1 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:07:30.22 :rkcGdnW50

あらすじ
探偵高峯のあと助手の佐久間まゆは、静かな町で頻発する小火と爆発事件の調査を始めました。

前話
相葉夕美「高峯のあの事件簿・毒花」

あくまでサスペンスドラマです。
設定はドラマ内のものです。

それでは、投下して行きます。


2 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:07:48.61 :rkcGdnW50

元ネタ

佐久間まゆ「のあの事件簿・この町のテロリスト」


3 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:09:00.03 :rkcGdnW50

メインキャスト

探偵・高峯のあ
助手・木場真奈美
助手2・佐久間まゆ

刑事一課和久井班
警部補・和久井留美
巡査部長・大和亜季
巡査・新田美波

科捜研
梅木音葉

交通課
巡査部長・片桐早苗
巡査・原田美世

ネコちゃんアイドル・前川みく

鷺沢文香


4 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:14:02.56 :rkcGdnW50


小さくて弱い繋がりだったのに、強い束縛が私達の手に落ちてきた。

どうするの、と口を開く。

このままでいいなら、何もしない。

このままで……いいのですか。

したところで、何も変わらない。

テーブルの上。私達を縛るモノがそこに鎮座している。

そうでしょうか……変えられます。

凡庸な物語から抜け出そうとしているから、彼女はいつもよりも饒舌だった。

根拠は何なの?

