませんが」

晶葉「なんだね?」

亜季「本日、神崎殿はお休みでありますか?」

晶葉「そうだ。学校も休みだ」

亜季「何か聞いておりますか?」

晶葉「ああ、昨日放課後から熱が少しあがったみたいだからな。今日は念のため休みだ」

亜季「そうでありますか」

晶葉「ただの風邪だよ。今日も見に行くし、心配しないでいい」

亜季「お大事に、とお伝えください」

晶葉「ああ。それでな、蘭子が変なこと言っててな」

亜季「変なこと?」

晶葉「この学校では変な噂が流行ってるんだ」

亜季「昨日も、1年生がそんな話をしておりましたな」

晶葉「ほう、何だって?」

亜季「こっくりさん、とドッペルゲンガーでありますな」

晶葉「非科学的だな」

亜季「そのウワサは非科学的ではないのでありますか?」

晶葉「せめて観測できればいいのだがな」

亜季「ふうむ。それで、どんな話でありますか?」

晶葉「題材自体は聞きなれたものだよ。吸血鬼だ」

飛鳥「吸血鬼かい?」

晶葉「おや、興味があるのか、飛鳥?」

飛鳥「嘘とも真ともつかない話はいつでも蠱惑的なものさ」

亜季「……吸血鬼でありますか」

晶葉「そうだが?」

亜季「それは偽物ではありませんか?」

飛鳥「おやおや、話を聞かずに否定するのかい?」

晶葉「そうだぞ。まあ、話くらいは聞いてくれたまえ」

亜季「ええ、お付き合いいたします」


38 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 22:59:21.27 :mKKnLKOo0

晶葉「吸血鬼が少女を狙っているんだとよ」

亜季「吸血鬼が狙っている、でありますか」

晶葉「ああ」

亜季「吸血鬼がいる、ではないのでありますか?」

晶葉「不思議なことを聞くんだな。私が聞いた噂では、狙われているだぞ」

亜季「ふむ。続けてください」

飛鳥「狙いは、清純な血といったところかな」

晶葉「かもしれん。夜な夜な少女を求めてさまよいあるいているんだそうだ」

亜季「……」

晶葉「ああ。長い黒髪、病的に白い肌、そして赤い眼、人間とは思えない力を発揮する」

飛鳥「ふむ。実に吸血鬼らしい」

亜季「待つであります」

晶葉「なにかな?」

亜季「それは嘘であります」

飛鳥「どういうことかな?」

亜季「そんな吸血令嬢はどこにもおりませんよ」

晶葉「何か根拠でもあるのかね?」

亜季「それは別の噂でありますよ。第一、被害者はいるでありますか?」

晶葉「いないな。だが、別のとはどういうことだ?」

亜季「ええ。その噂は、吸血鬼がいる、というものであります。それは……デマであることがわかっております」

晶葉「そうなのか?」

亜季「ちょっと調べていたことがありましてな。吸血鬼は『いなかった』であります」

飛鳥「だが、今回は違うね。狙っている、と言ったね」

晶葉「そうだな」

亜季「別の話と混じっているであります。おそらく、信憑性をあげようとして誰かが捏造したものだと思うであります」

飛鳥「ふむ。聞いていいかな」

亜季「なんでありましょう」


39 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 23:00:28.01 :mKKnLKOo0

飛鳥「違う所がポイントなんだろう?その噂とはどんなものだったんだい?」

亜季「吸血鬼がいる、それと先ほど言った容姿の話が全てであります」

晶葉「いいや。そういう話じゃない」

飛鳥「では、なんなんだい?」

晶葉「狙っているのは、少女だ。狙いは聞きなれた話通り、渇きを満たすため」

飛鳥「他には?」

晶葉「日光には弱いようだな。焼けてしまう」

飛鳥「ふうむ」

晶葉「それと、銀が苦手みたいだな」

亜季「ステレオタイプでありますな」

晶葉「いや、私もそう思うよ。妙にステレオタイプなんだよな」

亜季「他に、特徴はありますか」

晶葉「ああ、とにかくこれがミソだ。吸血鬼は感染する」

飛鳥「感染、とはね」

亜季「……」

晶葉「吸血鬼に噛まれたものは、いずれ吸血鬼となる。しかし、成れない者の方が多い。死んでしまうのさ、高熱にうなされてな」

飛鳥「それは恐ろしいね」

亜季「変質が加わってる……?でも、それにしては……」

晶葉「どうかしたかね?」

亜季「いえ、なんでもありません。その噂というのは広がっているでありますか?」

晶葉「いいや、この近辺だけじゃないか」

亜季「ふむ。わかったであります」

飛鳥「実にいいじゃないか。詳しいことがわかったら教えて欲しい」

晶葉「ま、あんまり期待しないで待っててくれ」

亜季「おっと休憩時間も終わりであります」

晶葉「変な話を聞いてありがたい。科学的でないものはどうしても不安でな」

亜季「お安いごようでありますよ」


40 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 23:01:59.02 :mKKnLKOo0

23

奏陽泰校・プールサイド

飛鳥「気はのらないが、行こうとしようか。永遠にカナヅチも気分はよくないからね」

晶葉「それなら手伝おう。裕美、またメガネを預かっててくれ」

裕美「……」

晶葉「裕美、聞いてるか?」

亜季「私が預かるでありますよ」

晶葉「そうか、ありがとう」

亜季「ええ。楽しんでくるであります」

晶葉「行ってくるよ」

亜季「裕美殿?」

裕美「な、なにかな、亜季さん」

亜季「何か考えごとでも?」

裕美「ううん、なんでもない、なんでもないの」

亜季「……?悩みがあったら言うでありますよ。力になるであります」

裕美「……本当?」

亜季「本当であります」

裕美「大丈夫。だから、心配しないで」


41 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 23:04:55.02 :mKKnLKOo0

24

昼休み

奏陽泰校・校舎

巴「おや、大和の姉御」

亜季「これは巴組長殿」

巴「何か用事でもあるんか?」

亜季「はい。白菊ほたる殿を探しているであります」

巴「ほたる、か。待っての」

亜季「よろしくお願いするであります」

巴「ほたる、お客人じゃ!」

ほたる「あ、監視員さん」

亜季「こんにちは」

ほたる「ありがとう、巴ちゃん」

巴「ああ」

亜季「昨日の探しものなんですが」

ほたる「見つかり……ました?」

亜季「ええ。どうぞ」

ほたる「わぁ、ありがとうございます!」

亜季「そんなにかしこまってお礼をしなくていいであります」

ほたる「でも、世界に一つしかない大切なものだから……」

亜季「気にいってるのでありますな」

ほたる「優しい先輩が励ましてくれたものなので、思い入れがあるんです」

亜季「先輩?」

ほたる「はい。2年生の関さんが作ってくれたんですよ」

亜季「関、というと裕美殿が?」

ほたる「はい」

亜季「ははぁん、だからあんな反応になるでありますか」

ほたる「どうかしましたか?」

亜季「いや、素直じゃないと思いましてなぁ。いじらしい、というか」

ほたる「何の……話ですか」

亜季「こっちの話であります」

ほたる「はぁ……?」

亜季「大切にするでありますよ」

ほたる「はい。ありがとうございます」

亜季「用事は以上でありますが、ひとつお聞きしてもよろしいでありますか」

ほたる「はい。どうぞ」


42 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 23:05:46.35 :mKKnLKOo0

亜季「吸血鬼の噂を聞いておりますか?」

ほたる「……吸血鬼」

亜季「どうかしましたか」

ほたる「その……不思議なこと言うからびっくりしちゃって」

亜季「それもそうでありますな。そんなに大層なものではありません、怪談とかその類でいいのであります」

ほたる「……わかりません」

亜季「ありがとうであります。それでは、失礼するであります」

ほたる「……あの」

亜季「なんでありますか?」

ほたる「……」

亜季「白菊殿……?」

ほたる「吸血鬼に噛まれないでください」

亜季「何か知ってるでありますか」

ほたる「……いいえ。その、なんとなく、思っただけですから」

亜季「……震えてるでありますよ。変なこと聞いて申し訳ないであります。それでは」

ほたる「……はい」


43 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 23:06:54.02 :mKKnLKOo0

25

放課後

奏陽泰校・プールサイド

のあ「……お疲れ様」

亜季「おや、高峯殿。お疲れ様であります!」

のあ「仕事は……どう?」

亜季「まずまずであります」

のあ「そう……生徒も良いと言ってくれてるわ」

亜季「本当でありますか?」

のあ「……どちらがいいか、選ばしてあげる。どちらを望むかしら」

亜季「良い方に取っておくであります」

のあ「良い選択ね……話があるのだけれど」

亜季「なんでありますか」

のあ「……守ること、それに価値を見いだせるかしら」

亜季「えっと、話が飲み込めないであります」

のあ「あの女性は去っていった……自身の都合だと言い残して」

亜季「はい?」

のあ「もう少しだけいてくれないかしら。力を貸して」

亜季「えっと、守る、女性がいない、少しいる……」

のあ「……どう、警備員は?」

亜季「警備員のことでありますか」

のあ「プールの監視員は目処がついたから、校内を見守る仕事をしてくれないかしら」

亜季「ふむ。そうでありましたか」

のあ「……詳しくは、会議室で」

亜季「あの、質問なのですが」

のあ「……なに」

亜季「私が見周りをするのが、必要な状況なのでありますか」

のあ「認識の問題……答えはどちらでも構わない」

亜季「……了解しました。話を聞くであります」

のあ「……感謝するわ」


44 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 23:08:17.11 :mKKnLKOo0

26


SWOW部室

亜季「ただいま戻ったであります」

優「おかえりー」

亜里沙「おかえりなさい」

恵磨「おかえり!」

亜季「おや、誰も使わないスケジュール板を眺めて何してるでありますか?」

恵磨「そんなの使う人間ならこんなサークルにいないでしょう、と言わしめただけあるよね」

優「私は書いたことないけどねぇ、これ見てー」

亜季「おお、珍しい、というか初めてであります、惠が予定を書き込んで……は?」

恵磨「なるよね」

亜里沙「うん、しょうがない」

優「『可愛いペンギンが私を呼んでるからチリに行ってきます♪めぐみ♡』だって」

亜季「キャラ崩壊が激しいであります」

恵磨「絶対に旧字体で惠って名前書いてたのに」

優「なんで平仮名なんだろ……」

亜里沙「なんかあったのかなぁ……?」

恵磨「うーん」


45 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 23:09:21.21 :mKKnLKOo0

亜季「とりあえず連絡を取ってみるであります。ポパピプペっと」

亜里沙「あのね、ケータイなんだけど……」

駆け抜けろRealなストーリー今ここから始まる!……

優「そこの惠ちゃんのロッカーで鳴ってるんだよねぇ」

亜季「あの、これって」

亜里沙「失踪、かも」

恵磨「でも、惠ちゃんだし」

優「無事にひょこっと帰ってきそうだよねー」

亜季「せめて連絡手段くらいは持って行け、と言ってるでありますのに」

亜里沙「空港に向かったのは本当らしいし、実家の部屋にチケットとかホテルのプリントアウトがあったらしいから、大丈夫だと思うけど」

優「家族にも言ってたみたいだし」

恵磨「まったく、人騒がせだよね」

亜季「うーん?」

優「どうしたの、亜季ちゃん?」

亜季「黙って行くでありますよ、普段の惠なら」

優「そうなんだよねー」

亜里沙「何か目的があるのかしら?」

恵磨「さー?」

亜季「悩んでも無駄でありますな。いつも通り、お土産抱えて帰ってくるのを待つであります」

亜里沙「それがいいかもね」

優「うん、何が出来るわけでもないしねー」

恵磨「お腹空いたね」

亜里沙「ええ、何か作りましょうか。何かある?」

亜季「なぜか素麺が冷蔵庫に1キロほどあるであります」

亜里沙「それじゃ、お素麺にしましょう♪」

優「そういえば、流し素麺機がどこかにあったかなー。あ、見つけた♪」

恵磨「なんでそんなもんあるのさ」


46 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 23:10:43.57 :mKKnLKOo0

27

SWOW部室

優「警備員?」ズルズル

亜季「そうであります。プールの監視員から少し時間も変わったであります」ズルズル

恵磨「そうなんだ。何かあったの?」ズルズル

亜季「器物破損とかあったようで、夜中に生徒が入り込んでるのではないか、そんな所であります」

亜里沙「その、高峯さん、には何か心配ごとがあるのかな?」ズルズル

亜季「おそらくそうだと思われます。聞き出せませんでしたが」

亜里沙「気をつけてね」

亜季「何を、でありますか?」

亜里沙「生徒」

亜季「生徒に?」

亜里沙「この前の事件の話したよね?」

優「うん、聞いた聞いた。無事に解決したんだよね」

亜里沙「あの子ね、言ったのよ」

恵磨「なんて?」

亜里沙「ただやりたかっただけで、楽しい事だったって」

亜季「……」

亜里沙「だから、犯行直後、駐車場で他の児童にあっても笑顔だった。楽しいと言えてしまうくらいに」

亜季「何が言いたいでありますか」

亜里沙「……しがらみもなく純粋に行為をしてるだけ、その可能性だってあるの」

優「事件も、深い理由がないってこと?」

亜里沙「うん。もちろん、そんな子ばっかりじゃないと思うよ。でも、あの年代だからこそ見てあげないと」

亜季「なるほど」

恵磨「難しいけどね」

亜里沙「小さなサインを見逃さない、か……難しい課題だけどね」


47 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 23:11:53.76 :mKKnLKOo0

コンコン

優「ノックされた?」

恵磨「された」

亜里沙「珍しいですね」

亜季「出てくるであります」

優「お願いー」

亜季「どちらさまでありますか」ガチャ

日下部若葉「日下部です。こんばんは~」

日下部若葉
S大学の学生。裁縫部所属。今日はラフな私服姿だが、日傘は所持。

亜季「こんばんは」

優「あ、若葉ちゃんだ。久しぶりー」

恵磨「げっ」

優「そんなに慌てなくてもー」

若葉「仙崎さん、また試着に来てくださいね~」

恵磨「いや、遠慮しておく」

亜里沙「あら、可愛い♪」

恵磨「なんで、すぐに写真が出てくるの!」

若葉「ふふふ」


48 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 23:13:18.85 :mKKnLKOo0

亜季「日下部殿、今日は何かご用でありますか?」

若葉「こちらに伊集院惠さんはいらっしゃいますか?」

亜季「部員ではありますが、今はいないであります」

若葉「あら~ここに来ることはありますか?」

亜季「当分はこないでありますなぁ。おそらく日本にもいないかと。あれを見てください」

若葉「ペンギンを見にチリへ?凄いです~」

亜季「凄いというか、なんというか」

若葉「……なるほど」

亜季「申し訳ないであります」

若葉「いえいえ」

亜季「用件をお聞きしておくであります。もしかしたら、伝えられるかもしれないであります」

若葉「いいえ、なんともなるので。それでは、お邪魔しました~」

亜季「いえいえ、たまには遊びに来てください」

若葉「こちらこそ、裁縫部へ来てくださいね~。さようなら~」

優「ばいばーい!後で、引きずって行くよー」

恵磨「誰を引きずっていくつもりかな?」


49 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 23:14:17.56 :mKKnLKOo0

亜里沙「もちろん、ね」

優「ねぇー」

亜季「悪い顔してるでありますな。引きずるのは手伝うであります」

恵磨「ねぇ、なんでここにはアタシの味方はいないのさ」

優「カワイイもんね」

亜里沙「そうですよー。この前のカラオケで、歌った、えっと星てるこ?」

恵磨「星輝子!」

星輝子
最近、恵磨がお気に入りのデスメタル系ラブリーキノコアイドル。

亜里沙「そうそう輝子ちゃん。良かったよ」

亜季「覚えてるであります。ラブリーでありました」

恵磨「褒めてる?」

優「褒めてるよぉ♪」

亜里沙「そうそう」

亜季「だから、可愛い服も着せたいであります」

恵磨「き、着ないから!」

亜里沙「素麺固くなる前に食べましょう♪」

優「はーい」

亜季「そうでありますな」

恵磨「そっちから話してきたのに聞いてない!」


50 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 23:15:47.93 :mKKnLKOo0

28

幕間・看護師柳清良・1

午前2時

S大学付属病院・内科病棟

プルルル……

柳清良「内線?」

柳清良
S大学付属病院の看護師。基本的に内科病棟勤務。

清良「はい、内科病棟」

斉藤洋子『警備室の斉藤です!柳さん、いますか!?』

斉藤洋子
S大学付属病院で警備員のお仕事をしている。朗らかな性格。

清良「柳です、どうかしましたか、洋子さん」

洋子『急患です!正面玄関前に車が到着して……』

清良「落ち着いて。ここは内科病棟よ。夜間外来か救急に連絡を」

洋子『もうしてます!患者は集中治療室に搬送しました』

清良「……なら、どうして電話を?」

洋子『症状が似ていて。発熱と出血があります』

清良「もしかして、あの高校生と似てるの……?」

洋子『はい。でも、私は中に入れないし……』

清良「ちょっと待って……大丈夫、少し様子を見に行くわ」

洋子『はい!お願いします』


51 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 23:16:50.46 :mKKnLKOo0

29

幕間・看護師柳清良・2

S大学付属病院・集中治療室前

洋子「どう……でしたか」

清良「症状は良くないわ。今までで一番かも」

洋子「……そうですか」

松原早耶「ああああああ!」

松原早耶
S大学に搬送されてきた女性患者。ひどい発熱と心拍数の上昇がみられる。

清良「聞こえた?」

洋子「……はい」

清良「意識も朦朧で錯乱してるわ」

洋子「静かになりました、ね」

清良「鎮静剤かしら」

洋子「大丈夫なんですか」

清良「……変なこと言ってた」

洋子「……なんてですか」

清良「変わりたくない、早耶は変わりたくない、って」

洋子「変わりたくない?」

清良「何に変わるの?って聞いてたわ、そうしたらね」

洋子「……」

清良「吸血鬼になりたくないって」

洋子「……そう」

清良「なんでそんなこと言ったのかしら……」

洋子「吸血鬼になりたくない、か」

ガタン!ガシャーン!

清良「暴れてる!?」

洋子「入ります!大丈夫ですか!?」

早耶「はぁ、死にたくないぃ、死にたくないい!」

清良「落ち着いて」

洋子「……がんばって。ここだけ耐えればよくなるから」

早耶「か、はぁ……」

清良「どうかし……」

ピー

洋子「……!」

清良「はやく戻して!心臓マッサージを!」


52 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/06(土) 23:18:22.78 :mKKnLKOo0

