523 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/05(火) 17:12:35.63 :aP0qLNk+0

【ホワイトアウト】

  響(…… なんだか、背中の感触が、いつもよりちょっと硬い感じがする)

  響(そうか、ゆうべはたかねと一緒に、お布団で寝たんだっけ)




  響(…… あれ? 目が覚めたと思ったのに、変だぞ)

  響(真っ白い、霧みたいな…… 全然前が見えない。どうなってるんだろう、まだ夢?)

  響(それにしても、なんか、これ…… 鼻とか、妙にむずむずする……!)

  響(って、いうか)




  響「ぷはあっ!? ……たかね! 髪の毛自分の顔にかぶせたまま寝るとかやめてよ、息苦しいよ!」

たかね「…… ん、んん、あさから、いきなり、なんでしゅか、ひびきぃ……」

 
524 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/05(火) 17:13:25.04 :aP0qLNk+0

【ムチン+ポリグルタミン酸】

たかね「なぜなっとうは、いとをひくのですか?」

  響「なぜ、って…… うーん、納豆菌のはたらきとかじゃないのかなぁ」

たかね「わたくし、なっとうはすきですが、このいとのしまつのわるさは、どうにも」ネバー

  響「それならあんまり混ぜないようにすれば、そこまで糸引かないよ」

たかね「それではなっとうをたべるいみがありません!」

  響「じゃあ、我慢するしかないよね」

たかね「むう…… よのなかは、いつも、りふじんにみちております……」

  響「納豆混ぜるかどうかでそこまで思い至る、ってのもなかなかすごいと思うぞ、自分」

たかね「……はっ!?」

  響「おっ? たかね、なにか悟った?」

たかね「ごはんがなくなってしまいました。おかわりをください!」

  響「ああ、うん、幸せそうでなによりだよ。お茶碗ちょうだい」

 
525 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/05(火) 17:14:17.48 :aP0qLNk+0

【耳が痛い(物理)】

たかね「ひびき、そのみみかざり、わたくしもつけてみたいです」

  響「え…… これ? これはそもそも耳飾りじゃなくて、透明ピアスって言ってね」

たかね「しかし、きらきらしてみえます。みみかざりでしょう?」

  響「どっちみちたかねにはまだ早いよ。これはね、大人にならないとつけちゃダメなんだ」

たかね「それならば、わたくしはもんだいないはずです! もうごさいなのですから」

  響「そっかー。 ……耳に穴、あけなきゃいけないんだけど」

たかね「えっ」

  響「それくらい、大人で淑女のたかねならへっちゃらだよね。うんうん、そりゃそうだ」

たかね「み、みみに、あなを……? それは、なにかのじょうだんですね、ひびき……」

  響「じゃあ、たかね…… さっそく、つけてみる?」ズイ




  響「悪かったってば、たかね…… 絶対穴あけたりしないからさ、出てきてよ」

たかね「いいえ! わたくし、このこたつで、てっていこうせんのかまえ!!」モゴモゴ

 
526 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/05(火) 17:15:04.48 :aP0qLNk+0

【=やせ我慢】

  響「今朝もスズメがいっぱい群れてるなー。やっぱり寒いから、みんなふくらんでるよ」

たかね「……」プイ

  響「おっ、今日もいつもの野良にゃんこがいるぞ。ほら、あっちの塀の上!」

たかね「……」ムスッ

  響「……ねえ、機嫌なおしてよー、たかね。おどかしたのは自分が悪かったからさー」

たかね「…… ひびきの…… ひびきのみみには、あながあいているのですか?」

  響「えっ? ああうん、さっきも言ったけど、その穴にこの透明なやつを通してるんだよ」

たかね「なにゆえです!? なにゆえにそのような、おそろしいことを!」

  響「恐ろしいってそんな。まあ、あえて理由をって言うならおしゃれのため、かな?」

たかね「みみにあなをあけなくては、よのなかでは、しゃれものとしてみとめられないのですか!?」

  響「え、ええっと…… いや、そんなことはないと思うけど……」

 
527 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/05(火) 17:15:41.21 :aP0qLNk+0

