これはミリマスssです


2 :◆TDuorh6/aM :2017/04/15(土) 18:16:04.59 :PCATOFtoO

「おはようございます」

いつもと同じ765プロの朝。
扉を開けると、部屋では既に数人のアイドルがいた。
そのみんながワイワイと大きな声でお喋りしていて。
どうやら、俺の挨拶に気付いていない様だ。

若い子達は元気だなぁ、なんて思いながら椅子に座ろうとして。
ふと、一つデスクが多い事に気付いた。
おかしいな、前見た時はなかったのに。
新人でも入ってくるのか?

そんな事を考えながらカバンを開けてノートパソコンを出して。
買って来たコーヒーを出して準備万端。
早速カタカタとキーボードを叩く。
いつもの様に、今日もひたすら。

カタカタ、カタカタ、カタカタ

しばらくして、再び事務所の扉が開かれた。
入って来たのはスーツ姿の男性。
けれど、それは765プロの社長ではなく。
つまり、新しいプロデューサーなのか。

「おはようございます」

「あ、おはようございます、プロデューサーさん」

長い髪を振って、星梨花が子犬の様に反応した。
おいおい、俺の時は反応してくれなかったのに。
少し寂しいじゃないか。
と、そんな事考えてる暇あったら仕事しないと。

隣のデスクは、案の定新人の席だった。
俺に挨拶くらいしてくれたって…って。
もしかしたら、邪魔しちゃ悪いと思ってるのかもしれない。
気の利く新人だ、俺も負けてられないな。


3 :◆TDuorh6/aM :2017/04/15(土) 18:16:46.91 :PCATOFtoO

「それで、以前持ってきてくれって言われていたので、今日はきちんとランドセルを持ってきました」

「ランドセル…?俺が?」

「はい、もう小学生じゃないですから少し恥ずかしいですけど…これも、お仕事ですから!」

隣から新人と星梨花の会話が聞こえてくる。
いや星梨花、それ言ったのは俺だぞ。
そう言おうとして。

「うぉっほん、進展はどうだね?」

突然、社長に話掛けられた。

「こっちの書類はもうすぐ終わりそうです」

このくらいの作業なら朝飯前だ。
既に7割方終了している。

「おはようございます社長。先日頼まれていた企画書です」

新人もなかなか出来る様だな。
満足気に頷いて、社長は部屋へと戻っていった。
さてさて、さっさとこれを終わらせないと。
せっかくみんなの信頼を勝ち取ったんだ、もっと頑張らないと。

 
4 :◆TDuorh6/aM :2017/04/15(土) 18:17:35.19 :PCATOFtoO

「あと、プロデューサーさん。今度時間があるときに、パパがまたきちんとご挨拶したいって言ってました」

「また…?まぁ、今週末あたりに時間を空けとくよ」

隣の会話を聞き流しながら、キーボードを叩く。
そうだ、俺は仕事をしないと。
カタカタ、カタカタ。
…よし。

ひと段落ついて、次の書類に取り掛かろうとしたところで。
部屋のテーブルを挟んで志保と静香が口論しているのが目に入った。
またあいつらは喧嘩してるのか…

「ーーだから、今はそんな事を気にしてる暇なんてーー」

「そんな事ですって?!そんなーーー」

よく聞き取れないが、何時もの流れだとしたらレッスンでなにかあって言い合ってるのかもしれない。
やれやれ、もうすぐライブが近いってのに。
まぁ喧嘩するほど仲がいいとはいうし、放っておいてもだいしあだろう。

カタカタ、カタカタ、カタカタ

ひたすらにキーボードを打つ。
そうだ、今は他の事なんて気にしてる余裕もない。
ライブが近いって事は、その分俺の仕事も多いんだから。
先ずは目先の書類をどんどん終えていかないと。

 
5 :◆TDuorh6/aM :2017/04/15(土) 18:18:23.62 :PCATOFtoO

…よし、こっちは終わり。
えっと次は…

コトン、と。

気付けば俺のデスクの横に来ていた志保が、ガラスのコップを置いていた。
中には水が半分ほど、そして花がいけてある。
確か…金盞花、だったかな?
どこかで見た事があるから、何故か覚えていた。

「…まったく、プロデューサーさんはいつも頑張りすぎです」

「ありがとな、志保。でもこれもお前たちの為だから」

俺に視線を向ける事なく、志保は自分が置いた花を眺め。
そして一度目を閉じると、また何処かへ行ってしまった。
担当してるアイドルに応援されてるんじゃ、俺ももっと頑張るしかないな。
そう言えば、茜と麗花は何処にいるんだろう?