これまでの人生と生きてきた場所に縛られてきたから、彼女は臆病だった。

見慣れた光景だった。

どちらも今から逃げ出そうとしているから、最後の結論は同じになる。

彼女達が意見を交わすのは、儀式として必要だからにすぎない。

誰かに、どこにもいない人達に、許可された気分になるために。

それじゃあ、こうしましょう。

儀式を終わらせるために、こう切り出す。

現実と理想に折り合いがつかないから、私は未来から目を背けていた。

目の前の問題だけに、向き合う。その時は、一時的に逃げた気分になれる。

次は……決まっています。

強い束縛の名を、爆弾と世間は呼んでいる。

時間と場所を決めて、爆発させて、火事を起こす。

私達は、祈っている。

そうして、自らが起こした炎で自らの今が焼かれることを。

序 了


5 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:16:03.14 :rkcGdnW50


4/30(木) 夜

高峯探偵事務所

高峯探偵事務所
高峯のあが所長を務める探偵事務所。高峯ビル3階。営業日は不明。

木場真奈美「ただいま。誰かいるか?」

木場真奈美
高峯のあの助手で同居人。本職はボイストレーナー、スタジオボーカリストなど歌のお仕事。

高峯のあ「真奈美、おかえりなさい」

高峯のあ
高峯探偵事務所の所長。事業への出資で遺産を食いつぶすどころか増やしているらしい。

のあ「今日は早かったのね」

真奈美「順調に進んでよかったよ。といっても、もう19時は過ぎてるのか」

のあ「お疲れ様」

真奈美「佐久間君は?」

のあ「いるわよ。ほら」

佐久間まゆ「あっ、真奈美さん。おかえりなさい♪」

佐久間まゆ
高峯のあの助手で同居人、その2。4月から星輪学園高校に転入した。

真奈美「ただいま」

まゆ「のあさん、真奈美さんが帰って来たから、お夕飯の準備しますねぇ」

のあ「ええ。お願いしていいかしら」

まゆ「はい」

真奈美「手伝おう」

まゆ「いいですよぉ、真奈美さんは座っててください♪」

のあ「まゆの言うとおりにしなさい」

真奈美「そうか。すまないな」

まゆ「のあさんはホワイトボード、片づけて置いてくださいねぇ」

のあ「ええ。真奈美は仕事が忙しそうね」


6 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:17:17.86 :rkcGdnW50

真奈美「偶々、急ぎの仕事が私にも回ってきただけだ」

のあ「大変そうね」

真奈美「問題はないさ。責任を負う立場でもないからな」

のあ「そう」

真奈美「のあこそ、何をやってたんだ?」

のあ「これのこと、かしら」

真奈美「そう、そのホワイトボードだ」

のあ「半分は暇つぶしだけれど、半分は違う」

真奈美「ふむ、爆発事件か」

のあ「渋谷生花店の事件と、不審火とかをピックアップしたわ」

真奈美「渋谷生花店の事件は何か進展があったのか?」

のあ「ないわ。家族3人分の遺体が発見されて終わり、そこから進展はなし」

真奈美「そうか」

のあ「不審火や小火の情報も集めてるけど、関連は見られない」

真奈美「他に爆発事件はないのか。例えば、死亡者が出ているような」

のあ「西園寺関係を当たってみたわ」


7 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:18:15.58 :rkcGdnW50

真奈美「あったのか?」

のあ「なかったわ。西園寺グループを狙ったと考えていたのだけど」

真奈美「そうじゃないとすると」

のあ「渋谷凛の目標は、西園寺琴歌だけだったことになるわね」

真奈美「それこそ、わからんな」

のあ「渋谷凛は西園寺邸に出入りしていたぐらいの関係性しかないわ」

真奈美「それかもしれないぞ」

のあ「それ?」

真奈美「何者かが渋谷凛を利用した」

のあ「利用後は、消し去った?」

真奈美「そういうことだ。動機を持った真犯人がいる」

のあ「小説の読み過ぎじゃないかしら」

真奈美「のあに言われたくはないな」

のあ「そうね。頭には入れておくわ」

真奈美「それは妄想だとしても、爆弾を扱える誰かはいる」

のあ「その通り。その手掛かりがあるといいのだけれど」

真奈美「今は見つかっていない、ということか」

のあ「無差別テロでも起こされる前に、見つかればいいわ」

真奈美「それは、恐ろしい話だな」

のあ「いずれにせよ、今はわからないわ。最新の事件は、これ」


8 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:18:54.00 :rkcGdnW50

真奈美「倉庫が火事になってるのか?」

のあ「小火で済んだわ。会社の名前はトキワメカニカル」

真奈美「トキワか。鷹富士神社の近くだったか?」

のあ「ええ。関係性は不明」

真奈美「ふむ。事件と事故の両面で調査中、と」

のあ「私がわかってるのはこれだけよ。食事の時間だから、片づけるわ」

真奈美「ああ」

のあ「ところで」

真奈美「なんだ?」

のあ「5月2日は空いてるわね?」

真奈美「もちろんだ。前から言ってたじゃないか。心配するな」

のあ「そう。安心したわ」

真奈美「一人で行くのは不安か?」

のあ「不安に決まってるでしょう」

真奈美「堂々としてればいい」

のあ「そのつもりよ。真奈美が付いてきてくれるなら、心強いわ」

真奈美「素直にお願いされてるからな、ついて行くよ」

のあ「助かるわ」

真奈美「さて、と。佐久間君の手伝いに行くとしよう。座ってばっかりは、性にあわない」


9 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:19:51.02 :rkcGdnW50


5/2(土) 午後

星輪学園・正門

星輪学園
清路市内にある私立学校。高等部の他に中等部も併設している。

真奈美「最近は、休日に学校公開をやるんだな」

のあ「ここ数年のようだけれど」

真奈美「公開授業なんてものもあるのか」

のあ「授業参観とは別よ。まゆのクラスでもないわ」

真奈美「ふむ、ターゲットは入学希望者か」

のあ「大学みたいね」

真奈美「由緒正しい私学だが、生徒獲得にはあの手この手か」

のあ「秘密が価値にならない時代なのよ」

真奈美「奥ゆかしさがないな」

のあ「保護者にとっては、そっちの方がいいわ」

真奈美「子供に聞けばいいと思うが」

のあ「真奈美、あなたは両親が知りたいことを話したと思うかしら」

真奈美「残念ながら、そうは思わないな」

のあ「今の職に進むことを相談したかしら?」

真奈美「いや、まったく」

のあ「海外に行くことも相談してないでしょうね」

真奈美「私は学生が留学するのとは違うぞ。自分で決めるものだ」

のあ「独り立ちしても、心配なものは心配よ。電話でもしなさい」

真奈美「ん?」


10 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:20:40.53 :rkcGdnW50

のあ「年老いても親と子の関係は変わらないわ。一生よ」

真奈美「のあ、つかぬ事を聞くが」

のあ「保護者は大変ね。それとなく聞かないといけないのだから」

真奈美「もしかして、私の親から連絡が来てるのか?」

のあ「さて、まゆの担任と話に行きましょう」

真奈美「心配なんてしなくていいんだがな。そう思われるように生きてきたのに」

のあ「真奈美」

真奈美「はいはい、今行くよ。のあが保護者を務められるようにフォローしよう」

のあ「心配なものは心配よ。真奈美だって、ただの女性だもの」

真奈美「なるほど、合点がいった」

のあ「行くわよ」

真奈美「……のあの方か、お節介なのは」


11 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:21:30.48 :rkcGdnW50


星輪学園・高等部2年A組の教室

川島瑞樹「はじめまして、担任の川島です」

川島瑞樹
まゆの担任。担当は家庭科とマナー。よく喋る花の28歳。

のあ「高峯です。こちらは木場、同居人よ」

真奈美「木場だ。よろしく頼む」

瑞樹「お話は聞いてるわ。ちょっとだけ、複雑なのね」

のあ「いいえ、単純よ」

瑞樹「単純?」

のあ「完全な他人よ。すっきりしてるじゃない」

瑞樹「へぇ、そういう見方があるのね。学校のクラスもそんな関係かしら?」

のあ「そう思えるのは、いいことよ」

瑞樹「そうなるように、がんばるわ」

のあ「ええ」

瑞樹「安心しました。佐久間さんは、良い帰る場所があるのね」

のあ「……」

真奈美「心配していたのは、どっちも一緒か」

瑞樹「どこまで話していいものなのかしら」

のあ「まゆは、どこまで言ってるのかしら」

瑞樹「高森さん、っていう子がクラスにいるのだけど、その子に聞いてみたの」

のあ「どうだったのかしら」

瑞樹「高峯さんと暮らしてることは知ってたわ」

のあ「……そう」

瑞樹「喧伝はしないわ。でも、佐久間さんにとって恥ずかしいことでもなんでもないみたい」

真奈美「だとよ、のあ」

のあ「それなら、いいわ」

瑞樹「ええ。何か聞きたいことはありますか?」

のあ「そうね……何を聞けばいいのかしら」

真奈美「のあが知りたいことを聞けばいい」

のあ「それがわからないから、助けて欲しいのよ」

真奈美「私は保護者を務められてる人間にはフォローはしない」

瑞樹「あら、信頼してるのね」

真奈美「まぁ、そうだな。だから、のあが思うままでいい」

のあ「そうね……少しだけがんばるわ」


12 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:22:40.86 :rkcGdnW50


星輪学園・弓道場前

真奈美「話は十分か?」

のあ「十分すぎるわ……お話し好きね」

真奈美「いいじゃないか。佐久間君も馴染めてるようだし」

のあ「そうね、よく見てるわ。良い先生だと思うわ」

真奈美「そうだな」

のあ「ええ……待たせてるかしら」

真奈美「そうだな。佐久間君に連絡を取ってみるか?」

のあ「お願い」

真奈美「佐久間君も遅れて来るそうだ。友達と一緒だそうだ」

のあ「……そう」

真奈美「会うのは嫌か?」

のあ「そういうわけじゃないわ」

真奈美「忘れそうになるが、のあは人見知りだよな」

のあ「否定はしないわ」

真奈美「近づかれるのは、怖いか?」

のあ「私には勇気がいることよ」

真奈美「人には人の距離感があるさ。繋ぎとめる糸の本数にも違いがある」

のあ「だから、私は私よ。それ以上でもそれ以下でもないわ」

真奈美「それならいい……ん、なんだ?」


13 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:23:59.72 :rkcGdnW50

のあ「騒がしいわね」

真奈美「騒がしいというか、黄色い声援だ」

のあ「弓道部の試射みたいよ。チラシをくれたわ」

真奈美「見に行くとするか。そこが弓道場のようだからな」

のあ「そうね。まゆもまだ来ていないもの」

真奈美「あそこで瞑想している彼女が弓道部の部長か」

のあ「姿勢がいいわね。女子生徒に人気があるのもわかるわ」

真奈美「本人に雑音は聞こえていなさそうだな」

水野翠「……」

水野翠
星輪学園3年、弓道部主将。美貌を兼ね備えた才女で、男女、生徒先生問わず人気があるとのこと。

のあ「星輪の弓道部って、強いのかしら?」

真奈美「古豪というのが正しいかな。そこにいる彼女は個人でインターハイに出場してる、らしい」

のあ「そう」

真奈美「さて、始まるようだな」

翠「皆様、お集まりいただきありがとうございます」

真奈美「良い目をしている」

のあ「そうかしら……?」

翠「星輪学園には近的だけでなく、このように遠的場も備えています。ご興味のある方はぜひ、見学に来てくださいな」

真奈美「どうした、のあ?」

のあ「凄い集中を通り過ぎてるわ、トランス状態よ」

真奈美「そうなのか?」

のあ「いえ、確信があるわけじゃないわ。そう、思っただけ」

真奈美「ふむ……」

翠「一射だけ、ご覧に入れます。皆さん、準備をお願いしますわ」

のあ「何をするのかしら」


14 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:24:49.10 :rkcGdnW50

翠「競技であれば、ここからですが」

真奈美「下がった」

翠「的も近的のものを利用します。距離は……百と二十メートルほどになります」

真奈美「厳しい条件だな」

のあ「そうみたいね。でも、あの子は中てるわ」

真奈美「賭けるか、コーヒーでも」

のあ「結果のわかり切ってる賭け事なんて面白くもないわ。賭けの楽しみは、負けることよ」

真奈美「のあがそういうなら、勝負にもならないな」

翠「……ふふ」

のあ「笑ってるわ」

翠「……」

真奈美「……」

のあ「……」

真奈美「お見事」

翠「ご覧いただきありがとうございました。今後とも、よろしくお願い致します」

真奈美「凄い歓声だな」

のあ「自己催眠は解けたみたいね、表情が緩くなったわ」

真奈美「佐久間君から、連絡だ」

のあ「行きましょう」

翠「……ふふ」


15 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:26:00.72 :rkcGdnW50


星輪学園・中庭

まゆ「のあさん、真奈美さん」

のあ「まゆ」

真奈美「こちらは?」

まゆ「紹介しますねぇ、同じクラスの藍子ちゃんと泰葉ちゃんです」

高森藍子「はじめましてっ、高森藍子です」

岡崎泰葉「岡崎泰葉です。こんにちは」

高森藍子
まゆが4月に転入した高校のクラスメイト。優しいオーラが漂う。

岡崎泰葉
まゆのクラスメイト。前髪ぱっつん、可愛いわね……

のあ「高峯よ」

真奈美「木場だ。よろしく」

まゆ「お世話になってる、高峯さんと木場さんです」

藍子「まぁ、まゆちゃんから話は聞いてます。会えてうれしいですっ」

のあ「よろしく」

真奈美「今日は何をしていたんだ?」

まゆ「藍子ちゃんと私は校内で案内役をやってたんですよぉ」

藍子「お仕事が終わったので、見て回ってました」

泰葉「文化祭みたいで楽しいですよ」

のあ「そう。良い経験になるといいわね」

真奈美「今日はもう終わりか?」

泰葉「お仕事は終わりです。ホームルームまでは、自習です」

のあ「そう。さっきまで川島先生と会ってたの」

藍子「お喋りが好きなんです、わかりました?」

のあ「ええ、とっても」


16 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:26:44.63 :rkcGdnW50

泰葉「でも、実は厳しい所もあるんです。マナーの授業の時とか」

真奈美「そうなのか?そうは見えなかった」

藍子「うふふっ、秋の授業参観でわかると思いますよ」

泰葉「いらっしゃいますか?」

まゆ「もう、のあさんを怖がらせたらダメですよぉ」

のあ「怖がってはいないけれど、参考にするわ」

まゆ「のあさん達は、これからどうするんですかぁ?」

のあ「一回りしてから帰るわ。真奈美、いいかしら」

真奈美「付き合おう」

まゆ「なら、一緒に行きましょう?」

のあ「一緒に?」

まゆ「まだ知らないところがあるから、案内してもらってる所なんです」

藍子「はいっ。ひなたぼっことか猫ちゃんがいる所とか」

泰葉「藍子ちゃん、色んな所を知ってるんです。入っちゃいけないところとか」

藍子「危ないことはしてないですよー」

真奈美「思ったよりもお転婆だな」

のあ「元気なのはいいことよ。だから、ご一緒はしないことにするわ」

真奈美「ああ。私達は私達で見に行こう」

まゆ「そうですかぁ……」

のあ「高森さん、岡崎さん」

藍子「はいっ」

のあ「まゆとこれからも仲良くしてあげて」

泰葉「もちろんです」

のあ「またね、まゆ」

真奈美「夕食の当番は、任せておきたまえ」

のあ「お二人は機会があれば、遊びに来てちょうだい」

真奈美「歓迎しよう」

のあ「真下に良い喫茶店もあるわ」

藍子「まぁ。ぜひ、行きたいですっ」

のあ「楽しみにしてるわ。また、お会いしましょう」


17 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:27:53.72 :rkcGdnW50


星輪学園・裏庭

のあ「教会、ここは静かね」

真奈美「なぁ、のあ」

のあ「星輪はミッション系だったわね。ところで、何かしら」

真奈美「先ほど会った、佐久間君の友達だが」

のあ「高森藍子と岡崎泰葉」

真奈美「ああ。岡崎君の方だが」

のあ「しっかりした子の方ね」

真奈美「どこかで見たことがないか?」

のあ「ないわ」

真奈美「のあが言うなら思い違いか……」

のあ「いつか思い出すわ。人は思い出せないけれど、忘れないから」

真奈美「そう、なのか?」

のあ「そうだと良いと思ってるだけよ」

真奈美「そうだな、そっちの方が良い」

のあ「ええ……あら」

クラリス「こんにちは。ご家族の方でしょうか」

クラリス
星輪学園の住み込みシスター。倫理と宗教の担当教員でもある。

のあ「ええ。はじめまして」

クラリス「この教会に仕えております、クラリスと申します。お見知りおきを」

真奈美「教会なのか?」

クラリス「はい。学外の方にも扉は開いております」

のあ「そう」

クラリス「しかしながら、教会を保つのも一苦労……平日は教員として、働いております」

真奈美「世知辛いな」

クラリス「もともと教会存続のために、始めた学園事業とのことです。正しいあり方のかもしれませんわ」


18 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:29:28.35 :rkcGdnW50

のあ「ここは今日の見学場所にはなっていないのね」

クラリス「いつでも、扉は開いておりますわ。ご興味があれば、日曜日にいらっしゃってください」

のあ「そうするわ」

クラリス「ここでお会いしたのも、ご縁ですわ。短いお話を一つ」

のあ「何かしら」

クラリス「私は授業で宗教を教えております。仕えていない神のことも」

のあ「確か、そんなカリキュラムがあったわね」

クラリス「この世の定義の仕方は、それぞれですわ。お二人は、どう思われますか」

のあ「……考えたこともないわね。真奈美は」

真奈美「修練と成果の繰り返しだ」

クラリス「現世は浄土でありません。ならば、この世界は私達の言葉ではこう言います」

のあ「仏教かしら」

真奈美「浄土宗だったか?」

クラリス「その名は、地獄。穢土と呼ばれているようです」

のあ「……はい?」

クラリス「父や母は去り、残された悲しみにもがき苦しむのは人の子の常ですわ」

のあ「……」

クラリス「人は苦しんでいます。苦しみを続けるぐらいなら、この身ごと灰に帰すべきだと考えるかもしれませんわ」

真奈美「そんな苦しいだけの場所じゃない」

のあ「……そうね」

クラリス「生について、一度考えてみてはいかがでしょうか」

のあ「例えば、あなたにとっては」

クラリス「私には、主がいらっしゃいますから」

真奈美「なるほどな」

クラリス「私は与えられた生と使命を、果たすだけです」

のあ「……」

クラリス「そう難しくお考えならなくていいですわ。心が倒れそうな時に、頼りかかれる柱だとお考え下さい」

真奈美「それは、神でなくてもいいのか」

クラリス「はい。日本では、家族の方が馴染みやすいかもしれません」

のあ「……」

クラリス「私の話は以上ですわ」


19 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:30:08.98 :rkcGdnW50

のあ「こちらからも聞いていいかしら」

クラリス「どうぞ、なんなりと」

のあ「佐久間まゆ、という転入生にその話をしたかしら」

クラリス「……」

のあ「……」

クラリス「人を試すような真似をしてはいけませんね。お話は聞いております、高峯様」

真奈美「知ってたのか」

のあ「いきなり、残された者の悲しみなんて話をシスターはしないわ」

クラリス「はい。佐久間様とは、入学直後にお話をさせていただきました」

のあ「何か、言ってたかしら」

クラリス「私の口から、話すことは出来ません」

のあ「……そう」

クラリス「でも、この世は地獄ではありませんわ。彼女もそう思っています」

のあ「わかってるわ」

クラリス「高峯様、今後ともよろしくお願いいたしますわ」

のあ「こちらこそ」

真奈美「ああ」


20 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:30:40.43 :rkcGdnW50

クラリス「お引止めして申し訳ありませんでした」

のあ「いいえ、思い直す機会になったわ」

真奈美「何をだ?」

のあ「私が何を信じているか」

クラリス「よろしければ、お聞かせくださいな」

のあ「私は私の正義を信じるわ。そうやって、ここに私としているのだから」

クラリス「強いですわ。だけれど、1人で立ち続けるのは大変です」

のあ「ええ。だから、真奈美もまゆもいるわ」

クラリス「時には教会もご利用ください」

のあ「シスタークラリス」

クラリス「はい」

のあ「残された者は、悲しいものなのかしら」

クラリス「私はそうは思いません。悲しみに縛られることなど、ないのですから」

のあ「それならいいわ。お邪魔したわ」

クラリス「神のご加護があらんことを」


21 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:31:56.90 :rkcGdnW50


星輪学園・駐車場

のあ「……遅いわね」

真奈美「待たせてすまない」

のあ「仕事の電話かしら?」

真奈美「その通りだ。フリーの宿命だな」

のあ「急ぎの仕事かしら」

真奈美「そうだ。ゴールデンウィークに、のあの仕事は入っていないな?」

のあ「入っていないわ。いつも通りよ」

真奈美「それならいい」

のあ「何かイベントに駆り出されるのかしら」

真奈美「そんなところだ。最近、芸能事務所に出入りしてる話はしたか?」

のあ「聞いたわ。トレーナーをしてるのでしょう」

真奈美「呼び出された。ちょっとばかり出張してくるよ」

のあ「出張?」

真奈美「佐久間君に、のあのことは任せた。心配するな」

のあ「私の心配はいらないわ。どこに行くのかしら?」

真奈美「長野だ。合宿のお手伝いをしてくる」

のあ「軽井沢?」

真奈美「そんな金持ちの事務所なら、私に声が掛からない」

のあ「それもそうね」

真奈美「廃校を利用した施設だそうだ」

のあ「いつからかしら」

真奈美「今から荷物だけ準備したら出ていく。車は借りていくがいいか?」

のあ「好きなものに乗って行きなさい」

真奈美「感謝する」

のあ「帰りは」

真奈美「水曜日だ」

のあ「ゴールデンウィークの最終日ね」

真奈美「昼には戻る」

のあ「気をつけて行ってきなさい」

真奈美「すまないな。ということで、戻るぞ」

のあ「わかったわ」


22 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:33:32.37 :rkcGdnW50


高峯探偵事務所

のあ「準備は出来たかしら?」

真奈美「必要最小限だな。忘れ物があったら送ってくれ」

のあ「住所と連絡先は、さっきのメモでいいわね」

真奈美「ああ。ケータイは通じにくいかもしれん。固定電話で呼び出してくれ」

のあ「わかったわ。行ってらっしゃい」

真奈美「ガスには気をつけるんだぞ」

のあ「大丈夫よ」

真奈美「余計なお世話かもしれないが」

のあ「いつものことよ。話してみなさい」

真奈美「のあ、ゴールデンウィークの予定はあるか?」

のあ「言ったでしょう、ないわ。家でゆっくりしてるわ」

真奈美「たまの休日だ。出かけてるのもいいぞ」

のあ「私は不定休よ」

真奈美「いずれにせよ、良い休日を」

のあ「ええ。真奈美もがんばりなさい」

真奈美「わかってるさ。お土産を期待しててくれ」

のあ「楽しみに待ってるわ」

真奈美「行ってくる」

のあ「……」

のあ「……あっ」

のあ「お夕飯、どうしようかしら」


23 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:35:22.82 :rkcGdnW50


夕方

高峯探偵事務所

まゆ「ただいま帰りましたぁ」

安部菜々「とある少女は言いました」

安部菜々
喫茶St.Vのウェイトレス。ウサミン星人の元メイドはお料理も得意、とのことで退勤後に呼び出された。

のあ「……」

まゆ「くんくん……いい匂いがします」

菜々「カレー、奇跡起こすから……と」

のあ「つまり」

菜々「のあさんが幾ら失敗しても、カレーは優しく包み込んでくれます!さぁさぁ、自信を持って味見ですよぉ!」

のあ「ええ……神様、私に力を」

まゆ「今日はカレーですかぁ?」

のあ「まゆ、お帰りなさい」

菜々「まゆちゃん、お邪魔してます♪」

のあ「……よし」

まゆ「あれ、真奈美さんはどこですかぁ?」

菜々「お仕事が入ったみたいですよぉ」

のあ「菜々」

菜々「はーい、美味しかったですよね?」

のあ「ええ、驚いたわ……」

菜々「料理が上達するコツは失敗です。失敗を取り返す工夫もです。でも、もっと大切なものがあります、わかりますか?」

のあ「先生かしら」

菜々「ぶぶー。違います、大切なのははぁと、愛情ですっ♪」

まゆ「まぁ……」

菜々「まゆちゃんのために作ろうと思った気持ちが一番ですっ!」

まゆ「うふふ」

のあ「失敗だったかしら、大人しく食べに行けばよかったわ」

菜々「そんなことありませんよ、ね、まゆちゃん?」

まゆ「はい、楽しみです。でも……」

のあ「でも……?」

まゆ「たくさん作りましたねぇ」

のあ「久しぶり過ぎて、分量を見誤ったわ」

菜々「たくさんは美味しさの秘訣ですっ。美容師さん達にもお裾分けしましょう!」

のあ「……そうね」

菜々「まゆちゃんは手を洗ってきてください。そうしたら、いただきますしましょうね」


24 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:37:28.00 :TKVDo7wQ0

10

高峯探偵事務所

まゆ「ごちそうさまでした」

のあ「……どうだったかしら」

まゆ「美味しかったですよぉ」

のあ「本当に」

菜々「ごちそうさまでしたっ!本当ですよね、優ちゃん?」

太田優「うんうん♪美味しいよぉ、St.Vとはまた違って」

太田優
高峯ビル1階の美容室Z-art勤務。ちょうど退勤だったので、カレーをいただきに来た。

まゆ「コクのある味がしますねぇ、隠し味があるんですか?」

のあ「私に覚えはないわ」

優「なんだろ?」

のあ「菜々、何か入れたかしら?」

菜々「ナナは特別なものは入れてませんよ?」

まゆ「なら、なんでしょう?」

菜々「きっと、のあさんの色々が良かったんですねぇ」

のあ「色々ねぇ」

優「それならぁ、ナナちゃん、St.Vのカレーの秘密は?」

菜々「実は」

まゆ「実はぁ?」

菜々「わかりません!」

優「あらら」

のあ「そうなの?」

菜々「いつも雪乃さんがブレンドした状態で仕入れてくるんですよ。作り方は普通のカレーなんです」

のあ「雪乃の購入ルートも謎ね」

槙原志保「こんばんは!ブランマジェを持ってきました!」

槙原志保
喫茶St.Vのウェイトレス。彼女に頼めば、メニューに載ってないパフェも特別に作ってくれるらしい。なお、1個あたり平均800カロリーとのこと。

菜々「志保ちゃん、ありがとうございます!」

のあ「ありがとう」


25 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:38:12.19 :TKVDo7wQ0

志保「どうぞっ。ナナちゃん、カレーはあります?」

菜々「タッパーに詰めておきました!どうぞ!」

志保「いただきます。もう少しお仕事があるので、戻りますね」

菜々「お疲れ様です♪」

まゆ「ありがとうございましたぁ」

優「ねぇねぇ、食べようよー」

菜々「スプーンは……あったあった、どうぞ」

優「ありがとー」

菜々「まゆちゃんもどうぞ、遠慮なく」

まゆ「ありがとうございますぅ」

のあ「一応、私のおごりだけど」

菜々「もちろん、わかってますよぉ」

優「いただきまーす♪」

まゆ「柔らかくて……美味しい……」

のあ「……」

菜々「のあさん、どうですか?」

のあ「美味しいわ」

菜々「偶には喫茶店にも来てくださいね」

のあ「ええ」

まゆ「あの……」

のあ「どうしたの?」


26 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:39:25.32 :TKVDo7wQ0

優「足りなかった?」

まゆ「いえ、カレーの話です……」

菜々「カレーがどうかしました?はっ、St.Vのスパイスはあげませんよ!」

まゆ「どうして、のあさんはカレーを?」

のあ「真奈美が食事当番なのに、仕事に行ったからね」

優「そうじゃなくて、どうして作ろうと思ったかでしょ?」

まゆ「はい……」

のあ「何ででしょうね。自炊も久しぶりで、案の定できなかったわ。菜々には迷惑をかけたわね」

菜々「そんなことありませんよぉ。もし、真奈美さんとまゆちゃんに秘密で料理の練習をしたい時は言ってくださいね?」

のあ「遠慮しておくわ。二人の手料理は美味しいもの」

まゆ「……」

優「うんうん、誰かが作ってくれた料理って美味しいよねぇ」

菜々「家庭の味はいいものですねぇ、ナナもウサミン星の味を思い出します」

優「ウサミン星の家庭料理?」

のあ「ウサギかしら」

優「ジビエってやつ?」

のあ「ウサミン星人は狩猟民族なのね」

菜々「ち、違いますー!ウサミン星人はウサギを食べたりしません!」

まゆ「なら、ふわふわなお菓子かなぁ……?」

菜々「ほら、これが女の子ですよぉ!お二人はまゆちゃんを見習ってください」

のあ「なら、落花生ね」

優「ビワも美味しいよぉ」

菜々「聞いてないですね!」


27 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:40:24.61 :TKVDo7wQ0

のあ「冗談よ」

優「冗談だってばー」

菜々「もう!ところで、何の話でしたか?」

のあ「カレーの話よ。助手に喜んでもらいたいと思ったからよ」

まゆ「うふふ、嬉しいです」

のあ「ありがとう、まゆ」

菜々「めでたしめでたし、です」

優「そういえばぁ、のあさんは最近忙しい?」

のあ「忙しくはないわ」

優「じゃあ、見てもらいたいものがあるんだぁ。えっと、メモは、はい」

まゆ「これは、URLですか?」

優「うんうん。動画があがってるんだ」

のあ「何のかしら?」

優「知りたい?」

のあ「ええ」

優「この前の渋谷の爆発事件の映像と他にも何個か」

のあ「……それは」

菜々「あの事件ですかぁ?怖いですねぇ」

のあ「退屈はしなさそうね」

優「鷹富士神社の近くの映像があって、友達が怖がってるんだよねぇ。調べてくれる?」

のあ「調べてみるわ。真奈美がいないから、帰ってきてからでも」

優「助手ならいるでしょ?」

のあ「はい?」


28 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:41:15.36 :TKVDo7wQ0

まゆ「あの……まゆ、ですか?」

優「そんなことのあさんが言ってなかった?」

のあ「言った気がするわね。そうね、決めたわ」

菜々「はて?」

のあ「まゆ、助手として明日調査に行きましょう」

菜々「いいですねぇ、一緒にお出かけきっと楽しいですよぉ」

優「うんうん。お外に出ないと」

のあ「真奈美もそんなこと言ってたわね……いいかしら、まゆ」

まゆ「もちろんです、お出かけ楽しみ……」

菜々「ああっ!」

のあ「大きな声を出して、どうしたの?」

菜々「ウサミン電波を受信しましたっ!雪乃さんが珍しい紅茶を準備してます。取りに行かないと、待っててくださいね」

優「ウサミン電波って凄いの?」

のあ「私に聞かないでちょうだい」


29 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:41:48.52 :TKVDo7wQ0

11

5/3(日)