30

幕間・看護師柳清良・3

S大学付属病院・ロビー

洋子「……別に慣れてないわけじゃないですけど」

清良「あなたよりこういう場に立ってる自信はあるけど、慣れたりしないわ」

洋子「……死因は」

清良「心臓発作。症状の悪化に彼女の心臓は耐えられなかった」

洋子「……そう」

清良「原因は不明。……感染症なのかしら」

洋子「私には、ちょっと……」

清良「ごめんなさい。でも、気になるわね」

洋子「はい……不思議な症状ですよね」

清良「変わりたくない、と言ってたわ」

洋子「……はい」

清良「吸血鬼ね……」

洋子「吸血鬼なんて、いないですよね?」

清良「私にはわからない。だから」

洋子「だから?」

清良「頼みごとをしてみましょう。調べてくれるはず」

洋子「そんな人がいるんですか?」

清良「ええ。7人くらいね」

幕間 了


57 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 07:50:16.58 :VPDR2AND0

31

3日後

奏陽泰校・プールサイド

亜季「おや」

西島櫂「こんにちは!お疲れ様です!」

西島櫂
H大学の女子学生。亜季のバイト仲間で、本物のスイマー。

亜季「もうそんな時間でありますか?」

櫂「はい!今日はどうですか?」

亜季「特に問題はないであります。はい、名簿を渡しておきます」

櫂「ありがとうございます!えーっと、今日は2年生か」

亜季「そう言えば、森久保殿は泳げるようになりましたか?」

櫂「うん。一歩踏み出せば出来る子なんだよ」

亜季「それは良かったであります」

櫂「うーん、今日も裕美ちゃんは休みか」

亜季「ちょっと心配でありますな」

櫂「変わりに蘭子ちゃんは復帰っと」

亜季「ええ。それでは、見周りの方へ行くであります」

櫂「はーい」


58 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 07:51:28.27 :VPDR2AND0

32

奏陽泰校・校舎屋上

亜季「ふー、日差しが強いでありますなぁ」

亜季「さっさと見周りをして帰るであります」

亜季「異常なし!異常なし!異常な……」

亜季「……異常あり」

亜季「なんでありますか、これ」

亜季「へこんでるでありますなぁ。何か落ちて来たのでありましょうか」

亜季「落ちて来たものは何もないようでありますし……なんでありましょう」

亜季「ふむ。とりあえず、高峯殿に報告するであります。写真を撮っておきましょう」


59 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 07:52:39.05 :VPDR2AND0

33

奏陽泰校・事務室

のあ「……これはなにかしら」

亜季「私が聞きたいところであります」

のあ「これで、何件目だったかしら」

亜季「原因不明のものは、4件目であります」

のあ「そう。報告ありがとう……調べてみるわ」

亜季「お願いするであります」

のあ「変に噂が広まらないといいけれど……」

亜季「噂が広がってるでありますか?」

のあ「ええ……襲われるとか不審者がいる、そんな話が」

亜季「うーむ、あまり良くないでありますな」

のあ「対策はしている……だけれど、根を断たねば真の安らぎは、ないわ」

亜季「わかるであります。あの、その噂というのは具体的にはどのようなものでありましょうか」

のあ「……現実味はないわ」

亜季「それでもお聞かせください」

のあ「赤い眼をした吸血鬼が少女を襲っている、というものよ。噛まれたものも人ならざる者に変化してしまう、古ぼけた話」

亜季「……なるほど」

のあ「……あなたと私の役割は実際に起こっていることを突き止めること。噂を見つめることではないわ」

亜季「ええ、わかっているであります」

のあ「引き続きよろしくお願いします、大和さん」

亜季「了解。夜まで見周りを続けるであります」


60 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 07:53:51.11 :VPDR2AND0

34

夕方

SWOW部室

優「あ、そろそろ清良ちゃんが来る時間だ」

時子「清良……ああ、看護師の柳さんね」

久美子「その人が何で?」

優「何か相談があるんだって」

恵磨「優ちゃんに?」

優「ううん、あたし達に」

亜里沙「私達に?」

時子「なんでかしら」

久美子「とりあえず惠ちゃんは国内にもいなし、亜季ちゃんもバイトに帰って来てないけどいいの?」

優「いいと思うよー。特に指定もなかったしぃ」

恵磨「でも、何なんだろ?」

時子「知らないわよ」

優「あ、電話だ。迎えに行ってくるねー。みんな、用事がないなら待っててねー」

亜里沙「はーい」

久美子「お茶でも淹れようかしら」

時子「頼むわ」


61 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 07:55:36.07 :VPDR2AND0

35

SWOW部室

優「吸血鬼?」

清良「そう……吸血鬼を調べて欲しいの」

恵磨「でも、吸血鬼って」

亜里沙「この大学にいる吸血鬼の話は、『終わりました』よ」

清良「ええ。知っているわ」

優「それじゃ、どういう意味なの?」

時子「別件」

清良「おそらく」

久美子「別件、吸血鬼に襲われた被害者がいるの?」

清良「いいえ」

恵磨「いないの?」

清良「いるのは、病死した人だけです」

時子「話が読めないわ」

清良「そのうちの一人が、吸血鬼になりたくない、と言っていたの」

亜里沙「吸血鬼に変わる?」

恵磨「噛まれた人が吸血鬼に変わる、って話だよね」

時子「ふむ。病気については?」

清良「少しだけコピーしてきたわ。どうぞ」

優「……え」

亜里沙「微熱が続き、風邪のような前症状。そして突然の極端な高熱、心拍数の上昇、喉からの出血」

時子「なんらかの感染症ではないのね」

清良「ええ。感染症なら原因の検出があるはず」

恵磨「でも、それはないんだ」

久美子「一度小康状態に戻るのね」

優「……その時には筋肉に異常」

時子「壊死、硬質化か。それに、これ本当?」

清良「何がですか」

時子「光への過剰反応」


62 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 07:56:28.89 :VPDR2AND0

清良「……ええ。その調べてもらったから」

優「吸血鬼になっている、ということ?」

清良「そこまで強いものではないけど、患者が言っていたから……」

恵磨「気になったんだ」

亜里沙「その、病気のことはよくわからないけど」

時子「そうね。私達が気になるのはそこじゃない」

亜里沙「吸血鬼はどこから来たのか、ですね」

久美子「なるほど」

亜里沙「もっと正確にいえば、病気の正体でもなく病気の感染源でもなく、存在の出所を知りたい」

清良「ええ。病気そのものは医者が、病気の発生源が人為的なものなら警察が捜します」

恵磨「だから、吸血鬼」

時子「話はわかったわ。情報をありがとう」

清良「いいえ。私も知りたいだけです」

時子「それなら好きにやらせてもらうわ。興味が出て来たことだし」

久美子「でも、どうしましょうか」

時子「亜里沙、最初にすべきことは?」

亜里沙「事実の確認かな」

時子「そういうこと。やるわよ」


63 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 07:57:32.65 :VPDR2AND0

36


SWOW部室

亜季「お疲れ様であります」

時子「お疲れ様」

亜季「時子殿だけでありますか?」

時子「ええ」

亜季「他の皆は?」

時子「少し出かけてるわ。今日は戻らないかも」

亜季「ふむ。ならば、今日は帰るであります」

時子「あら、疲れてるの?」

亜季「たんに家の冷蔵庫が心配になってきただけであります」

時子「そう。話は後でするわ」

亜季「話?何かあったでありますか?」

時子「なんでもないわ。ゆっくりなさい」

亜季「わかったであります。おやすみなさい」


64 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 07:58:51.09 :VPDR2AND0

37

幕間・刑事東郷あい・4

S大学付属病院・ロビー

肇「警部」

あい「被害者、神谷奈緒、道明寺歌鈴、松原早耶の関係性はわかったか?」

肇「いいえ」

あい「小さな話でもいいんだ」

肇「残念ですが、彼女達に面識はありません」

あい「共通する人物もいないと?」

肇「はい」

あい「ふむ、困ったね。感染源のヒントとなれば良かったのだが」

肇「感染源……ですか?」

あい「言いたいことがありそうだな。言ってみたまえ」

肇「共通の場所があるのではないでしょうか」

あい「具体的には?」

肇「すぐには思いつきませんが」

あい「調べてみる価値はあるさ。行くとしよう」

肇「はい、警部」

幕間 了


65 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 08:00:29.20 :VPDR2AND0

38

2日後


SWOW部室

久美子「ん、ドアが開いてる。誰かいるのかな?おはよっ」

シーン

久美子「あれ、誰もいないのかな……」

亜里沙「おはよっ、久美子ちゃん」

久美子「あ、おはよう、亜里沙ちゃん。早いのね」

亜里沙「規則正しい生活は大切だもの」

久美子「ねぇ、今日部室のカギ開けた?」

亜里沙「ううん、まだだけど」

久美子「おかしいなぁ。誰か閉め忘れた?」

亜里沙「……待って、カギ壊れてないかしら」

久美子「ノブ外れてる……」

亜里沙「泥棒かしら……」

久美子「行きましょう」

亜里沙「待って、慎重に」

久美子「うん。行くわよ」

亜里沙「ええ」

久美子「入口とキッチンは大丈夫そうね」

亜里沙「荒された様子はなし」

久美子「奥は……」


66 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 08:03:32.06 :VPDR2AND0

亜里沙「……えっ」

久美子「……な、なに、これ。なんで楓さんが倒れてるの……」

亜里沙「酷い傷……大丈夫ですか!?」

高垣楓「……あ」

高垣楓
謎の美女。色々とSWOWと縁のある女性。血みどろで倒れている。

久美子「呼吸はあるみたい……良かった」

亜里沙「でも、呼吸も弱くて、脈も……」

久美子「救急車、それとも警察!?」

亜里沙「落ち着いて。深呼吸」

久美子「ふー」

亜里沙「人を呼んできて。大学職員がいいかな」

久美子「わかった。行ってくる!」

亜里沙「お願い。大丈夫ですか、高垣さん……」

楓「……み」

亜里沙「み?」

楓「……」

亜里沙「待っててくださいね。すぐに助けが来ますから……」


67 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 16:05:54.63 :I5TF4tmE0

39

奏陽泰校・プールサイド

亜季「森久保殿、どうしたでありますか?」

乃々「ひぃ!」

亜季「また隅っこで縮こまって。せっかく泳ぎが上達したであります、自信を持って」

乃々「違うんです……やっぱり森久保は隅にいないと……」

亜季「何かあったでありますか?」

乃々「き、聞かないでください……プールに行きます」

亜季「は、はぁ。気をつけるでありますよ」

飛鳥「おおっと危ない」

亜季「飛鳥殿も水泳は上達したでありますか」

飛鳥「ああ。慣れてみると楽しいものだね」

七海「そうれすよー」

飛鳥「水鉄砲のうちあいはごめんだが……」

七海「……」ピュー

飛鳥「無言は効くね。わかった。やってやろうじゃないか」

七海「へへー、こっちれすー」

飛鳥「行ってくるよ」

亜季「ええ、行ってらっしゃいであります」


68 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 16:09:12.29 :I5TF4tmE0

40

SWOW部室前

氏家むつみ「見分は終わりました。清掃に入ります」

氏家むつみ
交番勤務巡査。欠員が出たため、警視庁の刑事課に応援勤務中。

久美子「ありがとうございます、刑事さん」

むつみ「何か聞きたいことはありますか?」

亜里沙「色々とあるけれど……無事だった?」

むつみ「はい。まずは被害者の容態からお教えします」

久美子「良かったぁ……お願いします」

むつみ「出血、傷ともに酷い症状でしたが、一命は取り留めました。意識は……戻っていません」

亜里沙「なんでこんなんことに……?」

むつみ「長時間にわたって暴行を受けていたようです。全身に打撲痕がありました。叩かれていたのは棒状の何か、のようです」

久美子「……怨恨」

むつみ「はい。恨みを持った者の犯行とみています」

亜里沙「暴行を受けたのは、この部屋、ですか?」

むつみ「違うと思います」

久美子「違うんですか?」

むつみ「はい。部屋は一切荒されていませんし、血もほとんど落ちていません」

亜里沙「他の場所で暴行されて、ここに来た」

久美子「自分の手で歩いて来たのかも……助けを求めて」

むつみ「いいえ、その可能性は低いと思います」


69 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 16:13:34.38 :I5TF4tmE0

亜里沙「なんで、でしょうか」

むつみ「血が廊下に落ちていません。部屋にもです。被害者は手にも負傷しておりますが、ドアに血は付いていませんでした。それに」

久美子「それに?」

むつみ「ドアを壊す力は残ってるとは思えません」

亜里沙「なら、犯人が」

むつみ「犯人がここに運び、放置したと考えるのが妥当です」

久美子「……ここに隠した」

むつみ「もし見つかるのが遅かったら命に関わっていました。明確な殺意があったと思います」

亜里沙「ひどい」

むつみ「私から質問してもいいでしょうか」

久美子「何をかしら?」

むつみ「犯人に心当たりは?」

亜里沙「いいえ」

久美子「それどころか、被害者ともほぼ面識はないので……」

むつみ「なら、なんでここに放置したのでしょうか」

亜里沙「うーん、なんでだろう……?」

むつみ「わかりました。警察の見解としては、カギを壊している以上はどこでも良かったと考えています」

久美子「……本当?」

むつみ「現状ではわかりかねます」

亜里沙「調査次第ということですか」

むつみ「そうなります。何か情報がありましたらお伝えください」

久美子「わかりました。よろしくお願いします」


70 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 16:18:04.00 :I5TF4tmE0

41

奏陽泰校・プールサイド

亜季「吸血鬼でありますか?」

法子「そうそう吸血鬼!」

悠貴「知ってますかっ?」

亜季「ええ、知っているであります。2年生から聞いたであります」

悠貴「あ、そうなんですか?」

法子「えー、残念」

亜季「二人が聞いた話は、どのような話なのでありますか?」

法子「吸血鬼に噛まれるとね、その人も吸血鬼になっちゃうんだよ」

悠貴「はいっ!一人で夜道を歩いていたり、寝ていると、知らぬまに噛まれているとか」

亜季「あの、確認していいでありますか?」

法子「なに?」

亜季「吸血鬼に噛まれると、自分も吸血鬼になるという話なのでありますか?」

悠貴「うん。そうだよね?」

法子「はい!他の人にも聞いてみよう、麗奈ちゃーん!」

麗奈「何よ!大声で呼ばなくても来るわ!」

法子「聞きたいことがあるんだけど」

麗奈「ふふん、何?お願いされたなら答えないこともないわっ」

悠貴「吸血鬼の話って知ってる?」

麗奈「知ってるわよ。噛まれると吸血鬼になるってやつでしょ」

亜季「やはり、そっちになるでありますか」


71 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 16:23:05.23 :I5TF4tmE0

法子「それの何がおかしいの?」

亜季「吸血鬼は色々な要素があるであります。その中で、噛まれると変質することがメインになっている、ことです」

麗奈「それが?」

亜季「噂の核が、変質になっているということは、それが何かの火種なのでありましょう」

悠貴「別に本当に吸血鬼がいるとか、そういうことじゃないですよ?」

麗奈「そうよ。吸血鬼なんてファンタジーすぎるわ」

法子「うん。これは怖い話じゃないもん」

亜季「ドッペルゲンガーの話とは違うと?」

法子「うん、吸血鬼はね、独りじゃ寂しいから仲間を増やしたがってるんだ」

悠貴「恋人に先立たれた孤独な吸血鬼。そんなお話です」

亜季「……もっと怪物じみたものだと思っておりました」

麗奈「そうよ。だから、嘘臭いじゃない。マンガみたい」

法子「そういうのがいいですよね?ね?」

亜季「そうでありますな」

悠貴「被害者がいるとかそういうわけでもないですし、これは空想のお話なんです」

麗奈「だから、オチもないし、怖くもないわ。つまらないでしょ」

亜季「ふむ。興味深いであります。また、何かあったら聞かせてほしいであります」

悠貴「はいっ」

亜季「ふむ……一度、亜里沙殿を連れてくるのもいいかもしれませんな」


72 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 16:28:24.58 :I5TF4tmE0

42

SWOW部室

久美子「……亜季ちゃんには電話はつながらないか」

恵磨「バイト中かな。他の人は?」

久美子「優ちゃんはそのうち」

恵磨「亜里沙ちゃんは?」

久美子「大学の教務に行ってるわ。時子ちゃんと一緒よ」

恵磨「そう言えば、副代表って亜里沙ちゃんなんだっけ」

久美子「今回は発見者でもあるし……」

恵磨「でも、いきなり電話来たからびっくりしたよ」

久美子「私はもっとびっくりしたわよ……」

恵磨「掃除もしてくれたけど、形跡ないね」

久美子「ええ。本当に、運びこまれただけみたい」

恵磨「なんで、高垣さんがここで倒れてたんだろ?」

久美子「しかも、暴行を受けて」

恵磨「何か、原因でもあるの?」

久美子「全然。正直、あの人の人間関係とか知ってる?」

恵磨「知らない。SWOWの誰かが知ってる?」

久美子「いや、知らないんじゃないかしら。亜季ちゃんと惠ちゃんには聞けてないからわからないけど」

恵磨「そうだよね」

久美子「本人に聞くのが一番だと思うけど……」

恵磨「意識ないんだよね」

久美子「しかも、身分証も連絡先もなし」

恵磨「目撃者とかいた?」

久美子「今のところ、警察の人は見つけられてないみたい」

恵磨「うーん……」

久美子「本当に何があったのかしら……」


73 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 16:32:56.75 :I5TF4tmE0

43

奏陽泰校・プールサイド

くるみ「亜季しゃん、またね~」

亜季「はい。またね、であります」

巴「ハラが減ったのう。昼に行こうや」

葵「了解、組長。監視員さんはお昼はどうしてるっちゃ?」

亜季「私でありますか?お弁当を買ってきたりしているであります」

巴「葵は凄いぞ。手造りなんじゃ」

亜季「手造り?自分で、でありますか?」

葵「そうっちゃ」

亜季「凄いであります。見習いたいものでありますな」

葵「そ、そんな大したことじゃ……」

巴「いや、胸をはれい。将来は料理人じゃ。ウチに雇いたいもんじゃ」

亜季「ウチで雇う……?」

ほたる「2人とも、戻りませんか?」

巴「おお、ほたる。そうじゃな、行こうか。じゃあの、大和の姉御」

亜季「はい。それでは、また」


74 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 16:38:18.65 :I5TF4tmE0

44

SWOW部室

時子「ハァァ。何で私が取り繕わないといけないのよ」

久美子「お疲れ様」

時子「カギしめてないとか、変な奴と付き合ってないかとか、大変だったわよ」

恵磨「まるでこっちが疑われてるみたいだね」

時子「態度としてはそんなもんだったわよ」

亜里沙「わかってもらいましたけどね」ニコリ

優「……そうなんだー」

時子「自分の部室で、大学と関係ない人物が血まみれで倒れてたんだから、仕方ない面もあるわ」

恵磨「字面にすると凄いね」

時子「しかも、身分を証明できるのは私達の証言だけ」

久美子「いずれにせよ、聞くのは私達しかいないのね」

時子「そういうこと」

優「でもぉ、何もわかってないんでしょ?」

亜里沙「何も、は言いすぎかな」


75 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 16:44:21.52 :I5TF4tmE0

時子「被害者は高垣楓、年齢住所職業不明」

恵磨「昨日の夜、暴行を受けて全身血まみれ。運び込まれたのは暴行の後」

亜里沙「私達が証人になりますね。夜10時以降から朝8時前にかけて」

久美子「発見者は、私と亜里沙ちゃん」

優「場所は、ここ」

時子「カギを壊して侵入した」

久美子「犯人の目撃情報はなし」

優「これぐらい?」

亜里沙「こんなものですね」

久美子「わかることは?」

恵磨「犯人のヒントくらいはわかるんじゃないの?」

時子「ええ。警察が言っていたことだけど、大体の目星はあるわよ」

優「そうなの?」

亜里沙「はい。場所が問題ですから」

時子「いい?場所はここよ」

優「S大学部室棟、SWOW部室」

亜里沙「これが意味するところはなんでしょうか」

久美子「……うちの学生?」

時子「かもしれないわ」

恵磨「もしかして、ここの存在も知ってる?」

亜里沙「警察の人はそう言ってました」

時子「夜は確実に人がいないこともわかってる」

優「それでいて、高垣さんと知り合い?」

久美子「いくらなんでも、見ず知らずの人間の犯行とは思えないわよね……」

恵磨「うん。でも、そんな人いるかな?」

時子「いるわ」

亜里沙「いますよね。全てに該当していて、連絡もつかない人」


76 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 16:49:11.55 :I5TF4tmE0

優「え、いや、確かにそうだけどぉ……」

時子「亜季と惠よ。惠に関しては最近も会ってるようだし」

亜里沙「別に疑ってるわけじゃないですよ。疑われてるだけです」

久美子「どうにしろ問題じゃない」

時子「まずは、妙な疑いを向けられないようにするわよ。惠に関しては手法は考えてあるわ」

恵磨「何?」

時子「出国履歴。警察に任せてるから、すぐにわかるはず」

優「亜季ちゃんは?」

亜里沙「取りあえず、連絡は付けないとね」

久美子「そろそろお昼休みかしら。電話見てるかしら……」

優「ねぇ、思ったんだけど」

時子「なに?」

優「私達も疑われてる?」

亜里沙「ええ。状況は否定してくれない。だから」

時子「絶対に否定しなさい。いいわね?」

久美子「ええ」

亜里沙「時間の問題でもあるんだけどね」

優「なんで?」

亜里沙「被害者が意識を取り戻せば、それで終わりなんです。まさか、あの暴行で犯人に検討がつかないとは思えません」

時子「そういうことよ。だから、何も悪びれないこと」

恵磨「わかった」

時子「しかし、疑われっぱなしも癪だわ」

久美子「何か、調べる?」

恵磨「でも、何を調べるのさ?」

時子「そうねぇ……高垣楓につながるものは、私は思い浮かばない」

優「あっ」


77 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 16:54:30.01 :I5TF4tmE0

時子「何か思いついたの、優」

優「吸血鬼は?」

亜里沙「えっ、吸血鬼?」

恵磨「なんで吸血鬼……あ」

久美子「というか、私達が楓さんについて知ってることはそれしかないじゃない」

時子「理由はわからないけど、前は吸血鬼を探していた」

恵磨「ということは、今回も?」

優「清良ちゃんが言ってた、吸血鬼を探してた?」

亜里沙「そうかもね」

時子「結局、真意はわかっていない」

恵磨「そこしかないのか」

亜里沙「最優先課題は、吸血鬼を調べること」

時子「やっていたことを止めるわけではないわ。それでいいわね?」

久美子「ええ」

優「はーい」

時子「よろしい。調べものは進んでるわね?」

恵磨「うん」