 
6 :◆TDuorh6/aM :2017/04/15(土) 18:19:28.33 :PCATOFtoO

カタカタ、カタカタ、カタカタ

仕事に熱中してキーボードを打ち込んでいると、窓の外を大きな物体が飛んでいくのが見えた。
…鳥か?いや、デカ過ぎた。
一旦仕事を中断して窓を開けると…
遠くの方で、麗花が走っていた。

何故か物凄い跳躍力で道を駆け回っている。
アイドルって凄い。
そう言えば、前はそうやって宇宙まで走って行ったらしいな。
俺も休憩がてら、少し追いかけてみるか。

窓から飛び出し、麗花を追う。
麗花はそこまでスピードを出していないようで、追いつくのに時間はかからなかった。
そのまま少し後ろを走り続ける。
これが結構心地よい。

走って、跳んで、飛んで。
街を抜け、雲を抜け、成層圏を抜け。
気が付けば宇宙まで来てしまっていた。
これは帰るのにも時間が掛かりそうだ。

麗花はまだ俺に気づいていないのか、振り返る事なく走り続けている。
よくもまぁそんなに体力が持つものだ。
普段からダンスをやってるからだろうか。
それとも趣味がハイキングだからだろうか。

「あら、麗花じゃない。酸素足りてる?」

「あ、おはようございます、律子さん!」

「おはようって、今の日本はもうすぐ夕方よ…なんて、宇宙にそんな法則はないわね」

見れば、宇宙服を着た律子がいた。
うちの事務所の企画の一つは宇宙で行われているが、今日は律子が来ていたのか。
それにしても律子よ、生身で宇宙空間を走る麗花に対しての言葉がそれか。
酸素以前の問題だろう。

「レッスンはちゃんと終わってるの?」

「もちろんです!あ、地球って丸くて星みたいです!」

「当たり前じゃない…で、なんで走ってるのか聞いていい?」

「パンパカパーン!が溢れてるから!」

「分からないんだけど…」

パンパカパーンってなんだ。
麗花なりの喜びや楽しみの表現なんだろうか。

「…それにほら、こうやって色んな場所を走ってると思い出話が沢山増えますから!」

「…そう。それじゃ、私はまだ仕事があるから」

そのまま律子と分かれ、麗花は回れ右して地球へ向かい走り出した。
そろそろ日本は夜になる頃かな。
俺もさっさと戻って仕事の残りを終えないと。
 

7 :◆TDuorh6/aM :2017/04/15(土) 18:20:04.76 :PCATOFtoO

事務所へ戻ると、もうほとんどみんな帰っていた。
恐らくいるのは社長くらいだろう。
さて、仕事の続きを…ん?
俺のデスクの上に、茜ちゃん人形が置いてある。

茜が置いていったのだろうか。
それにしても、市販されているものと違ってどこかハンドメイド感が漂っている。
茜が手作りのをプレゼントしてくれたのかな。
明日会ったら、きちんとお礼を言っておかないと。

「…よし、あと5体くらい作ろっかなー!」

茜の声がきこえてくる。
なんだ、まだ残ってたのか。
ならお礼を言わないと。

セパレーターで仕切られたスペースでは、デスクランプを点けて茜が何やら作業をしていた。
どうやら、茜ちゃん人形を作っているようだ。
一般販売の為既に工場で大量生産されてる筈なのに、なんで手作りなんだろう。
プレミア付けて高く捌く為だろうか?

作業はなかなか難航しているようで、まだ完成している茜ちゃん人形は3体くらいだ。
あと5体も作るとなれば、なかなか時間が掛かってしまうだろう。
俺も仕事が終わったら手伝ってやるか。
ちゃんと帰って休んで貰わないと、体調を崩しちゃうからな。