高峯探偵事務所前

まゆ「のあさん、遅いな……車を出してくれるって言ったのに」

のあ「まゆ」

まゆ「あ、のあさん……忘れ物ですか?」

のあ「バスで行きましょう。たまにはゆっくりするのもいいわ」

まゆ「えっと……」

のあ「エンジンがかからなかったわ」

まゆ「故障ですかぁ?」

のあ「違うわ。かけられなかった、真奈美はよくあんな外車を運転出来るわね」

まゆ「のあさんの車じゃないんですかぁ?」

のあ「購入者も所有者も私ね。でも、利用者じゃないわ」

まゆ「えっと……買っただけ?」

のあ「投資だもの。適度な利用で価値が上がるらしいわ」

まゆ「まゆ、車のことはわかりませんけど……」

のあ「昔の私は、どうかしてたわね。ええ、真奈美が運転できてよかったわ」

まゆ「……時間もあるから、ゆっくり行くのもいいかも」

のあ「そう言ってくれると助かるわ」

まゆ「最初はどこに行くんですかぁ?」

のあ「警察署よ。鷹富士神社方面の途中にあるから」


30 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:43:34.89 :TKVDo7wQ0

12

清路警察署・科捜研

のあ「電子ピアノかしら」

まゆ「お上手ですねぇ。クラシックのCDに合わせて演奏してるみたいです」

のあ「職員は長期休みだから、気を抜いてるのね」

まゆ「ふふっ……驚かせてみましょうか」

のあ「それもいいわね」

まゆ「あ、演奏が止まりましたぁ」

のあ「気づかれたかしら?」

梅木音葉「どちら様でしょうか、あら……こんにちは、高峯さん、佐久間さん」

梅木音葉
科捜研所属。今年の大型連休は警察署待機。楽器とスピーカーを持ち込んでリラックスムード。

まゆ「お疲れ様です。これ、お土産です」

音葉「ありがとうございます……まぁ、クッキーですか」

のあ「紅茶葉もあるわ。時間のある時に」

音葉「連休中は幾らでも……」

のあ「久美子は?」

音葉「家族で旅行に行ってるそうです……海外だとか」

まゆ「もしかして、一人でお留守番ですかぁ?」

音葉「はい……大きな事件がないと良いのですが」

のあ「そうね」

音葉「ところで……お二人は何かご用ですか」

のあ「暇そうにしてくれてよかったわ」

音葉「さて……気になることがあるのでしょうか……?」

のあ「見てもらいたいものがあるの」


31 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:46:16.45 :TKVDo7wQ0

13

清路警察署・科捜研

音葉「ふむ……」

のあ「サイトにアップされていた動画は3つ」

音葉「一つは渋谷の爆発事件のものですね……」

のあ「その通り」

音葉「なるほど……重要な情報になりそうですね」

まゆ「駅前の火事だったから、他にも動画はあるんじゃないですかぁ?」

のあ「違う点があるのよ」

音葉「爆発する瞬間を捉えています……」

のあ「つまり、何が起こるかわかっているの」

まゆ「それなら、撮った人は……」

のあ「単純に考えると」

音葉「犯人と撮影者が同一人物でしょうか……」

のあ「ええ。もしくは、共犯者」

音葉「他二つは場所も不明ですか……?」

のあ「一つはわかってるわ。トキワメカニカルの小火よ」

音葉「資料を当たってみます……」

まゆ「もう一か所は、どこなんだろう……?」

のあ「わからないわね」

音葉「何とも言えませんが……どこか建物の中なのでしょうか」

のあ「かもしれないわね」

音葉「事件にすら、なっていないかもしれません……」

のあ「ええ」

音葉「お話はわかりました……私なりのアプローチが出来ます」


32 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:46:42.02 :TKVDo7wQ0

のあ「それは」

音葉「この動画は加工されていますが……重要な点が」

まゆ「えっと……?」

音葉「爆発音が入っています……少なくともその時だけは」

のあ「つまり、何が出来るのかしら」

音葉「やってみないとわかりませんが……近くに誰かがいるのがわかるかもしれません」

のあ「お願いしていいかしら」

音葉「わかりました……期待なさらずに」

のあ「期待してるわ。私達はこれで」

音葉「どちらか……お出かけですか」

のあ「鷹富士神社周辺に行ってみるわ。何はともあれ、情報収集でしょう」


33 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:47:42.64 :TKVDo7wQ0

14

鷹富士神社前バス停

まゆ「静かですねぇ」

のあ「日頃のお出かけにはいいけれど、旅行には近すぎるのね」

まゆ「今度は、遠くに旅行もいいかも」

のあ「真奈美がいる時にしましょう」

まゆ「心強いですからねぇ」

のあ「ええ。海外でもどこにでも行ける気がするわ」

まゆ「ふふっ。パスポートを取らないと……」

のあ「まずは、参拝しておきましょうか」

まゆ「神社ですかぁ?」

のあ「ええ。女神様がいるようだから」

まゆ「女神?」

のあ「行けばわかるらしいわ」


34 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:49:02.66 :TKVDo7wQ0

15

鷹富士神社・社務所

鷹富士神社
この土地に古くからある神社。お祝いごとには最適とのこと。

まゆ「火事、ですか……」

鷹富士茄子「はい。ご相談が多いんですよ~」

鷹富士茄子
たかふじかこ。本名。鷹富士神社の一人娘。ご神体よりもご利益がありそう。

のあ「相談が多いの?」

茄子「はい」

のあ「不思議ね。火事の相談なら、警察でしょう?」

茄子「本当ですか?」

のあ「何が言いたいのかしら」

茄子「人の仕業とは限りませんよ」

のあ「妖怪や呪いの仕業だと?」

茄子「そう思いたくもなります」

まゆ「……」

茄子「だから、アドバイスをしてるんですよー」

のあ「例えば?」

茄子「お掃除をしましょう。日当たりをよくするために、窓のまわりに物を置かないように」

まゆ「それは……」

のあ「火事の原因を減らすだけ。合理的ね」

茄子「そうかもしれないですねー。後は、お話をしますよ」

のあ「説法かしら」

茄子「いいえ。美味しいご飯のお話とか、かくし芸の話とか」

まゆ「えっと、どうしてですかぁ?」

茄子「妖怪は見なければ、見えませんから」

のあ「視線を逸らすのね」

茄子「火事も、悪い事もきっと同じです」

のあ「探してしまうから、見つかるのね」

まゆ「なるほど……」


35 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:49:34.45 :TKVDo7wQ0

茄子「最近はご近所さんで小火が何個かあったので、皆さん心配になってます」

のあ「そうね」

茄子「それと」

まゆ「他にもあるんですかぁ?」

茄子「火事が起こってる気がするけど、起こってないそうですよー」

のあ「どういうことかしら?」

茄子「わかりません」

まゆ「そう思うのに……起こってない……」

のあ「あなた、何かが起こってると思う?」

茄子「私、幸運なんですよ♪」

のあ「はい?」

茄子「きっと、どちらかわかります」

のあ「そうね。どちらかわかったら、知らせるわ」

茄子「ありがとうございます。ご報告してくれたら、鷹富士神社のご馳走をご用意します~」

まゆ「まぁ、いいんですかぁ……?」

茄子「もちろんです」

のあ「がんばるとしましょう。それで、聞いていいかしら」

茄子「なんですか?」

のあ「近所の事情は知ってるかしら」

茄子「少しだけですけど。昔から地域の中心でしたから」

のあ「また、話を聞きに来るわ。行きましょう、まゆ」

まゆ「はぁい、のあさん」


37 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:51:19.54 :TKVDo7wQ0

16

トキワメカニカル・倉庫

トキワメカニカル
小さな町の優良部品メーカー。従業員は先週水曜日から大型連休。

のあ「警備員に断って入れてもらったけど」

まゆ「ここですかぁ」

のあ「そうみたいね」

まゆ「もう片付けられちゃってますねぇ……」

のあ「そこは警察に任せればいいわ。問題よ、まゆ」

まゆ「問題?」

のあ「私達が見るべきことは?」

まゆ「えっとぉ……警察は調べてなくて……あっ」

のあ「わかったかしら」

まゆ「撮影した場所、ですかぁ?」

のあ「正解よ。それ以外は調べてないもの」

まゆ「うーん、上からでしたよねぇ……」

のあ「敷地内でもなさそうね」

まゆ「確か、こっちから……」

のあ「上から。かつ、自由に入れそうな場所」

まゆ「あそこでしょうか……?」

のあ「アパートね。その前に」

まゆ「他にもあるんですか?」

のあ「少なくとも爆発物は置かないといけない」

まゆ「忍び込んだ……とか?」

のあ「出入りがある人物かもしれないわ。例えば、社員」

まゆ「うーん……」

のあ「監視カメラはこの辺りには無いようね。通用口が近いだけ」

まゆ「……」

のあ「何か思いついたかしら?」

まゆ「ううん、わからない……」

のあ「私もよ。そこのアパートに行ってみましょう」


38 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:52:20.74 :TKVDo7wQ0

17

アパート・メゾンドシャルル

メゾンドシャルル
主に独身女性がターゲットのアパート。内装の評判は良い。どこかの財閥資本だとか。

のあ「建物は4階立て」

まゆ「可愛らしいアパートですねぇ」

のあ「屋上に上がられるかしら」

持田亜里沙「こんにちは。誰かのお客様ですか?」

持田亜里沙
メゾンドシャルルの204号室の住人。鷹富士神社の向かいにある幼稚園勤務。

まゆ「こんにちは」

のあ「ちょうどいいわ。管理人はいるかしら?」

亜里沙「管理人さんですか?」

のあ「ええ」

亜里沙「GWなので旅行中なんですよ。でも、ラッキーです」

まゆ「ラッキー……?」

亜里沙「私が管理人代理ですよぉ。今もお掃除してるんです♪」

のあ「それは良かったわ。見せてもらいたいところがあるの」

亜里沙「もしかして、入居希望ですか?」

のあ「違うわ。屋上を見せてもらいたいの」

亜里沙「屋上……?」

のあ「いいかしら。ダメなら、アパートごと買うわ」

亜里沙「え……ええ!追い出されちゃうのはダメですっ!」

まゆ「のあさん、本当に……」

のあ「冗談よ。いいかしら」

まゆ「ついに横暴なお金持ちになっちゃったのかと……」

のあ「まゆ、真奈美みたいなことを言うのね」


39 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:52:54.96 :TKVDo7wQ0

亜里沙「屋上は大丈夫です。フェンスも高いので、出入りは自由ですよ」

のあ「そうなのね。入らせていただくわ」

亜里沙「どうぞ。帰る時にも声をかけてくださいね」

のあ「ありがとう」


40 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:54:05.56 :TKVDo7wQ0

18

メゾンドシャルル・屋上

まゆ「言ってた通りですねぇ」

のあ「フェンスが高い」

まゆ「みんな、ここに洗濯物を干してるのかなぁ……気持ちよさそう」

のあ「ここで撮影しても、フェンスが映るわ」

まゆ「隙間から、撮影したとか……?」

のあ「角度が足らないと思うわ。まゆ、見て」

まゆ「本当……それなら、あそこ」

のあ「給水タンク。階段の上」

まゆ「ハシゴがありますねぇ。でも、届かない……」

のあ「台座でもあれば、まゆでも登れるわ。そこで待ってなさい」

まゆ「わっ……のあさん、身軽ですねぇ」

のあ「撮影するのは出来そうね。三脚も置ける」

まゆ「のあさん、どうですかー?」

のあ「写真だけ一枚とるわ……オッケー。降りるわ」

まゆ「のあさん、運動も出来るんですねぇ」

のあ「私が出来るのは柔道と走ることくらいよ」

まゆ「まゆは、運動は苦手ですねぇ……」

のあ「少しずつ慣れて行けばいいのよ。真奈美や留美のようには、なれないでしょうけど」

まゆ「真奈美さんはそんな気がしてましたけど、あの刑事さんも凄いんですかぁ?」

のあ「ええ。無駄な筋肉はないから、スーツだとそうは見えないわね」

まゆ「へぇ……」


41 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:55:11.48 :TKVDo7wQ0

のあ「まゆ、さっきの写真を見てちょうだい」

まゆ「この角度ですねぇ」

のあ「撮影場所はここで間違いないでしょうね」

まゆ「でも、困りましたねぇ」

のあ「出入りは自由。給水タンク付近に登るのも難しくない」

まゆ「小さなハシゴさえ持って来れば、簡単ですねぇ」

のあ「誰かを特定するには至らない」

まゆ「ふむ……」

のあ「戻りましょうか」

まゆ「さっきのお姉さんに会いにいきましょう」

のあ「あら」

まゆ「どうしましたかぁ?」

のあ「誰かと話してるわ。行ってみましょう」


42 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:56:46.82 :TKVDo7wQ0

19

メゾンドシャルル・玄関前

亜里沙「あっ、どうでしたか?」

のあ「目的は達成されたわ」

浜川愛結奈「亜里沙、どちら様かしら」

浜川愛結奈
メゾンドシャルルの205号室の住人。職業はデザイナー。今日もスーツ姿。

亜里沙「そういえば、自己紹介もまだでした」

のあ「高峯よ。探偵をやってるわ」

まゆ「助手の、佐久間まゆ、です……」

愛結奈「探偵?」

のあ「名刺をあげるわ」

亜里沙「まぁ、探偵さん!屋上を調べてたんですか?」

のあ「そんなところよ」

愛結奈「浜川よ。近くのジェミニっていうデザイン事務所に勤めてるわ」

亜里沙「持田です。幼稚園の先生をやってます」

愛結奈「部屋はワタシが205、亜里沙が204よ」

のあ「お隣なのね」

亜里沙「愛結奈さん、今日もお仕事だったんですか?」

愛結奈「休みの自由が利くのよ。静かな会社で仕事もいいわよ?」

亜里沙「難しいですねー。というか、仕事になりません」

愛結奈「それもそうね。ところで、探偵さんは何を調べていたのかしら」

のあ「トキワメカニカルの火事、知ってるかしら」

愛結奈「知ってるわ。大騒ぎだったわよ」

亜里沙「ええ。救急車とかパトカーが集まってました」

愛結奈「ベランダから見たわね」

亜里沙「私は屋上から」

のあ「屋上で爆発ところを撮影してた人物がいるみたいなの」

まゆ「それで……不審な人とか見ませんでしたかぁ?」

愛結奈「私は見てないわね。亜里沙は?」

亜里沙「うーん、覚えがないですね」

愛結奈「警察が話を聞きに来てたわ。そんな人がいるなら、もう話してるわよ」

のあ「そのようね」

亜里沙「爆発事件、解決しませんね。渋谷駅前でも起こったみたいで、保護者が心配してるんです」

愛結奈「それの調査をしてるのね」

のあ「そんなところよ」

愛結奈「犯人、見つかりそう?」

のあ「簡単に見つかるなら、もう警察が解決してるわ」

愛結奈「でしょうね。がんばってちょうだい」


43 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 21:59:53.97 :TKVDo7wQ0

のあ「ええ。他に小火とか聞かないかしら」

亜里沙「愛結奈さん、聞きますか?」

愛結奈「聞かないわね。他の人にも聞いてみるといいんじゃないかしら」

のあ「どこか、話を聞くにはいいところがあるかしら?」

亜里沙「ムーンパレスとかパピヨンもいいかもしれませんね」

まゆ「ムーンパレスに、パピヨン……メモを……」

愛結奈「そういえば、世間はゴールデンウィークなのね。なら、そこの雑居ビルにある会社に行くといいわ。営業中だと思うわ」

のあ「休日なのに?」

愛結奈「休みだから、よ。GP社っていう小さな会社だから、行ってみれば?」


44 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:00:48.55 :TKVDo7wQ0

20

GP社・応接室

GP社
小さな2階建ての建物にある会社。営業日は平日夕方と休日。応接室とオフィスは2階。

のあ「……落ち着かないわ」

まゆ「のあさん、この雑誌見てください」

のあ「どうしたの、まゆ」

まゆ「この会社の商品が紹介されてますよぉ、アクセサリーみたいです」

のあ「ふーん……女子中高生向けね。値段もその層特有」

まゆ「ファッションの会社なんでしょうか?」

のあ「違うんじゃないかしら。主な業務は、人材派遣よ」

まゆ「派遣会社なんですかぁ?」

のあ「それは言い過ぎね」

桐生つかさ「その通り。待たせたか?」

桐生つかさ
GP社の高校生社長。同年代に向けた仕事を同年代に与えるのが業務とのこと。

のあ「こんにちは」

まゆ「あら……もしかして」

つかさ「桐生つかさ、これ、名刺だから」

のあ「高峯よ。こっちは助手の佐久間」

まゆ「よろしくお願いします、社長さん」

のあ「名刺もあげるわ。困った時は連絡してちょうだい」

つかさ「生憎、成人の手を借りるような困りごとはこの会社に……なんだ、探偵なの?」

のあ「ええ。高峯探偵事務所を経営してるわ」

つかさ「へぇ、儲かるの?」

のあ「もちろん、儲からないわ」


45 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:01:32.33 :TKVDo7wQ0

つかさ「その割には、って感じだな」

のあ「何がかしら?」

つかさ「良いスーツだな、オーダーメイド?」

のあ「そこまで高級品じゃないわ」

つかさ「靴、時計、さっきの名刺入れといい、良い物してんな」

のあ「気のせいよ」

つかさ「それで、そっちのお嬢さんは普通だな。バイト代は渋いのか?」

まゆ「バイト代ですかぁ……?」

つかさ「なんで、不思議そうな顔するんだよ?アンタも高校生だろ?」

のあ「アルバイトじゃないから。家族営業の探偵事務所にそんなのあるわけないじゃない」

つかさ「なら、アンタのどこから金が出てるんだよ?」

のあ「そうね。本当は暇つぶしに事件を調べに来た探偵のつもりだったのだけど」

つかさ「ハァ?そんなことで、アタシの時間を取ってるわけ?」

のあ「横暴な金持ちになってみようかしら」

まゆ「のあさん、根に持つタイプなんですかぁ……」

のあ「経歴で人を黙らせるのは好きではないけれど、仕方ないわね。こっちの名刺もあげるわ」

つかさ「なんだ……前川みくニャンニャン親衛隊?」

のあ「間違えたわ。こっちよ」

つかさ「つうか、さ。さっきのより、呆気にとられるわけな……ふぅん」

のあ「私は経営者ではないから、出来ることは少ないわ」

つかさ「投資家かよ。元手は?」

のあ「親が資産家だったの、スタートラインが違うのよ。じゃあ、聞かせてもらいましょう」

つかさ「何をさ」

のあ「この会社の価値を。投資するか、客になるか、あなたに決めさせてあげる」

つかさ「わかったよ。そこで、待ってな」

のあ「何故かしら?」