時子「まずは、亜季に連絡を取ってから考えましょう」

久美子「もう一度電話かけてみるね」


78 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 16:58:43.57 :I5TF4tmE0

45

昼休み

奏陽泰校・事務室

のあ「……塩唐揚げ。塩が作る魅惑の旋律」モグモグ

亜季「……唐揚げ好きなのでありますか?」

のあ「主観というのは曖昧模糊なもの。それが真実だと証明できるかしら」

亜季「いや、そう深く捉えられても……」

のあ「電話」

亜季「電話?」

のあ「あなたの電話が鳴ってるわ」

亜季「ん、ホントであります。久美子殿からでありますな」

のあ「お気遣いなく……」

亜季「はい、こちら大和であります。どうかしたで……え?」

のあ「……」モグモグ

亜季「しょ、傷害事件でありますか。しかも、部室で……」

のあ「……」モグモグ

亜季「アリバイでありますか?」

のあ「……校内にいることは学校が証明するわ」

亜季「ありがとうございます。あ、こっちの話であります、久美子殿」

のあ「……」

亜季「さすがに深夜のアリバイの証明は厳しいであります。そもそも、私は高垣楓殿に会ったことありません」

のあ「……」モグモグ

亜季「はい、了解であります。夜には行くであります。連絡ありがとうであります」


79 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 17:02:07.99 :I5TF4tmE0

のあ「……傷害事件」

亜季「状況はわかりませんが、女性が暴行されたとかで」

のあ「……そう、生徒にも気をつけさせないと」

亜季「どうやら怨恨のようでありまして」

のあ「怨恨……ね」

亜季「何かあるのでありますか?」

のあ「複雑のようで単純なもの」

亜季「何がでありますか?」

のあ「真実」

亜季「はぁ……?」

のあ「午後もよろしく……大和さん」


80 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 17:07:32.46 :I5TF4tmE0

46

SWOW部室

久美子「亜季ちゃんと連絡取れたわ」

時子「なんですって?」

久美子「亜季ちゃん、楓さんに会ったことないって」

恵磨「あれ、そうだっけ?」

亜里沙「えっと、校内とか、パーティ会場とか、バラ園とか」

優「あ、ホントだ。一回も会ってないね」

亜里沙「じゃあ、亜季ちゃんはそもそも面識がないに等しいのね」

時子「オーケー。乗りきれるわ」

亜里沙「惠ちゃんの方も、さっき警察から電話もありましたし」

久美子「惠ちゃんは出国してたわ。ついでに帰国もしてない」

恵磨「まだチリにいるの?」

亜里沙「出国ぐらいしか調べてないけど、4日前にはアメリカに入国、そこからチリへ入国、それ以降は国を移動してないみたい」

優「これでひと段落かなー?」

時子「そうね。少なくとも私達に火の粉は降らせないわ」

久美子「でも、犯人は見つけたい」

恵磨「警察が調べてくれてるけどね」

亜里沙「でも、吸血鬼を追ってたなんて言える?」

優「言ったところで信じてくれない」

久美子「なら、やるしかない」

時子「そういうこと」

亜里沙「使える人は使いましょう。亜季ちゃんとか」

恵磨「そうだね」

時子「作戦会議は亜季が帰って来てからにしましょう」

久美子「ええ」


81 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 17:11:02.07 :I5TF4tmE0

47

奏陽泰校・校舎

亜季「また、破損しているでありますなぁ。しかし、どうしてこんなことするのでありましょう」

亜季「……それにしても、どんな力で壊してるのでありましょうか」

亜季「まるで、怪物のよう……」

亜季「あー、なるほど。だから、吸血鬼の話が広がるのでありますか」

亜季「ふむ。ますます、亜里沙殿を呼びたくなってきました」

亜季「……ん?」

亜季「誰かの声が聞こえたような……」

亜季「どこで、ありますか」


82 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 17:16:23.10 :I5TF4tmE0

48

奏陽泰校・校舎・女子トイレ

亜季「か、神崎殿!」

蘭子「はぁ……はぁ……」

亜季「大丈夫でありますか!?って、酷い熱であります!」

蘭子「熱い……助け……て」

亜季「服を脱がせるであります」

蘭子「……ダメで、す」

亜季「しかし……」

蘭子「もっと、熱く……なっちゃ……」

亜季「神崎殿?」

蘭子「あ、アアア!」

亜季「お、落ち着くであります!」

蘭子「かぁ……」

亜季「!」

蘭子「……はぁはぁ」

亜季「犬歯が伸びて、いや錯覚であります……口から出血してるであります」

蘭子「……み、水を」

亜季「がんばるであります、神崎殿。今から助けを呼ぶであります!」

蘭子「……血」

亜季「へ?」

蘭子「……」

亜季「意識がなくなっ……大和です!至急こちらに!」


83 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 17:19:57.06 :I5TF4tmE0

49

奏陽泰校・校庭

亜季「高峯殿、お願いするであります」

のあ「まかされたわ。神崎さん……お願い、答えて」

亜季「意識がないでありますか」

のあ「……はやく」

ピーポーピーポー……

亜季「無事だと言いでありますが……」

美羽「あ、亜季さん!」

亜季「美羽殿、大丈夫であります。命には関わらないと……」

美羽「そんなの、言いきれるの!?」

亜季「落ち着くであります、美羽殿」

美羽「だって……」

ほたる「……そんな、また」

美羽「ほたるちゃん、どうしたの……?」

亜季「また?」

ほたる「監視員さん、様子はどうだったんですか」

亜季「酷い高熱で、出血も」

ほたる「……吸血鬼に」

亜季「もしかして、吸血鬼に噛まれたとか言うであります、か」

ほたる「吸血鬼になっちゃう……助けないと!」

亜季「落ち着くであります!」

美羽「そうだよ、落ち着いて!」

ほたる「……お願い、助かって……また見るのはいや……」

亜季「ここでは何であります、移動しましょう。いけるでありますか、白菊殿」

ほたる「……」コクリ


84 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 17:23:09.45 :I5TF4tmE0

50

奏陽泰校・事務室

亜季「落ち着いたでありますか?」

ほたる「……はい。ありがとうございます」

亜季「その話を聞いてよろしいですか」

ほたる「……はい」

亜季「神崎殿の症状に見覚えがあるのでありますか」

ほたる「……」

亜季「白菊殿、今日は教えて欲しいであります」

ほたる「……はい。私は、あの症状を見たことがあります」

亜季「それは、いつでありますか」

ほたる「1ヶ月くらい前のことだったと思います、道で倒れてる人を見つけたんです」

亜季「その時の症状と似ていたでありますか」

ほたる「はい……凄い熱と一部の出血、でも」

亜季「でも?」

ほたる「その人、救急車が来る前に熱が下がったんです」

亜季「下がった?」

ほたる「その、意識もはっきりして……」

亜季「そうなのでありますか」

ほたる「でも、その時に、とっても肌が冷たくて硬くて……」

亜季「……亡くなったでありますか」

ほたる「……はい。病院に運ばれた後に、また高熱が出て……」

亜季「……大変だったでありますね」

ほたる「……いいえ、亡くなった人たちの方が」

亜季「そうでありますな。もう一つ、いいでありますか」

ほたる「何でしょうか」

亜季「吸血鬼とは、どういうことでありますか」


85 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 17:27:59.95 :I5TF4tmE0

ほたる「……まるで吸血鬼のようでした」

亜季「誰が、でありますか」

ほたる「私が見つけた女の人です、青ざめた肌色をしていて、赤い眼で、それに」

亜季「それに」

ほたる「言ってたんです、変わっちまうみたいだ、なんで、アタシがって」

亜季「変わる……」

ほたる「監視員さん、吸血鬼なんていないですよね」

亜季「……」

ほたる「噂も広まってて、本当にいるんじゃないかって」

亜季「私は否定することが出来ないであります」

ほたる「なら……」

亜季「いるとも言っておりません。調べてみるでありますよ」

ほたる「……お願いします」

亜季「ええ。私達に任せるであります」


86 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 17:33:40.02 :I5TF4tmE0

51

夕方

奏陽泰校・事務室

亜季「……そうでありますか。ご連絡ありがとうございます、高峯殿」

晶葉「どうだったんだ……」

亜季「熱は下がったようであります」

飛鳥「それじゃ無事ということかい?」

美羽「よ、良かったぁ」

亜季「……いえ」

晶葉「どういうことだ」

亜季「以前の病状からすると、ここから一気に悪化するそうであります」

美羽「そ、そんな」

亜季「私も無事を祈っているであります」

飛鳥「大丈夫、だろう」

晶葉「何の効力もない」

美羽「でも!」

亜季「それでも、祈るしか、ないであります」


87 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 17:45:05.16 :I5TF4tmE0

52

SWOW部室

久美子「時子ちゃん」

時子「なに?」

久美子「亜季ちゃん、今日は来られないって」

時子「そう。何かあったの?」

久美子「女の子が倒れちゃったから、病院に行くって」

時子「そう。亜季も大変ね」

恵磨「ん、それじゃ待ってても無駄だったの?」

久美子「そうみたいね」

時子「仕方がないわ。亜季は置いておきましょう。恵磨」

恵磨「なに?」

時子「優と亜里沙を呼びなさい。吸血鬼の話をまとめましょう」


88 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 17:47:47.96 :I5TF4tmE0

53


S大学付属病院・ロビー

亜季「高峯殿」

のあ「……大和さん」

亜季「神崎殿の、病状はいかがでありますか」

のあ「つい先ほどまでは話も出来たのだけど……」

亜季「今は?」

のあ「……追い出されてしまったわ。発熱が酷くて」

亜季「……そうでありますか」

のあ「……苦しいでしょうに」

亜季「神崎殿は何か、言っておりましたか」

のあ「……苦しいと」

亜季「それ以外は」

のあ「いいえ。ノドが渇いたから、水が欲しいとは、ずっと」

亜季「その……変なこと聞くでありますが」

のあ「何かしら」

亜季「変わってしまう、とか言っておりましたか?」

のあ「……なんのこと」

亜季「具体的には、人間じゃなくなる、吸血鬼になってしまう、と」

のあ「……その話は」

亜季「ええ。学校の噂に近いであります」

のあ「……参ったわね。学校の様子は」

亜季「多少の混乱はありますが、そう問題にはなっておりません」

のあ「……そう」

亜季「何か、言っておりませんでしたか」

のあ「……いいえ、やっぱり何も言ってなかったわ」

亜季「そうでありますか……」

のあ「……呼んでるわ。行ってくる」

亜季「……はい」


89 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 17:49:13.85 :I5TF4tmE0

54

S大学付属病院・ロビー

亜季「……」

あい「こんばんは、大和亜季さん」

肇「こんばんは」

亜季「どちら様でありますか」

あい「すまない。こういう者だ」

亜季「警察でありますか」

あい「刑事課の東郷だ。こちらは藤原君」

肇「藤原です」

あい「お話を聞かせてもらっていいかな」

亜季「ええ、構わないであります」

あい「ありがとう。名前を確認して良いかな」

亜季「大和亜季であります」

あい「神崎蘭子さんをはじめに見つけたのは、あなただね?」

亜季「そうであります」

あい「状況は他の人からも聞いてるし、本人からも聞いてる」

肇「発見場所は女子トイレ、急な発熱により意識は朦朧としていたそうですね」

亜季「はい、駆けつけた時には倒れていました」

あい「何か前兆はあったか?」

亜季「前兆でありますか?」

あい「例えば、発熱だ」

肇「前例からすると、数日前から数週間ほど前に発熱がみられるはずです」

亜季「確認するでありますが、前例があるのでありますか」

あい「ああ。あまり公にはなってはいないがな」

亜季「感染症なのでありますか?」

肇「そこは何とも言えません」

亜季「そうでありますか……」


90 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 17:50:44.42 :I5TF4tmE0

あい「感染でも発病でも何でもいいから経路が掴みたい。発熱の兆候はあったか?」

亜季「発熱はありました。データもあるであります」

肇「データ?」

亜季「はい。プールの監視員をしておりまして、名簿がカバンに……これであります」

あい「ありがとう。発熱は、微熱だが先週からあるのか」

肇「本人が言ってた通りですね」

亜季「本人が言っていたでありますか」

あい「少し病状が良くなった時に聞いた。微熱の原因に関しては、心あたりがないそうだ」

肇「しかし、何らかの感染源があると思います」

亜季「私が会った時には微熱がありました。それ以前かと」

あい「そうだろうな」

亜季「あの、刑事さん」

あい「なんだね」

亜季「原因は何でありますか」

あい「調査中だ」

肇「断定できるものはありません」

亜季「……そうでありますか」

あい「だが、明らかにターゲットを絞った犯行だと思われる。被害者同士に明確なつながりがない以上、感染とは思えん」

亜季「狙ってる……あの、被害者は女の子でありますか」

肇「はい。十代後半です」

亜季「……症状は一緒なのでありますか」

あい「そうだ。何か心あたりでもあるのか?」

亜季「吸血鬼」

肇「今、なんて言いましたか?」

亜季「吸血鬼、と」

あい「吸血鬼か。何が言いたいのかい?」

亜季「その、吸血鬼に噛まれたという噂が」


91 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 17:51:48.88 :I5TF4tmE0

肇「……ふむ」

あい「実は被害者の一人が、そんなことを言っていたらしいな」

肇「はい。しかし、誰も噛まれたということは言っていません」

亜季「あながち嘘だと決めつけられないような気がするであります」

あい「百歩譲って、吸血鬼になる病気だとしよう」

肇「しかし、私達は警察です」

あい「吸血鬼を探しているとは言えん」

亜季「はい……当然であります」

あい「しかし、何かしらの犯人はいる。さて、藤原君」

肇「奏陽泰校です」

あい「次の調査場所はそこだ。ご協力感謝する、大和さん」

亜季「ええ……あの、神崎殿は」

あい「……前例は今のところない」

亜季「そうでありますか……」

あい「藤原君、体温の記載されてる名簿をコピーしてくれ」

肇「はい」

あい「原本は大和さんに返してくれ。車の準備をしてくる」

肇「わかりました」

あい「失礼するよ、大和さん」


92 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 17:53:34.49 :I5TF4tmE0

55

SWOW部室

時子「被害者は3人」

恵磨「うん。まずは、神谷奈緒って高校生」

久美子「高校3年生。特に私生活に支障のない程度の微熱はあった、とか」

時子「その情報はどこから?」

恵磨「友人から。見取った人の話みたい」

久美子「発熱で倒れて、病院に運ばれた。たまたま通りすがった中学生が救急車を呼んでくれたみたい」

恵磨「友人がS大学付属病院の内科の患者なんだよね。だから、清良さんが気にしてるのはそんな理由もあるみたいだよ」

優「そのお友達に話は聞いたの?」

恵磨「いや、まだ」

時子「話を聞いてみましょうか。他には?」

亜里沙「例えば、原因とか」

久美子「それはわからないんだよね。突然倒れた、みたい」

恵磨「最初の一人はそれぐらいかな」

時子「吸血鬼については?」

久美子「ぜんぜん。彼女の周りでそんな話はなかった」


93 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 17:55:07.11 :I5TF4tmE0

恵磨「二人目以降もそうだよ」

優「2人目は、道明寺歌鈴ちゃん」

亜里沙「近くの神社の娘さんです」

優「症状はほとんど同じ。病院に行かないで自宅療養だけど」

亜里沙「やっぱり、微熱の後、急激な発熱。そのあと小康状態」

優「でも、その時には足が壊死していた……」

亜里沙「もう一度、発熱が起きて、心停止しました」

時子「変質、ね」

優「この病気になるような出来事はやっぱりなかったみたい」

亜里沙「それに、吸血鬼の存在も周囲にありません」

時子「神頼みも効かなかったのね」

亜里沙「はい」

時子「最後の一人は柳清良が教えてくれた通り」

恵磨「やっぱり、吸血鬼の噂なんてないんだよね」

久美子「うん。でも、被害者は吸血鬼と言った」

時子「その理由は?」

恵磨「うーん、被害者がそう思ったから?」

時子「それぐらいでしょうね」

優「でも、この件は警察が調査してるよねー」

恵磨「そうそう。結局刑事さんには会えなかったけど」


94 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 17:56:36.15 :I5TF4tmE0

時子「正直、そっちはどうでもいいわ。おそらく、私達では辿りつかない」

亜里沙「はい。私達が探しているのは、吸血鬼」

久美子「そう、楓さんが探していた吸血鬼」

優「大学内の噂を調べてみたよー。ね、恵磨ちゃん」

恵磨「うん。結果としては散々だけど」

時子「どういうことかしら」

優「噂は5月になるころにはパッタリと消えてたよ」

恵磨「というか、原因が完全に消えちゃったから」

久美子「楓さんも大学構内とかその周辺で見かけた人もいないし」

亜里沙「あの人が歩いていたら、目立つのにね」

時子「ここ最近は?」

恵磨「吸血鬼も高垣さんも全然目撃談も噂もなし」

優「ぱったりと消えてたのに、突然現れた」

時子「どっちの話かしら」

久美子「どっちも。急に降って湧いた」

亜里沙「それは本当かなぁ?」

時子「言いたいことははっきり言いなさい」

亜里沙「突然の出来事ではないと思います」


95 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 17:59:38.47 :I5TF4tmE0

恵磨「アタシ達の前に出て来たのは突然だけど」

優「でも、そうじゃない、ってこと?」

亜里沙「はい。といっても、根拠はありませんけれどね」

時子「すべて偶然でした、では済まないわ。この場所であの人物が倒れていたのに、少なからず作為がある」

亜里沙「ええ」

恵磨「でも、どうするのさ」

優「まずは、神谷奈緒ちゃんのお友達かな」

時子「まずはそれね」

亜里沙「私が行こうかしら」

優「アタシも行くー。清良ちゃんにも会えそうだし」

時子「お願いするわ」

恵磨「アタシと久美子ちゃんはどうする?」

久美子「うーん、高垣さんの事件を調べるにしても」

時子「手掛かりは、それこそ一つしかないじゃない」

久美子「なに?」

時子「被害者。高垣楓について調べてきなさい」

恵磨「了解。といっても、難航しそうだなぁ」

久美子「やる前から弱音を吐いても仕方ないよ」

時子「指針は以上よ。吸血鬼には気をつけなさい。また、明日の夕方に集合。いいわね?」

久美子「わかった」

時子「よろしい。それでは解散」


96 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 18:01:07.76 :I5TF4tmE0

56

S大学付属病院・ロビー

洋子「あの……」

亜季「……どちら様でありますか」

洋子「あ、はい、私はここで警備をしている斉藤洋子です。はじめまして」

亜季「大和亜季であります。斉藤殿は、私に何かご用でありますか」

洋子「あの、昼間に運ばれた女の子の関係者ですか」

亜季「あまり言いふらすことではないので……」

洋子「吸血鬼とか言ってませんでしたか?」

亜季「どうしてそれを、知ってるでありますか?」

洋子「前の被害者、松原さんが言ってたのを聞いたので」

亜季「そうでありましたか」

洋子「……」

亜季「どうしたでありますか」

洋子「何が原因なんですか」

亜季「それはわからないであります」

洋子「そうですか……お医者さんもわからないみたいで」

亜季「斉藤殿は何か知ってるでありますか」

洋子「……何も。でも、怖くて」

亜季「お気持ちはわかるであります」


97 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 18:02:25.59 :I5TF4tmE0

のあ「……」

洋子「のあさん、どうでしたか……?」

亜季「高峯殿……」

のあ「……亡くなったわ」

洋子「これで……4人も」

亜季「……最後はどうだったでありますか」

のあ「長い間うなされていて……早く楽になるならなって欲しい、と思ってしまったわ」

亜季「……」

洋子「……いえ、それでも生きていた方がいいはずです」

のあ「わかってるわ……私だって教育者のはしくれよ、そんなことはわかってる」

亜季「高峯殿……」

洋子「……お悔やみを」

のあ「……ありがとう。大和さんも」

亜季「いえ、私は何も……何も出来てないであります」

のあ「あなたのせいじゃない。私は残るから、帰りなさい」

亜季「……はい。でも、最後に顔を見させていください」

のあ「……ええ」


98 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 18:04:21.18 :I5TF4tmE0

57

S大学病院・玄関

亜季「……死んだ人の顔を見るのは悲しいでありますな」

洋子「……はい」

亜季「せめて安らかな顔で良かったであります。せめてもの、救いでありますから」

洋子「……」

亜季「私はここで失礼するであります」

洋子「お疲れ様でした」

亜季「……私も帰るであります」

洋子「あの」

亜季「なんでありますか」

洋子「他にいませんよね?」

亜季「……」

洋子「大和さん?」

亜季「……まずいであります。失礼するであります!」


99 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 18:05:53.30 :I5TF4tmE0

58

関裕美の自室

亜季「関殿!」

裕美「な、なに、え、亜季さん?」

亜季「無事でありますか?」

裕美「うん、大丈夫だけど……」

亜季「ふー。良かったであります」

裕美「あの、何かあったの?」

亜季「いいえ、何もありません」

裕美「嘘」

亜季「……今は聞かないでください。後でちゃんと言うであります」

裕美「……わかった。聞かないよ」

亜季「ありがとうございます。それで熱は下がったでありますか?」

裕美「うん」

亜季「酷い熱は出たでありますか?」

裕美「ちょっとだけね。今はもう平気」

亜季「そうでありますか」

裕美「薬も飲んだし、大丈夫だよ」

亜季「わかったであります。夜遅く来て申し訳ないであります」

裕美「いいよ。何か眠れなくて困っていた所だったから」

亜季「そうだったでありますか」

裕美「ねぇ、少しだけお話してくれない?」

亜季「学校に行けてなくて、さびしかったでありますか?」

裕美「ふふ、そうかも」

亜季「わかりました。聞くでありますよ」

裕美「それじゃ、お気に入りの場所の話をするね」

亜季「お気に入りの場所?」

裕美「落ち着く場所があるんだ。今度、行ってみてね」

亜季「ええ。お聞かせください」

裕美「えっとね……」


100 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 18:06:49.27 :I5TF4tmE0

59

幕間

松永涼「……そっちはどうだ?」

松永涼
ロッキンな女性。小物などにはドクロが目立つ。