「あら、野々原さん…まだ残ってたんですか?」

「おぉもがみんよ、居残りレッスンお疲れ様!あと呼び方は茜ちゃんでいーよ?」

事務所へ入ってきたのは静香だった。
二人の会話からするに、静香は一人残って自主練していた様だ。
いい向上心だけど、ここ最近は忙しいんだから休んでも欲しいな。

 
8 :◆TDuorh6/aM :2017/04/15(土) 18:20:47.99 :PCATOFtoO

「部屋の電気も付けづに何を…茜ちゃん人形の作成ですか。手伝いますよ?」

「あ、だいじょぶだいじょぶ。もう終わりでいいから」

「…野々原さんもまだ、その…」

「…うん、だから一人でね」

二人の会話がとても気になる…
あ、違う、仕事しないと。
他の事を考えてる余裕なんてないんだ。
日中は他の事をしてたせいで、まだ結構残ってるんだから。

カタカタ、カタカタ、カタカタ

そうだ、俺は仕事しないと。
でも会話が気になる…
いや、違う、仕事だ。
俺は仕事をする為にここにいるんだから。

カタカタ、カタカタ、カタカタ

「こうやって一人で夜に残って、デスクランプだけ点けて茜ちゃん人形を作ってればさ。またプロちゃんが来て一緒に手伝ってくれるんじゃないかなーって」

カタカタ、カタカタ、カタカタ

大丈夫だぞ、茜。
これ終わったら手伝いにいけるから。

「バカだよね、ほんと。こんなので叶う筈がないのに」

 
9 :◆TDuorh6/aM :2017/04/15(土) 18:21:44.31 :PCATOFtoO

「机の上の花は誰が…?」

「茜ちゃんじゃないし、もがみんじゃないならしほりんじゃないかな」

「…志保は、もうしっかりと心の整理をつけられてるのね」

「どうだろね?無理やりにでも今はライブに向けて集中しようと頑張ってるんじゃない?」

心の整理…?
なんだそれは。
俺の知らないところで、何かあったんだろうか?

ズキン、と。
頭に激痛が走った。

痛い!痛い!痛い!
そうだ!あいつらの話に耳を傾けてる場合じゃない。
俺は仕事をしないと!
痛いのは仕事をしてないからだ!

カタカタ!カタカタ!カタカタ!

勢いよくキーボードを打ち続ける。
他の音を完全にシャットアウトするくらいに。
周りの声が、耳に届かなくなるくらいに。

 
10 :◆TDuorh6/aM :2017/04/15(土) 18:22:55.68 :PCATOFtoO

「…まさか、だったよね。絶対なんてないんだなーって改めて認識させられたよ」

「…私もです。ずっと、一緒に頑張って進んでいけると思っていけ…けれど、あの人は頑張り過ぎて…」

聞こえない!聞こえない!聞こえない!
キーボードの音を加速させる。
だめだ、これ以上聞いちゃいけない気がする。
これ以上何かを知ってしまうと、俺は…!

「…また、プロちゃんと一緒に茜ちゃん人形作りたいな」

「過労死だなんて…私達は、頼り過ぎて…」

嫌だ!
俺はまだやらなきゃいけない事があるんだ!
そんな筈がない!
だって俺は元に今、こうやって仕事をしてるんだ!

そうだ、仕事だ!
仕事をしないと!
はやくこの書類を完成させないと。
書類を作って、書類を作って、書類を…

…あれ?
俺、ここ最近ずっと事務仕事しかしてない気がする。
そういえば、挨拶回りは…?
そういえば、企画の打ち合わせは…?

あ…
うわぁ……

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」

そうだ!
俺は過労で倒れて…
でもあの日は大事な打ち合わせで。
それにまだ、みんなとトップアイドルに上り詰めてなくて。

まだ、みんなと頑張りたくて。
まだ、みんなを支えたくて。
意識が完全に飛ぶ直前に確か、誰かに言われたのは覚えてる。

ーー事務仕事なら可能だぞ、君ぃ。

バタン
社長室のドアが開き。
それと同時に、俺は意識を失った。


11 :◆TDuorh6/aM :2017/04/15(土) 18:23:37.22 :PCATOFtoO

ガチャ

いつもと同じ765プロの朝。
ドアを開けて、事務所内へ入る。
さて、今日もまた仕事しないと。
みんなで頑張って、トップアイドルを目指さないといけないからな。

「おはようございます」

返事を返してくれたのは、社長だけだった。
怪訝そうな目を向けられアタフタしている社長に一礼して、俺はデスクに着く。
さて、今日も頑張るか。

いけられた金盞花は、既に枯れ始めていた。
 

12 :◆TDuorh6/aM :2017/04/15(土) 18:24:51.55 :PCATOFtoO

おわりです
茜ちゃんのあの背中は哀愁が漂ってて好きです
お付き合い、ありがとうございました

過去作です、よろしければ是非

春日未来「めめんと・もり」
野々原茜「ようこそにゃんにゃんパークへ」
野々原茜「Awaited Holiday」


15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/15(土) 19:48:09.86 :le/frHsoO
成仏も許されないとは
 
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/15(土) 20:35:36.88 :LNj6TvTfo
またどこかの宇宙で会えたら、茜ちゃん人形を作ってくれる?
茜ちゃんメーカーの台詞すこ


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【SS速報VIP】グリP「さて、今日も仕事だ」
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