つかさ「資料とコーヒーが必要みたいだからな」


46 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:02:21.95 :TKVDo7wQ0

21

GP社・応接室

まゆ「お洋服とかも取り扱ってるんですねぇ」

のあ「まぁ、副産物かしらね」

つかさ「そういうこと。本当の仕事は」

まゆ「高校生のアルバイト紹介ですかぁ?」

つかさ「そんな小さいことはしない」

のあ「価値は産み出すものね」

つかさ「そういうこと。アタシらの世代しか出来ないことは幾らでもある」

のあ「才能も労働力も埋もれているかもしれない」

つかさ「チャンスがないだけっしょ。もっと言えば、リスク背負わなくていいチャンスがさ」

のあ「学生生活に専念しろ、ということかもしれないわ」

つかさ「専念したところで、無駄なだけだ」

のあ「あなたにはそうかもしれないわね」

つかさ「アンタも何かあるか?」

まゆ「私、ですかぁ……?」

つかさ「何でもいいさ。得意なことはあるか?」

まゆ「編み物、とか……」

つかさ「変な形のテーブルにかけるクロスは作れるか?」

まゆ「たぶん……売るほど上手じゃないかも」

つかさ「それでもいい。本当のプロは高すぎるし、そもそもだ」

のあ「それほど高級品はいらない」

つかさ「そういう商売だよ。ま、単純にアルバイト派遣もやってるけど」

のあ「大体はわかったわ」

まゆ「素敵なお仕事ですねぇ」

つかさ「そう言ってくれると、助かる」


47 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:02:56.19 :TKVDo7wQ0

のあ「利益は」

つかさ「出てる。投資が少ないからな」

のあ「そう。それじゃあ、本題」

つかさ「本題、ってなんだよ?」

のあ「正直なところ、あなたの事業に興味はないわ」

つかさ「おやおや、ハッキリ言うな」

のあ「元手の少ない素人は煩雑なだけ。小さな利益を出すのは、高校生の経験値稼ぎにはなるでしょうね」

つかさ「つまり?」

のあ「次に期待するわ。だから、ここに会社がある理由が知りたい」

つかさ「土地か」

のあ「駅からは近くはないわ。住居と商業はどちらも突出していない」

まゆ「神社も近くて良い所ですよぉ」

のあ「どうして、かしら?」

つかさ「建前から。バス停、高校は近くにある。歩いても自転車でも問題ない」

のあ「それに、ここに来る理由はないものね」

つかさ「そうだな。面接はするけど、来なくてもいい」

のあ「では、本音は」

つかさ「借りるのが安かったからだよ」

のあ「そんなところでしょうね」

つかさ「変な話もあるしさ」

まゆ「変な話……」

つかさ「爆発事件も小火もあったしさ、あまりよくない場所だと思われてる」

のあ「ふむ」

つかさ「これは偶になんだが、こんなこと言うヤツがいるんだよな」


48 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:03:42.33 :TKVDo7wQ0

まゆ「それは、なんでしょうかぁ?」

つかさ「焦げ臭い」

のあ「焦げ臭い?」

つかさ「後は、誰かに見られてるとかな」

まゆ「事件と関係があるのでしょうか……」

つかさ「堂々としていられないから、不安になるんだよ。いつだって、自分の可能性を狭めてるのは自分だろ?」

のあ「……そうかもしれないわね」

つかさ「プラスじゃないな。でも、アタシには追い風」

のあ「次の場所へ行くから」

つかさ「そういうこと。這い上がるのをダサいって逃げてるほうがダサいだろ?」

のあ「今後に期待してるわ。行きましょう、まゆ」

つかさ「今後とも、ご贔屓に」

のあ「少しだけ、他の人にも話を聞いていいかしら?」

つかさ「ああ。でも」

のあ「でも?」

つかさ「変なことは聞くなよ?今いるのは、本当に普通の高校生だけだから」


49 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:05:20.14 :TKVDo7wQ0

22

レストラン・ムーンパレス

ムーンパレス
月宮さんのご夫妻が営むレストラン。ランチはお手頃価格。

月宮雅「いらっしゃいませぇ~。何名様ですか?」

月宮雅
月宮家の娘さん。ウェイトレス姿は最高にカワイイだろう、だが娘はまだ嫁にやらん、とお父様談。

のあ「二人よ。空いてるかしら?」

雅「はぁい、こちらへどうぞ」

のあ「ありがとう……あら」

和久井留美「げっ」

三船美優「留美さん……どうしました?」

和久井留美
刑事一課和久井班班長。休みの時ぐらい同級生とランチにも行くわよ。

三船美優
留美の同級生。留美と違って、犯人を投げ飛ばしたりしなそうね。

留美「……」

のあ「……」

美優「あの……目だけで会話しないで……」

まゆ「留美さん、こんにちはぁ」

留美「こんにちは、まゆちゃん。それと、のあも」

のあ「そちらは?」

留美「美優ちゃんよ、大学の同級生だったの」

美優「三船美優です、はじめまして……」

のあ「はじめまして。高峯のあよ」

まゆ「佐久間まゆ、です」

のあ「暇つぶしよ。GP社のバイトに話を聞いてきたわ」

留美「やっぱりね」

のあ「そっちも、かしら」

留美「美優と仕事のことを考えてると怒られるのよ」

のあ「留美には必要ね」

美優「お休みの時くらい……ね?」

のあ「私もそう思うわ」

留美「私のことはともかく。藪をつついて蛇を出すことをしないでちょうだい」

のあ「わかってるわ」

留美「そうならいいけど」

のあ「邪魔したわね。ランチ、美味しいかしら?」

美優「はい、スープが美味しいです……」

留美「ランチセットなら、付いてくるわ」

まゆ「まぁ、楽しみ……♪」


50 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:06:28.78 :TKVDo7wQ0

23

レストラン・ムーンパレス

まゆ「のあさん」

のあ「エビフライが美味しいわね……何かしら、まゆ?」

まゆ「のあさんの好きな物はなんですか?」

のあ「ハンバーグかしら」

まゆ「他にありますか?」

のあ「そうね……あまり、食事に興味がなかったわ」

まゆ「そうだったんですかぁ?」

のあ「真奈美が来る前は、何を食べていたかも思い出せないわ」

まゆ「そうなんですか……?」

のあ「だから、子供の頃に食べていたものが好きよ。ハンバーグもかしら」

まゆ「なら、好きになった、ものはありますか?」

のあ「いっぱいあるわよ。山椒も好きよ」

まゆ「まぁ。山椒ですかぁ……」

のあ「何でも食べるわ。まゆも、作りたいものを作ってくれるといいわ」

まゆ「ふふっ、それじゃあ、お勉強しないと」

のあ「楽しみしてるわ。まゆは、何が好きかしら?」

まゆ「なんだろう……」

のあ「家庭の味とか、あるのかしら?」

まゆ「ずんだとか……?」

のあ「ご家族が仙台出身だったの?」

まゆ「はい。お母さんが作ってくれて……教えてくれました」

のあ「そう。今度、真奈美にも教えてあげて。郷土料理のレパートリーを増やしたがってたわ」

まゆ「真奈美さんは何を目指してるんだろう……?」

のあ「さぁ。自分を磨いていくのが楽しいタイプなのよ、きっと」


51 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:08:03.80 :TKVDo7wQ0

雅「食後のコーヒーをお持ちしましたぁ♪」

まゆ「ありがとうございます」

雅「お砂糖とミルクはここに置きますねぇ。ごゆっくり~」

のあ「ごめんなさい、少しだけいいかしら?」

雅「追加のご注文ですかぁ?オススメは焼リンゴですよぉ~、パパ、じゃなかった、お父さんの自信作ですぅ」

まゆ「まぁ、お父さんがシェフなんですかぁ?」

のあ「美味しいの?」

雅「とっても♪小さい頃からぁ、大好きです~」

のあ「それ、いただこうかしら。まゆもどうかしら?」

まゆ「なら、まゆもいただきます」

雅「かしこまりましたぁ~」

のあ「デザートの話じゃないわ。ひとつ、聞いていいかしら」

雅「どうしましたかぁ?」

のあ「爆発事件とか小火とかのこと、知らないかしら?」

雅「時和さんのところで、事故があったんですよねぇ」

まゆ「何か知ってるんですか?」

雅「ううん。時和のところはしっかりしてるし、そんなこと起こさない、ってパパが」

のあ「そう。他には何か知らないかしら?」

雅「ママもそのことは話さないしぃ、えっと……あ、そうだ」

のあ「何でもいいわ。話してみて」

雅「なんかねぇ、パパがコーヒーの味が変わった、って言ってましたぁ」

まゆ「変わった?」

のあ「別に、変な所はないわ。美味しいわよ」

まゆ「まゆも、そう思います」

雅「みやびぃもわからないけど、パパは嘘なんてつかないし……」

のあ「何かあるのかもしれないわね」

まゆ「はい」

のあ「さっきの二人、何か話してたかしら?」

雅「あのさっき出て行った、綺麗なOLさん?達ですよねぇ」

のあ「事件のことかしら?」

雅「ううん、楽しそうに昔話をしてましたよぉ」

のあ「そう。なら、いいわ」

雅「焼リンゴ、準備しますね~。コーヒーのお替りもあるからぁ、言ってくださいねぇ♪」


52 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:09:29.20 :TKVDo7wQ0

24

佐藤被服クリーニング店

佐藤被服クリーニング店
佐藤さんが経営する地元の裁縫屋さん。洋服の直し、クリーニングまで丁寧な作業で評判。

まゆ「こんにちはぁ」

のあ「誰もいないのかしら」

まゆ「誰かいませんか……?」

佐藤心「zzz……」

佐藤心
佐藤被服クリーニング店の店主。派手な格好と裏腹に、亡き父親譲りの技量を兼ね備えている。

まゆ「お休み中みたいですねぇ」

のあ「出直しましょうか」

心「はっ……」

まゆ「起きました」

心「……お客さん?」

のあ「違うわ。ムーンパレスのお嬢さんから紹介されて、話を聞きに来ただけよ」

まゆ「お休みの邪魔だったでしょうかぁ……」

心「優しいけど、業務時間に寝てるのが悪いんだぞ☆」

まゆ「お疲れなんですかぁ……?」

心「はぁとはいつも元気いっぱいだぞ☆」

のあ「居眠りしてたじゃない」

心「仕事が重なってましたー。クリーニングの依頼がドドっと」

まゆ「無理はしないでくださいね?」

心「やさしい……」

のあ「知ってるわ」

心「それで、話ってなにかな☆みやびぃの紹介?」

のあ「ええ。爆発事件について、調べてるの」

心「爆発事件?」


53 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:09:59.44 :TKVDo7wQ0

まゆ「はい。店員さんが言うには、ずっとここにお店があるとか」

心「20年前くらいかな?」

のあ「なら、色々知ってるでしょう?」

心「色々ってなに?井戸端会議とか?」

のあ「そういうことよ。紹介が遅れたわね、高峯よ。探偵をやってるわ」

心「探偵?フリン調査とか?やーん、はぁとそんなの知らなーい」

のあ「フリン調査は経験があるけど、今回は違うわ」

心「さっき言ってたじゃん、爆発事件でしょ?」

のあ「トキワメカニカルの件、何か知ってるかしら」

心「わかんない。うちのお客様なんだけどねー」

まゆ「そうなんですかぁ?」

心「そうそう。忙しいのも、連休前にそこから依頼が来たから」

のあ「業者の出入りは多いのかしら?」

心「少なくはないんじゃない?」

のあ「そう」

まゆ「他の事件についても知ってますかぁ?」

のあ「例えば、渋谷の事件とか」

心「見た見た、ニュースで。大爆発炎上だったよねー」


54 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:10:33.50 :TKVDo7wQ0

のあ「あとは、この近所で小火があるとか」

心「ないない、そんな……あ、2区画となりの旦那さんが寝タバコで小火だしたとか?」

のあ「本当に?」

心「何が?」

のあ「原因よ、小火の」

心「それは本当。燃えてたの寝室の畳ぐらいだったらしいしー」

のあ「ということは、特に何も知らないのかしら」

心「うん、そういうこと。でも、気をつけないと危ないぞ?」

まゆ「どうして……ですか?」

心「いつどこで、爆弾魔の怨みを買うかわからないでしょ?」

のあ「そうね、気をつけるわ」

心「はぁとも気をつけなくちゃ☆」

のあ「……」

まゆ「ここはお一人でやってるんですか?」

心「基本的には。忙しい時は近所の奥様をバイトで雇ったり。お前はどうなんだ?乙女にそんなことを聞くんじゃないぞ☆」

のあ「未婚なのね。ご家族は?」

心「お母ちゃんは早々に。お父ちゃんは、はぁとに自宅と店と設備と技術と、それに……」

まゆ「それに……?」

心「……それは秘密だぞ☆」

まゆ「きっと、良いものなんですねぇ」

心「そうそう!だから、しんみりする話はやめやめ☆」

のあ「そうするわ。お仕事中、邪魔したわね」

心「こちらこそ、起こしてくれてありがと☆」

のあ「話は変わるけれど、パピヨンというお店は紹介されたわ」

まゆ「他にも、今日お話を聞けそうなところはありますかぁ?」

のあ「ウワサや事件に敏感な人がいいわ」

心「なら、マッドハッターの芽衣子ちゃんとか?」

まゆ「マッドハッター……アリスですかぁ?」

のあ「帽子屋なのかしら」

心「銀髪のお姉さん、大正解☆」

のあ「地図を書いていただけるかしら。訪ねてみるわ」


55 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:11:27.72 :TKVDo7wQ0

25

インテリア雑貨店・パピヨン前

パピヨン
国内外のインテリア雑貨を取り扱うお店。店主は岸部彩華さん、だそうですよぉ。

貼紙『お昼休み中でぇす。30分ほどで戻ります 岸部』

まゆ「あらぁ、お昼休み中ですねぇ」

のあ「出直しましょうか」

まゆ「クリーニング屋さんが教えてくれた、帽子屋さんに行ってみますかぁ?」

のあ「そうしましょう」

まゆ「のあさん、あのキルト見えますか?」

のあ「ええ。良いデザインをしてるわね」

まゆ「ふふっ、楽しみです」

のあ「そう」

まゆ「のあさんは、カワイイ雑貨とかは嫌いですかぁ?」

のあ「キライじゃないわ、たぶん」

まゆ「たぶん?」

のあ「知らないだけよ、教えてくれると嬉しいわ。さ、行きましょうか」


56 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:12:12.09 :TKVDo7wQ0

26

鷹富士神社周辺・十字路

のあ「……」

まゆ「えっと、この十字路を右……」

のあ「まゆ、待ちなさい」

まゆ「あれ、地図の見方を間違ってました……?」

のあ「それは正しいわ。あそこ、見えるかしら」

まゆ「見えますよぉ。エプロン姿のお姉さんが見えます」

のあ「本を抱えてるわね」

まゆ「本屋さん、でしょうか?」

のあ「行けばわかるわ」


57 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:13:56.51 :TKVDo7wQ0

27

書店・Scame

Scame
鷺沢文香が経営する書店。国内外問わず、多種多様な本が所狭しと並べられている。

まゆ「こんにちは」

鷺沢文香「いらっしゃいませ……ご自由にどうぞ……」

鷺沢文香
書店・Scameの店主。本好きが高じて、古書と海外からの輸入販売のお店を持つまでになった。

まゆ「わぁ、凄い……これ英語かなぁ……」

のあ「店名通りなのかしら?」

文香「阿漕な商売はしていません……安心してください」

のあ「そう祈ってるわ」

まゆ「お料理の本とかもあるんですかぁ?」

文香「はい……2階へどうぞ……」

のあ「英語なら真奈美が読めるわ。気になる本があったら、持ってきなさい」

まゆ「はい、ふふっ♪」

のあ「あなたも語学には堪能なのかしら?」

文香「いいえ……日本語とほんの少し英語だけ……」

のあ「フランス語とグリーンランド語が見えたわ」

文香「お客様がいたので……何冊か気になるものをこの機会に、と……」

のあ「そう」

文香「私は、あくまで仲介者ですから……」

のあ「それも寂しいことじゃないかしら。せっかくだから、職権を乱用するといいわ」

文香「……」

のあ「何か間違ったことを言ったかしら。いや、言ったわね」

文香「その物語に……参加する権利すらないのではないでしょうか……」

のあ「言語を高い障壁に設定しすぎじゃないかしら」

文香「私は、本が好きなだけですから……」

のあ「それでいいと思うわ」

文香「いつでも、そのつもりです……」


58 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:14:58.62 :TKVDo7wQ0

のあ「大人しそうに見えて、我が強いのね。私は評価するわ」

文香「褒められて、いるのでしょうか……?」

のあ「ところで、身の回りで不審なことは起こってないかしら?」

文香「不審なこと……万引き対策はしてます……」

のあ「小火とか」

文香「……小火」

のあ「あるいは、爆発事件」

文香「知っています……トキワメカニカルでしたよね」

のあ「何か知っているのかしら」

文香「当日、燃えているのを見たので……大騒ぎでした」

のあ「不審な人物を見かけなかったかしら。例えば、その様子を撮影してる人物」

文香「いいえ……いなかった、と思います……」

のあ「そう。なら、犯人に心当たりは?」

文香「ありません……あの、どうしてそんなことを聞くのですか……?」

のあ「趣味よ。それ以上じゃないわ」

文香「さきほど来店したお二人もそんな話をしていました……一人は……」

のあ「警察官だったのかしら」

文香「……その通りです。何か悪いこと……爆発予告でもあったのでしょうか」

のあ「今の所はないみたいよ」

文香「次はあると……言いたいのですか」

のあ「そんなことは言ってないわ」

文香「そうですか……」

まゆ「のあさん」


59 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:15:50.27 :TKVDo7wQ0

のあ「まゆ、何か見つかったかしら?」

まゆ「じゃん……えへへ」

文香「それは……」

まゆ「アメリカかイギリスかなぁ、の家庭料理の本みたいです」

のあ「英語ね。買ってあげるわ」

まゆ「いいですよぉ、まゆのお小遣いで払います」

のあ「お出かけの時くらい、良い所を見せてちょうだい。幾らかしら?」

文香「150円です……」

のあ「150円?」

まゆ「こんなに、立派な冊子なのに……?」

文香「とある自治体が家庭生活の充実、郷土料理の伝承を目指して、各家庭に一冊配布した……文字通り全ての家庭が持っている一冊です……金額的な価値はありません」

のあ「へぇ」

文香「役目を終えた本……その地域の誰もが知ってるので、不要になったのですから……金額的な価値はなくなって、人々には大切なものを与えた本なのですよ……」

まゆ「まぁ……素敵」

のあ「いただくわ。読む時は真奈美に協力してもらいましょう」