白坂小梅「ううん……いないよ」

白坂小梅
だぼついた長袖とクマがトレードマークの女の子。

涼「しまったな……楓の奴どこ行ったんだ?」

小梅「いつ……出て行った?」

涼「わかんねぇ。少なくとも今日はいないんだよな」

小梅「探す?」

涼「どこかで倒れてるかもしれないな……」

小梅「うん……楓が戻ってこないの、おかしい」

涼「……楓は何か言ってたか?」

小梅「ううん、何にも」

涼「困ったな」

小梅「話してても見つからない……」

涼「それもそうだな。ついてくるか、小梅」

小梅「うん」

涼「行くぞ。気づいたことがあったら教えてくれ」

小梅「……わかった」

幕間 了


101 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 18:08:12.41 :I5TF4tmE0

60

翌日

奏陽泰校・プールサイド

櫂「……」

亜季「……」

櫂「プールの授業、潰れちゃったんですか」

亜季「ええ。他の授業もないかもしれないであります」

櫂「……仕方ないですね」

亜季「変に混乱しているようでありますから」

櫂「……吸血鬼とか、謎の伝染病とか」

亜季「否定はできないのでありますから」

櫂「あの、さっきからどこに電話してるんですか?」

亜季「友人であります。こういうことに強い友人がいるのでありますが」

櫂「こういうこと?」

亜季「噂とか生徒心理とか。電源を切ってるようでありますな」

櫂「……それにしても、何があったんですかね」

亜季「それは、わからないであります」

櫂「あと、頼まれていた調べ物終わりました」

亜季「どうでありましたか?」

櫂「やっぱり微熱が続いていたのは、2年生の2人だけです」

亜季「そうでありますか。ありがとうであります」


102 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 18:10:50.71 :I5TF4tmE0

61

S大学付属病院・北条加蓮の病室

北条加蓮「……奈緒」

北条加蓮
S大学病院内科の入院患者。神谷奈緒の友人であり、最期を看取った人物。

亜里沙「はい。お話を聞かせてもらってもいいですか」

優「お願い。仲良かったの?」

加蓮「夜遅くまで話してて警備員さんに注意されたり……でも、もう」

亜里沙「……お悔やみを」

加蓮「……どこまで知ってるの」

亜里沙「病状は知っています。あなたが感じたことを教えて欲しいの」

加蓮「感じたことって……」

優「何か言ってた?」

加蓮「……」ギッ

亜里沙「加蓮ちゃん……?」

加蓮「どうして、奈緒なの」

優「加蓮ちゃん?」

加蓮「どうして、奈緒が死んじゃうの……なんで、私より先に死んじゃうの」ポロポロ

亜里沙「……」

加蓮「私なんていつ死んでもいいのに……奈緒がなんで死んじゃったの。なんで、私じゃなくて、奈緒なの……」

優「……」

加蓮「ねぇ、どうして、どうして!?」

亜里沙「落ちついて、加蓮さん」

加蓮「……ヒック」

亜里沙「あなたがそんなことを言うと、奈緒さんが悲しみますよ」

加蓮「……」


103 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 18:13:44.75 :I5TF4tmE0

亜里沙「大切な人だったんでしょう。いつもお見舞いに来てくれたのよね」

加蓮「……うん」

優「元気になって欲しいから、でしょ」

亜里沙「はい。だから、私が代わりに死ねばよかったなんて、言わないで」

加蓮「……そうかな」

亜里沙「そうですよ。奈緒さんもそんなこと言ってなかったでしょう?」

加蓮「……奈緒ね、体調が良くなかったの」

優「……発症前の、微熱」

加蓮「それでもね、アタシなんて良いんだよ、加蓮は心配しなくていいって、そんなこと言ってたから」

亜里沙「優しい人なんですね」

加蓮「……止めてれば良かった。ここは病院だったのに」

優「だって、熱は下がったんだよね。風邪だと思っても仕方がないよ」

加蓮「倒れる前の奈緒はね、元気だったんだ。熱も下がって、いつものような口調で……」

亜里沙「でも、倒れて運ばれてきた」

加蓮「本当に急だった。私、信じられなくて……」

優「……急な発熱。その時はどうしたの?」

加蓮「突然、看護師さんに呼ばれたら、奈緒がベッドに寝かせられてて……」

亜里沙「苦しそうだったのね」

加蓮「うん……とても苦しそうで……喉をかきむしってたらしくて血が出てた」

亜里沙「……そう」

加蓮「でも、その時は回復してたの。話せるくらいに」

優「聞いてるよ。その時は、何か……?」


104 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 18:16:31.60 :I5TF4tmE0

加蓮「……大丈夫だよ、心配すんなって。死にそうな顔すんなって」

優「そんな時に、そういうこと言うんだ」

加蓮「違う、私は奈緒が心配だっただけ……」

亜里沙「わかっていますよ」

加蓮「私の前だけでは絶対に弱音なんて言わなくて……他の人には言ってたみたい、なんでアタシが、とか」

優「奈緒ちゃんの優しさ、だと思うよ」

加蓮「でも、良くならなくて。どんどんと固くなっていって……」

優「亡くなった……」

加蓮「……」コクリ

亜里沙「……辛いこと話させて、ごめんなさい」

加蓮「……いいえ。話せてよかった」

亜里沙「話してくれて、ありがとう」

優「変なこと、聞いていいかな?」

亜里沙「ちょっと不思議なことを聞くけど」

加蓮「……何ですか?」

優「何か、奈緒ちゃんは死ぬ前に言ってたかな、その原因とか」

加蓮「ううん。風邪だと思ってた」

亜里沙「……吸血鬼に噛まれたとか」


105 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 18:17:42.88 :I5TF4tmE0

加蓮「き、吸血鬼、なにそれ?」

亜里沙「何か言ってませんでしたか」

加蓮「ううん、そんなこと言ってない」

優「雑談に出たりした?こんな噂話があるとか」

加蓮「ファンタジーとか嫌いじゃなかったから、話をしたことはあると思う」

亜里沙「特徴とか、話してた?」

加蓮「覚えてない。このマンガに出て来るんだよ、くらいだったから」

優「それじゃあ、吸血鬼を病院内とかの噂で聞いた?」

加蓮「……ない」

亜里沙「うーん。それじゃあ、何も関係がないのかな」

優「そうみたいだねぇ」

加蓮「……なんで、奈緒だったのかな」

亜里沙「わからない」

優「……それじゃ気が済まないよね」

加蓮「ワガママだってわかってる。でも」

亜里沙「気持ちはわかります。だから、もう少しだけ待っていてください」

加蓮「うん」

優「何か思い出したら、教えてね」


106 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 18:19:13.19 :I5TF4tmE0

62

S大学付属病院ロビー

恵磨「えっと、高垣さんの病室は……」

久美子「ねぇ、恵磨ちゃん」

恵磨「なに、久美子ちゃん?」

久美子「あの人、見たことない?」

恵磨「いいや。ないけど」

久美子「あれ、どっかで会ったような……」

恵磨「あ、こっち来た」

涼「ん?」

久美子「こんにちは」

涼「ああ。こんにちは。あれか、伊集院サンの知り合いか」

久美子「伊集院って、惠ちゃん?」

涼「そうだ。伊集院サンには世話になった。自己紹介がまだだったな、アタシは松永涼。こっちは小梅」

小梅「白坂小梅、です」

久美子「松山久美子よ」

恵磨「仙崎恵磨です!よろしく!」

涼「よろしく。そうだ、小梅」

小梅「……」


107 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 18:20:44.45 :I5TF4tmE0

恵磨「どこ見てるんだろ?」

涼「小梅」

小梅「な、なに、涼さん」

涼「缶コーヒーあげてくれ」

小梅「うん……どうぞ」

久美子「これはどうも」

恵磨「ありがとう」

涼「それで、アタシの質問に答えてくれるか?」

久美子「変なことじゃなければ」

涼「高垣楓ってこの病院にいるのか?」

恵磨「うん、いるけど」

涼「良かった。運ばれてたか」

久美子「私なんか発見者よ」

涼「……話は後で聞こう。楓はどこにいるかわかるか?」

久美子「私達も行くところだったの。ついてくる?」

涼「ああ。よろしく頼む。行こう、小梅」

小梅「……うん」


108 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 18:30:38.49 :I5TF4tmE0

63

奏陽泰校・事務室

亜季「学校の授業は切り上げでありますか」

櫂「ということは、今日はこれで終わりですか?」

のあ「ええ……予定よりも早いけど」

櫂「仕方がないですね。授業どころじゃないですもん」

亜季「ええ。賢明な判断であると思います」

のあ「ご理解ありがとう」

櫂「放課後のプール開放とか、どうですか?」

のあ「……気持ちだけ。可能な限り集団で下校させるわ」

櫂「……そうですか」

亜季「少しだけ時間を貰っていいでありますか」

のあ「……聞き取りなら警察がやっていたわ。東郷さんと藤原さんが」

亜季「迅速でありますな。だが、聞きたいことは違うであります」

のあ「なに……?」

亜季「吸血鬼についてであります」


109 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 18:32:00.33 :I5TF4tmE0

64

S大学付属病院・個室

久美子「意識は戻っていないのか……」

恵磨「そうみたいだね。この入院服の下も傷だらけだし……」

小梅「……この口についてるの、呼吸器?」

久美子「ええ。呼吸も弱いから補助用に」

涼「随分と良い部屋じゃないか」

恵磨「怪我が怪我だし……って何してるのさ」

涼「傷の確認だ。これはこっぴどくやられたな」

小梅「……でも、生きてる」

涼「ああ。小梅、口は動いてるか」

小梅「うん……動いてる」

久美子「何か意味があるの?」

涼「重要なことだよ。楓にとっては、な」

小梅「あっちは無事みたい。どうする……の?」

涼「ふむ……なぁ、お二人さん」

久美子「何かしら」

恵磨「何?」

涼「知りたいことはあるか?」

久美子「それはもちろん。話した通り、私達の部室で倒れてたのよ」

恵磨「吸血鬼の件もあるし、知りたいことは一杯あるの」

涼「吸血鬼か……しかも、S大学か」

小梅「……楓、襲われた?」

涼「本人に聞けばわかるさ。お二人さん、何でも受け入れる覚悟はあるか?」

久美子「どういうこと?」

恵磨「どういうことでも知りたいよ」

久美子「それもそうね。ええ、知りたいわ」

涼「オーケイ。だが、知りたいなら手伝ってくれ」

恵磨「もちろん。でも、何を?」

涼「買い出し」

久美子「買い出し?」

涼「とりあえず食い物だ。小梅、楓の傍にいてやってくれ」

小梅「うん……いってらっしゃい」


110 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 18:33:21.41 :I5TF4tmE0

65

SWOW部室

プルルルル……

時子「電話?」

時子「はい、財前」

亜季『大和亜季です。お疲れ様であります、時子殿』

時子「なに、亜季じゃない。珍しいわね、こんなとこに電話してくるなんて」

亜季『他のメンバーはいるでありますか?』

時子「いないわよ。誰かに用事でもあるのかしら」

亜季『はい。亜里沙殿はおりませんか?電話がつながらないので』

時子「亜里沙は病院に行ってるのよ。几帳面だし、電源を切ってるんじゃないかしら」

亜季『そうでありましたか』

時子「何か急用でもあるのかしら?」

亜季『いえ、そこまで急を要してるわけではないであります』

時子「なら、用事はなんなのよ」

亜季『バイト先の学内の噂が少し気になっておりまして、今から話を聞いてみるので一緒にと思いまして』

時子「そう、面白そうなことやってるじゃない。でも、いつ帰ってくるかわからないわよ」

亜季『わかったであります。それでは、後で意見を伺うことにするであります』

時子「それがいいと思うわ。夕方には全員いるわよ。面白いことがわかったら、そこで話しなさい」

亜季『了解であります。それでは、失礼するであります』

時子「ええ。バイト、頑張るのよ」


111 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 18:35:24.34 :I5TF4tmE0

66

S大学病院ロビー

亜里沙「うーん」

優「うーん」

亜里沙「吸血鬼の話はないね……」

優「うん。清良ちゃんくらいしか、結局言ってなかったもんねー」

亜里沙「じゃあ、どこから出て来たのかしら」

優「次の所に行ってみる?噂はないとは聞いてるけど」

亜里沙「やっぱり、ちゃんと行ってみましょう。神社よね?」

優「そうそう」

亜里沙「座ってても仕方ないもの、行ってみましょう」

優「よし、行っちゃおう☆」


112 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 18:36:38.04 :I5TF4tmE0

67

S大学付属病院・個室

涼「小梅、人を入れないでくれ」

小梅「うん」

久美子「こんなに一杯の食べ物、どうするの?」

涼「とりあえず、ベッドの近くに置いてくれ」

恵磨「よいっしょ、っと」

涼「小梅、大丈夫か」

小梅「うん、誰も見てないよ」

涼「よし、外すぞ」

久美子「え、呼吸器外すのは」

涼「問題ない。楓、聞いてるか」

楓「……」

恵磨「意識はないよ……」

涼「だが、口は動いてる。柔らかいものから行こう。菓子パンからだ」

久美子「え、食べるの?」

涼「食べさせろ。とにかく」

恵磨「とりあえず、開けたけど」

涼「おい、楓。食えるだろ?」

恵磨「ホントだ、意識ないのに口で食べてる」

涼「ほら、次だ」

久美子「えっと、これでいい?」


113 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 18:38:39.22 :I5TF4tmE0

68

S大学付属病院・個室

楓「それは何ですか?」モグモグモグ

涼「なんだっけ?」

久美子「南米風牛肉の炭火焼き」

楓「いただきます」バリバリバリ

涼「あっちの方はどうだ?」

楓「そちらの方は問題はありません。狐は多すぎたくらいです」

涼「そりゃ良かった」

恵磨「……ねぇ、久美子ちゃん、あのさ」

久美子「……うん、わかってる」

恵磨「意識失ってたのに食べれて、しかも意識が回復した」

楓「イカとかありませんか?」

涼「アルコールはダメだぞ」

楓「わかっています。まぁ、良い一夜干しですね」

久美子「綺麗な人がイカの姿干しをそのまま食べてるのはシュールね……」

涼「それで、何があった?」

楓「すみません、もう少しだけ食べさせてください」フゴフゴフゴ

久美子「といっても、もうほとんど終わりだけど」

楓「なら、食べてしまいますね」

涼「ああ」

恵磨「あの体のどこに……え?」


114 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 18:40:30.32 :I5TF4tmE0

久美子「どうしたの?」

恵磨「久美子ちゃん……腕見て」

久美子「腕……楓さんの腕が何か?」

恵磨「変じゃない?」

久美子「ううん、綺麗だけど」

恵磨「綺麗なのはおかしい、でしょ」

久美子「……ええ」

涼「小梅、もういいよ。こっちに来な」

小梅「楓、元気になった?」

楓「ええ。見つけてくれてありがとうございます」

小梅「ううん……だって、楓は仲間」

楓「ありがとう」

涼「何があったんだ?」

楓「デザートはないのですか?」

涼「そこまで気が回らなかった。退院出来たら、考えよう」

小梅「涼さんのケーキ……好き」

楓「わかりました。待っています……ところで、お二人は?」


115 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 18:42:16.25 :I5TF4tmE0

涼「伊集院サンの知り合いさ。楓も知ってるか?」

楓「はい。以前はお世話になりました」

小梅「傷付いた楓……見つけてくれた」

楓「そうだったんですか……私はどこに?」

久美子「私達の部室です。S大学構内」

楓「……そう」

恵磨「何があったの?」

楓「そうですね……どこからお話しましょうか」

久美子「どこから?」

楓「この前の、吸血鬼は見つかりましたか?」

恵磨「やっぱり、知ってるんだ」

久美子「ええ」

楓「その人は違います」

恵磨「……違う?」

楓「私が探していたのは、血を吸う怪物です。彼女、黒川千秋さんでしたか」

久美子「ええ」

楓「彼女を変えたのは、血を吸う怪物です」

恵磨「え?」

久美子「精神的なものではないの?」

楓「そうと言えばそうです。でも、病気ではありません。催眠術の方がそれに近いと思います」

涼「……その話と楓が襲われたことに何か関係があるのか」

楓「はい。襲ったのは、血を吸う怪物でした。名前を言った方がいいですか」

恵磨「名前?」

久美子「名前を言うと、わかる人なの……?」

楓「日下部若葉さんですよ。血を吸う怪物は」


116 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 18:43:22.12 :I5TF4tmE0

69

S大学付属病院・個室

恵磨「はっ?」

楓「黒川千秋さんに衝動を覚えさせたのは、日下部若葉さんです。わかります?」

久美子「え、ええ。わかるわよ。S大学の学生だし」

楓「一人だけおかしい被害者がいませんでしたか?」

恵磨「被害者?」

楓「黒川千秋さんです」

久美子「……バラ園の時」

楓「そうです。誰があの傷をつけたのですか?」

恵磨「まさか、そういうことなの?」

楓「はい。単純じゃないですか、吸血鬼にかえた存在がいると、簡単な話でしょう?」

久美子「はい、そうですか、って言えるような話じゃないわよ……」

楓「お聞きしてよろしいですか?」

恵磨「なに?」

楓「最近、会いましたか、日下部若葉さんに」

恵磨「うん……元気そうだったよ」

楓「でもおかしいですねぇ」

涼「ああ、おかしい」

小梅「うん……おかしい」

久美子「何が……ですか」

楓「だって、私が食べてしまったのに」


117 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 18:52:52.12 :I5TF4tmE0

70

某神社

優「思ったよりにぎやかだし、いい所だねー」

亜里沙「さっきの話を忘れればね……」

優「……亜里沙ちゃんもジュース飲む?」

亜里沙「ありがと」

優「やっぱり、ほとんど同じ症状だったね」

亜里沙「良くお手伝いもしていたみたいだし、近所の人からも評判が良かったのね」

優「うん。ちょっと頼りげない感じだけど、そこがまた庇護欲をそそるというか」

亜里沙「愛される存在だったのに……だからこそ」

優「あんまりいい気分じゃないよね」

亜里沙「……ええ」

優「……」

亜里沙「だから、進みましょう。吸血鬼の話を」

優「吸血鬼の話はやっぱりなし」

亜里沙「怪しい人くらい浮かんでもいいのに」

優「もしそうなら、それが吸血鬼の話になりそうなのにねぇ」

亜里沙「でも、それもない」

優「うーん」

亜里沙「……そもそもなんで吸血鬼なのかしら」

優「どういうこと?」

亜里沙「やっぱり何かはあると思うの。でも、その火種にたどり着かない」

優「でも、被害者が出ちゃってる」

亜里沙「うーん。ちょっと、考えましょうか」

優「そうだねー。部室に戻ろうか」

亜里沙「ええ。時子ちゃんが何か良いヒントをくれるかも」


118 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 18:55:32.48 :I5TF4tmE0

71

S大学付属病院・個室

久美子「……」

恵磨「……」

涼「なんで、いるんだ?」

楓「わかりません」

小梅「死んでるとは思えない……生きてる」

楓「はい。間違いなく私は咀嚼しましたから」

久美子「ま、待って」

涼「なんだ、聞きたいことでも?」

久美子「待って、付いていけない」

楓「どこがですか」

恵磨「食べた、ってどういうこと?」

楓「そのままです。私が日下部若葉さんを飲み込みました」

久美子「……」

涼「はっきり言うべきか。いいか、普通の人間じゃないんだ」

楓「私は、そういう存在を喰らって生きている存在です。それだけですよ」

恵磨「もう考えるのはやめる。そういうことだって、聞いてたほうがいいや」

久美子「……そうみたい」

涼「理解があって助かるよ」


119 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 18:56:37.11 :I5TF4tmE0

楓「話はわかりましたか?」

久美子「その、吸血鬼事件の本当の犯人は日下部若葉さんだった」

恵磨「妖怪みたいなもんだから、退治した」

涼「だいぶマイルドな解釈だな」

小梅「……間違ってない」

久美子「それで、いないはずなのに。いるわ、日下部若葉さんは」

楓「はい。そこまで行くと筋が通るでしょう」

恵磨「襲ったのは、日下部若葉ちゃんで、理由は」

久美子「復讐……」

楓「そうでしょうね」

恵磨「でも、なんでうちの部室に?」

楓「朝までは人が来ないと知っていたから、ではないでしょうか」

久美子「どういうこと?」

涼「ちょっと、話を遮っていいか」

久美子「どうぞ」

涼「日下部若葉は存在としては下等だ。楓がやられるほどじゃない。たとえ、不意打ちでも」

楓「ええ。完全に上下の差がありました」

小梅「……今は違うの?」

楓「同等以上、考えられることとして彼女は既に本物であること」

恵磨「本物?」

楓「本物の吸血鬼です」


120 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 18:58:28.25 :I5TF4tmE0

72

S大学付属病院・個室

小梅「本物……」

楓「既に本物でした。吸血鬼となっていました」

久美子「……えっと、本物ってどういうこと」

涼「日下部若葉は紛い物だったんだ。蛭の妖怪に近かった。でも、今は違う」

小梅「噛まれた」

楓「はい。吸血鬼へと変質しています」

涼「ちっ、問題は山積みだな」

小梅「吸血鬼……いるの?」

涼「今はいないはずだ。シスターが退治したのは1年以上前だ」

久美子「吸血鬼がいたの……?」

涼「ああ。この周辺でな」

恵磨「その時も今みたいな事件があったん?」

涼「事件?」

久美子「急な発熱で、女の子が死んでるの」

涼「吸血鬼への変質過程でか。いいや、いないな」

楓「こっちに来てからの被害者はゼロですよ。血は何らかの方法で手に入れていたようですから」

涼「そういうことだ。そもそも、変質に耐えられる人間はほとんどいない」

小梅「うん……だから、吸血鬼は増えない」

涼「だが、そう……いるのか」


121 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 18:59:41.15 :I5TF4tmE0

小梅「吸血鬼……暴れてるの?」

楓「暴れてはいないと思います」

涼「調べないといけないな」

恵磨「あのさ」

久美子「なに?」

恵磨「あの病気の正体、本当に吸血鬼なの?」

涼「詳しくは知らないが、そうかもしれないな」

楓「いずれにせよ、吸血鬼はいます」

小梅「探さないと……」

久美子「なんだか、とんでもないことになってきたわ」

涼「それで、ちょっと頼まれごとをしてくれないか」

恵磨「何を?」

楓「吸血鬼を調べてみてくれませんか。日下部若葉さんの周りに何かあるはずです」

涼「アタシ達が動くのはあまり良くないからな」

久美子「……目的は変わらないのね」

涼「ただ無理はするな。そいつらは、アタシ達の道理で裁かないといけない」

恵磨「アタシ達は被害者を増やしたくなくて、周りで起こった事件が気になるだけ」

久美子「ついでに真実を知りたいだけ」

涼「ああ。お願いできるか」

久美子「いいわ。乗りかかった船だもの」

涼「助かるよ。礼はまた後で」


122 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 19:00:33.71 :I5TF4tmE0

