【SS速報VIP】【ミリマス】月夜の浜辺【奈緒】
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1 :◆OYYLqQ7UAs :2017/05/15(月) 15:23:30.25 :VL/UFxnno

ミリマス、横山奈緒の掌編SSです。

初投稿につき、キャラ口調など崩れているかもしれません。
何か気づいた点などありましたら、指摘していただけると幸いです。


2 :◆OYYLqQ7UAs :2017/05/15(月) 15:24:44.45 :VL/UFxnno

 それは確か、一ヶ月くらい前、海の近くでお仕事があった時のことやったと思う。

 朝早い時間からのお仕事やったから、前乗りで海のすぐそばにあるホテルに泊まらせてもらったんや。

 プロデューサーさんも一緒やったから内心いつも以上にウキウキで、正直浮ついてたのは否定できへん。

 でもプロデューサーさんのお部屋に遊びに行った途端にそれを見抜かれて、指摘されて、叱られて……私の気持ちが全部否定されたような気分になってしもた。


3 :◆OYYLqQ7UAs :2017/05/15(月) 15:25:13.38 :VL/UFxnno

 もちろん悪いのは私やって分かってる。

 これが例えば琴葉やったら、明日の仕事のために気を引き締めて準備してるやろし、本来そうするべきやってことは、分かってる。

 せやから余計に、お仕事を向いてる気持ちとプロデューサーさんを向いてる気持ちがぶつかって、私のアホな頭はすぐにパンクしてもうた。

 プロデューサーさんの前ではちゃんと謝ったと思うんやけど、気づいたときには一人で浜辺を歩いてたんや。


4 :◆OYYLqQ7UAs :2017/05/15(月) 15:25:40.53 :VL/UFxnno

 夜も更けて結構ええ時間になっとったから、浜辺には誰もおらんかった。

 雲一つない夜空には、半月から少し欠けたくらいのお月さんが浮かんでいたのを、やけに覚えとる。

 百合子から前に教えてもらったはずなんやけど……それが上弦なのか下弦なのかは生憎と分からんかった。

 宛てもなく適当にぶらぶらと歩いてたんやけど、波打ち際でなにかが光ったような気がしたんや。

 今考えてみれば月明かりくらいでそんな光るわけがないんやけど、まあ、不思議なこともあるもんやな。

 近寄ってみたら、それはボタンやった。何の変哲もない、その辺のシャツに付いとるような、安っぽいボタンや。


5 :◆OYYLqQ7UAs :2017/05/15(月) 15:26:27.70 :VL/UFxnno

 そのボタンを何かに使おうと思ったわけやない。さすがにそんな意地汚い真似はせえへんわ。

 でもなんでかわからんけど、拾ったそのボタンを、またその辺に放る気にはならんかった。

 私はそのボタンをポケットに入れて、また歩き出したんや。

 正直、浜辺なんてどんだけ歩いても心の整理なんてつかへんかった。

 少しくらい相手してくれてもええやんか、とか、あんな言い方せえへんでもええやんか、とか、ブツブツプロデューサーさんに文句言ってたわ。

 私なりに結構アプローチしてたつもりやったから、ぜんぜん反応もしてくれへんプロデューサーさんにちょっとだけ、怒ってたんかな。


6 :◆OYYLqQ7UAs :2017/05/15(月) 15:27:04.96 :VL/UFxnno

 漫画みたいに海に向かって叫んだら喉痛めてまうから、まさか仕事前にそんなことできへんしな。

 でもなんとかこのモヤモヤしたもんを発散したくて、ポケットからさっき拾ったボタンを取り出したんや。

 思いっきりこのボタンを放ったら、少しはストレス発散になるやろか。 
 
 でもホンマ、なんでかわからんけど、私はそのボタンを放れんかった。

 お月さんに向かって放ってみたり、波間に向かって放ってみたり、頭の中ではできるんやけど、実行には移せんかった。

 まあ、環境破壊になるからしゃーないな、なんて自分を納得させて、私はそのボタンを手の中に握りなおしたんや。


7 :◆OYYLqQ7UAs :2017/05/15(月) 15:27:30.14 :VL/UFxnno

 波に洗われていたボタンは冷たくて、その冷たさが沁みたみたいに、指先がジンジンしとった。

 そしたらそれが手を通って、腕を通って、心まで冷たくなってしもたような、そんな気分になったんや。

 でも同時に、そのボタンからようわからん温かさみたいなもんも感じたんや。

 百合子みたいな想像力は私にはないはずなんやけど、なんやそのボタンが私を励ましてくれてるような気がして、ちょっと笑ってもうた。


8 :◆OYYLqQ7UAs :2017/05/15(月) 15:28:17.47 :VL/UFxnno

 やっぱりこれは放れへんな、と思ってポケットに入れなおしたあたりで、後ろからプロデューサーさんが走って来たんよ。

 ボタンに背中押されてさっきのことを謝ろうとしたんやけど、先にプロデューサーさんに謝られてしもた。

 さっきは言いすぎた、私が仕事をおろそかにして遊びに来るわけないのにすまん、って。

 私もプロデューサーさんのことなんも考えんと、ノーテンキに遊びにいってごめんなさい、って謝って、ちゃんと仲直りができたんや。


9 :◆OYYLqQ7UAs :2017/05/15(月) 15:28:51.32 :VL/UFxnno

 最初は冷たいようでいて、でも本当は温かい。

 このボタンは今日のプロデューサーさんみたいやな、なんて思ってたら、プロデューサーさんのシャツのボタンがホンマに一つ取れてたんや。

 今日は私もプロデューサーさんも浜辺には来てへんから、このボタンがプロデューサーさんの物なわけはないんやけど、そんな不思議な繋がりを見たら本格的に放るわけにはいかへんやろ。

 仲直りの立役者として、私はそのボタンをポケットに入れたまま、プロデューサーさんと月夜の浜辺を歩いたんや。

「なあなあ、プロデューサーさん、ボタン取れてるからホテル戻ったら付けたるわ~! え、そんくらいできるわ! ちゃんとお母さんから花嫁修業受けてるんやで~!」


10 :◆OYYLqQ7UAs :2017/05/15(月) 15:30:52.79 :VL/UFxnno

以上。

とあるものを読んでふと思いついた話なので、分かる人には元ネタが分かってしまうと思われます。
でもあの雰囲気にそのまま奈緒ちゃんは放り込めないな、と思って哀愁少な目の雰囲気になりました。
精進せねば…

お読みいただき、ありがとうございました。


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