文香「お買い上げありがとうございます……袋を用意しますから、待っていてください……」


60 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:16:58.41 :TKVDo7wQ0

28

帽子店・マッドハッター

マッドハッター
最近オープンした帽子屋さん。店舗はどことなく無国籍。

並木芽衣子「爆発事件の話?」

並木芽衣子
帽子屋・マッドハッターの店主。明るく陽気なマッドハッター。

のあ「何か知ってるかしら」

芽衣子「知ってるよー。トキワメカニカルのでしょ?」

のあ「ええ」

芽衣子「見たよ?アパートの屋上から」

のあ「メゾンドシャルル?」

芽衣子「そうそう」

まゆ「そこに住んでるんですかぁ?」

芽衣子「ううん、その近くの安アパート。愛結奈さんとかはそこに住んでるよね」

のあ「さっき会ったわ」

芽衣子「たくさん見物の人がいたよ。まゆちゃん、ストップ」

まゆ「はい?」

芽衣子「うーん……はいっ!」

まゆ「ハットですかぁ?」

芽衣子「やっぱり、ピンクかな?こっちもつけてみて」

まゆ「たくさんあるんですねぇ」

のあ「ふむ」

まゆ「リボンとカチューシャはたくさんあるんですけど……帽子は新鮮です」

芽衣子「へー。あっ、鹿撃帽とかどう?」

まゆ「まゆは、のあさんの助手ですから、うふふ、似合いますかぁ?」

のあ「地味ね」

芽衣子「うん、これは探偵さんの方かな?」

のあ「どうかしら?」

まゆ「雰囲気がありますよぉ。カッコイイです」

芽衣子「雰囲気は出るけど、ちょっと違うかな?」

まゆ「そうですねぇ」

芽衣子「銀髪に似合う、あっ、まゆちゃんには紫とか?」

のあ「良いかもしれないわね」

芽衣子「はい、どーぞ」

まゆ「ありが……もごもご」


61 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:17:53.93 :TKVDo7wQ0

のあ「少し大きかったわね」

芽衣子「あらら、のあさんも被ってみる?」

のあ「どうかしら?」

まゆ「似合ってますよぉ」

芽衣子「うんうん」

のあ「たまの気分転換にはいいわね」

まゆ「お返ししますねぇ」

芽衣子「やっぱり、まゆちゃんはリボンが似合うかな。のあさんの銀髪を隠すのももったいない」

まゆ「のあさんの髪、とっても綺麗ですよねぇ」

芽衣子「綺麗なストレート憧れちゃうな。秘訣を教えて!」

のあ「秘訣ね……ないわ」

芽衣子「ないの?シャンプーとか美容室とかは?」

のあ「1階にある美容室にカットモデルに行ってるだけよ。最近は、シャンプーも試供品を分けてもらってるだけよ」

芽衣子「うん、大切にしてる人がいるんだね」

まゆ「そうみたいですねぇ……」

のあ「どういう意味かしら?」

芽衣子「なんでもなーい。帽子が欲しかったら、いつでも相談に来てね!」

まゆ「はい、ぜひ」

のあ「聞き忘れてたわ」

芽衣子「何?」

のあ「爆発の日、不審な人を見なかったかしら?」

芽衣子「ううん、見てないよ。近所の人だけ」

のあ「犯人はその中にいるのかも」

芽衣子「え?」

のあ「可能性なだけよ、気にしないで」

芽衣子「そうじゃなくて、あれ……聞こえた?」

まゆ「……あの、のあさん」

のあ「どうしたの?」

まゆ「何か、音がしませんでしたか?」

芽衣子「うん。たぶん、月宮さんのお店の方」

のあ「行くわよ、まゆ」


62 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:18:46.39 :TKVDo7wQ0

29

ムーンパレス隣の空き地

まゆ「のあさん、あそこ……」

のあ「人が集まってるわね」

まゆ「留美さんもいます」

のあ「留美、何があったのかしら」

留美「話は美優とそこにいる兵藤さんに聞いて。電話をかけてくるわ」

のあ「せっかちね。あなたが兵藤さん?」

兵藤レナ「ええ。どちら様かしら?」

兵藤レナ
近くにあるバー、Q.O.Hのマスター。元職はディーラーだったとか。

のあ「探偵よ」

レナ「探偵?むこうの電話をかけていた人も?」

のあ「留美は警察よ。そうよね?」

美優「はい……」

レナ「なるほど、随分と落ち着いてたものね」

のあ「何があったのかしら?」

美優「何か、破裂するような音が聞こえて……」

レナ「お店に向かう途中だったの。そうしたら、そこからいきなり火が」

のあ「お店はどちらかしら?」

レナ「南に行った、雑居ビルの2階よ」

まゆ「この消火器はそこからですかぁ?」

レナ「違うわ。雅ちゃんから借りてきたわ」

のあ「月宮雅ね。彼女はどこに?」

レナ「消防車を呼んでもらってる」

まゆ「火は完全に消えたみたいですねぇ」

美優「はい……でも、危ないので近づかないでください、と留美さんが」

のあ「残念だけど、少しだけ見せてもらうわ」

レナ「最近も渋谷で爆発事件あったじゃない?」

美優「まさか……関係があるのですか?」

のあ「爆弾というよりは、まゆ、これ何かわかるかしら」

まゆ「なんでしょう……布でしょうか」


63 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:19:24.89 :TKVDo7wQ0

レナ「布巾かしら」

美優「布巾……?」

まゆ「ほとんど燃えてますね……」

のあ「爆弾じゃないみたいね。どちらかというと、発火装置」

まゆ「なら、音はどこから……?」

のあ「単純に、この布が膨らんで破裂したから」

レナ「それじゃあ、爆発事件じゃないってこと?」

のあ「関係がないとは言い切れない。でも、何かが燃えた」

美優「もし……室内で発火させられたら」

のあ「火事になるでしょうね。どんな機構なのかしら」

まゆ「……」

留美「戻ったわ」

のあ「留美、梅木音葉に連絡は」

留美「したわ。というか、どうして音葉ちゃんがいるのを知ってるのかしら?」

のあ「さっき、会ってきたからよ」

留美「そう。何かわかったかしら?」

のあ「爆弾じゃないわ」

留美「何もわかってないということね」

のあ「そういうことよ」

留美「ここは任せておきなさい。美優、少しだけ付き合ってちょうだい」

美優「はい……もちろんです」

留美「まゆちゃん、のあを頼んだわ」

まゆ「わかりましたぁ」

留美「兵藤さん、警察に報告書をあげるわ。少しだけ話を聞かせて」

レナ「もちろん。どこから話せばいいの?」

のあ「ここは留美に任せましょう」

まゆ「のあさんはどうするんですかぁ?」

のあ「当初の目的通りに。パピヨンに行きましょう」


64 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:20:18.48 :TKVDo7wQ0

30

インテリア雑貨店・パピヨン前

岸部彩華「さっきの火事だったんですかぁ!?」

岸部彩華
インテリア雑貨店、パピヨンの店主。外見は派手な印象だが、丁寧な仕事ぶり。

のあ「そうよ」

彩華「みんな、大丈夫ですかぁ?」

のあ「問題はないわ。知ってることがあったら、教えて欲しいの」

彩華「ねぇ~、美紗希ちゃん~」

衛藤美紗希「彩華ちゃん、どうしたの?」

衛藤美紗希
パピヨンの常連客であり彩華の友人。近くの会社でOLをしている。

彩華「美紗希ちゃんの会社も火事があったんだよねぇ?」

美紗希「そうだよ、大変だったんだからぁ」

彩華「探偵さん達が、話を聞きたいって」

まゆ「近くに会社をお勤めなんですかぁ?」

のあ「もしかして、トキワメカニカルかしら」

美紗希「そうですよぉ、事務をやってるんです」

のあ「爆発事件の時は、どちらに」

美紗希「帰り支度をしてた途中でぇ、びっくりしました」

のあ「そう。良ければ、何があったら教えてくれないかしら?」

美紗希「裏の方からボンって、音がしたんだ」

のあ「火の勢いは強かったようね」

美紗希「うんうん、工場のおじさんが消火したんだけどぉ、ちゃんと消えなかった」

のあ「消防署に連絡は?」

美紗希「誰かがしてくれたみたい」

まゆ「被害はあったんですかぁ?」

美紗希「人の被害は何もなかったんだぁ。でも、まだ焦げ臭いかも」

のあ「それは何よりね」

彩華「誰かを狙った事件だったら、怖いよねぇ~」

美紗希「どうなのかなぁ……」

のあ「警察は、何か言ってたかしら」

美紗希「何にも」

まゆ「……わからない?」

美紗希「うん、犯人も動機もなんにも」

のあ「トキワメカニカルそのものが狙われたとは?」

美紗希「真面目で恨まれるような会社じゃないしぃ」

のあ「目的は相変わらず不明、と」

彩華「何か、手掛かりはないんですかぁ~?」

のあ「一つだけ」

美紗希「あるんですか?」

のあ「この近所で何かが起こってるわ。それだけよ」


65 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:21:10.72 :TKVDo7wQ0

31

ムーンパレス隣の空き地

まゆ「音葉さん」

音葉「佐久間さん、高峯さん……いらっしゃったのですね」

のあ「ええ。進捗は」

音葉「周辺の状況は調査しました……拾得物はその中に」

まゆ「このジュラルミンケース、ですか?」

音葉「はい……散乱していなくて助かりました」

のあ「所感は」

音葉「今の所は何も……人為的なものだとは思いますが」

まゆ「……人為的」

のあ「犯罪ということかしら」

音葉「かもしれません……」

のあ「映像の件は?」

音葉「解析中です……こちらの機材に慣れていなくて……」

のあ「責めたりしてないわ」

音葉「しかし……道筋は見えています……明後日、いえ明日にも」

のあ「焦って出した結論は、間違いのもとよ。待ってるわ」

音葉「不穏な音が……聞こえます……」

のあ「不穏、ね」

音葉「すぐに事件が起こります……きっと」

のあ「警察は」

音葉「動いています……」

のあ「なら、信じるわ」

音葉「ありがとうございます……」

のあ「まゆ」

まゆ「はい、のあさん」

のあ「戻りましょうか。音葉は」

音葉「車で……署までならお送りします」

のあ「運転できたの?」

音葉「これでも……警察組織の一員ですので……」

のあ「なら、親切にあずかりましょう」

まゆ「音葉さん、よろしくお願いします」


66 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:22:33.81 :RY7mELNS0

32

夕方

高峯探偵事務所

まゆ「ただいま戻りましたぁ」

のあ「真奈美は、もちろんいないわね」

まゆ「お夕飯の準備をしなくちゃ。のあさん、リクエストはありますかぁ?」

のあ「何でもいいわ」

まゆ「それじゃあ、さっき作れそうなレシピを見つけたんです。試してみてもいいですかぁ?」

のあ「ええ。楽しみにしてるわ」

まゆ「はぁい。待っててくださいね」

のあ「さて、と」

まゆ「そうだ、お茶を飲みますかぁ?」

のあ「いただくわ。濃いコーヒーをちょうだい」

まゆ「目が覚めるような?」

のあ「ええ、カフェイン多めで。不味ければ不味いほどいいわ」

まゆ「志保さんに怒られちゃいそうですねぇ……」

のあ「清浄でないものを考えるのだから、仕方がないのよ」

まゆ「見つかりそうですか」

のあ「私が探す答えは最初からあるものよ。だから、きっと見つかるわ」


67 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:23:40.39 :RY7mELNS0

33

高峯探偵事務所

しっぽしっぽしっぽよ……

のあ「こちら、高峯探偵事務所」

真奈美『のあか?』

のあ「真奈美じゃない。ホームシックかしら?」

真奈美『すぐに出てくる言葉は、他人ではなく自分の本心だ。のあも寂しがりだな』

のあ「その様子なら大丈夫そうね」

真奈美『心配は無用だ。そっちは』

のあ「まゆが新しいレシピにチャレンジしたわ」

真奈美『おや』

のあ「料理は良かったけど、英語に苦戦してたわ。帰ってきたら手伝ってちょうだい」

真奈美『答え合わせはしよう。まゆ君にはがんばれ、と伝えておいてくれ』

のあ「ええ。真奈美こそ、本当に何もないのかしら」

真奈美『何もない。電波も通らないし、近くに何もない』

のあ「あら。合宿にはいいじゃない」

真奈美『若い子には退屈かもしれないが』

のあ「がんばりなさい」

真奈美『がんばるのは私じゃない。そっちも気をつけなさい』

のあ「何をかしら?」

真奈美『のあのことだから、何か調べてるだろう?』

のあ「ええ。成果はそれなり」

真奈美『危険なことだけはするなよ、私はいないのだから』

のあ「重々承知よ」

真奈美『お休み、のあ』

のあ「お休み」

まゆ「お電話でしたかぁ?」

のあ「真奈美からよ、心配いらないわ」

まゆ「そうなんですかぁ?」

のあ「ええ」

まゆ「紅茶を雪乃さんから貰ってきましたぁ」

のあ「ありがとう、まゆ。事件の整理をしましょう」


68 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:25:08.70 :RY7mELNS0

34

高峯探偵事務所

のあ「そもそも見つかっている爆発事件は二つだけ」

まゆ「トキワメカニカルと渋谷駅前の花屋さんですねぇ」

のあ「渋谷生花店は全焼したけれど、トキワメカニカルは大きな事件となっていない」

まゆ「どうしてでしょうかぁ……?」

のあ「別の事件よ。渋谷生花店は明確にターゲットがいたわ」

まゆ「でも、他はいない……?」

のあ「被害者は出てないわ。燃えたものはいくつかあるけれど」

まゆ「はい。レストランの隣、空き地が燃えていました」

のあ「それ以外にも小火の話は多いわ」

まゆ「やっぱり、何かあるんでしょうか……」

のあ「かもしれないわね。ウワサレベルのものから、地図に書きだしたわ」

まゆ「わっ、これ全部ですかぁ?」

のあ「わからない。だから、まゆも見ていきましょう」

まゆ「はい」

のあ「事件は鷹富士神社周辺に集中してる」

まゆ「右上にある敷地が広いのが鷹富士神社ですねぇ」

のあ「ええ。バス停はすぐ目の前」

まゆ「道を挟んで向かい側に、持田さんが勤めている幼稚園」

のあ「道を南下していくと、鷹富士神社入口十字路」

まゆ「ラーメン屋さんがある西側に行くと、右手にパピヨンさん」

のあ「もう少し行くと、佐藤被服・クリーニング店。鷹富士神社入口の十字路に戻りましょう」


69 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:25:43.73 :RY7mELNS0

まゆ「お昼を食べたレストラン、ムーンパレスがラーメン屋のお向かいです」

のあ「更にその向かい側が、桐生つかさが運営するGP社」

まゆ「鷹富士神社方面から、そのまま南下すると」

のあ「右手側にトキワメカニカル。爆発事件の現場ね」

まゆ「トキワメカニカルの衛藤さんからもお話を聞けましたねぇ」

のあ「その向かい側」

まゆ「持田さんと浜川さんが住むアパートです、名前は」

のあ「メゾンドシャルル」

まゆ「カワイイアパートでしたぁ。でも、そこが重要じゃなくて」

のあ「屋上が撮影場所であること」

まゆ「でも、怪しい人はいませんでしたぁ」

のあ「その話は後にしましょう。GP社を東側に行くともう一度十字路」

まゆ「はい。南に行くと、空き地の消火に協力してくれた兵藤レナさんのバーがあります」

のあ「名前はQ・O・H。まっすぐ行くと」

まゆ「本屋さんです」

のあ「鷺沢文香が経営する、Scam」

まゆ「今度はゆっくり行きたいですねぇ」

のあ「そうね。北に行くと、デザイン事務所があるわ。名前はジェミニ」

まゆ「あれ、そうだったんですか?浜川さんが働いてる所ですね」

のあ「その通り。浜川愛結奈は知らなかったけれど、小火騒ぎがあったらしいわね」

まゆ「はい。あったのは一階にある別の会社でした」


70 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:26:20.21 :RY7mELNS0

のあ「そこから次のT字路を左。帽子屋マッドハッター」

まゆ「並木芽衣子さんの帽子屋さん」

のあ「特に不審な情報はなし。だけど」

まゆ「鷹富士さんの所に相談に来た一人はこの近くにお住まいでした」

のあ「そういうことね。私達はここで、空き地であった火災の音を聞いた」

まゆ「今日わかったのは、これくらいですねぇ」

のあ「噂に過ぎないけれど、似たような話はいくつかあった」

まゆ「えっと……レストランのウェイトレスのお父さんは、コーヒーの味が変わったとか」

のあ「桐生つかさは、焦げ臭いという学生の話をしてたわね」

まゆ「鷹富士茄子さんは、皆が不安に思っていることを話してました」

のあ「不安ね……揺れるという話も聞いたわね」

まゆ「誰かが何かをやってる……」

のあ「それが何かはわからないわね」

まゆ「そういえば、優さんが教えてくれたウェブページは確認しましたかぁ?」

のあ「この通り。更新はないわ」

まゆ「今日の事件を撮影してるかもと思ったのですけど……」

のあ「そうではないようね。爆発ではなく、燃えていたにすぎないのかもしれない」

まゆ「それに、結局この場所はわかりませんでしたねぇ」

のあ「この近隣だと思うの。でも、こんな場所はないわね」

まゆ「うーん……」

ピンポーン……

のあ「来客の予定はないのだけれど」


71 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:26:55.01 :RY7mELNS0

音葉「こんばんは……」

まゆ「音葉さん」

音葉「お邪魔……でしたか?」

のあ「そんなことはないわ。どうしたの?」

音葉「いいえ……下のカフェで夕食を取りましたので、ついでに」

のあ「そう。なら、紅茶はいらなさそうね」

音葉「一つだけ……お知らせしておこうかと」

まゆ「何かわかったんですかぁ?」

音葉「空き地で燃えていたもの、ですが……」

のあ「何だったのかしら?」

音葉「現像紙……でした」

まゆ「写真、ですか?」

音葉「その他にもビニールや厚紙……アルバムでも燃やしたのでしょうか」

のあ「残ったものはあるかしら?」

音葉「ありません……」

のあ「誰かの狙い通り、全て燃えたということね」

音葉「そうかもしれません……」

まゆ「集めてきた思い出を燃やしてしまうなんて……酷い」

音葉「明日も……動画の解析を勧めます」

のあ「お願いするわ」

音葉「おやすみなさい……」

まゆ「おやすみなさい、音葉さん」


72 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:27:25.55 :RY7mELNS0

35

幕間

文香「本日は5月4日……」

文香「空は曇りなく……明るい星空」

文香「きっと綺麗に映りますね……」

文香「ほら……」

文香「ふふっ、綺麗な爆発でしょう……」

文香「炎は不浄を焼き尽くす……神聖なもの」

文香「あの場に相応しいでしょう……」

文香「今宵はこれまで……皆様、また会う日まで……」


73 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:34:10.38 :RY7mELNS0

36

5/4(月)