73

奏陽泰校・教室

紗南「うん。こんなもんでいい?」

亜季「ありがたいであります」

紗南「そろそろ帰らないとまずいよねー。ばいばーい」

亜季「はい、さようならであります」

のあ「……何かわかった?」

亜季「おや、高峯殿」

のあ「残ってる生徒は2年生の一部だけ……みな、帰ったわ」

亜季「ええ。残らせてしまってもうしわけないですな」

のあ「……器物損壊の原因はわかった?」

亜季「いいえ。子供達は吸血鬼のせいだと言ってるようでありますなぁ」

のあ「……」

亜季「どうましたか、高峯殿」

のあ「……何でもないわ。どんな話なのかしら」

亜季「変な話でありますよ。吸血鬼に噛まれたものは吸血鬼に変わる。それ以外は結局目新しい話はありませんでしたなぁ」

のあ「それと学校、どうつながるのかしら」

亜季「孤独な夜、その孤独を晴らすため、だとか」

のあ「……そう」

亜季「今日はどうするでありますか。生徒はいなくなってしまいましたが」

のあ「職員はしばらくいるわ。時間通りに警備の仕事をお願い」

亜季「了解であります」


123 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 19:02:35.73 :I5TF4tmE0

74

夕方

SWOW部室

あずさ『みなさ~ん、こんばんは。ニュースのお時間です』

時子「はぁ?」

亜里沙「え?」

優「嘘でしょ?」

久美子「その……ホントみたい」

恵磨「だって、見たし」

時子「なんだかおかしな話になってきたわ」

優「本物ってなに?」

久美子「本物は本物。本当の、人じゃないもの」

亜里沙「言ってる事はわかる、かな。でも、うーん」

恵磨「仕方がないよね」

時子「今回の事件は本当に吸血鬼のものだと?」

久美子「うん、その人達はそう言ってた」

時子「……そういうことね」

優「何か?」

時子「惠よ、惠」

恵磨「惠ちゃんがどうかしたん?」

時子「様子がおかしい時があったのよ。変なことに思いっきり首つっこんでんじゃないの……」

亜里沙「そうだったんですか?」

時子「5月だったから知らないわよ、亜里沙達は」


124 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 19:03:59.97 :I5TF4tmE0

亜里沙「うーん。それで、信じる、時子ちゃん?」

久美子「私はその信じるしかないけど」

恵磨「アタシも否定できない」

時子「フムン、そうねぇ……」

優「話が多すぎてこんがらがるー」

時子「優の言うことも一理あるわ。大切なことは何?」

久美子「えっと、まずは春の吸血鬼の話」

時子「黒川千秋の真実ね。そして、本当の犯人は」

恵磨「日下部若葉」

優「食べた、ってどういうこと?」

亜里沙「その、いなくなったという意味なのか、な」

時子「一つは彼女のことね。他には?」

恵磨「あとは、本当の吸血鬼の話。日下部さんを変質させてるとか」

久美子「それ。清良さんが言ってた被害者には、吸血鬼に噛まれた後の症状が見られた」

時子「だけど、吸血鬼はいないはず。どこから来たのかしら?」

恵磨「もう一人いた、あるいは……」

久美子「死なないで変質した人物がいた」

優「どうにしても、吸血鬼がいるんだよね」

時子「全て、信じるならね」

久美子「でも、犯人はいるんじゃないかしら」

恵磨「それは同感」

時子「二つ目は本物の吸血鬼。大まかにわけるとこんな感じかしらね」

優「それで、どうしたらいいの?」

久美子「どうしようかしら……」


125 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 19:04:46.81 :I5TF4tmE0

時子「まずは日下部若葉の周りを調べることかしら」

恵磨「うん。でも、相手に警戒されるのはまずいよね?」

久美子「ええ。部室に来てるのよ、彼女」

優「惠ちゃんに会いに来たのは、たぶん、楓さんを探していたから……?」

時子「何も決まったわけじゃないわ。調べてからよ」

亜里沙「はい。千秋さんを変えた時期と」

優「楓さんに、食べられた後を調べないとねー」

時子「話はそれからよ。次は、本物の吸血鬼」

亜里沙「とりあえず、被害者が噛まれたとかそういう話は聞かないの」

優「うん。だから、偶々病気についたホラ話だと思ったよ」

恵磨「でも、違う」

久美子「若葉さんと千秋さんの話を聞くと、暗示なんて簡単にできる可能性があるわ」

亜里沙「でも、気になることがあって」

時子「なにかしら」

亜里沙「吸血鬼の噂、流れてなさすぎじゃないかな?」


126 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 19:06:18.07 :I5TF4tmE0

優「うん。アタシもそう思うよー、だって、千秋さんの件ですらあれだけ噂になってたんだよ」

亜里沙「本物の吸血鬼なら、それで済むでしょうか?」

時子「確かにそうね」

久美子「噛まれた人はあの症状が出るとすると……」

恵磨「被害者が出てないとおかしい。でも、事件は最近だけ」

優「血はどうしてたんだろ?千秋ちゃんの様子を見るに、何わけにはいかないよねぇ」

時子「なんらかの経路で入手していた?空想がすぎるわ」

亜里沙「だから、事件だと思うの」

久美子「事件」

亜里沙「動物や怪物に襲われたわけじゃなくて、事件」

時子「吸血鬼の意思が介在している、ね」

優「じゃあ、見つけられる?」

恵磨「狙いがあるなら見つけられそうだよね」

久美子「気がするだけよ、警察が調べても何にも出てないらしいし」

優「むー」

時子「……ちょっとドラマの見過ぎかしら」

恵磨「時子ちゃん、なに?」

時子「被害者に共通点は?」

久美子「それが全然みつからな……」

『あ、あずささん、大丈夫ですか!!』

時子「うるさいわね。テレビの音量を下げ……」

優「ねぇ、これ……」

亜里沙「明らかに熱が出てる……」

久美子「口から血、でてないかしら」

恵磨「うっそ……」


127 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 19:07:55.48 :I5TF4tmE0

時子「ボケっとしてんじゃないわよ!」

恵磨「は、はい!」

時子「優、柳清良に連絡を」

優「うん!」

時子「久美子はテレビ局に」

久美子「つながるかなぁ……」

恵磨「アタシは、付属病院だ!」

時子「よろしい。ちっ、中継を切られたわ」

亜里沙「スタジオはわかりますよ」

久美子「だめ、つながらない!」

時子「なら、二人で行ってきなさい。入れるかどうかは現地で考えなさい」

亜里沙「行ってきます!」

久美子「あ、待って!」

優「清良ちゃんに連絡取れたよ!」

恵磨「こっちも!状況確認してくれるって!」

時子「よろしい。S大学付属病院に行ってきなさい」

恵磨「ヨシッ、行くよ!」

優「うん!時子ちゃん、留守番よろしくね」

時子「ええ。任せておきなさい」


128 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 19:08:41.65 :I5TF4tmE0

75


奏陽泰校・校舎

亜季「さて、先生方も早めに帰りましたし、戸締りをして帰るであります」

裕美「……」スッ

亜季「ん、あれは裕美殿でありますか。いや、見間違えかも」

亜季「……いやいや。あの素敵な髪は裕美殿であります」

裕美「……!」ダッ

亜季「に、逃げられたであります。待つであります!」


129 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 19:09:24.39 :I5TF4tmE0

76

奏陽泰校・プール横

亜季「に、逃げられたであります……」

亜季「見間違えではありません」

亜季「何をしていたのでありましょうか……」

亜季「校舎には入ってないようでありますし……特に被害もなし」

亜季「……」

亜季「明日、問いただすことにしましょう。帰るであります」


130 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 19:10:33.89 :I5TF4tmE0

77

SWOW部室

亜季「ただいまであります!」

時子「あら、お疲れ様」

亜季「ちょっと電話を借りますよ」

時子「どうぞ」

亜季「えっと、裕美殿は、っと」

時子「……フム」カチカチ

亜季「はい。帰ってるでありますか……ええ。大丈夫であります。それでは、お休みなさい」

時子「……」ジー

亜季「居たにしては早すぎるでありますな……やはり、見間違えだったのでしょうか」

時子「……」

亜季「さっきからパソコンを睨みつけて、何を見てるでありますか」

時子「調べ事よ。亜季がいない間に色々とあったわ」

亜季「そうなのでありますか。もしかして、今誰もいないのもそのせいでありますか」

時子「そうよ。亜季も手伝いなさい」

亜季「何をでありますか?」

時子「見るのが早いわ。これを見なさい」

亜季「三浦あずさ殿でありますな。このニュース番組がどうしたでありますか」

時子「ここからよ。彼女は倒れるわ」

亜季「ふむ、何だか顔が赤いような……あ」

時子「急な発熱と出血」

亜季「また、こんな所に被害者が……吸血鬼はどこに行ってるでありますか」

時子「え?」


131 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 19:12:37.12 :I5TF4tmE0

亜季「ん、どうかしたでありますか」

時子「貴方、今何て言ったのかしら?」

亜季「また被害者が」

時子「そこもだけど、その次よ」

亜季「吸血鬼」

時子「亜季、なんでそんなこと知ってるのよ」

亜季「そっちこそ、何で知ってるでありますか?」

時子「調べてるからに決まってるでしょ!」

亜季「そ、そんなこと言われても。私は中学校で流れてる吸血鬼の噂をちょっと調べていただけでして」

時子「ハァ?噂って吸血鬼だったの?」

亜季「ええ。吸血鬼に噛まれたものは吸血鬼になるとかいう」

時子「本当なの?」

亜季「はい。ちゃんと多くの人からヒアリングしたであります」

時子「しかも、昨日運ばれた女生徒って、この動画と似た症状なわけ?」

亜季「そうであります。警察とも話をしましたし、最初の事件の被害者も知ってるであります」

時子「ちっ、間抜けすぎるわ。亜季にとっとと聞けばよかったわ」

亜季「失礼でありますが、そちらの状況を教えて欲しいであります」

時子「結論から言うわよ」

亜季「どうぞ」

時子「他は影も気配も見つからないのに、中学校だけは吸血鬼の存在が噂されてる。つまり、吸血鬼がいるのは、その周辺よ」


132 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 19:14:00.74 :I5TF4tmE0

78

S大学付属病院・内科病棟

優「えっ、搬送は別のところなのー?」

清良「ええ。さすがにここは遠いわよ」

恵磨「お医者さんは、その病院へ?」

清良「救命の先生が向かってるから、手は打ってある」

優「あとは……祈るだけ?」

清良「……」コクリ

恵磨「せっかく来たけど、何も出来ないね」

清良「そう言えば、昨日も患者が来たらしいのよ」

優「本当?」

恵磨「嘘ついてもしかたないっしょ」

清良「奏陽泰校の生徒で……」

恵磨「奏陽泰校?って、女子中の、あそこ?」

清良「ええ。近所では有名だものね」

優「ねぇ、そこって」

恵磨「亜季ちゃんのバイト先じゃん」

優「ねぇ、恵磨ちゃん」

恵磨「昨日、生徒が倒れたから病院行くって言ってたよね」

清良「それじゃ、知ってるのかしら」

優「まさかぁ、亜季ちゃんが関わってるとは……」

恵磨「うん。そろそろ帰ってるよね」

優「ありがとう、清良ちゃん!帰るね!」

清良「よろしくね」

恵磨「優ちゃん、ちょっと待って」

優「なーに?」

恵磨「楓さんの様子見にいてから行こう。優ちゃん見てないでしょ?」


133 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 19:15:15.64 :I5TF4tmE0

79

SWOW部室

時子「なるほど、そんなことになっていたのね」

亜季「そちらこそ、そんなことに首を突っ込んでいたでありますか」

時子「ふむ。東郷、藤原っていう二人の刑事が担当と」

亜季「ええ。それで、日下部若葉殿が血を吸う怪物だというのは本当でありますか」

時子「それもわからないわ」

亜季「ふむ、資料を『紛失』してしまったのが残念であります」

時子「だけど、あながち嘘とは言い切れない」

亜季「黒川千秋殿が衝動を覚えたのと、バラ園のイベントが企画されたのは同時期であります」

時子「そこで接触。不思議な話じゃないわね」

亜季「問題は、いつの間にか戻ったということでありますな」

時子「ええ」

亜季「しかし、戻ったとしても吸血鬼となった、と言っておりましたな」

時子「そうよ」

亜季「被害者の遺体ですら、日光への過剰反応が出るであります。なら、学校を休んでるのでは」

時子「確認したわよ、さっき」

亜季「おや、珍しいでありますな」

時子「たまには働くわよ。裁縫部に確認したわ」

亜季「どうでありましたか」

時子「高垣楓が食べた、という直後は大学にいなかったわ」

亜季「どのくらいでありますか」

時子「3日」

亜季「短いでありますな。その後は?」

時子「大学を休んだ日が一日だけ」

亜季「いつでありますか」

時子「2週間ほど前。神谷奈緒が亡くなった直後くらいらしいわ」

亜季「……ふむ」

時子「状況からすれば、高垣楓の話を否定できない」

亜季「なら、吸血鬼はいると?」

時子「そこまでは言ってない」

亜季「なら、事件は誰が起こしているでありますか」

時子「突発に起こらないぐらい、わかってるわ」

亜季「やはり、奏陽泰校でありますか」

時子「被害者以外に何かあるのは、あそこだけじゃない」

亜季「そうでありますな」

時子「犯人の目星は」

亜季「いや、全くないであります」

時子「……困ったわね」


134 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 19:16:05.59 :I5TF4tmE0

80

S大学付属病院・個室

恵磨「いない?」

優「いないねー。逃げた?」

恵磨「異常な回復してたから怪しまれるかも、とは言ってたけど。逃げた方が怪しまれるから泊まる、って言ってたのに」

優「ねぇ、恵磨ちゃん、窓開いてない?」

恵磨「開いてる。花壇に足跡、あるよ」

優「……ん?」

恵磨「どうしたん?」

優「ねぇ、楓さんって背高いよね?」

恵磨「うん」

優「……まずいかも」

恵磨「どうしたの?」

優「靴のサイズが凄い小さいよ、この足音」

恵磨「……あ」

優「いこっ!」


135 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 19:17:54.61 :I5TF4tmE0

81

S大学病院近郊

恵磨「変な空き地に来ちゃったよ」

優「暗いなー。ケータイケータイっと」

恵磨「……」ピク

優「恵磨ちゃん、立ちどまってどうしたの?」

恵磨「イヤな感じがする。こっちだ」

優「待って、暗いから気をつけてぇ!」

恵磨「……優ちゃん、ライト」

優「はい……うわぁ!し、死体!」

恵磨「け、警察!」

優「その前に病院!行ってくる!」

恵磨「行ってらっしゃい、待ってるから!」

優「お願い!」

恵磨「なんで、こんなことに……松永涼さんだっけ」

恵磨「……優ちゃん、病院行ったけど、首が落とされてるのに生きてるわけないでしょ」

恵磨「…えっ?」


136 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 19:18:56.80 :I5TF4tmE0

82

松永涼発見現場

優「恵磨ちゃん!とりあえず、警備員の人連れて来たよ!」

洋子「どちらですか!?」

恵磨「……」

優「どうしたの?」

恵磨「……ねぇ、優ちゃん、見てよ、ここ」

優「ここに、倒れてて……えぇ!?」

洋子「その、どこでしょうか」

恵磨「消えたんだけど……」

優「ウソォ!そんなはず……」

洋子「……血は残っているようですが」

恵磨「だって、見たよね」

優「うん……見たよ。首が切られた死体……」

恵磨「なんなんだろ……」

洋子「あの、聞いていいですが」

優「……うん」

洋子「倒れてたのはお知り合いですか?」

恵磨「そうだよ。松永涼って人」

洋子「なるほど。わかりました。とりあえず、警察を呼びます」

優「……お願い」


137 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 19:25:48.05 :I5TF4tmE0

83

SWOW部室

時子「亜里沙と久美子から連絡が来たわ」

亜季「なんですか?」

時子「三浦あずさが搬送された病院に来たけど、凄い人だかりのようね」

亜季「でしょうなぁ」

時子「S大学付属病院の医者は来たようね。あと、警察も」

亜季「ふむ」

時子「様子を見たら帰るそうよ」

亜季「恵磨殿と優殿は?」

時子「なんかやっかいなことに巻き込まれたようね」

亜季「そうなのでありますか」

時子「松永涼、とかいう人が襲われたようよ」

亜季「えっと、誰でありますか」

時子「高垣楓の知り合い、いや同類かしら」

亜季「なら」

時子「小さい靴の足跡もあるし、犯人は明確でしょう」

亜季「……ふむ」

時子「今日は誰もここには帰ってきなそうね」

亜季「そうでありますな」

時子「私達も帰りましょう」

亜季「しかし」

時子「体力は付けておきなさい。亜季、あなたにはやることがあるでしょう」

亜季「奏陽泰校の事件を調べること」

時子「わかってるじゃない」


138 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 19:26:28.24 :I5TF4tmE0

84

幕間

衝動。

そうとしか言えないもの。

ぎりぎり、と音が鳴るように自分の体を抱きしめて。

どうにかして自分を抑える。

薬はもう数が少ない。

衝動。

そうとかしか言えないもの。

私は一体、何になったのだろう。

誰も傷つけたくないのに。

そんな気持ちも、喉の渇きで消されそうになる。

衝動を、一粒の錠剤ごと飲み込む。

朝日がカーテンの向こうに見えていて。

私は眠りについた。

幕間 了


139 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 19:28:30.02 :I5TF4tmE0

85

翌朝

SWOW部室

亜季「おはようございます!」

亜里沙「亜季ちゃん」

久美子「おはよー」

亜季「早いでありますな」

久美子「帰ってないからねー」

亜里沙「でも、24時間営業の銭湯には行ってますよ」

亜季「寝不足とかないでありますか」

久美子「うん、無駄に良いソファーもあるしね」

亜里沙「はい。亜季ちゃんは何をしに?」

亜季「一応様子を見に来たであります」

久美子「心配してくれてありがと。でも、私達は大丈夫」

亜季「三浦あずさ殿はどうなりましたか?」

亜里沙「テレビ、見た?」

亜季「いいえ。いつもよりかなり早いでありますし」

久美子「まだ5時だものね。帰ってることからわかると思うけど」

亜里沙「……亡くなったの」

亜季「……そうでありますか」

久美子「小康状態になったけど、その後すぐに心臓の発作だって」

亜季「また被害者が増えたでありますか……」

久美子「また助けられなかった。手がかりも……結局ないし」

亜里沙「でも、一つだけ」


140 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 19:29:19.15 :I5TF4tmE0

亜季「なんでありますか」

久美子「えっと、藤原さんって言う刑事さん知ってる?」

亜季「知ってるであります」

亜里沙「S大学付属病院の話なの。亜季ちゃんが吸血鬼とかいうから調べたらしくて」

亜季「付属病院の何がわかったでありますか」

久美子「血液の出所」

亜季「血?」

亜里沙「うん。正確にはS大学付属病院に出入りしている廃棄物処理業者ね」

久美子「明らかに血液を不法投棄してるんだって。輸血用の期限が切れたやつ」

亜季「ふむ。それを吸血鬼が回収してると?」

亜里沙「吸血鬼とは言わず、誰かが回収してるのでは、ということらしいです」

久美子「病院の近くに何かあるのかなぁ」

亜里沙「でも、もっと可能性が高い所がありますよね」

亜季「ええ。聞いたでありますか」

亜里沙「時子ちゃんがメモをくれたから」

亜季「そうであります。奏陽泰校であります」

久美子「まさか、探していた吸血鬼の噂があるなんてね」

亜里沙「それで、亜季ちゃん」

亜季「こちらこそお願いするであります。一緒に行くであります、亜里沙殿」

亜里沙「ありがと。よろしくね」

久美子「亜里沙ちゃん、大丈夫?」

亜里沙「心配しないで♪先生は体力勝負だから」

亜季「無理はしないと約束するでありますよ」

亜里沙「もちろん」

久美子「行ってらっしゃい。留守番は任せてね」

亜里沙「お願いね。亜季ちゃん、行きましょうか」

亜季「少し待ってください。準備をするであります」

亜里沙「何を?」

亜季「吸血鬼に会いたくはありませんが、念のためであります」


141 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 19:30:04.82 :I5TF4tmE0

86

奏陽泰校・校門前

亜里沙「来たはいいけど、入れるの?」

亜季「ええ。裏門のカギは借りてるでありますから」

亜里沙「静かね」

亜季「まだ登校前でありますから」

亜里沙「……ねぇ、亜季ちゃん」

亜季「なんでありますか」

亜里沙「プールって、どっち?」

亜季「え、プールでありますか?」

亜里沙「うん。どこかな?」

亜季「あそこでありますよ。あの建物であります」

亜里沙「……行きましょう」

亜季「何か見つけたでありますか」

亜里沙「濡れた足跡が、残ってる」


142 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 19:30:53.77 :I5TF4tmE0

87

奏陽泰校・プールサイド

亜里沙「泥?」

亜季「校庭のものでありますな」

亜里沙「プールのカギって閉めてるのよね?」

亜季「ええ。その、何故か開いていましたが」

亜里沙「誰が入ったのかしら」

亜季「……足跡、一種類だけでありますか」

亜里沙「そうみたい。それと、わかることがもう一つあるかな」

亜季「なんでありますか」

亜里沙「出て行ったんだね。ここを出てどこに行ったんだろ?」

亜季「ふむ。校舎でしょうか」

亜里沙「なんでかな?」

亜季「なんとなくであります」


143 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 19:32:13.61 :I5TF4tmE0

88

奏陽泰校・校舎

亜里沙「……ん」

亜季「さっきからずっと考えっぱなしでありますな」

亜里沙「足跡は玄関までつながってた」

亜季「靴はそこに置かれていた」

亜里沙「普通なら上履きを履きますよね?」

亜季「ええ。でも、上履きは一つも消えてなかった」

亜里沙「それで、探し歩いているわけだけど」

亜季「……あ」

亜里沙「どうしたの?」

亜季「監視カメラ」

亜里沙「監視カメラ?」

亜季「ええ。そんなに数があるわけではありませんが、何個かあるでありますよ」

亜里沙「それはどこで見れるの?」

亜季「事務室の隣であります。ちょっと装置が古いでありますが」


144 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 19:32:58.63 :I5TF4tmE0

89

奏陽泰校・映像室

亜里沙「想像以上に、レガシーねぇ……」

亜季「ええ。24時間しか録画は持ちません」

亜里沙「でも、朝の様子が見れればいいから十分」

亜季「まきもどすであります」

亜里沙「待って、奥」

亜季「人影が……これは森久保殿ですか」

亜里沙「すぐに画面の奥に消えちゃった」

亜季「おっと、次はここでありますな」

亜里沙「これも一瞬だけね」