高峯探偵事務所

のあ「おはよう……」

まゆ「のあさん!」

のあ「まゆ、大きな声を出してどうしたのかしら」

まゆ「爆発事件が」

のあ「爆発、どこかしら」

まゆ「鷹富士神社だそうですっ」

のあ「鷹富士神社……サイトの方は」

まゆ「追加されてました……これです」

のあ「ふむ……撮影場所は」

まゆ「多分ですけど……幼稚園の敷地内です」

のあ「侵入は難しくなさそうね。爆発事件が起こったのは?」

まゆ「深夜3時くらい、みたい」

のあ「動画がアップされたのは」

まゆ「えっと……」

のあ「ふむ、10時くらいね。ニュースは」

まゆ「起きたら流れてて……びっくりしました」

のあ「警察の初期捜査は終わってそうね」

まゆ「はい……」

のあ「まゆ」

まゆ「のあさん、行きましょう」

のあ「そんなに焦らないでいいわ。朝ごはんを食べましょう」

まゆ「どうして、急がないんですか?」

のあ「あの場所に執着してる犯人が、すぐに逃げたりしないわ。あの犯人は、鷹富士神社の周辺に今もいるからよ」


74 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:35:02.28 :RY7mELNS0

37

鷹富士神社前バス停

まゆ「今日は騒がしいですねぇ」

のあ「野次馬も記者もいるわね。入れるかしら」

まゆ「あっ、のあさん、待ってください……」

片桐早苗「はい!そこ、止まりなさーい!」

片桐早苗
交通課の巡査部長。野次馬の整理に駆り出された。

のあ「早苗じゃない、何してるのかしら」

早苗「あれ、のあちゃん?そっちは?」

のあ「助手のまゆよ」

まゆ「佐久間まゆ、です」

早苗「真奈美ちゃんはどうしちゃったの?」

のあ「出張中よ。首にしたわけじゃないわ」

早苗「それならいいけど」

のあ「早苗こそ、何をやってるのかしら」

早苗「この通り、交通整理と警備よ」

まゆ「お休みなのに、お疲れ様です」

早苗「本当よー、美世ちゃんなんか旅行先から車で署まで来たって」

のあ「それで、神社の中に入れるかしら?」

早苗「のあちゃんなら心配ないだろうけど、現場には近づかないで」

のあ「わかってるわ」

早苗「ちょっと待って。美世ちゃん、聞こえてる?うんうん、そっちに二人行くからよろしく」

まゆ「のあさん、美世さんはどなたですか?」

のあ「早苗の相棒らしいわ。一緒にパトカーに乗ってるそうよ」

早苗「いいわよ。本殿の方にいるから、よろしく」

のあ「感謝するわ」


75 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:35:51.73 :RY7mELNS0

38

鷹富士神社・本殿

原田美世「あなたが高峯さん?」

原田美世
交通課の巡査。早苗のバディ。将来の目標は白バイ隊員。

のあ「ええ。こっちは佐久間」

まゆ「よろしくお願いいたします」

美世「はじめましてっ!原田美世巡査です、早苗さんから話は聞いてます!」

のあ「よろしく。交通課のあなたが何をしてるのかしら?」

美世「色んな課のお手伝い中です。本当は不審車両の調査に来たんですけど」

のあ「不審車両は見つからなかったのかしら」

美世「そういうことです」

のあ「鷹富士さんと話せるかしら?」

美世「娘さんはいらっしゃいますよ。茄子さんー!」

まゆ「あの、刑事さん達はいますか?」

のあ「留美とか」

美世「ここは早々に切り上げて、周囲を捜査してるはず」

茄子「呼びましたか?」

美世「こちらの方が話を聞きたいそうです」

のあ「大変なことになったわね」

茄子「昨日の探偵さん、こんにちは」

まゆ「お怪我はありませんかぁ?」

茄子「大丈夫ですよー。私、幸運なんです」

のあ「爆発したのは、どこかしら?」

茄子「本殿でも社務所でもありませんでした」

美世「その、鷹富士さんの自宅です」

茄子「はい」

まゆ「え……?」


76 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:36:24.70 :RY7mELNS0

のあ「全焼と聞いたけれど、無事なの?」

茄子「自宅は救急車が来ないうちに燃えてしまいました」

美世「この通り、茄子さんは無事で良かったですね」

まゆ「爆発の時は、どちらに?」

茄子「本殿の奥にある控室です。寝室とリビングはこっちにしてたんですよー」

のあ「なぜ?」

茄子「とっても古い木造なんです。建て替え前に荷物を別の所に移動してたんです」

まゆ「つまり、被害はほとんどないんですか?」

茄子「そういうわけじゃありません」

美世「皆さん、ご無事でした。けれど」

茄子「アルバムとか、色々なものを失ってしまいました。自宅も、残したいところが一杯あったのに」

まゆ「ごめんなさい、失礼なことを……」

茄子「いいんですよー。思い出は時間で、買えるものはお金で返ってきますから」

美世「被害については、警察でも調査しています」

茄子「取り返せないモノは失っていませんから」

まゆ「……取り返せないモノ」

茄子「一つは命です」

まゆ「……」

茄子「もう一つは、ここに」

美世「本殿?」

茄子「神様さえいれば、鷹富士神社は続きます」


77 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:36:57.52 :RY7mELNS0

のあ「……ふむ」

まゆ「のあさん?」

のあ「あなたを救ったのは幸運だったのかしら?」

美世「どういう意味?」

茄子「神様や運命でないなら、人ですか」

のあ「そういうことよ。寝室が変わってることは話したかしら?」

茄子「個人的な来客はもう案内してませんでした」

のあ「つまり、知ってる人はいるということね」

まゆ「……知っている」

美世「それじゃあ、わかってた?」

のあ「殺意はなかったのかもしれない」

まゆ「目的は爆発だけ、なんて……」

茄子「それなら、どうしてですか?」

のあ「そうね。古ぼけた建物を燃やす必要なんてない」

茄子「私の思い出が燃えただけですよ?」

のあ「あなたにとっては大切でも、人には価値がない」

美世「うーん……わかりません」

のあ「原田巡査」

美世「何?」

のあ「不審車両は聞いたけど、不審者の情報は?」

美世「それは今の所ありません」

のあ「留美達にでも確認する必要がありそうね」

美世「そういえば、科捜研の車両が駐車場に止まってました」

のあ「鷹富士神社の?」

茄子「はい。そういえば、お貸ししました」

のあ「まずは、そっちかしらね」


78 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:38:07.83 :RY7mELNS0

39

鷹富士神社・駐車場

まゆ「音葉さん、いらっしゃいますか?」

音葉「佐久間さん……こんにちは」

まゆ「今、大丈夫ですかぁ?」

音葉「はい……どうかしましたか?」

まゆ「お話を聞きたくて」

音葉「大丈夫ですよ……高峯さんは」

まゆ「差し入れを買いに、あっ、来ました」

のあ「音葉、いたのね」

音葉「いますよ……私だけですが」

のあ「緑茶をあげるわ。ペットボトルだけど」

音葉「いただきます……お話は」

のあ「昨日、映像が追加されたわ」

音葉「爆発事件のですね……見ていますよ」

まゆ「何か、手掛かりは……?」

音葉「最初から操作車両の機材を使えば良かったです……もう少しだけお待ちください」

のあ「そう。爆発事件の方は」

音葉「詳細な解析には時間がかかりますが……おそらく渋谷駅周辺で使われたものと同じです」

まゆ「同一犯……」

のあ「他のことは、わかるかしら?」

音葉「製造方法はわからないと思います……だから」

のあ「だから?」

音葉「先にわかるのは……犯人です」

のあ「なるほど」

音葉「後ほど連絡します……お待ちください」


79 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:38:55.88 :RY7mELNS0

40

ムーンパレス隣の空き地

まゆ「のあさん」

のあ「いたわね、留美!」

留美「二日連続とは、勤勉ね」

大和亜季「高峯殿、お疲れ様であります!」

新田美波「お疲れ様ですっ」

大和亜季
刑事一課和久井班巡査部長。今日からのサバゲーの予定はキャンセルした。

新田美波
刑事一課和久井班巡査。出勤に問題ありませんっ、家でお勉強の予定だったので、とのこと。

のあ「犯人、見つかったかしら」

留美「いいえ。それどころか、不審者も見つからないわ」

亜季「更に言うと、夜間に鷹富士神社に堂々と入った人物も見かけられておりません」

まゆ「つまり……」

美波「爆弾はずっと前に設置されたのではないでしょうか?」

留美「私の見立てはそれね」

のあ「動画の件は」

亜季「梅木殿より聞いているであります」

留美「幼稚園への侵入は簡単に出来るでしょうね」

美波「誰が入ったかは、わかっていません」

まゆ「なら、やっぱり……」

のあ「土地勘どころか」

留美「かなり、地域のことを知ってるでしょうね」

のあ「犯人は近くで暮らしている」

亜季「あるいは、働いているのかと」

美波「でも、それだと……」

のあ「新田巡査、何かしら?」

美波「渋谷の事件はどうなんですか?ここからは離れていますし」

のあ「私はそこまで考えるのは得策じゃないと思うわ」

留美「何故かしら」

のあ「単に依頼された、もしくは爆弾を提供しただけの可能性があるわ」

美波「なるほど」

のあ「ところで、留美」

留美「なにかしら」


80 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:39:28.17 :RY7mELNS0

のあ「この辺りに、大きな地下施設はないかしら」

留美「私も調べたわ。今から行ってくるわよ」

のあ「仕事がはやいわね。どこの建物かしら?」

亜季「建物ではないであります」

のあ「建物の地下じゃないなら……何かしら?」

亜季「道路の下であります」

美波「ムーンパレスさんの隣にある十字路の下に、災害用に用水路があるんです」

留美「もし、そんなところでやる必要があるなら」

まゆ「実験?」

留美「まゆちゃん、賢いわね。そう踏んでるわ」

亜季「そちらはお任せください」

のあ「任せるわ。私は……」

まゆ「あっ、音葉さんから連絡が」

のあ「早いわね」

留美「先に確認してちょうだい」

亜季「私達も後で追いつくであります」

のあ「わかったわ」

まゆ「のあさん、鷹富士神社に戻りましょう」


81 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:53:58.16 :RY7mELNS0

41

鷹富士神社・科捜研捜査車内

音葉「こちらを見てください……」

まゆ「トキワメカニカルの動画と」

のあ「鷹富士神社の動画ね。それと」

音葉「渋谷生花店のものを並べています……下のグラフは音声を数値化したもの、と考えてください」

のあ「並べている意味は」

音葉「再生すればわかります……爆発のタイミングをあわせて再生します……」

まゆ「爆発音が……」

音葉「この通り……音声にも加工がしてあります」

のあ「音葉、わからないわ」

まゆ「爆発音しか聞こえませんけれど……」

音葉「正解です、佐久間さん……」

まゆ「正解……と言われても」

のあ「爆発音以外はないの?」

音葉「はい……爆発音以外を消そうとしたようですね」

のあ「その言い方だと、消えてないのかしら」

音葉「音量が大きいものを削っただけ……フリーソフトレベルです」

のあ「残っているのは」

音葉「爆発音を消します……すると、この通り」

まゆ「電車の音と……人の声?」

音葉「その中で……おそらく、カメラの近くで発生されたものがこれ」

のあ「まゆ、聞こえるかしら?」

まゆ「いいえ、聞こえません……」

音葉「音量を上げましょうか……」

のあ「違うわ、音は聞こえてるわ。でも、雑音にしか聞こえない」

音葉「確かに……難しいかもしれませんね」

のあ「あなたに、どう聞こえてるかが知りたいわ」

音葉「設備がありませんので……私がやりましょう」

まゆ「音葉さんが……?」

音葉「雑音と途切れた音を繋ぎます……声真似は得意ですから」

のあ「やってみてちょうだい」

音葉「それでは……行きます」


82 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:54:35.10 :RY7mELNS0

まゆ「……」

音葉『ご満足いただけるものがご提供出来たでしょうか……』

まゆ「あっ……」

音葉「佐久間さん……どなたか、思い当たったようですね」

まゆ「書店のお姉さんです……」

のあ「鷺沢文香」

音葉「お役に立てて……なによりです」

のあ「証拠としては、弱いと思うわ」

音葉「ええ……私は引き続き、映像と爆発の鑑定を続けます」

のあ「その前に、情報を留美達に上げて」

音葉「わかっています……」

のあ「共犯がおそらくいるわ。いいえ、共犯でないかもしれないわ」

まゆ「共犯じゃないなら……」

のあ「実行犯の行動を撮影してるだけ」

音葉「爆発の日時も知っていますから……共犯だと」

のあ「確かに、それもそうね」

音葉「高峯さん達は……何を」

のあ「情報を集めてくるわ」

まゆ「鷺沢さんの、ですね」

のあ「ええ。行きましょう」


83 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:55:34.21 :RY7mELNS0

42

帽子店・マッドハッター

芽衣子「いらっしゃいませー!」

のあ「こんにちは」

芽衣子「探偵さん、帽子が必要になった?」

のあ「状況としては必要ね」

まゆ「爆発事件を見たって、言ってたのを思い出して」

芽衣子「昨日の?見たよっ、茄子さん無事で良かったね」

のあ「違うわ」

まゆ「トキワメカニカルの方です」

芽衣子「そっち?なんで?」

のあ「その時に、鷺沢文香はいたかしら?」

芽衣子「文香ちゃん……うん、いたよ?」

まゆ「ビデオカメラは持っていましたかぁ?」

芽衣子「うーん、文香さんがカメラを持ってるイメージが湧かない」

のあ「誰かと一緒にいたのかしら」

芽衣子「誰かと話してたと思うけど、覚えてない」

のあ「ありがとう。参考になったわ」

芽衣子「文香ちゃんがどうかしたの?」

まゆ「いいえ……なんでもありません」

のあ「ところで、並木芽衣子」

芽衣子「何?」

のあ「あなたは、ここに愛着があるかしら?」

芽衣子「まだ早いかなぁ。でも、私のお店だから、ずっと大切にしていくよっ」

のあ「そう。お邪魔したわ」


84 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:56:38.12 :RY7mELNS0

43

鷹富士神社境内・爆発事件捜査テント

早苗「のあちゃん、良い所に!」

のあ「どうしたの、早苗」

早苗「渋谷駅の防犯カメラの映像、見る?」

まゆ「もしかして……」

早苗「はい。爆発事件の直前よ」

のあ「鷺沢文香ね。でも、刑事の仕事じゃないかしら」

早苗「やっぱり、刑事は憧れよね!たまにはいいわ!」

まゆ「自分から進んでやってるんですねぇ……」

美世「早苗さん、ただいま戻りました!」

早苗「美世ちゃん、報告を」

美世「文香さんは、店にいました」

早苗「こっちの動きには気づいたかしら」

美世「気が付いてはいないみたいです」

のあ「鷺沢文香が犯行に関わってるのは間違いなさそうね」

早苗「でも、犯人じゃないわ」

のあ「理由は」

早苗「彼女、渋谷生花店近くには行ってないわ」

のあ「実行犯は別」

留美「そういうことよ」

早苗「よっ、刑事殿!」

留美「片桐巡査部長、ふざけないように」

早苗「ちえっ、留美ちゃんはお堅いなー。リラックスリラックス」

留美「地下の報告を」

のあ「何があったのかしら?」

留美「爆弾の試験現場、映像の場所らしきところは見つかったわ」

まゆ「なら、月宮さんのお父さんが言ってたのは本当だったんですねぇ」

留美「早苗さんに言いたいことは一つだけ。おそらく、爆弾が一つ以上あの場所にあったわ」

早苗「あった?」

美世「今はないってこと?」

留美「そういうことよ」

早苗「美世ちゃん」

美世「早苗さん」

早苗「探してくるわ!ローラー作戦は得意よ!」

美世「はいっ!行ってきますっ!」


85 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:57:12.67 :RY7mELNS0

留美「まったく。騒がしいわね」

まゆ「留美さんは、落ち着いてますね」

留美「慌てても、良いことなんてないわ。よく知ってるの」

のあ「他に情報は」

留美「鷺沢文香と、トキワメカニカルの時に一緒にアパートの屋上にいた人物がわかったわ」

のあ「誰かしら」

留美「持田亜里沙さんよ」

まゆ「アパートの住人で」

のあ「そこの幼稚園勤務じゃない」

留美「関係性も十分ね」

まゆ「なら……持田さんが実行犯なんですかぁ」

留美「おそらく、違うわ」

のあ「共犯に過ぎないと?」

留美「鷺沢文香に撮影場所は案内しているけれど」

のあ「爆弾とはまだ結びつかない、と」

留美「そういうこと。大和さんと新田さんに二人の関係を調べてもらってる」

まゆ「ただのご近所さん、じゃないですよね……」

留美「そうね、一つだけ」

のあ「わかってることがあるの?」

留美「二人とも、長野が本籍よ」

まゆ「長野……?」

留美「それくらいね、警察が一瞬でわかるのは」

のあ「長野ね……」

留美「のあ」

のあ「何かしら」

留美「悩むのも首を突っ込むのも勝手にして。でも、危険だけは冒さないように」

のあ「わかってるわ」

留美「真奈美さんと違って、今の助手はか弱いのよ」

のあ「真奈美……そう、真奈美ね」

留美「どうしたのかしら」

のあ「いいえ、少し働いてもらうだけよ。留美、二人の出身地の話、教えてちょうだい」


86 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:58:20.90 :RY7mELNS0

44

鷹富士神社・境内

のあ「出るかしら」

まゆ「誰か出ると思います」

のあ「つながった」

電話『はい。えっと、シンデレラプロダクションだに……です!』

のあ「お忙しいところ、失礼するわ。高峯と申します。木場真奈美を出してもらえるかしら」

電話『わかりました。少々お待ちください』

のあ「……」

電話『……ねぇ、卯月ちゃーん、真奈美チャン見た?レッスンルーム?ありがとー』

のあ「……」

電話『今から呼びに行くので、もう少し待っててください』

のあ「ええ」

まゆ「真奈美さん、いましたかぁ?」

のあ「今、呼びに行ってるわ」

真奈美『のあ』

のあ「真奈美、忙しくないかしら」

真奈美『一段落したところだ。何か起きたか?』

のあ「仕事を頼みたいの。長野県内にいるわね?」

真奈美『ふむ……外に出る暇はありそうだ』

のあ「ネット回線は」

真奈美『ない。FAXなら、あるぞ』

のあ「それでいいわ。今から口頭で説明をするのと、FAXで資料を送るから」

真奈美『了解。それで、仕事はなんだ?』

のあ「ミッシングリンク探しよ」

真奈美『謎解きか。のあの得意科目じゃないか』

のあ「いいわね。出来るだけ、早くよ」

真奈美『わかってるよ。私から一つ質問だが』

のあ「どうぞ」

真奈美『ラッキーだな』

のあ「なんのことかしら?」

真奈美『ま、幸運とは気付かないものさ。調べてみるよ』

のあ「最後の質問は釈然としないけど、頼むわ」

真奈美『任せておけ。佐久間君には、のあが無理をしないようにと』

のあ「私に伝えることじゃないでしょう、それは」

真奈美『ならば、ストレートに言おう。気をつけてくれ。また、連絡する』

のあ「……ええ」


87 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 22:58:56.39 :RY7mELNS0

まゆ「真奈美さん、なんて?」

のあ「調べてくれるわ」

まゆ「見つかるでしょうか……?」

のあ「真奈美なら、見つけるわ」

しっぽしっぽしっぽよ……

まゆ「のあさん、お仕事用のケータイが鳴ってます」

のあ「誰かしら。はい、こちら高峯探偵事務所」

つかさ『出た。探偵さん、近くにいんだろ?』

のあ「ええ、その通りだけど」

つかさ『なら、すぐ来てくれ。騒ぎが止められそうもない』

のあ「GP社で事件でも?」

つかさ『ウチじゃねぇよ。このあたりだ』

のあ「このあたり?」

つかさ『ネットで流れてんの、爆破予告が』


88 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 23:00:06.94 :RY7mELNS0

45

鷹富士神社境内・爆発事件捜査テント

のあ「留美!」

留美「探偵さん、良い所に」

のあ「GP社に新田巡査を派遣してくれて感謝するわ」

留美「パニックは収まったかしら?」

まゆ「はい……でも」

音葉「爆破予告の件ですが……」

留美「梅木さん、送信元はわかったかしら」

音葉「大和巡査部長が協力してくださいました……」

亜季「バッチリであります」

音葉「通信位置は……鷹富士神社周辺です」

留美「結論だけ教えて時間がないわ」

亜季「発信元は鷺沢文香、であります」

留美「鷺沢文香を抑えるわ。大和巡査部長、付いてきなさい」

音葉「迂闊に動くと……何をするかわかりません」

のあ「いえ、留美に賛成よ」

音葉「なぜ……?」

のあ「彼女は実行犯ではないわ」

留美「そういうことよ。二人だけで行くわ」

亜季「ええ。腕がなるであります」

のあ「爆弾については。二つ、予告されているでしょう?」

留美「一つは見つかったわ」

のあ「どこで?」

留美「インテリア雑貨店の近くで。早苗さんが予告後に見つけてくれたわ」

まゆ「もう一つは……」

留美「見つかっていない」

亜季「それどころか、どこを爆破するかもわからないであります」

のあ「何か、ヒントはないかしら……?」

音葉「探してみましょう……まだ、遺留物はありますから」

のあ「手伝うわ」

留美「騒ぎは大きくしないように」

亜季「爆破予告は既にウェブ上から消していますが」

のあ「もう広まってる。手遅れよ」

留美「それでも、無駄な不安は煽らないでちょうだい」

のあ「わかってるわ」

留美「私達は、行くわよ」

亜季「鷺沢文香殿を、署までご案内するであります」


89 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 23:01:56.84 :RY7mELNS0

46

鷹富士神社境内・爆発事件捜査テント

音葉「ふむ……」

のあ「むぅ……」

まゆ「あの……何か、わかりましたか?」

音葉「爆発物ですが……個人につながるものはありませんね……」

のあ「入手方法が極端に限定されるものではないのね」

音葉「推定するに……あれだけの爆発を起こしていて、このサイズです」

のあ「手先は器用そうね」

音葉「犯行予告の続きも……ありません」

まゆ「何が目的なのでしょう……」

のあ「いまいち、見えないわね」

まゆ「今回も……被害者は出ないような気がします」

のあ「どうしてそう思うの、まゆ?」

まゆ「だって、逃げられるじゃないですかぁ」

のあ「その通り。これまでは一度もないわ」

まゆ「鷹富士神社の事件も、不在時を狙ってますよねぇ……」

音葉「実行犯の目的は……なにでしょうか」

のあ「そういえば、鷺沢文香は?」

まゆ「あ……布の部品もあるんですねぇ、爆弾は金属だけだと思ってました」

音葉「聞いてみましょうか……ちょうど、来たようですし」

美波「みなさん、お疲れ様ですっ」

のあ「新田巡査」

美波「差し入れですっ。リフレッシュしましょう?」

のあ「炭酸もたまにはいいわ。まゆもいただきなさい」

まゆ「それじゃあ、遠慮なく」

美波「どうぞ♪音葉さんは、どれがいいですか?」

音葉「ガラナ……はありませんね」

美波「ガラナ……?」

音葉「忘れてください……鷺澤さんの取り調べはいかがですか?」

美波「署まではご同行いただいたのですが」

のあ「上手く行かないのね?」


90 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 23:02:25.10 :RY7mELNS0

美波「その通りです」

のあ「残った爆弾については」

美波「いいえ、何も話してくれないんです」

のあ「何も話していないわけね……」

美波「いえ、そういうわけではありません」

音葉「そうなのですか……?」

美波「撮影したことは認めました。先ほどの爆破予告もです」

音葉「そうなると……和久井警部補の勘は当たり、と」

のあ「爆弾の在りかを、知らないのよ」

音葉「それなら……言えませんね」

美波「なるほど。警部補に連絡してみますっ!」

のあ「留美のことだから、心配ないと思うわ」

音葉「事態は急変したと思いましたが……」

美波「再び膠着でしょうか。近隣の人も爆発事件はデマじゃないか、と言い始めてます」

のあ「持田亜里沙は?」

美波「持田さんは自宅です。特に怪しい動きはありません」

のあ「話を聞くのは、得策じゃなさそうね」

美波「実行犯本人の可能性も、まだありますから」

のあ「ふむ……」

美波「今は爆弾捜索を進めます。鷺沢文香への聞き取りも」

のあ「そうね、少しは休憩しましょう」

音葉「そうしましょうか……差し入れもあることですし」

のあ「まゆ、行きましょう」

まゆ「……」

のあ「まゆ?」

音葉「遺留品が……どうか、されましたか?」

まゆ「いえ、なんでもありません……」

のあ「……そう、ちょっと休憩しましょう」

美波「お疲れ様です」


91 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 23:03:42.40 :RY7mELNS0

47

幕間

清路警察署・取調室

文香「……」

亜季「警部補殿、新田巡査からであります」

留美「なんて?」

亜季「彼女は次の爆弾を知らないのではないか、と」

文香「……」

留美「そうなのかしら?」

文香「……」

亜季「沈黙は是、であることがほとんどであります」

留美「あなたは唯の撮影者に過ぎない」

文香「……ええ」

亜季「そこは、認めるでありますか」

文香「爆弾の調達、作成に関わったことは……ありません」

留美「でも、共犯者であることは間違いない」

文香「私は、ただ……」

亜季「……」

文香「見たかった。先が暗闇覆われた、この現実が燃える所を」

亜季「それは、違うであります」

留美「大和巡査部長、抑えて」

亜季「……了解であります」

文香「それが爆弾という、現実の形になっただけ……」

留美「別にあなたの、妄想は聞いてないわ」

文香「……」

留美「物語性すらない、妄想なんて聞くわけないでしょう」

文香「あなたには、何もわからない……」

留美「凡人の考える凡庸な物語につきあわせないでちょうだい」

文香「……」

留美「あら、不機嫌そうな顔も出来るのね。人を睨むには、その前髪は邪魔でしょう?」

文香「嫌味な人ですね……」

留美「ええ、警察はいつだって嫌われ者よ」

亜季「悪人には、であります」

留美「だから、あなたに幾ら嫌われようが困らない」


92 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 23:04:54.63 :RY7mELNS0

文香「なら、もう私に関わらない方がいいでしょう……」

留美「犯行計画を立案したのは、あなた?」

文香「違います……私はただの」

留美「撮影者だものね。本当に、愚かね」

文香「愚か……」

留美「愚かよ。あなたは何もしていない」

亜季「爆弾も他人が用意し、計画も他人任せ」

留美「ターゲットもその様子だと、決めていない」

亜季「そんなの、ただの映画を見てるだけでありませんか」

留美「あなたにわかるように言えば、あなたはただの読者よ」

亜季「自分が見つけた、誰かが作ったものが話題になったくらいで」

留美「自分が凄いなんて思い込める愚かさに、驚いているだけよ」

文香「違う……!」

留美「違わないのよ。あなたには何もない、たかが傍観者が神になれるわけないでしょう」

文香「私は違う、あの爆発事件に最初から、関わって……私はその意味を知ってる」

留美「ええ、知ってるだけでしょう?」

文香「……」

亜季「主役でも、脚本家でもない、あなたは」

留美「ちょっと迷惑な観客じゃない」

文香「そんな、こと……」

留美「否定したいなら、答えなさい。主役と脚本家の意図を」

文香「……」

亜季「答えないようでありますな」

留美「答えるかどうかを決めるまでに、別の質問を」

亜季「持田亜里沙のこと、でありますか」

留美「ええ。ご存知かしら?」

文香「……」


93 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 23:06:05.23 :RY7mELNS0

留美「撮影に協力してるわ。彼女が脚本家?」

亜季「少なくとも、あなたよりは上でありますな」

文香「……違います」

留美「なら、彼女の役割は」

文香「サポートと相談役、それに……」

亜季「それに?」

文香「連絡役……です」

亜季「どなたとでありますか」

文香「依頼者、です……」

留美「依頼者がいるの?」

文香「……」

留美「あなた、本当に爆発事件を起こす動機がないのね。なんて、主体性のない」

文香「……ええ、そうですよ。私には、爆発を起こす目的がありません」

留美「持田亜里沙、も?」

文香「……ええ」

留美「そう。つまり、あなたと同じ」

文香「……」

亜季「実行犯でも首謀者でもないのでありますか」

留美「今なら、間に合うわよ?」

亜季「ええ、次の事件が起こらないなら」

留美「あなたの有利なように裁判は進むわ」

亜季「その通りであります」

留美「実行犯と首謀者は誰かしら」

文香「……言いません」

留美「どうしてかしら?」

文香「それは大切なものだから……」

亜季「あなたが守るべきもの、なのでありますか?」

文香「彼女の意図さえ汚してしまうなら……私は読者としても失格です」

留美「つまり、実行犯と首謀者は彼女一人なのね」

文香「……」

留美「大和巡査部長。犯人は、1人よ」

亜季「連絡するであります」

留美「その1人の名前、言いなさい」


94 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 23:06:56.27 :RY7mELNS0

文香「言いません……」

留美「言わないのなら、あなたは彼女が見せた物語に憑りつかれた操り人形のままよ」

文香「それでも……私は言いません」

留美「爆発の場所と時間だけは、知っているはずよ」

文香「最後の爆弾は……物語を終わらせるためのもの」

留美「終わらせる……?」

文香「必ず、爆発します……でも、それは私が決めることじゃない……」

留美「言いなさい」

文香「知りません……知っていても、言いません」

亜季「警部補殿」

留美「もう少しだけ、ここに居てもらうわ。それが、あなたという観客が終演で見る景色よ」

幕間 了


95 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 23:10:29.11 :RY7mELNS0

48

鷹富士神社境内・爆発事件捜査テント

まゆ「うーん……」

のあ「まゆ、さっきから何を悩んでるのかしら」

まゆ「……えっと」

のあ「言ってみなさい」

まゆ「ひっかかるんですけど、よくわからなくて……」

のあ「詳しく」

まゆ「爆弾の破片の中に、布がありました。それが少し気になるんですけど……」

のあ「気になった理由がわからない」

まゆ「……はい」

音葉「高峯さん……」

のあ「梅木音葉。何か」

音葉「鷺沢さんが……共犯者はあと一人だと」

のあ「他には」

音葉「首謀者、実行犯、爆弾の作成者……も彼女だと」

のあ「彼女?」

音葉「そう言っていたようです……」

まゆ「女性が……犯人」

音葉「和久井警部補は……こちらに向かっているようです」

のあ「留美は、犯人の名前までは聞き出せなかったのね」

音葉「そのようです……実行犯の名前も目的も頑なに言うことを拒んでいます」

まゆ「女の人が……犯人……」

のあ「動きもないし、今の所は新情報もないわ」

まゆ「あっ……ああ!」

のあ「どうしたの、まゆ?」

まゆ「音葉さん、爆弾の破片みせてもらってもいいですかぁ?」

音葉「ええ……どうぞ」

のあ「何か、わかったみたいね」

まゆ「解決のヒントになるかどうかは、わからないですけど……」

のあ「なんでもいいわ。今は何でも知りたい」


96 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 23:11:32.89 :RY7mELNS0

49

鷹富士神社境内・爆発事件捜査テント

留美「戻ったわ」

亜季「戻ったであります!」

早苗「おかえりー」

留美「早苗さん、爆弾は」

早苗「見つかんない。もう、犯人が持ってるんじゃない?」

留美「その可能性は高いわ」

亜季「しかしであります」

留美「爆発させる気はあるみたいよ」

早苗「うーん、厄介ね」

音葉「警部補……お話が」

のあ「来てちょうだい」

亜季「何か、わかったでありますか?」

のあ「先にまゆの話を聞いてちょうだい。私は、真奈美からの連絡が来てるの」

留美「わかったわ。案内して」


97 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 23:12:45.36 :RY7mELNS0

50

鷹富士神社・駐車場

真奈美『のあ、報告を聞く準備は出来たか』

のあ「簡潔に」

真奈美『のあから貰った周辺住人のリストで、長野が本籍な人物は二人だけだったな?』

のあ「その通り。鷺沢文香と持田亜里沙」

真奈美『本籍地は今の住所だが、長野に所縁がある人物がいた』

のあ「それで」

真奈美『そもそも鷺沢文香に出店先を紹介したのは、その人物の縁戚だ。持田亜里沙の就職先はその人物の紹介だ。理由は同郷のよしみ。あの町で初めて顔を合わせたくらいの関係だ』

のあ「強い繋がりには聞こえないわ」

真奈美『だが、顔を合わせれば強くもなるさ』

のあ「そういうものかしら」

真奈美『いずれにせよ、鷺沢文香と持田亜里沙をつなぐ糸はその人物にもつながる』

のあ「……」

真奈美『その人物の名前は』

のあ「佐藤心」

真奈美『なんだ、わかってるのか?』

のあ「これで確証は持てたわ」

真奈美『他の証拠は、なんだ?』

のあ「まゆが見つけてくれたわ。一つは裁縫の技術」

真奈美『帰ってから、ゆっくり聞くとしよう。他には』

のあ「トキワメカニカルへの出入り業者でること」

真奈美『神社も、か?』

のあ「ええ。お祝い事の服もクリーニング出来るのよ、あの店」

真奈美『あの周辺にも詳しいだろうな。生まれてから、ほぼあの場所で暮らしてる』

のあ「何かをしていても、怪しむ人物は少ないでしょうね」

真奈美『だが、渋谷生花店の事件は?』

のあ「依頼者が別にいるようね。もしかしたら、見つかっていない事件もあるかもしれない」

真奈美『つまり、佐藤心が自ら定めた目標は』

のあ「ずっと暮らしてきた、この場所だけよ」

真奈美『話はわかった』

のあ「ありがとう。助かったわ」

真奈美『無茶はするなよ』

のあ「真奈美も駆けつけたりしなくていいわ」

真奈美『そのつもりだ』

のあ「問題は」

真奈美『何かあるのか?』

のあ「佐藤心がどこにいるのかわからないくらいね」


98 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 23:13:35.00 :RY7mELNS0

51

鷹富士神社境内・爆発事件捜査テント

のあ「話は以上よ」

留美「佐藤心が犯人で間違いはなさそうね」

亜季「町内会の仕事と言って、地下の見回りをしていたようであります」

のあ「鷹富士茄子が生まれた頃からの付き合いだそうね」

まゆ「本当に……佐藤さん、なんですか」

留美「確証はないけれど」

亜季「どこにもいないのが、証明であります」

まゆ「だって……あんなに丁寧に仕事をするのに」

音葉「爆弾とはいえ……彼女なりのプライドなのかもしれません」

のあ「その技量が仇になったわ」

亜季「その技術が爆弾に活かされるなんて、嘆かわしい限りであります」

まゆ「どうして……なんですか」

のあ「動機なんて、わからないわ」

音葉「おや……?」

亜季「音葉殿、どうしたでありますか」

音葉「拡声器でしょうか……そこのスピーカーからハウリングが」

亜季「聞こえるでありますか?」

のあ「いいえ」

留美「拡声器なんて、誰も使ってないわよ……前言撤回」

のあ「持ってる人物が来たじゃない」

留美「そっちから、来てくれたみたいね。手間が省けるわ」

のあ「私には面倒事が増えたように思えるのだけど」

亜季「右手に拡声器。左手のボタンが」

音葉「起爆装置……でしょうね」

のあ「さて、どうしましょうか」

留美「話は聞きますよ、佐藤心さん?」


99 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 23:15:00.98 :RY7mELNS0

52

鷹富士神社・境内

心「……」

音葉「動きがありませんね……」

留美「大和巡査部長、今から言うとおりに」

のあ「仁王立ち。いつも通りの派手な格好。同じく派手なショルダーバッグ」

まゆ「表情は……」

のあ「まゆ、どう見えるかしら」

亜季「了解であります」

まゆ「まゆには……言いたいことを我慢しているように見えます」

のあ「口を強く結んでるわね。話始めるのを我慢してる」

音葉「どうして……出てきたのでしょうか」

留美「確認事項は、持田亜里沙の動向、彼女が移動してきた経路、爆弾の所在」

亜季「持田亜里沙は自宅から移動していないであります。他二つは協力をお願いするであります」

留美「至急よろしく」

亜季「迅速に」

のあ「鷹富士茄子は、家屋にはいないかしら?」

まゆ「あちらにいます……」

のあ「交渉に必要になるから、声をかけておいて」

まゆ「わかりました」

留美「梅木さん、こっちも拡声器はあるかしら」

音葉「交通課の物がこちらに……準備をします」

留美「ありがとう。爆弾処理班は?」

音葉「到着しています……」

のあ「留美。彼女のバッグだけど」

留美「爆弾の可能性は考慮してるわ」

のあ「それならいいわ」

留美「さて、お話してくれるかしら」

のあ「そうじゃないと進まないわ」

音葉「拡声器……準備出来ました」

留美「借りるわよ。一仕事してくるわ」


100 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 23:15:58.03 :RY7mELNS0

53

鷹富士神社・境内

留美「あー……そこの人、聞こえるかしら?」

心『聞こえてるぞー☆どうして、そんなに遠くから話してるのかな?』

のあ「いつも通り、かしら」

まゆ「違うと思います……」

茄子「たぶん、違います」

音葉「口調は平静を装っていますが……揺らぎは既に」

茄子「強い口調で話すことは昔からありませんでした。言葉そのものは、その、ですけど」

留美「理由は、あなたが爆弾魔だから」

心『人を爆弾魔扱いは、ないわー』

留美「事実でしょう?」

心『まぁ、事実だけどさ』

茄子「……認めました」

まゆ「佐藤さん、こっちの調査状況を知ってますか……?」

のあ「知らないと思うけれど」

留美「自己紹介ありがとう。こちらがあなたを爆弾魔と考えた、証拠はいるかしら?」

心『いらない。無駄な調査、ご苦労様』

留美「疲れていないからいいわ」

心『文香ちゃん、連れてったでしょ?』

留美「ええ」

心『はぁとに辿り着くのは時間の問題だし、それに!』

のあ「犯行予告を出させた時点で決まってたわ」

まゆ「……終わらせよう、としている」

心『最後の爆弾で、はぁとのやることは終わりだから』


101 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 23:16:37.19 :RY7mELNS0

留美「爆弾の在りかを教えなさい」

心『おしえなーい☆』

のあ「出てきたのだから、言いたいことぐらいあるでしょう」

留美「話を聞くわ。あなたの目的は何?」

心『……』

留美「質問を変えましょうか」

心『いや……そのままで』

留美「そう」

心『そこの銀髪のお姉さん?』

のあ「私かしら」

心『昨日、言ったこと覚えてる?』

のあ「留美、拡声器を貸して」

留美「どうぞ。焚きつけないように」

のあ「言ったことは覚えてるわ。言わなかったことはわからない」

心『お父ちゃんが、私に残したもの』

のあ「そんな話をしてたわね」

心『自宅と店と設備と技術、それと』

のあ「……」

心『しがらみ』


102 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 23:17:55.38 :RY7mELNS0

54

鷹富士神社・境内

心『お父ちゃんが残していったもの、素晴らしいものだったんだぞー』

のあ「留美、任せるわ」

留美「任されたわ」

心『……って、皆言うの』

茄子「地元を支えるのは、私達の使命じゃないでしょうか」

音葉「自然と受け止めるのは……難しいことですよ」

心『はぁともそう思ってた。だって、お裁縫もクリーニングも大好き』

まゆ「……」

心『でもね』

茄子「心さん……」

心『違った。全然違った』

留美「……」

心『どうして、私をここに縛り付けるの?』

のあ「……」

心『私がいないと、だめ。私がやらないと、だめ。お前がやるんだよ、って』

まゆ「……」

心『ずっと、ここで暮らしてきたからわかんない。ずっと、ここに縛られてきたからわかんない。ずっと、ずっと、この先もずっとこのまま』

のあ「……」

心『地元のクリーニング屋の跡取り娘なんだって、ずっと言われ続けてきたから』

茄子「それ以外の心さんを、知らない」

心『決めちゃった、はぁとはそうなんだって』

留美「……」


103 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 23:19:37.84 :RY7mELNS0

心『いつも、いつだって針仕事。丁寧な仕事は父譲り』

のあ「それでも良いなんて……贅沢な悩みなんでしょうね」

心『お父ちゃんまで死んじゃって、落ち着くまで精いっぱいで、忘れようと仕事してて、そうしたら』

留美「……」

心『いつの間にか、私は領主様。自分では、シンデレラのつもりだったのに』

まゆ「シンデレラ……」

心『連れ出して、欲しかったな』

のあ「……」

心『だけど、もう、迎えは来ないんだ』

留美「……」

心『そっか、領主様なんだ。はぁとははぁとのお城の領主様。ここが、私の足に絡みつく根っこの生えてる場所なんだ』

のあ「……」

心『燃えちゃえばいいんだ、私のしがらみとなる、ここが、って』


104 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 23:20:34.70 :RY7mELNS0

55

鷹富士神社・境内

茄子「そんなものじゃ、ないのに……」

のあ「今の佐藤心には、届かないわ」

まゆ「……」

留美「犯行を認めるのね」

心『ぜんぶ、爆弾を作ったのも爆発をさせたのも、私』

留美「渋谷の爆発事件については」

心『それはお仕事』

留美「依頼者は」

心『はぁと、わかんない☆』

のあ「持田亜里沙を問い詰めるしかなさそうね」

留美「爆弾の製造は、あなたかしら」

心『そうだよ、良く出来てた?』

留美「誤作動もなし、威力も制御出来てるわ」

心『えっへん。次もバッチリだから』

留美「あなたの目的は、この場所の混乱だった」

心『違う。なくなってしまえばいい、と思った』

留美「人を殺さないのは、あなたの優しさだと思うわ」

心『……』

茄子「本当は、優しい人なんです」

のあ「そうみたいね。逃げてしまえばいいのに」

留美「あなたは、ここに住む人々に対する愛情はあるようね」

心『……そうかも』

まゆ「なら……どうして」


105 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 23:21:24.03 :RY7mELNS0

心『もう、イヤになっちゃった』

留美「一般人は爆弾の製造法と材料の調達先なんて、知らないわ。どこが情報源かしら?」

心『爆弾は、私の希望だった』

留美「質問に答えなさい」

心『だって、燃やしてくれるんだよ?私を縛り付けるものが消えていくんだよ?引っ越しの報告を増える人が増えたんだよ?』

茄子「……」

心『どんどん、はぁとが持っているものは減って行ったんだ。そうしたら、気分が晴れてきた』

茄子「……」

心『はぁと、もう自由になれるんだ。だって!』

のあ「だって?そんなことで、誰かの生活を奪うのは得とは言えないわ」

心『……どうして?』

留美「どうして?」

心『みんなは今まで通り。私は、お父ちゃんを失ったのに、なんで、みんなは今まで通りなの?はぁとが代わりになったから?そんなの……ずるい』

茄子「ごめんなさい……気づけなくて」

まゆ「……それは、違います」

のあ「まゆ、無暗に動かない方がいいわ」

留美「まゆちゃん?」

まゆ「貸してください……お願いします」

留美「貸せないわ。思いつめた顔をしてるわ」

まゆ「なら、伝えてください……」

心『おーい、何こそこそ話してるんだ☆』

まゆ「まゆは……失ってしまいました。佐藤さんの気持ちもわかります」

のあ「まゆ……やめましょう」

まゆ「火事で燃えてしまって……残してくれたものもないんです」

留美「まゆちゃん、少しだけ話してみて」

のあ「留美、やめてちょうだい」

留美「どうぞ。自分で持ってちょうだい」

心『刑事さんは、説得を諦めたのかな?』

まゆ「佐藤さん、聞いてください……」

のあ「……」


106 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 23:22:24.29 :RY7mELNS0

心『なにー?』

まゆ「それは、違います……!」

心『それ、って?』

まゆ「燃やしてしまっていいわけ、ありません……皆が誰もが積み重ねてきた大切なものを燃やしていいわけありません……!」

心『……』

まゆ「あなたは、失うことの辛さを知っているのに、どうして……どうして、自分の手で自分が持っているものを燃やしてしまうんですか……」

心『……』

まゆ「やめてください……そんなの、あなたも辛いだけだから……」

心『……ふふ』

のあ「まゆ……」

心『そんなの、とっくにわかってる!』

まゆ「なら……」

心『わかってる、わかってるから!だから、もう、わかってる!お父ちゃんが、教えてくれてた!この閉塞した気持ちから、逃れるのにはどうしたらいいか!』

音葉「スイッチに手を……!」

心『すべてのしがらみは、私から伸びてる……私が燃えてしまえばいい』

茄子「心さん、やめてくださいっ!」

心『爆弾はここにあるからっ!』

のあ「……留美」


107 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 23:23:37.70 :RY7mELNS0

パーン!