亜季「……あの、亜里沙殿、おかしくありませんか」

亜里沙「ええ。このカメラの存在知ってるわよね」

亜季「それでいて、どうやって動いてるでありますか」

亜里沙「時間的に見れば……彼女がいるのは」

亜季「屋上であります!」


145 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 19:34:47.90 :I5TF4tmE0

90

奏陽泰校・校舎屋上

亜里沙「ドアが開いてるわ」

亜季「カギを開けたのでありましょうか……」

亜里沙「気をつけて、亜季ちゃん」

亜季「わかってるであります」

亜里沙「……ねぇ、倒れてる」

亜季「森久保殿!?」

亜里沙「大丈夫よ、亜季ちゃん。気は失ってるけど……あら」

亜季「救急車はいるでありますか?」

亜里沙「いらないと思うけど、亜季ちゃん、これ見て」

亜季「首筋……え?」

亜里沙「これ、何かしら」

亜季「まるで何かに噛まれたような……」

亜里沙「例えば、吸血鬼とか」

亜季「いや、これは違うであります」

亜里沙「うん、そう思うよ。これは」

亜季「何か押しつけた時に出来る傷であります」

亜里沙「なら、模倣犯かな」

亜季「ええ。時間もおかしいであります」

亜里沙「明らかに朝日が出てからだものね」

亜季「なら、目的はなんでありますか?」

亜里沙「噂が爆発的に広まるでしょうね。それで得をする人物」

亜季「それは、誰でありましょう」

亜里沙「まずは彼女を運んであげましょう。それがまず相手への一手になる」

亜季「隠ぺいでありますな」

亜里沙「言い方は悪いけどね、そういうことかな」

亜季「運ぶであります。森久保殿、大丈夫でありますよ」


146 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 19:36:28.86 :I5TF4tmE0

91

奏陽泰校・事務室

のあ「……感謝するわ。彼女も怯えているようだけど、体は無事のようね」

亜季「良かったであります。お休み扱いにしましたか?」

のあ「保険教諭以外には知られてないはずよ」

亜里沙「良かった」

のあ「そちらの方は?」

亜里沙「はじめまして。持田亜里沙です」

亜季「教師の卵でありますよ」

のあ「そう……そろそろ来年度の教員募集をかけるのよ」

亜里沙「すみません、小学校教諭なんです」

のあ「……残念ね」

亜里沙「あの、高峯さん」

のあ「……何かしら」

亜里沙「生徒を呼んでくれますか?」

のあ「何故かしら」

亜里沙「犯人を見つけてみせますよ?」

のあ「……それが意味する事は」

亜季「そういうことであります」

のあ「……いいわ。協力しましょう。でも、根拠を聞かせて」

亜里沙「はい。あなたも知っているかもしれませんが、森久保さんが倒れていた噂と関係するのは、ひとつだけですね?」

亜季「吸血鬼の話であります」

亜里沙「この噂は、発生源がはっきりしています」

のあ「……つまり」

亜里沙「この学校の誰かが人為的に流したものですよ」

亜季「誰か、つきとめられるでありますか」

亜里沙「はい。多分ね」

のあ「……わかったわ。でも、待ちなさい」

亜里沙「ええ。放課後まで待ちます」

のあ「……お願い」


147 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 19:38:48.51 :I5TF4tmE0

92


SWOW部室

時子「亜季と亜里沙は、奏陽泰校ね」

久美子「ええ」

時子「昨日の件は、進展があったのかしら」

恵磨「ないよ」

優「ない。というか、被害者が見つからなくてぇ……」

久美子「楓さん、と誰だっけ」

恵磨「小梅ちゃん、っていう女の子」

久美子「どっちかと連絡はつかないの?」

優「つかない。ていうかぁ、連絡先がニセモノだったよ」

時子「入院費はどうしたのかしら」

恵磨「病室に札束が置いてあったよ」

時子「……なによ、それ」

優「それって、物取りじゃないってことでしょ?」

久美子「ええ。というか、犯人の方がわかってるのよね」

恵磨「うん、たぶん日下部若葉だと思う」

時子「明確な犯人がいるけれど、追い詰められない」

久美子「残念だけど、追い詰めるのは危険よね」

恵磨「というか、学校に来てるの見たよ」

時子「被害者も消えてしまったし、相手はかなり危険」

優「じゃあ、何をすればいいんだろ」

時子「根本かしら」

久美子「根本」

時子「本当の吸血鬼を探すこと」

恵磨「それなら」

時子「日下部若葉が、本物になった時期から行動範囲が絞れるんじゃないかしら」

優「なるほどー」

時子「調べてみましょう。亜季と亜里沙なら、何とかするでしょうし」

久美子「そうね」

恵磨「よし、行こう」


148 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 19:43:39.70 :I5TF4tmE0

コンコン

優「……ノックされたね」

恵磨「……うん」

涼「お邪魔するぞ」

優「えっ?」

久美子「え?」

時子「どちら様かしら」

恵磨「松永涼さん、その」

優「昨日、倒れてた人」

涼「なんだ、驚いたような顔をして」

恵磨「いや、無理っしょ。だって、明らかに」

優「……死んでたよ」

涼「ははは、確かにそうだな」

久美子「何がおかしいのかしら……」

涼「死なせてくれるような生易しい契約なら、どれほど良かったろうな。まぁ、そんな話はいいんだよ」

時子「よくないでしょう」

涼「なら、結論だけ。アタシは死ねないんだよ、簡単には」

優「……」

久美子「生きてて良かった、って思うことにする」

涼「そう思ってくれるとありがたい」

時子「それでわざわざ訪ねてきた理由は」

涼「まずい状況なことを知らせてやろうと思ってな」

恵磨「嫌ってほどわかるけど」

涼「あれは思ったより強いな」

優「あれって、若葉ちゃん?」

涼「そうだよ。アタシもそう簡単には負けないんだかな」


149 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 19:46:35.89 :I5TF4tmE0

久美子「それで、何が言いたいの?」

涼「やめてくれ。あまり危険なところまで行き過ぎるのは良くない」

恵磨「……そうなの」

涼「ああ。そのうちにシスターも来るから、深入りするな」

時子「あなたが言い出したのに?」

涼「死にたいか?」

時子「そんなわけないじゃない」

涼「だから、やめておけ」

久美子「でも……どうするの?」

涼「日下部若葉の方は必ずなんとかする。それまでは、動かないでくれ」

恵磨「つまり」

涼「彼女の被害者にアタシもしたくないってことさ。わかってくれるか?」

優「……ええ」

涼「オーケー。邪魔したな。これはお礼だ」

時子「なにこれ?」

涼「紅茶だ。スリランカ直輸入だぞ。またな」

恵磨「行っちゃった」

時子「……つまり」

久美子「狙われてたりするわけね」

優「……学校にもいるし」

恵磨「大人しくしてるのが正解かも」

時子「ええ……私達は日下部若葉からしか吸血鬼が追えないもの」

久美子「そうなると、危険だと」

優「……そうだねぇ」

時子「でも、まだ道はあるわ」

恵磨「なに?」

時子「奏陽泰校側からよ。亜季を信じるしかないわ」


150 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 19:48:00.98 :I5TF4tmE0

93

放課後

奏陽泰校・会議室

亜里沙「それじゃ、亜季ちゃん」

亜季「ええ」

亜里沙「吸血鬼の噂についてまとめてみましょうか」

亜季「黒板も借りてるであります」

亜里沙「まずは、吸血鬼という存在を知っていた人から」

亜季「これは白菊ほたる殿であります」

亜里沙「ええ。彼女は明確にそれが吸血鬼だと思っていました」

亜季「そして、これは変質の噂に近いであります」

亜里沙「でも、違うの」

亜季「ええ。ほたる殿は話しておりません」

亜里沙「そう。なら、噛まれた人間が吸血鬼に変わるという話はどこから来たのでしょう?」

亜季「噂の伝搬経路を考える必要がありますな」

亜里沙「ええ。そして、この学校の中で噂が変異していく過程もね」

亜季「S大学で春に流れていた噂の模造から、吸血鬼には違う意味付けがされた」

亜里沙「例えば、吸血の理由」


151 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 19:49:22.95 :I5TF4tmE0

亜季「ええ。春の話では、吸血する意味は見つかっておりません」

亜里沙「でも、今の噂では孤独な吸血鬼という話が追加されている」

亜季「仲間を求めるために、人を噛んでいる、と」

亜里沙「ええ。だからこそ、不審な点がある」

亜季「はい。どんどんとそれは噂に落ちて行くであります。おとぎ話が追加され、実態からは遠ざかる」

亜里沙「初期の噂の方が明確だった」

亜季「はい。その理由はただ一つ」

亜里沙「誰かが意図的に流したものだから」

亜季「そして、噂の伝搬経路」

亜里沙「噂をし始めたのは、噂話に花を咲かせていた1年生達ではなくて」

亜季「この話は2年生から流れていたもの」

亜里沙「そして、それが決定的になったのは」

亜季「……私が輪郭を作ったからであります」


152 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 19:50:15.03 :I5TF4tmE0

亜里沙「きっと、知ってたのね。S大学の噂も、今の事件のことも」

亜季「私が作り話の部分を否定して、吸血鬼が人を変質させる輪郭が残った」

亜里沙「加えて、同時期に学校で奇妙な現象が起こる」

亜季「まるで、吸血鬼がやったかのように」

亜里沙「そして、被害者が出てしまいました。それでこの話は完成です」

亜季「興味心、あるいは恐怖で人を動かせる」

亜里沙「そうでしょうね。何かに従って、森久保さんは移動していた」

亜季「そうでありますな」

亜里沙「そんなものですね。では、亜季ちゃん」

亜季「噂を流した犯人は、私に噂を話した」

亜里沙「その子を、連れて来てくれますか?」


153 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 19:51:24.34 :I5TF4tmE0

94

奏陽泰校・会議室

亜里沙「はじめまして」

晶葉「大和さん、彼女は誰だ?」

亜季「私の友人で、持田亜里沙殿であります」

亜里沙「よろしくね」

晶葉「ああ、こちらこそ。それで、何の用事なんだ?」

亜里沙「吸血鬼のお話を聞かせてくれませんか」

晶葉「吸血鬼?なんでまた」

亜里沙「興味本位ですよ」

晶葉「その言い方、嫌いじゃない。私も詳しく知らないんだがな」

亜里沙「嘘」

晶葉「嘘?」

亜里沙「デタラメな作り話ですよね?」

晶葉「そうとも言えないぞ」

亜里沙「ただの病気ですから」

晶葉「いやいや、そうやって簡単に否定するのは。被害者もいるんだ」

亜里沙「そうですね。2年生の森久保乃々さんですね」

晶葉「そうだ」

亜里沙「ええ。そうですね」

亜季「……」


154 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 19:52:19.40 :I5TF4tmE0

晶葉「あれが吸血鬼の仕業じゃないのか」

亜里沙「そうですね」

晶葉「私の話を聞く気があるのか?」

亜里沙「どうしたの?」

晶葉「さっきから、意図がわからん。私に何を聞きたいんだ?」

亜里沙「そうですねぇ……」

晶葉「……」

亜里沙「最近、学校で楽しいことはありましたか?」

晶葉「何を聞いてる?」

亜里沙「授業についていけてますか?」

晶葉「あ、ああ。理系はむしろ退屈なくらいだ」

亜里沙「それは良かったですね。お友達とはうまくやっていますか?」

晶葉「もちろんだ。この学校は自由でいいよ」

亜里沙「そして、とっても平和です。だから」

晶葉「だから?」

亜里沙「退屈じゃありませんか?」

晶葉「退屈なら自分で楽しみくらいつくるものだ。そうだろ?」

亜里沙「良い心がけですね。正しい方向に向かうのなら」

晶葉「なぁ」

亜里沙「では、質問です」

晶葉「なんだ?」

亜里沙「森久保さんは、今日は体調不良のため欠席です。そうですね?」


155 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 19:53:36.73 :I5TF4tmE0

晶葉「……はめたな」

亜里沙「答えはどちらですか?」

晶葉「答えは、はい、だ」

亜里沙「はい。よくできました」

晶葉「……」

亜里沙「では、もう一つ。なんで吸血鬼の仕業だと言ったのですか?」

晶葉「それは……」

亜里沙「あなたがやったから、ですね?」

晶葉「そんな証拠はどこにあるんだ?」

亜里沙「カメラ」

晶葉「カ、カメラを見つけたのか?」

亜季「ん?」

晶葉「しっかりと隠したつもりだったんだが、鋭いな」

亜里沙「何の話ですか?」

晶葉「とぼけないでくれよ。私の監視カメラを見つけたんだろ」

亜里沙「だそうですよ、亜季ちゃん」

亜季「そのようでありますな」

晶葉「……待て」


156 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 19:54:44.04 :I5TF4tmE0

亜里沙「なんでカメラを設置したの?」

晶葉「あのカメラを、知らなかったのか!?」

亜里沙「はい。監視カメラは学校のものですよ。知ってますよね?」

晶葉「くっ……微笑んでるから油断したよ。食えない奴だな」

亜里沙「まぁ、ひどい。でも、どうせ見つかるなら同じでしょ?」

亜季「そうでありますな」

晶葉「……」

亜里沙「答えて、ね?」

晶葉「観察だ」

亜季「観察?」

晶葉「観察以外の何物でもないだろう。私は調べたかったのさ」

亜里沙「噂の伝搬を?」

晶葉「そんなものはつまらん。私が知りたかったのは、人を恐怖で動かせるかどうかだよ」

亜里沙「面白かったですか?」

晶葉「興味深くはあった。自らが言った言葉で人は絡めとられていく」

亜季「……」

晶葉「簡単にはいかない。だからこそ、面白い」

亜里沙「だから、犯行を?」

晶葉「嘘をつくのは無駄だな。そうだよ、この学校で吸血鬼の話を作ったのは私だ」


157 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 19:55:36.36 :I5TF4tmE0

亜季「器物損壊はあなたの仕業でありますか」

晶葉「そうだよ。器具の準備やらで時間がかかったがな」

亜里沙「森久保さんの傷は」

晶葉「それも私だ。呼び出したのも」

亜里沙「他には?」

晶葉「他に?他はないよ。私の、実験はこれで終わりだ」

亜季「実験……被害者が出てるでありますよ」

亜里沙「本当にそれだけ?」

晶葉「なんだ、ちゃんと私は全てを話したよ。何を疑ってる?」

亜季「おかしいであります」

亜里沙「ええ」

晶葉「私は私のやったことを理論的に説明できる。それぐらいの分別はある」

亜里沙「いいえ、言えてない」


158 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 19:56:21.42 :I5TF4tmE0

晶葉「何をだ?」

亜里沙「核がなさすぎるの」

亜季「吸血鬼への変質と神崎殿の事件に結びつかないであります」

晶葉「……ん?」

亜季「神崎殿に何かしたでありますか?」

晶葉「いいや、何も。蘭子の件はたまたま、私に味方しただけだ」

亜季「薬は?」

晶葉「薬?あれはただの風邪薬だぞ」

亜里沙「……亜季ちゃん」

亜季「ええ」

亜里沙「あなたは反省してね。まだ、やりなおせるから」

晶葉「……ああ。今、考えるとどうかしていた」

亜季「とりあえず、カメラを回収するであります。お教えください」

晶葉「ああ。降参だ」


159 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 19:57:29.82 :I5TF4tmE0

95

奏陽泰校・会議室

亜季「ふむ……」

亜里沙「森久保さんは池袋さんのカメラで誘導されていたみたい」

亜季「こんな中学生が手に入れられる物の方が記憶容量も画質もいいとは、時代を感じるであります」

亜里沙「……ねぇ、やっぱり」

亜季「ええ。池袋殿の証言はどこかおかしいであります」

亜里沙「このカメラ、何の意味があるのかしら」

亜季「……ないであります」

亜里沙「森久保さんの件はともかく、他の用途にあう?」

亜季「合いません」

亜里沙「それに、神崎さんに薬を渡していたのよね?」

亜季「ええ。それは藤原刑事が調べてくれているであります」

亜里沙「でも、それって前だよね。亜季ちゃんに吸血鬼の話をする、その前」

亜季「そうであります。何故、知らないのでありますか」

亜里沙「うん、知らないというのが不思議なの。だって、明らかに神崎さんが発症しなかったら、こんなこと成功しない」

亜季「それに噂の核が」

亜里沙「うん。言う通りなら変質を最大のポイントにする必要がないの」

亜季「変質という噂があって、神崎殿の病状があって、彼女の実験は成功するであります」

亜里沙「なんでだろう……それに、このカメラは何を映してるんだろう……」

亜季「うーむ……」


160 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 19:59:16.27 :I5TF4tmE0

肇「お邪魔します」

あい「お邪魔するよ」

亜里沙「刑事さん、何かわかりましたか?」

あい「薬について、だ」

肇「はい。池袋晶葉が所持していて、神崎蘭子さんが飲んだと思われる薬ですが」

亜季「ドラッグや何かでありましたか?」

肇「ルミノール反応が出ました」

亜里沙「ルミノール反応……?」

亜季「ということは、血でありますか?」

あい「そのようだ。血を混ぜて固めたもの」

亜里沙「池袋さんは、入手経路については何か?」

肇「買ったものだと」

あい「血液を固めたものが売っているわけはない」

亜里沙「もしかして、嘘をついてないと思いますか?」

肇「ええ。嘘をついてるように思えない。これ以上聞いても何か得られなそうです」

あい「だが、血はある。本人のものでないなら、どこから来るか」

肇「S大学付属病院に行ってきます。どなたか、来ますか」

亜里沙「あの、付いて行っていいですか」

あい「ああ。噂の話も聞かせてくれ」

亜里沙「喜んで。亜季ちゃんは?」

亜季「もう少しここで調べてみるであります」

亜里沙「わかった。行ってくるね」

肇「行きましょう。こちらです」


161 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:00:30.10 :I5TF4tmE0

96

夕方

SWOW部室

時子「ええ、気をつけて」ガチャン

久美子「亜里沙ちゃん、なんて?」

時子「奏陽泰校の吸血鬼事件は解決したらしいわ」

恵磨「朝に生徒が倒れてたってやつ?」

優「はやーい」

時子「それで、次が本題ね」

久美子「なに?」

時子「私達が追ってる吸血鬼は見つからなかった」

優「どういうこと?」

時子「噂の確信まで辿りつかなかった」

優「亜里沙ちゃん、いるのに?」

恵磨「何かあったの?」

時子「それはよくわからない」

久美子「それで、亜里沙ちゃんと亜季ちゃんは帰ってくるの?」

時子「亜里沙はS大学付属病院に行ってるようね。亜季はまだ奏陽泰校」

久美子「ふうん」

プルルルル……

時子「また、電話ね。はい、財前」

久美子「今度は誰?」

時子「惠?あなた、どこにいるのよ」


162 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:01:37.14 :I5TF4tmE0

優「あ、良かった。無事だったんだね」

時子「なに?小さめのジュラルミンケースないか、ですって?」

恵磨「ジュラルミンケース?」

時子「誰か、亜季の物置きスペースにジュラルミンケースないか探して」

優「はーい。うん、あるよー。中身入ってないけど」

時子「中身はないそうよ」

恵磨「何してるか、聞いて」

時子「惠、惠!」

久美子「切れた?」

時子「そうよ。本当に一方的なんだから」

恵磨「ジュラルミンケースに何が入ってたの?」

優「なんか、銃の形した隙間があるよ」

久美子「朝、そこから何か出してたよ」

時子「なんのために」

恵磨「さぁ?」

優「っていうか、何で惠ちゃんが知ってるんだろ?」

久美子「亜季ちゃん、何か貰ったって言ってなかったっけ?」

時子「そう言えば。聞いたような気もするわ」

優「なんだっけ?」


163 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:02:19.02 :I5TF4tmE0

恵磨「思いだした!」

久美子「なに?」

恵磨「銀のペンダント、と、なんだっけ」

時子「銃でしょうね。そのケースを見る限り」


164 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:03:23.58 :I5TF4tmE0

97

奏陽泰校・会議室

亜季「薬の意味」

亜季「カメラの意味」

亜季「池袋殿の狙いは何だったのか」

亜季「いいや、何もないであります」

亜季「カメラは、廊下と教室」

亜季「神崎殿が倒れたのは見れないであります。トイレにカメラはありませんでしたからな」

亜季「むしろ、入る所ぐらいしか見れないであります」

亜季「神崎殿が映ってるのはむしろ教室に仕掛けられたカメラの方でありますな。二つのうち、一つ」

亜季「……ん?」

亜季「なんで、この角度なのでありま……」

亜季「目的がはっきりとしているから。そもそも狙いは、彼女だった」

亜季「カメラを仕掛けるのは誰かにそそのかされたから?」

亜季「なら、ならもう一つの意味は……」

亜季「名簿を……やはり、発熱が続いてるであります」

亜季「それに、彼女言っていたでありませんか。薬をもらった、と」

亜季「……でも」

亜季「まさか、そんな」

亜季「急がねば……!」


165 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:04:45.91 :I5TF4tmE0

98

関裕美の自室

亜季「裕美殿!」

亜季「……いないであります」

亜季「窓から出て行ったでありますか」

亜季「そこまで身軽なようには思えないのに……」

亜季「これは、池袋殿の薬でありますか」

亜季「一粒だけ、残っておりますな……」

亜季「どこに行ったでありますか、裕美殿……」

亜季「……いや、一つだけ候補はあるであります」


166 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:06:36.80 :I5TF4tmE0

99


SWOW部室

亜里沙「私が刑事さんから貰って来た資料をまとめると、こんな感じね」

時子「最初の被害者は、神谷奈緒」

亜里沙「写真はこれ。カラーコピーだけど」

久美子「第一発見者は、白菊ほたるさん。亜季ちゃんがバイトに行ってる奏陽泰校の生徒」

恵磨「症状は同じ。小康状態になって、その後に亡くなった」

優「2人目は、神社の道明寺歌鈴ちゃん。写真はこれかな」

恵磨「自宅内で倒れたみたい」

亜里沙「症状は同じですね」

時子「3人目が、松原早耶」

久美子「彼女は小康状態になる前に亡くなったのよね」

恵磨「写真はこれ、っと」

時子「死因はショック死。急いで搬送した家族のかいもなく」

亜里沙「4人目が、この子」

優「すごい格好だねー」

恵磨「神崎蘭子さん。奏陽泰校の生徒」

時子「第一発見者は大和亜季。よく知ってるわ」

優「もちろんでしょー。亜季ちゃんが体温の遷移を持ってたし、同じものだってわかるのは簡単」

亜里沙「でも、残念だけど」

時子「噂とは関係がなかった」

恵磨「その池袋晶葉って子が流してたんでしょ?」

優「でも、関係ないって言ったんだよね?」

亜里沙「うん」

時子「一番最近の被害者は、三浦あずさ」

優「放送事故だよねぇー、あれ」

久美子「同じような症状でなくなったけど、やっぱり吸血鬼に噛まれたとかいう話はないのよね」

亜里沙「はい」

時子「そして、今のところ、次の被害者は出ていないわ」


167 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:08:05.27 :I5TF4tmE0

恵磨「もっと増えるのかな……?」

優「それはわからないなぁ」

時子「亜里沙、血で出来た薬の件はどうなったの?」

亜里沙「うん、別に血さえ手に入れば簡単に作れるみたい」

優「ならぁ、血をどこから手に入れたかどうかが大切ってこと?」

時子「出所はほぼ間違いないでしょう。S大学付属病院か盗まれた献血車」

恵磨「あー、なるほど」

亜里沙「ええ。だからこそ、そんな薬を渡した人を探しているのですが」

優「なんのために渡してるの?」

時子「血が必要になるから」

恵磨「吸血鬼になったら、か」

亜里沙「……でも、何だかおかしくて」

久美子「暗示とかかけられる、とか楓さん言ってたわ」

恵磨「千秋ちゃんに吸血とかいう欲望を覚えさせられたわけだし」

時子「……しかし、誰が?」

亜里沙「うーん」


168 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:09:06.52 :I5TF4tmE0

優「何か見逃してる?」

恵磨「そうかも」

久美子「あと、被害者といかどうかわからないけど、もう一人いるよね」

時子「吸血鬼に噛まれた存在がね」

優「日下部若葉ちゃん」

恵磨「高垣さんと松永さんを襲って、瀕死に追い込んでるわけだし、危険なのはこっちだよね」

時子「そうね。大学に今はいないみたいだけど」

久美子「なら、安全?」

時子「何とも言えないわ」

優「消えたはずなのにいるんだよねー」

恵磨「うん、おかしい」

時子「解決する、って言ってたけど」

優「何をやるのかなぁ?」

恵磨「あんま考えたくない」

亜里沙「同感です」

時子「……それで亜季は?」

優「連絡取れないね。何してんだろ?」

時子「まずいことに首突っ込んでないといいけど」


169 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:10:22.68 :I5TF4tmE0

100

亜季「裕美殿」

裕美「……亜季さん」

亜季「お気に入りの場所だと聞いたであります。この小山の斜面」

裕美「そんな話、したね」

亜季「落ち着きたい事情があるでありますか」

裕美「……」

亜季「とりあえず、これを」

裕美「亜季さん、それに何か知ってる……?」

亜季「はい。風邪薬として、池袋晶葉殿に渡されたもの」

裕美「違う、それは」

亜季「それも、わかってるであります」

裕美「それじゃあ、わかってるよね」

亜季「……はい」

裕美「手、触ってみて」

亜季「何かあるでありますか」

裕美「冷たいでしょ」

亜季「いいえ。ちゃんと生きている温かさがするであります」

裕美「……嘘」

亜季「嘘をついて、人を慰められるほど器用ではありません」

裕美「私、生きてる?」

亜季「はい。だから、それでもいいであります」


170 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:11:23.61 :I5TF4tmE0

裕美「……熱が出たんだ」

亜季「はい」

裕美「凄い熱でね。死んじゃうかと思った」

亜季「……はい」

裕美「なんだかね、体がどんどんと自分のものじゃなくなっていく気がして」

亜季「……」

裕美「聞かれた気がするの。それでも生きていたいのって」

亜季「生きていたかったでありますか」

裕美「死にたくなかった。そうしたらね、熱は下がったんだ」

亜季「……」

裕美「助かったと思ったの。でもね、変わってた。私は、どんどんとお日様に嫌われていった」

亜季「そうでなのでありますか」

裕美「亜季さんが来てくれた時は、そんなことになると思わなかった……」

亜季「……気づけていれば」

裕美「がっ……」

亜季「裕美殿!?」

裕美「はぁ……血がね、欲しいの。そうしたら、わかったの。薬の正体」

亜季「でも、数がありません」

裕美「苦しい……」

亜季「裕美殿……」

裕美「あの時に変わりたくないって、人間のままでいたいって思えたら。そういう人間だったら」

亜季「そんなことは」

裕美「こんなに苦しまなくて済んだのに!」

亜季「裕美殿!」ダキッ


171 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:12:20.83 :I5TF4tmE0

裕美「亜季さん……?」

亜季「それでも生きていてくれた方がいいであります」

裕美「……だって」

亜季「亡くなった人も多いであります。でも、裕美殿は生きてるであります」

裕美「人間じゃなくなったのに、それでも……誰が認めてくれるの」

亜季「少なくとも私が」

裕美「……いいのかな」

亜季「ええ。でも、教えてください」

裕美「何……?」

亜季「吸血鬼の正体、知っているでありますか」

裕美「ううん……記憶がないの。傷とかもついていたことないし」

亜季「そうでありますか……」

裕美「まだ、吸血鬼は人を襲ってるの?」

亜季「わかりません。裕美殿のようにすぐには変質しませんから」

裕美「そうなんだ……止めてね、亜季さん」

亜季「了解であります。裕美殿のこれからも考えないといけませんな」

裕美「……どうしたらいいんだろ」

亜季「そういうのに協力してくれる人がいるであります」

裕美「なら……」

若葉「考えなくてもいいんじゃないですか」


172 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:13:27.83 :I5TF4tmE0

裕美「……!!」

若葉「こんばんは。可愛い吸血鬼さん」

亜季「止まるであります」カチッ

若葉「銃なんて、物騒なもの向けるんですね~」

裕美「あ、亜季さん、あの人」

亜季「ええ……」

若葉「考えなくていいんですよ。ここで消えてもらいますから」


173 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:14:55.69 :I5TF4tmE0

101

亜季「お帰り願うであります」

若葉「なんでそんなに自信を持って銃を向けているんですか?」

亜季「それは……」

若葉「銀の弾丸でも入ってるんですか?」

亜季「……ええ。今のあなたには効くであります」

若葉「ふふふ。そんなもので勝てると思いますか?」

亜季「はい」

若葉「嘘が苦手な人なんですね」

亜季「……そんなことは」

若葉「それじゃあ、そんなことに免じて助けてあげますね~。私はお姉さんですから」

亜季「……」

若葉「その可愛い吸血鬼さんをそれで撃ってください。それで、あなたを助けてあげます」

裕美「……えっ」

若葉「私の場所を奪わないでくださいね~」

亜季「お断りするであります」

若葉「なら、あなたが死ぬだけです」

裕美「……あ、亜季さん」

亜季「それでも、断るであります」

若葉「聞いてくれないんですね。なら」

裕美「……亜季さん!逃げて!」

亜季「あっ……」ズザザザ

若葉「派手に転んじゃいましたね。大丈夫ですか?」

裕美「亜季さん!」


174 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:16:32.73 :I5TF4tmE0

亜季「大丈夫であります。転んだだけ、であります」

若葉「それで、どうしますか?」

亜季「それでも」

裕美「亜季さん、聞いて」

亜季「なんでありますか」

裕美「私、大丈夫。こんな私でも、良いって言ってくれただけでいいよ」

亜季「何を……?」

裕美「生きていい、って。それだけでいいよ」

若葉「わかってあげたらどうですか?もうその子は人間じゃないんですよ」

裕美「撃って」

亜季「……えっ?」

裕美「その銃で撃って。あなたが……止めて。吸血鬼の私を。人を襲う前に」

亜季「そんなことはしないであります!私は!」

裕美「まだ間に合うの。幸せなまま……終わらせて」

若葉「お願い、聞いてあげないんですか?」

亜季「黙ってるであります」

裕美「亜季さん、やめて!」

亜季「それでも、私は」

若葉「強情な人ですね~。なら、行きましょうか、私」

裕美「なに、この視線」

亜季「……まさか」

若葉「優しいお姉さんなので、もう一度聞いてあげますね」

亜季「複数なのでありますか」

裕美「亜季さん、お願い……私、あなたに傷ついて欲しくない」

若葉「私は大勢があるがゆえに、私」

亜季「後3人はいるでありますな……」

裕美「亜季さん……」

亜季「心配しないでください。私は、勝つであります」

若葉「どうやって?」

亜季「なんとしても」

若葉「うふふ。そういうところ、私は好きです」


175 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:17:41.98 :I5TF4tmE0

亜季「……裕美殿、逃げてください」

裕美「おいていかないよ。それに」

亜季「へっ」

裕美「たぶん、私の方が強いから」

若葉「覚悟は出来ましたね。それじゃあ」

涼「残念だが、無駄に時間を使い過ぎだ」タンッ

裕美「空から降って来た?」

亜季「ど、どなたでありますか?」

涼「アタシは松永涼。よろしくな」

若葉「あら、死神さん」

涼「この前はどうも。生憎、死ねなかったんだよ」

若葉「そうですか。でも、勝てないことはわかってますね?」

涼「ああ。4人相手はきつい」

若葉「なら、どうしてここに?」

涼「アンタの相手はアタシじゃない。小梅!」

若葉「……いつの間に後ろに来たんですか」

小梅「……楓さんも涼さんも傷つけた。許さない」

若葉「あなたに何ができるんですか」

涼「お前らは逃げるぞ。君はついて来れるな?」

裕美「うん」

涼「それじゃ、大和さんは運んでしまおう」

亜季「ほえ?」

涼「お姫様だっこは嫌いか?」

亜季「いや、その、軽々と持たれすぎて。驚いただけであります」

涼「なら、問題ないな。行くぞ!」ダッ

亜季「うわ、早いであります!」


176 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:19:38.69 :I5TF4tmE0

102

幕間・白坂小梅

若葉「まぁ、そのうち止めることになるんです。逃げしてあげます」

小梅「……」

若葉「あなたが止められるんですかぁ?」

小梅「うん」

若葉「折れてしまいそうですよ、その細い体」

小梅「みんな、助けて」

若葉「私も呼びますよ」

小梅「ねぇ……聞いて」

若葉「聞いてあげましょう」

小梅「借りもの」

若葉「何が言いたいんですか」

小梅「あなたは偽物。吸血鬼じゃない。今は……違うけど」

若葉「黙って」

小梅「同じように見えて違う。明らかに格差が出来てる」

若葉「違う」

小梅「明らかにあなたがリーダー。私という多数……じゃない」

若葉「私は、私達は私です!」

小梅「本当……?」

若葉「……」

小梅「答えないと怯えちゃうよ……さぁ、来て」

若葉「な……これ」

小梅「みんな、行くよ……」

若葉「何を、何を呼んだんですか」

小梅「……知らない」

若葉「知らない、そんなので……」

小梅「でも、信じてる」

若葉「異常な……」

小梅「準備は出来た……?あっちも楽しい、よ」

幕間 了


177 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:21:04.40 :I5TF4tmE0

103

涼「……小梅にあんなことさせたくはないんだが。凄い疲弊するんだ……」

亜季「何でありますか、あれは……」

裕美「土の人形みたいなのが……」

涼「今はやめておこう」

亜季「あの、松永殿」

涼「ああ。関裕美は預かるよ」

裕美「……亜季さん」

亜季「私が願うことは、あれだけであります。お願いであります」

裕美「うん……」

涼「簡単に言うけどよ、辛いぜ」

亜季「それでも」

涼「ああ。それでも、生きていたいさ。アタシだってそう願った」

裕美「そうなの?」

涼「先のことは先に考えればいいのさ」

亜季「そうであります」

裕美「わかった。私、頑張るね」

亜季「ええ、約束でありますよ、裕美殿」

涼「……あっちも完全に終わったか」

亜季「そのようでありますな……」

涼「アタシは小梅と裕美を連れて帰るよ。ご協力感謝するよ、大和サン」

亜季「はい」

涼「お礼は後で」

亜季「ええ」

裕美「またね、亜季さん」

亜季「はい。またね、であります」


178 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:22:15.81 :I5TF4tmE0

104

翌日

亜季「zzz……」

時子「寝てるわね」

亜里沙「昼間前に来たと思ったら、すぐに寝ちゃったものね」

久美子「そっとしておきましょう。色々あったみたいだし」

優「一人、本物になったのかぁ……」

久美子「信じられないけど、そうみたい。楓さん達が保護してるから大丈夫みたいだけど」

亜里沙「あのカメラって、彼女達を観察するものだったんですね」

優「吸血鬼が、噛んだ本人を監視してた?」

久美子「そうみたい」

時子「何のためかしら?」

亜里沙「奏陽泰校の噂を信じると、仲間が欲しいのかしら」

優「でも、せっかく吸血鬼になった子がいるのに、カメラには映ってないよ?」

久美子「そうね。この資料によると、大事をとって裕美さんは休んでいるから、どうなったかわかってないんじゃないかしら」

時子「そうかしら?」

優「どういうこと、時子ちゃん?」

時子「噛んだ事を知っているなら、気づいてるはずよ」

久美子「無事に変化したことに?」

時子「ええ」

亜里沙「そうなると、今はどうしているんでしょう?」

優「もしかして、探してる?」

時子「そうでしょうね。だけれど、ある意味では安全よ」

優「なんでぇ?」

久美子「目的は達成したから?」

時子「その通り。少なくとも慌てて被害者を増やす必要はない」

優「なら、安心?」

久美子「若葉さんもいなくなっちゃったし……」

恵磨「ただいまっ!」


179 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:25:29.76 :I5TF4tmE0

時子「お帰り、恵磨。どうだったのかしら?」

恵磨「亜季ちゃんの言ってること本当みたい」

時子「何が本当だったのかしら。はっきりと言って」

恵磨「本当に倒されたみたい。今日は学校にも家にもいないよ」

優「……そう」

時子「他には?」

恵磨「複数人いたんだね、若葉ちゃん」

久美子「……もう、どうでも良くなって来たわ」

優「何人かいたうちの一人が春の犯人でぇ、今回のは別人?」

恵磨「うん。というか、最近までは入れ替わりで大学というかこの周辺に来てたみたい。たまに約束とか忘れてることあったみたいだね」

久美子「そうなんだ」

恵磨「で、ここ最近だけど、別々に行動してるから、別の場所で同時刻に見られたりしてたみたい」

時子「それで?」

恵磨「変な噂になってたよ。ドッペルゲンガーってやつ」

亜里沙「ドッペルゲンガーですか?」

恵磨「うん」

亜里沙「奏陽泰校の噂にもありました。そんな所でつながってるのね……」

優「つまり、若葉ちゃんも中学校の周辺にいたの?」

恵磨「そういうことじゃない?」

亜里沙「なんのために?」

恵磨「何のためかは知らないけど、この辺でも良く見られてたよ」

時子「道明寺歌鈴の神社近くじゃない」

優「なんか、つながって来たような」


180 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:27:07.26 :I5TF4tmE0

久美子「ええ。日下部若葉さんは明らかに吸血鬼に近づいてる」

恵磨「噛まれるために、だよね」

亜里沙「そうですね。目的を達成するために噛まれた」

久美子「実際に復讐も行われた」

時子「その報いも既に受けた」

優「……うん」

恵磨「あとさ、思ったんだけど」

久美子「なに?」

恵磨「吸血鬼ってどうやって噛む対象選んでるんだろう?」

亜里沙「そこは……わかりません」

時子「奏陽泰校の件からして、何らかの意図はあるわ」

優「でも、わかんないねー」

時子「そもそも、吸血鬼に動機を尋ねるのも変な気がするわ」

亜里沙「それは……衝動だもの」

久美子「……どうしたらいいんだろ」

優「うん、少しやめてみようか」

恵磨「さんせーい」

亜里沙「私も」

時子「なんでかしら?」

恵磨「単純に、関裕美ちゃんを探してるなら、きっとボロが出るよ」

久美子「なるほど」

時子「ふむ」

亜里沙「何かしらの目撃談は残ります。そこから辿れるかと」

時子「そうね。警察の警邏も強化されてる」

久美子「なら、待つと?」

恵磨「うん。だって、もう手掛かりないよ」

優「アタシ達の知ってる特別なことって、若葉ちゃんの話だけだもん」

亜里沙「やみくもにやっても、警察に及ばないかな」

久美子「わかった。焦らないことも必要ね。焦らないのには慣れてるし」

時子「よろしい。脅威もひとまずは減ったし、リラックスしましょう」

亜季「zzz……」


181 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:28:38.73 :I5TF4tmE0

105


SWOW部室

肇「こんばんは」

亜季「おや、刑事殿」

肇「おひとりですか」

亜季「寝ていたら誰もいなくなっておりました。自由な奴らであります」

肇「楽しそうですね」

亜季「そうですな。ところで、本日は何の用件で?」

肇「血液の出所がわかりました」

亜季「薬の材料ですか」

肇「はい。S大学付属病院のようです」

亜季「あの、廃棄するはずの血液がなくなっている、という話でありますか」

肇「その通りです。業者の行動が把握できました」

亜季「どうだと?」

肇「常に決まった時間に、貸し倉庫で受け渡しをしているようです」

亜季「相手は特定出来たでありますか?」

肇「いいえ。直接の取引はないようでして。ただ、やはり2年以上続けているようですね」

亜季「随分と長い間、隠していたのでありますなぁ」

肇「ええ。業者の立件を視野に、調査中です」

亜季「わざわざご報告ありがとうございます」

肇「いえ。それでは東郷刑事を待たせていますので」

亜季「最後にお聞きしていいでありますか」

肇「何でしょうか」

亜季「何か被害者の共通点は見つかりましたか?」

肇「少しお待ちください」ペラペラ


182 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:30:48.28 :I5TF4tmE0

亜季「吸血鬼、というか犯人そのものでもいいのでありますが」

肇「そちらは業者を問い詰めないと、ですね。それで、共通点ですが」

亜季「何か、わかったでありますか?」

肇「3人目の被害者、松原早耶さんですが」

亜季「彼女が?」

肇「先月、S大学付属病院に来てますね」

亜季「そうなのでありますか?」

肇「22時頃、夜間外来に来ています」

亜季「何のために?」

肇「食中毒のおそれのため。被害者は何人かいましたが、彼女自体は大丈夫だったようです。簡易検査で済ませてしまったので、カルテもなく発見が遅れました」

亜季「……S大学付属病院」

肇「他に聞きたいことはありますか?」

亜季「いえ。ありがとうございます」

肇「それでは、失礼します」


183 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:31:58.78 :I5TF4tmE0

106

SWOW部室

亜季「……」ジー

亜季「S大学付属病院と神社と奏陽泰校とテレビ中のアイドル。それと怪物」

亜季「……被害者の共通点はなんなのでありましょうか」

亜季「亜里沙殿が作ってくれた資料を眺めても、何も出ないかも知れませんなぁ」

亜季「裕美殿は大丈夫でありましょうか」

亜季「……裕美殿?」

亜季「彼女が狙われる理由って何でありますか」

亜季「……どうやって、吸血鬼は狙う相手を決めているのでありましょうか」

亜季「もし、吸血鬼にすることが目的なら可能性を高めたい、と考えるであります」

亜季「それなら、何を見て……」ジー

亜季「ま、まさか」

亜季「そんなことでありますか。いや、それくらいしか共通点なんて、ないであります。裕美殿にも当てはまる」

亜季「それに、これは春の噂から残ったものじゃありませんか……」

亜季「なら、それをどこで知ったでありますか?直接見る機会でもなければ気づかないであります」

亜季「テレビで見れる三浦あずさ殿は確実。生放送もありますし、場所を特定するのも容易であります」

亜季「神社の娘さんは、人前に出てる事も多かった。誰が見ててもおかしくないであります」

亜季「神谷奈緒殿と松原早耶殿はS大学病院に出入りしていた。それに、血の出元もS大学付属病院」

亜季「犯人は、ここに関連する人物なのでありますな」

亜季「なら……奏陽泰校はどうつながるでありますか?」

亜季「うーむ」


184 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:33:13.85 :I5TF4tmE0

プルルルル……

亜季「電話でありますな。はい、SWOWであります」

惠『こんばんは、伊集院惠です』

亜季「惠!無事でありますか?」

惠『無事だけど……なんでそんなに焦ってるの?』

亜季「まったく、こっちの気も知らないで。ケータイくらい持つであります」

惠『わかったわ。次はね』

亜季「それで、どこにいるでありますか?」

惠『空港よ。アメリカから飛んできた所』

亜季「やっと帰って来たでありますか。久々の日本はどうでありますか」

惠『日本じゃなくて、韓国よ』

亜季「……へ?」

惠『それで聞きたいことがあるんだけど』

亜季「ほんとーに自由でありますなぁ。それで、何でありますか」

惠『献血車襲撃事件って解決した?』

亜季「献血車?」

惠『ニュース、一緒に見たじゃない』

亜季「ああ、そんなこともありましたな。4人組に襲撃されたとか」

惠『それ。どうなった?』

亜季「特に続報は聞いておりませんが」

惠『そう……日下部若葉さんは?』

亜季「えっ?」

惠『何か聞いてる?』

亜季「むしろ、何で知ってるでありますか」

惠『教えてくれたの』

亜季「誰が?」

惠『それは、まぁ、聞かないで』

亜季「はぁ……?」


185 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:34:40.86 :I5TF4tmE0

惠『それでどうなの?4人組と関係あった?』

亜季「4人組……後3人でありますか」

惠『どうしたの?』

亜季「なるほど。そういう話なら解決した、と言ってもいいであります」

惠『良かった。それじゃ、一泊してから帰るわね』

亜季「ええ。お土産楽しみにしてるでありますよ」

惠『もちろん。またね、亜季ちゃん』

亜季「ばいばいであります」

惠『ん、なに?』

亜季「ばいばい、と」

惠『わかった。亜季ちゃん、聞いて』

亜季「何でありますか?」

惠『何か忘れてない?人とか関係とか』

亜季「は?」

惠『それじゃ』

亜季「惠、めぐみー!?切れたであります……」


186 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:36:12.32 :I5TF4tmE0

107

SWOW部室

亜季「忘れてること、って何でありますか?」

亜季「人、関係?」

亜季「……思い出すであります、大和亜季」

亜季「人、関係、人……」

亜季「もう一人。池袋晶葉殿」

亜季「なんで、奏陽泰校に入れたのでありますか」

亜季「門にも玄関にも壊した形跡はなかったであります。カギを持っていた……?」

亜季「それを持っているとしたら、私でありますか。つまり……」

亜季「警備員?」

亜季「あ!」

亜季「た、高峯殿に電話を」

亜季「お休みのところ申し訳ありません、大和です!」

亜季「教えていただきたいことがあるのですが」

亜季「辞めたと言っていた、女性警備員の名前を教えていただきたいであります」

亜季「……やはり、そうでありますか。ありがとうございます。それでは」

亜季「探さなければ。もう、夜であります」


187 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:38:17.19 :I5TF4tmE0

108

S大学付属病院・ロビー

あい「探して欲しい人物がいる?」

亜季「ええ。どうやらここにはいないようでして……」