留美「イメージ通り」

まゆ「きゃっ……」

茄子「へっ……?」

音葉「手を撃ち抜きました……ボタンが転がっています」

のあ「お見事。銃撃も上手くなったわね」

留美「ボタンは回収!総員、犯人確保!」

心『ごめんね、みんな』

音葉「投げたバッグは……空?」

のあ「爆弾はどこに……まさか」

まゆ「あぁ……服の中から血が」

のあ「体内……だったの」

心『ほら、威力の調整はバッチリだったでしょ?』

留美「救護班、急いで!」

心『最初から……こうすれば良かった。あの人も、世界の重みから逃げるには……これが、い、い、って……』

まゆ「そんな……」

のあ「……」

茄子「……あぁ、ごめんなさい……ごめんなさい」

のあ「犯人とわかっても、泣いてくれる被害者もいるのに……どうして」

音葉「……」


108 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 23:24:35.79 :RY7mELNS0

まゆ「こんな、終わりなんて……」

のあ「おかしいわ。こんなことにはならない」

まゆ「のあさん……」

のあ「明らかに捻じ曲げた因子がある、それは」

音葉「……爆弾」

のあ「鷺沢文香も、持田亜里沙も、佐藤心も、爆弾なんて結びつかない」

音葉「降ってきたような……要因」

のあ「誰かが、事件の種を蒔いている。今回は明確に爆弾という形だった、だけ」

まゆ「事件の種……」

のあ「西川保奈美も、西園寺琴歌も発生のしないはずの事件だった」

まゆ「……それなら」

音葉「そんなことはないと……決めつけたいところですが」

のあ「何かが、いるわ」


109 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 23:26:33.12 :RY7mELNS0

56

幕間

メゾンドシャルル・持田亜里沙の自室

亜里沙「はぁとちゃんの声が聞こえる……ちょっとだけ」

ピンポーン……

亜里沙「警察かな……うん、そうだよね」

亜里沙「はーい、どなたですかー?」

翠「こんにちは」

亜里沙「えっ、どなたですか?」

翠「依頼主の部下です。上がらせていただきます」

亜里沙「……どうぞ」

翠「お座りください。私も座ります」

亜里沙「警察が見ていませんでしたか?」

翠「はい。ですが、私はここには来ないことになりますよ」

亜里沙「え?」

翠「まさか、警察の中に関係者がいないとでも?」

亜里沙「……」

翠「鷺沢文香は警察に連行されています」

亜里沙「そう、ですか……」

翠「知らなかったようですね。お伝えできてなによりです」

亜里沙「はぁとちゃんは、どうなりましたか」

翠「終わりまで、時間の問題です」

亜里沙「終わり、って?」

翠「人間の終わりと言えば、死ですよ」

亜里沙「……」

翠「うふふ……怖がらないでくださいな」

亜里沙「何の、ご用ですか」

翠「簡単なお願いをしに来たのです」

亜里沙「お願い、ですか」

翠「現実とはままならぬもの、です。幼稚園の先生という夢を叶えたあなたでも、例外ではありませんでした」

亜里沙「……」

翠「理想と現実の折り合いはつかず。未来から目を背けて、爆弾へ縋る」

亜里沙「あなたに、何がわかるんですか?」

翠「先生は聖職者と決まっていますわ。だから、罪の重さに耐えきれない」

亜里沙「……まさか」

翠「自害をしませんか?」


110 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 23:27:33.85 :RY7mELNS0

亜里沙「……」

翠「このままだと、警察にあなたも連行されてしまいます。警察が繋がりを知るには、まだ時期尚早との判断です」

亜里沙「しないつもりです。二人を止めなかった罪を償わないと」

翠「模範解答ありがとうございます。さすが、先生ですね」

亜里沙「帰っていただけますか」

翠「では、自害に見せかけて殺害します。今ここで、私が」

亜里沙「やめてください。人だって……」

翠「隣人は不在ですよ。まさか、命乞いですか?」

亜里沙「違います……あなたはまだ若いのに」

翠「若い、それは純然とした事実です。間違いありません」

亜里沙「そんなことで、私なんかで人生を棒に振らないでください」

翠「うふふっ……満たされないなら、同じことです」

亜里沙「……!」

翠「人間を抑えるのはコツがいりますが……難しくありません」

亜里沙「んー!」

翠「暴れないでください。痛くは……しますけど、一瞬です」

翠「今なら少年法で裁かれます。私の人生は続きますから」

翠「でも、私はそんなことを望みません」

亜里沙「ん……んん……!」

翠「失敗したら、極刑を下されるリスクがなければ満たされない……」

翠「知ってますか、私は弓道の名選手なんですよ」

翠「でも、今の弓道には何もありません」

翠「最初の一射を外したら、死を覚悟しなくてはならないのに」

翠「ああ、つまらない。スリルが足りませんわ。真似事で満足なんて出来ません」

翠「うふふ、決めました」

翠「割腹はいかがですか?」


111 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 23:28:11.46 :RY7mELNS0

亜里沙「……!」

翠「由緒ある責任の取り方ですわ。弓だけの女とも思われたくありませんし、そうしましょう」

翠「さぁ、お持ちになって」

翠「最初はやってあげます。ぶすり、と」

翠「さぁ、手をふれて。自分でやりましょう」

翠「やれませんか?お手伝いします、年下の役目ですから」

亜里沙「……あっ、ああ……」

翠「ぶすり、ぶすり、ぎりぎり、ぎこぎこ?」

翠「割腹は死ねないことが多いらしいですね。そのため、介錯として首を落とすのが一般的だったようです」

翠「今回は、がんばってください。私は、介錯は出来ませんので」

翠「持田亜里沙さん?」

亜里沙「……」

翠「意識はないようですね……脈はもう少しでしょうか」

翠「……ふふ」

翠「無様な死に方は嫌でしょう。少しだけ掃除をします」

翠「お手伝いをしていただけますか?」

つかさ「まったく。仕事はスマートにやってくれ」


112 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 23:29:03.68 :RY7mELNS0

翠「いけませんか?」

つかさ「リスクマネジメントの欠片もないのは、勘弁だ」

翠「良い匂いがしますね。どうですか?」

つかさ「はぁ?何言って……」

翠「いかが、ですか」

つかさ「……血の臭いをそう言うのは悪趣味だな。だけど、他人の感性認められなきゃ、今の時代は生きられない」

翠「その通りかもしれません」

つかさ「だから、まだ、アタシ達にはアンタが必要だよ」

翠「神経を使わなくて、大丈夫ですよ。捕まる時はその時です」

つかさ「アンタは破滅的過ぎる。アタシはもう少しだけ、稼ぎたい」

翠「この部屋も安く借りれますよ?」

つかさ「この部屋を借りても仕方ねぇ。もっとあるだろ」

翠「欲しいのは?」

つかさ「この場所の未来さ」

翠「壊してくれましたから、ね?」

つかさ「成熟した場所は、生きやすく息苦しい」

翠「ええ。緊張感がなさ過ぎて、退屈ですわ」

つかさ「破壊はチャンスだ。そう思ってしまう、弱い人間はどこにでもいる」

翠「自らで破壊する力もないのに、ですね」

つかさ「そう言うなよ。そんな人間は破壊された状況も活かせないだけさ。アタシは違う」

翠「何を始めるのですか」

つかさ「まずは、クリーニング屋でも紹介料でもいただくか」

翠「アテはあるんですか?」

つかさ「爆弾だって、殺し屋だって用意できたさ。服のクリーニング屋くらい、簡単だよ」

翠「依頼があれば、ご相談くださいませ」

つかさ「さて、別の警官が来る前に終わらせるぞ。いいな?」

翠「はい……」

つかさ「何してる?」

翠「脈と瞳孔を確認しました。お仕事は終わりです。帰りましょう」

幕間 了


113 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 23:30:21.57 :RY7mELNS0

57

清路警察署・刑事一課和久井班室

のあ「留美」

留美「ただいま。まゆちゃんは?」

のあ「科捜研にいるわ。梅木音葉とおやつタイムよ」

留美「新田巡査」

美波「はいっ!」

留美「鷺沢文香の取り調べ、交替してちょうだい」

美波「え、いいんですか?」

留美「いいわよ。大体の犯行もわかってるし、勝手に話してくれるから。あなたの経験として必要でしょう」

美波「わかりましたっ、美波行きますっ」

留美「大和巡査部長が取調室にいるから、よろしく」

のあ「収穫は?」

留美「ないわよ。佐藤心は亡くなってしまったし」

のあ「さっき、聞いたわ」

留美「持田亜里沙は自害」

のあ「遺書は?」

留美「ないわ。佐藤心の部屋にも爆発計画と製造方法はあったけど、遺書はなかった」

のあ「動機が不明瞭ね」

留美「騒ぎを起こしたかったのかもしれない。鷺沢文香の言葉を借りるなら、凡庸な物語から抜け出したかった」

のあ「犯罪なんて、誰かに縛られる口実を与えるだけじゃない」

留美「どうにしても、3人のうち2人が死亡したわ」

のあ「……そうね」

留美「残ったのは、傍観者のストーリーテラーだけ」

のあ「渋谷生花店の爆発、依頼者については」

留美「わからない。持田亜里沙しか、知らなかったわけだから」


114 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 23:31:26.54 :RY7mELNS0

のあ「持田亜里沙は自害だったのかしら」

留美「警察がずっと張ってるわ。死亡推定時刻で、人の出入りはなかった」

のあ「秘密を抱えるのが好きね、人間は」

留美「のあ、聞きたいのだけれど」

のあ「何かしら?」

留美「あなたはご両親の仕事や生活を受け継いでるわ。それから、逃れたいと思ったことはないの?」

のあ「佐藤心にとって、それは鎖だった」

留美「持田亜里沙にとっての先生も、鷺沢文香のとっての現実も、それに近かった」

のあ「私は思ったことはないわ。なぜなら、それは……」

留美「どうしたの?」

のあ「佐藤心もきっと同じよ」

留美「同じ?」

のあ「どうしようもなく好きだったから、離れられなかった」

留美「私にはわからないのだけれど」

のあ「わからないならいいわ、それが幸せでしょう。留美は刑事として、迷いがなくていいわね」

留美「褒められてるのかしら?」

のあ「趣味が仕事の人間は幸せよね」

留美「やっぱり、褒めてないわ」


115 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 23:32:31.06 :RY7mELNS0

のあ「でも、どうして爆弾だったのかしら」

留美「私は目的よりも手段が先だと思ってるわ」

のあ「私もよ。爆弾の方が先に手に入った」

留美「何をやるかは、次第に決まって行った」

のあ「鷺沢文香は、騒ぎの様子を見ることを目的に」

留美「佐藤心は、自らのコミュニティを破壊するために」

のあ「持田亜里沙は、二人のためが理由だったのかしら」

留美「もう知る由もないわ。鷺沢文香の語る物語は事実ではないもの」

のあ「彼女は生き残って、自分だけの特別な物語を得たのね。この事件で一番得をしてるのかも」

留美「解せないわ」

のあ「人なんて、解せないものよ。私は他人の気持ちなんてわからない」

留美「それは、のあが特殊なだけよ」

のあ「留美、聞きなさい」

留美「考えてることは同じよ。爆弾の出所」

のあ「ここ最近、おかしいわ」

留美「署長も部長も同じことを言ってるわ」

のあ「志乃も?」

留美「ええ。どこかの誰かが、犯罪の火を起こしてる」


116 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 23:33:21.48 :RY7mELNS0

のあ「陰謀論は私の趣味ではあるけれど、警察が信じるにはどうかしら」

留美「ここまで続けば、無視はできない。渋谷凛は犯人であり、被害者になった」

のあ「渋谷凛を殺害した犯人は見つかったけれど」

留美「動機がない。それについては、西園寺琴歌も同じ」

のあ「動機ある人物を見つけ出さないといけないわ」

留美「ご丁寧に、そんな人物は姿形もないのだけど」

のあ「……誰なのかしら」

留美「見つけ出すわよ。それが、私の職務だから」

のあ「期待してるわ」

コンコン

留美「どうぞ」

まゆ「おじゃまします」

留美「まゆちゃん、落ち着いたかしら?」

まゆ「留美さん……ご迷惑をおかけしました」

留美「いいのよ。言いたいことを、言ってくれて気分がいいわ」

まゆ「やっぱり、まゆは……何も忘れられなくて」

留美「忘れなくていいのよ。好きな物はいつまでも。そうでしょう、のあ?」

のあ「その言葉……」

留美「珍しく歯切れが悪いじゃない」

のあ「なんでもないわ。まゆ、帰りましょうか」

まゆ「はい」

のあ「疲れたわ。真奈美が帰ってくるまで、家でゆっくりとしてましょう」

まゆ「はぁい」

のあ「留美は?」

留美「仕事だけ終わらせるわ。お疲れ様」

のあ「お疲れ様」


117 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 23:35:16.83 :RY7mELNS0

58

5/6(水) 正午

高峯探偵事務所

真奈美「ただいま。誰かいるか?」

まゆ「真奈美さん、おかえりなさい。荷物を持ちましょうか?」

真奈美「荷物は自分で運ぶよ。お土産だけ渡しておこう」

まゆ「まぁ……ありがとうございます♪」

のあ「真奈美、帰ってたのね」

真奈美「ただいま。何を持ってるんだ?」

のあ「何って、裁縫道具だけど」

まゆ「二人でお勉強してるんですよぉ」

のあ「編みぐるみも上達したわ」

真奈美「家事は覚えて損はない」

のあ「そうね。生地も買ってきたのよ」

真奈美「派手な赤とピンクだな……何を作るつもりだ」

まゆ「真奈美さんのお土産、開けていいですかぁ?」

真奈美「もちろん」

まゆ「これは、七味ですかぁ?」

のあ「まゆ、見せてちょうだい」

真奈美「名物らしいな。のあ、興味はあるか?」

のあ「ええ」

まゆ「お昼はおうどんにしましょうか。真奈美さんは、お昼食べましたかぁ?」

真奈美「いいや。手伝おうか?」

まゆ「お疲れでしょうから、ゆっくりしててください」

真奈美「なら、ご厚意に甘えるとしよう」

まゆ「はい、ソファに座ってゆっくり待ててくださいねぇ」


118 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 23:36:48.15 :RY7mELNS0

のあ「お疲れ様。仕事はどうだったかしら?」

真奈美「久々に若い頃を思い出した。目標に向かって、無茶が出来る日が懐かしいよ」

のあ「真奈美にもそんな時代があったのね」

真奈美「人には何でも出来そうだと言われるが、そうじゃない。私は、出来るようになるまで続けられるんだ」

のあ「羨ましいわ。私は飽きやすいから」

真奈美「未知なるものを恐れないのは、私には羨ましいよ」

のあ「こっちの仕事は、不発だったわ」

真奈美「ニュースは見た。事件は解決したんじゃないのか?」

のあ「結局、後ろにいる誰かがわからない」

真奈美「……その話なんだが」

のあ「……どうして、声を抑えるのよ」

真奈美「私が佐藤心まで簡単に辿り着いたのは、理由がある」

のあ「何かしら」

真奈美「別の誰かも、同じ繋がりを探していた」


119 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 23:37:27.51 :RY7mELNS0

のあ「本当なの?」

真奈美「爆発事件よりも前だ。濃い化粧をしたスーツ姿の女性だったそうだが」

のあ「そうなると、話が違うわ」

真奈美「3人のうちの誰かが、無作為な誰かに持ち掛けたからじゃない」

のあ「最初から、3人の犯行になることは織り込み済み」

真奈美「何者かの意図があった」

のあ「その人物については」

真奈美「稲村と名乗っていたぐらいだな。何者かはわからない」

のあ「追うのは難しそうね」

真奈美「実は、だな」

のあ「……」

真奈美「以前にも、同じ話は聞いたことがある」

のあ「糸を引く誰かの話?」

真奈美「違う。女の話だ」

のあ「そっちね」

真奈美「どこにでもいるが、誰も素性はわからない」

のあ「見かければ、事件は起こるわけね」

真奈美「本当に関係があるかはわからないが」

のあ「ねぇ、真奈美」

真奈美「どうした」

のあ「ここで忘れてしまうべきかしら」

真奈美「忘れられるなら、な」

のあ「……」

真奈美「これは経験則だが、悪いことは向こうから来るものだ」


120 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 23:38:49.48 :RY7mELNS0

のあ「そうね……」

真奈美「事件に突っ込まないなんて、のあらしくないな」

のあ「危険なことは避けるべきでしょう。せっかく作ったものを無駄にしたくないわ」

真奈美「何を作っているんだ?」

のあ「法被よ」

真奈美「そうそれは……ハッピだって?」

のあ「法被は晴れ着よ。古からの伝統じゃない」

真奈美「アイドルの法被だろ?」

のあ「もちろん。みくにゃんへの愛がを放出できないと、イグナイトしてしまうわ」

真奈美「まさか、佐久間君に手伝わせてるのか?」

のあ「楽しんでくれてるわ」

真奈美「本当か……?」

のあ「教育の成果ね」

真奈美「悪い保護者だな」

のあ「いいでしょう、趣味ぐらいあっても」

真奈美「ああ。昔だったら、のあは事件の事しか考えてない」

のあ「お昼のことなんて、考えていないでしょうね」

真奈美「それと比べたら、健康的だ」

のあ「私でも、そう思うわ」

真奈美「まぁ、何事もほどほどにな」

のあ「わかってるわ。ということだから」

真奈美「だから?」

のあ「デザインを考えましょう。なんなら、ライブも一緒に行くかしら?」

真奈美「諸事情で断る。それは、1人でがんばれ」

エンディングテーマ

The brightNess

歌 高峯のあ&木場真奈美

製作 tv○sahi


121 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 23:40:42.00 :RY7mELNS0

次回予告

小室千奈美「私はコインロッカーから白骨が見つかる事件が起こるから、見て来て報告しなさいと依頼されただけよ?」

第4話
小室千奈美「高峯のあの事件簿・コイン、ロッカー」
に続く


122 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 23:42:41.10 :RY7mELNS0

オマケ

撮影後の風景

カットカット!

つかさ「オッケー、二人ともやるじゃん」

亜里沙「ふふっ、ありさせんせいの演技はどうでした?」

つかさ「芸達者だな。あんな表情も出来るんだな」

亜里沙「ウサコちゃん、褒められちゃいました♪(モット、ホメルウサー!)」

つかさ「どっから出した?」

亜里沙「秘密です♪」

翠「……くんくん」

つかさ「翠は血糊を嗅いで、どうしたんだよ」

翠「これ、良い匂いがしませんか?」

つかさ「は?」

亜里沙「くんくん、確かに花の匂いがしますね」

つかさ「さっきのアドリブは素かよ……」

翠「私、何か言いましたか?」

つかさ「うん、強いわ」

亜里沙「つかさちゃんは、よく繋ぎましたよー。よしよし」

つかさ「ありさせんせい、撫でなくてもいいから……つーか、衣装から匂うな」

亜里沙「うーん、着替えちゃいましょうか。翠ちゃんも、手を洗いましょう?」

翠「はい。お供します」


123 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 23:45:09.75 :RY7mELNS0

P達の視聴後

PaP「怒られた」

CoP「誰にですか?」

PaP「心ちゃん」

CuP「まず、その呼び方を変えましょうか」

PaP「おしっ。あなたの心をシュガシュガスウィート、しゅがーはぁと☆、ちゃんに怒られた」

CuP「余計なことを言うからですね」

CoP「口を慎めば、問題解決です」

PaP「冗談はこれまでにしておいて。真面目な話をすると、だ。役についてだ」

CuP「役?」

PaP「身につまされて、なんか悲しいとか」

CoP「そのつもりでオファーかけたので、僕からは何も言いませんが」

PaP「これなら、被害者役の方が良かったんじゃないかとか」

CuP「それも、どうかと思いますけど……」

PaP「ま。はぁとちゃんは僕の可愛いシンデレラの一人だから、現実では存分に魔法にかかっていればいいんだよ」

CoP「この人は本当に、口さえ良ければ……」

おしまい


125 :◆ty.IaxZULXr/ :2016/11/30(水) 23:50:31.04 :Q7hAIDXq0

あとがき

ほぼ一新した結果、リメイク前の犯人はカレーを作っただけに。

水野翠というヴィランになれるアイドルについては、改めて掘り下げていこう。

次回は、
小室千奈美「高峯のあの事件簿・コイン、ロッカー」
です。

それでは。


SS速報VIPに投稿されたスレッドの紹介です
【SS速報VIP】鷺沢文香「高峯のあの事件簿・爆弾魔の本心」
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