あい「ああ。今日は非番だ。シフトを変わってもらってまでな」

肇「あの、この人って……」

あい「そうだ。私達が探している人物でもある」

亜季「そうなのでありますか」

あい「ああ。自宅にも行ったが、いなかった」

肇「物は見つかりましたが」

亜季「何がですか?」

あい「血液だ」

亜季「なんと」

あい「定期的に入れ替えてもいる」

肇「彼女の部屋からは、データも出ました」

亜季「データ?」

肇「被害者のデータです。写真や動画とか」

あい「カルテのコピーもあった。彼女ならやれるだろう」

亜季「それでは……」

肇「容疑者と断定します」

あい「方法は知らない。だが、間違いない。探すぞ」

亜季「わかりました、協力します」

肇「お気をつけて」

亜季「ええ。重々承知であります」


188 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:40:19.45 :I5TF4tmE0

109

幕間

裕美「暗いね、ここ」

楓「暗くする必要がありますから」

裕美「……うん」

楓「私はまたお腹が膨れたのでお休みします。おやすみなさい」

裕美「おやすみ」

楓「そろそろ日の出ですよ。外はあなたには危険です」

裕美「……わかってる」

楓「信じてあげる、それも大切ですよ」

幕間 了


189 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:43:02.35 :I5TF4tmE0

110

夜明け前

奏陽泰校校舎・屋上

亜季「こんなところにいたでありますか」

洋子「だって、あの子が見つからなかったから」

亜季「あなたが、吸血鬼であります。斉藤洋子殿」

洋子「……」

亜季「日の出まで時間がないであります。このまま、日にさらされるでありますか」

洋子「別に隠そうそはしてないよ。ちょっと考えごとをしていただけ」

亜季「何故、こんなことをしたでありますか」

洋子「答えてあげる。だから、その銃を降ろして」

亜季「……」

洋子「降ろさないのなら話さない」

亜季「私が話すであります」

洋子「どうぞ、ご自由に」

亜季「あなたは何かしらの法則をもって人を選んでおります。なら、どうやってその人達を見つけたでありますか」

洋子「知っていたから」

亜季「はい。S大学付属病院、遅くまで残っていた神谷奈緒に会ったのは」

洋子「私。警備員だから。夜だけの、ね」

亜季「神社の周辺でランニングをしてる若い女性がおりました。1年以上まえの話ですが」

洋子「それも私。吸血鬼になる前は、お日様みたいって言われてた」

亜季「松原早耶を夜間外来で見たのも」

洋子「私。真面目に働いてたんだ」

亜季「三浦あずさ殿は、テレビで見たでありますか」

洋子「うん。綺麗な瞳してたもの」

亜季「奏陽泰校で警備員をやってたのでありますな。高峯殿から聞きました」

洋子「のあさんか。やめる時も凄い引き止めてくれてね」

亜季「覚えておりましたよ」

洋子「そうだね、私も覚えてる」

亜季「違うであります。裕美殿であります」


190 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:44:07.28 :I5TF4tmE0

洋子「……」

亜季「評判は良かったのでありますな。今の職場でも。ちゃんと見ているであります。明るいあなたを」

洋子「……でも」

亜季「神崎殿にも面識がありますな。あなたは積極的に人と関わる性質でありました」

洋子「そうだね。昔はそうだった」

亜季「池袋殿を利用し、二人を監視させた」

洋子「その通りかな」

亜季「職を辞した理由は、吸血鬼になったからでありますな」

洋子「うん」

亜季「何故で、ありますか」

洋子「何故?」

亜季「何故、こんなことを?」

洋子「……そっちか」

亜季「何故、こんなことをしたでありますか。一人だけ助かって、後の全ては死んでしまいました」

洋子「知ってた」

亜季「知っていた?」

洋子「こんな結末になることだって、知ってた。変質出来るのは運良くて一人いるかいないか、私は知ってた」


191 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:45:17.48 :I5TF4tmE0

亜季「……殺意があったでありますか」

洋子「そうかも。でも、生きていて欲しいのは本当。でもね、変わりたくないって言われちゃった」

亜季「……」

洋子「適正があると思った子を選んだけどね……違ったみたい」

亜季「……被害者に共通点はあっても、根拠はなかったでありますか」

洋子「そうだよ。自分と同じ子を選んだだけ」

亜季「殺したくはなかったのではありませんか……」

洋子「……ねぇ、教えて。変わりたくない?それでも生きていたいと思わない?」

亜季「私は被害者ではありませんから、わかりません」

洋子「……ごめん、わかってる。変わりたくないことくらい知ってる」

亜季「……」

洋子「逃げないよ。だから、銃を降ろして。そうじゃないと、話せない」

亜季「わかったであります」

洋子「ありがとう」

亜季「一つ、疑問があるであります」

洋子「……」

亜季「血液を集め始めた時期が、吸血鬼になった時期と一致しません。あなたが吸血鬼になるより前でありました」

洋子「やっと、聞いてくれた」

亜季「……」

洋子「なんで集めてるか、わかった?」

亜季「……」

洋子「今のあなたならわかる」

亜季「ええ……わかるであります。それは、吸血鬼を守るためであります」

洋子「うん」

亜季「あなたを変質された吸血鬼がいなくてはなりません。それを守ったでありますな」


192 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:47:15.04 :I5TF4tmE0

111

奏陽泰校・屋上

洋子「……そう」

亜季「倒されたそうでありますな。でも、被害者も出ていない」

洋子「……」

亜季「聞かされていましたか、全て」

洋子「……いろんなことを話したよ」

亜季「……」

洋子「彼がどういう存在だとか、どういう長い人生を歩んでいたか、とか」

亜季「……」

洋子「覚えていないほど長い時間を生きてきて、人間だった頃のことなんか覚えていなくて。何人もの人を殺してしまったって。もう、誰も殺したくないって」

亜季「……あなたは」

洋子「そんな彼が好きだったの。理由なんてわからない。でも、好きだった」

亜季「だから、血を工面したでありますか」

洋子「うん。彼はそれで静かに暮らして行けた」

亜季「なら、何故あなたは吸血鬼になったのでありますか」

洋子「彼は私を殺したくないって。変えたくないって。きっと、太陽の下が似合うんだろうな、そんな私を変えたくないって。だから、私は人間のままだった」

亜季「何があったでありますか」

洋子「私ね、死にそうだったの。事故にあってね」

亜季「……」


193 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:48:22.51 :I5TF4tmE0

洋子「生きたかった。まだ、あの人と居たかった」

亜季「願ったでありますか」

洋子「……やっと、あの人と一緒になったけれど。長くは続かなかった」

亜季「……」

洋子「シスターが来るって、そんな話はしてた。そのうちに、あの人は跡形もなく消えてしまった……」

亜季「……」

洋子「思えばね、死にたがってたんだ。ずっと。でも、引き金を引いたのは……たぶん、私。私は彼に罪悪感を押し付けたんだ」

亜季「変えてしまったことへの、罪悪感……」

洋子「……なんで、気づかなかったんだろう。人間の私を本当に好きでいてくれる、って信じてあげられなかったんだろう」

亜季「……斉藤殿」

洋子「そして、あんなに聞かされてたのに」

亜季「……何を」

洋子「夜の世界はこんなにも孤独だって、私は知ってたのに……」

亜季「……まさか、動機は」

洋子「噂を聞いたことがあるかな。あれね、私がモデルなの」

亜季「孤独な吸血鬼の噂、そのままなのでありますか」

洋子「良くね、こことかで泣いてたから。夜のこの場所は、私達の思い出の場所だったから」

亜季「……」

洋子「そう、私の動機は、孤独、それだけ」

亜季「他に誰も噛んでいませんな」

洋子「それは大丈夫。安心して」

亜季「日が出てしまうであります。中へ」

洋子「気遣ってくれるんだ」

亜季「反省を。そして、生み出してしまった責任を取るであります」

洋子「優しくて、お節介」

亜季「そうであります。それで、いいのであります」

洋子「ごめんね、それは無理なんだ」

亜季「朝日が……」

洋子「明るいね、綺麗」


194 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:50:11.93 :I5TF4tmE0

112

日の出

奏陽泰校・屋上

亜季「まぶしい……斉藤殿!」

洋子「私ね、死のうとした」

亜季「斉藤殿……皮膚が」

洋子「全身が焼けるように痛いの。この場所で死ねるなら、それでいいかなって」

亜季「おやめください!」

洋子「でもね、死ねなかった。一日中ここで日光にさらされて、起きたら元通りになってた」

亜季「斉藤殿!」

洋子「近づかないで!痛くて暴れちゃいそう」

亜季「……!」

洋子「あの人ね、教えてくれなかった。簡単には死ねない存在になるって、教えてくれなかった!痛い!」

亜季「お願いであります。そこから離れてください!」

洋子「あの人がいない世界で、どうやって生きろっていうの!?いたいいたいいたい!こんな孤独のまま生きていろって!?」

亜季「くっ」

洋子「焼けるように痛いの!わかって!」

亜季「見ればわかるであります!」

洋子「勘違いしてる。私が噛んだ人、もう一人いるでしょう!」

亜季「日下部若葉殿の話でありますか」

洋子「なんで、噛んだと思う!?ねぇ、なんで!」

亜季「……まさか」

洋子「邪魔だったからに決まってるでしょう!私はアレと共犯なの!あの人を消してしまった敵に復讐するためだった!それに、この孤独を埋めるための準備に、必要だっただけ!いたい、いった……」


195 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:51:07.33 :I5TF4tmE0

亜季「そんな話はいいで……」

洋子「どいて!」ドン!

亜季「がっ……く、強いでありますな」

洋子「怪物なんて止めて。お願いだから、止めて」

亜季「……」

洋子「その銃で撃って。全ての黒幕を撃ち抜いて。この話を、ハッピーエンドで終わらせて……」


196 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:52:15.63 :I5TF4tmE0

113

奏陽泰校・屋上

亜季「斉藤殿、お願いであります!」

洋子「聞かない聞けない、痛い!痛いの!」

亜季「裕美殿を置いて行くでありますか!」

洋子「知らない、知らない!もう、知らない!痛い!いたい、ああ……いたいの」

亜季「なんで、でありますか」

洋子「大和さん、もうあなたしかいないの」

亜季「……」

洋子「痛い……捕喰者も死神も退魔師も私も止められない。だって、吸血鬼だもの」

亜季「なんで……」

洋子「ネクロマンサーは疲弊してる。あなたが止めるしかありませんよ」

亜季「くっ……どうしてでありますか」

洋子「来て、痛い、来て」

亜季「どうして、それでも生きていたいと言っていたあなたが死にたがってるのでありますか!?」

洋子「そんなの、知らない」

亜季「……犬歯が!」

洋子「わかって、私は人間じゃない」


197 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:53:26.40 :I5TF4tmE0

114

奏陽泰校・屋上

洋子「私は抑えつけられない、よ」

亜季「……はぁはぁ」

洋子「一晩中探しまわって、疲れて……痛い、るんでしょ」

亜季「それでも……」

洋子「撃てば終わるのに」

亜季「それでも!」

洋子「なんで、私を助けるの?」

亜季「知らない!」

洋子「知らない……?」

亜季「そんなの知らないであります!私は助けたいと思ってるから、それだけであります」

洋子「なら、助けて!」

亜季「だから!」

洋子「助けて!あの人に、あいたいの!」ドン!

亜季「……ぐっ」ガシャン

洋子「ねぇ!ねぇ!ねぇ!」

亜季「息が苦し……」

洋子「ねぇ……えっ」ジュワ

亜季「はあっ!」ドン

洋子「……あっ、ああ」


198 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:54:14.43 :I5TF4tmE0

亜季「はぁ……申し訳ありません」

洋子「あっ、焼けて本当に芯から、溶けるみたい……なんで、銀の銃弾が胸元に……」

亜季「友人からもらったものだから。銃になど込めません」

洋子「……はは、変な人」

亜季「……」

洋子「そんなに悲しい顔をしないで。もう一人殺さずに済んだ……」

亜季「私は、そんなつもりでは……」

洋子「ありがとう、銀の弾丸を打ち込んでくれて……良い突きだった」

亜季「斉藤殿、申し訳ないで……」

洋子「心臓もダメかな……はぁ、うん、ダメみたい……」

亜季「私は……」

洋子「ねぇ、聞いて」

亜季「……はい」


199 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:55:17.84 :I5TF4tmE0

洋子「あの人、ね。言ってたの……」

亜季「なんとでありますか」

洋子「本当に長い間生きてるとね、愛した人でも忘れちゃうんだって。それが、悲しいって……」

亜季「お願いであります、なんとか……」

洋子「良かった、あの人を忘れないで死ねる……あなたに終わらせてもらって良かった……ありがとう」

亜季「……」

洋子「裕美ちゃん、お願い」

亜季「あなたが……勝手に」

洋子「ほら、ハッピーエンド、でしょう、貴方……私の言った通り……」

亜季「なんで、でありますか!なんで!なんで……」

洋子「……」

亜季「勝手に……孤独を抱え込んで死なないでください……」


200 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:56:27.18 :I5TF4tmE0

115

奏陽泰校・会議室

のあ「……そう」

亜季「……信じても信じなくていいでありますが、全ての顛末であります」

のあ「……」

亜季「その……」

のあ「間抜け、ね。私がよ」

亜季「……」

のあ「……あの時に、気づいていたら。彼女は、救えたわ。何も起こらなかったかもしれない」

亜季「……」

のあ「なんて、間抜け……」


201 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 20:58:18.26 :I5TF4tmE0

116

奏陽泰校・校庭

亜季「その、どうするでありますか」

あい「なんとかするさ」

肇「はい」

亜季「どういう意味でありますか」

あい「全ての話は鵜呑みに出来ないというか、公表した所でなんともならんだろう。だから、うまくやる」

肇「脅威は排除されました。解決です」

あい「被疑者死亡だが、これで事件はすべて終わりだ」

肇「本当の調査資料は警察署の地下にでも押し込んでおきます」

あい「ご苦労だったな、大和さん」

亜季「……いえ」

肇「それでは、失礼いたします」

あい「最後に一つだけ、いいかな」

亜季「……何でしょうか」

あい「関裕美という子については任せるぞ。資料にすら載せない」

亜季「……はい」


202 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 21:01:02.10 :I5TF4tmE0

117

翌日

SWOW部室

惠「ただいま」

久美子「あっ、帰って来た」

優「お帰りー無事だった?」

惠「ええ」

恵磨「心配したよ!ケータイだけは絶対持って!」

惠「わかったわ」

時子「あら、お帰り。死んでなかったのね」

惠「死んでても帰ってくるわ。死んでないけど」

時子「……」

優「ねぇねぇ、チリはどうだったぁ?」

惠「楽しかったわ。久々に異世界よ。そうそうお土産を」

久美子「わ、ありがとう」

恵磨「そのトランクケース一つ分なの?」

惠「ええ。開けてみて」

優「やったー♪何かなー」

惠「ゆっくり開けてね。押し込んだから」

時子「押しこんだ?」

恵磨「開けてみればわかるでしょ……わっ」ポン!

久美子「ペンギンのぬいぐるみが飛び出て来たわ……」

優「凄ーい☆ペンギングッズだらけー」

時子「そんなに好きだったかしら」

惠「ええ、好きよ」

恵磨「おー、こいつ肌触りいい!」

優「こっちもちょっとブサイクだけどカワイイー」


203 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 21:02:54.69 :I5TF4tmE0

惠「あれ、亜季ちゃんは?」

久美子「亜季ちゃん?」

時子「そこで、亜里沙と一緒にテレビを見てるわよ」

恵磨「ずいぶんと真剣に見てるね」

惠「そこのホワイトボードは?」

優「資料、また吸血鬼が出たんだよー」

惠「へぇ」

久美子「これは解決。吸血鬼も死んじゃったし」

惠「そうなの?」

久美子「亜季ちゃんが銀の弾丸で打ち抜いて終わり」

惠「……そう。そっちに使ったのね」

亜里沙「ねぇ、みんな!こっちこっち!」

時子「どうしたの、亜里沙」

亜里沙「テレビ、見て」

優「あ、これ、今回の事件調べてた刑事さんだ」

惠「女の人?」

恵磨「うん。生で見ると凄い美人だよ」

惠「それは会いたかったわ」


204 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 21:04:26.19 :I5TF4tmE0

時子「それで、亜里沙、これが何なの?」

亜季「吸血鬼事件の顛末であります」

亜里沙「犯人は斉藤洋子さん。それは良いんだけど」

亜季「関係性もほぼそのままであります。彼女が知っている人物が標的にされた」

久美子「……吸血鬼の話はしてないの?」

恵磨「そうみたい。薬物だって」

優「急な発熱と日光アレルギーの原因となる……読めないぃ」

時子「それらしい理由をつけた、わけね」

亜季「……」

亜里沙「全て終わりにした。安心を取り戻した……」

時子「やり方としては優秀ね」

亜里沙「はい。色々と思慮のありそうなお二人でしたから」

恵磨「簡単そうな感じじゃなかったよね」

優「亜季ちゃん、どう思う?」

時子「あなたがしたいなら、何とかするわよ」

惠「……時子ちゃん、どこかに圧力かける気?」

亜季「いいえ……これでいいであります」


205 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 21:05:22.42 :I5TF4tmE0

亜里沙「……真実じゃないよ」

亜季「亜里沙殿のように、違う罪をかぶった人はおりません。ちゃんと……終わったでありますから」

亜里沙「……うん」

時子「なら、この件は終わりよ。恵磨」

恵磨「何?」

時子「資料、片づけなさい」

恵磨「オッケー」

優「アタシも手伝うよー」

惠「亜季ちゃん」

亜季「……お帰りであります、惠」

惠「……」

亜季「私はどうすれば良かったのでありますか」

惠「私にはわからない」

亜里沙「……」

時子「……」

惠「でも、次を考えた方が得よ」

亜季「……そうでありますな」

亜里沙「もう一人、いるんですよね」

時子「ええ。沈んでるのはあなたらしくないわ。堂々と進みなさい」

亜季「了解であります。私は、やれることをやるだけです」

時子「よろしい」


206 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 21:06:54.04 :I5TF4tmE0

惠「あの、お願いがあるのだけど」

久美子「なに?」

惠「和食が食べたいの。とっても」

亜季「おや、それは大変でありますな」

時子「帰国記念と亜季の元気づけのために、行きましょう」

亜里沙「はい♪松永さんがお礼とかいって、お食事券くれましたし」

久美子「ねぇ、誰かお店知らなーい?」

時子「結構いいお店でもいいわよ」

恵磨「なんの?」

亜季「和食であります!」

優「知ってるよ♪リーズナブル懐石料理のお店☆」

時子「決定。行くわよ」

亜季「ええ……斉藤殿、約束は守るでありますよ」

久美子「何か言った?」

亜季「なんでもないであります!さっさと行くでありますよ!」

エンディングテーマ

hollY bAllet

歌 大和亜季


207 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 21:08:53.11 :I5TF4tmE0

118

エピローグ

裕美「……」ドキドキ

涼「そんなに緊張しなくていい」

裕美「だって、神戸からわざわざ来たって」

涼「別の用事でもあったんだろ。入りますよ、シスター」

クラリス「あら、こんばんは」

柳瀬美由紀「こんばんはー」

クラリス
『シスター』。楓や涼の上司、とも言えなくはない。

柳瀬美由紀
クラリスのアシスタント。とある理由でいつもそばにいる。

裕美「こんばんは」

涼「話していた通り、預かることになった関裕美だ」

クラリス「まぁ、よろしくお願いします」

裕美「……あの」

涼「なんだ?」

裕美「なんで、シスターは目隠しをしてるんですか?」

涼「時期にわかるさ」

クラリス「触らせていただきますか」

裕美「え、ええ」

美由紀「クラリスさん、手を引くよ」

クラリス「ありがとう、美由紀さん。触らせてもらいます」

裕美「……」


208 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 21:10:47.69 :I5TF4tmE0

クラリス「良い髪をしていますね」

裕美「そうかな……癖っ毛で」

クラリス「そして、とても優しい魂の形を感じます」

裕美「魂……」

クラリス「ありがとうございます」

裕美「……はい」

美由紀「これから、よろしくね」

クラリス「ヴァンパイアに祝詞をするのはおかしいかもしれませんが、一言だけ」

裕美「はい」

クラリス「孤独に飲まれぬように。あなたのこれからに『光』あらんことを」

裕美「はい。私は孤独じゃないから」

クラリス「ええ。その関係を大切にしてくださいね。そして」

裕美「……」

クラリス「ようこそ、こちら側へ。歓迎しますよ」

The End

製作
ブーブーエス


209 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 21:15:14.77 :I5TF4tmE0

オマケ

CoP「洋子さんってバンパイアのイメージないです」

PaP「絶対に無理だよね。僕も思うよ」

CuP「逆に、丸一日太陽浴びせなかったら暴れそうですよね」

PaP「お前の洋子ちゃんのイメージは何から来てるんだ」

CuP「グレムリン」

CoP「即答はどうなんですか……」

おしまい


211 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/07(日) 21:17:37.62 :I5TF4tmE0

あとがき

7万5千字越えは長いな。読んでくださってありがとうございます。

今回も設定ネタです。蘭子とあずささんで気づいてくれるだろうか。
ちなみに、あと2(+1)人いますが、彼女達はいずれどこかで。


232 :◆ty.IaxZULXr/ :2014/09/08(月) 20:58:07.96 :wzXo4HXN0

次回予告

夜の闇に紛れて、怪盗は走る。

ふと、速度を落とす。ライトが彼女に照らされる。

もう一人の登場人物がスポットライトの下へと登場する。

観念したように、探偵さん、と小さく呟き、

安斎都「そこまでです!怪盗、古澤頼子!」

暗視ゴーグルをつけたままの怪盗は口角を少しだけ上げました。


ドラマシリーズ、オールスターキャストで劇場映画化

和久井留美「Re:N・のあの事件簿劇場版」

近日公開


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【SS速報VIP】大和亜季「7人が行く・ハッピーエンド」
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