【穴場的物件】

  響「それじゃ自分、行ってきまーす! たかね、サーターアンダギー、預けたからね」

たかね「いわれるまでもありません。ひびきも、がんばってください」

 小鳥「響ちゃん、行ってらっしゃーい。気をつけてねー!」

 高木「うむ、たかね君のことは我々に任せたまえ。しっかり精進してくるといいよ」

ガチャ

あずさ「おはようございま~す。あら、響ちゃん、今から学校?」

  響「あっ、あずささん、はいさい! うん、ちょうどたかねを連れてきたとこだったんだ」

あずさ「そうだったわね。寒いから、風邪なんか引いちゃわないようにね」

  響「ありがと、あずささんも気をつけるんだぞ? じゃ、改めて行ってきます!」

 
528 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/05(火) 17:16:17.01 :aP0qLNk+0

たかね「おや、あずさ、にこにこして、なにかいいことがあったのですか?」

 小鳥「あれっ、本当ですねあずささん。なんですか、わたしにも教えてくださいよー」

あずさ「いえ、うふふ…… なんだか、社長と音無さん、響ちゃんとたかねちゃんで家族みたいだなぁって」

 小鳥「かぞ……ッ!?」

 高木「ははは、三浦君、こんなロートルとセットにしては音無君に失礼だよ」

あずさ「あら~、そうですか? 不思議ですね、全然違和感がなくって、つい……」

 小鳥(確かに年齢差は小さくないけど…… 考えてみれば、これっていわゆる玉の輿じゃ……!?)

 高木「たかね君にしても、私からすれば娘というより孫のような年齢だしね」

 小鳥(なんだかんだで一城の主、それにずっと同じ屋根の下で勤めていて気心も知れた仲!)

たかね「…… ことりじょう? やけにおもいつめたおかおで、どうしたのです?」

 
529 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/05(火) 17:17:03.29 :aP0qLNk+0

【はいどあんどきゃんとふぁいんど】

たかね「はて、いったい、どこへいったのでしょう……」

 小鳥「どうしたの、たかねちゃん。何か探しもの?」

たかね「おや、ことりじょう。わたくし、かくれんぼのおになのです」

 小鳥「かくれんぼ?」

たかね「はい、いま、あずさとしょうぶしているのです」

 小鳥「あずささんと? ……かくれんぼ?」

たかね「あれだけせいのたかいあずさのことです、かんたんに、みつけられるとおもったのですが……」

 小鳥「ねえ、たかねちゃん、かくれんぼ始めたのはいつごろだったかわかる?」

たかね「はい? そうですね、じゅうごふんほどまえだったかと」




 小鳥「もしもし、律子さんですか? ……ええ、そうです、事務所はわたしと社長でもう一度……」

たかね「あ、あの、これはいったい……」

 
530 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/05(火) 17:17:51.44 :aP0qLNk+0

 高木「音無君、一通り確認したが建物内にはもういないようだ。私も外へ出てみるよ」

 小鳥「すみません、お願いします。 ……律子さん? 今から社長も探す範囲を広げますので」

たかね「わたくしは…… どうしたらよいでしょうか?」

 小鳥「ああ、たかねちゃんは心配しなくて大丈夫よ。ちょっとあっちのソファで待っててくれる?」

たかね「は、はい!」




たかね「うう…… わたくしが、かくれんぼをしたいなどと、あずさにいったばかりに……」

ガチャ

あずさ「あっ…… たかねちゃん! いけない、見つかっちゃったわ~」

たかね「!?」

あずさ「でも、これだけの間逃げていられたって意味では、わたしの勝ちかも! うふふ」

たかね「あ、あずさ!? なぜ、きゅうとうしつから!?」

あずさ「すぐ見つけられちゃつまらないだろうし、ちょこちょこ動き回ってたのよ~…… あら?」

たかね「ことりじょう、ことりじょう!! あずさが! あずさがでました!!」

 
531 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/05(火) 17:18:32.51 :aP0qLNk+0

【三浦あずさの場合】

たかね「あずさ。こんごは、すわったままで、ぜったいに、うごかずにできる、あそびをしましょう」

あずさ「音無さんにも律子さんにもそう言われたし、それがよさそうね~」




たかね「そういえば、あずさは、うらないがじょうずだとききましたが」

あずさ「上手、なんて言われると照れちゃうわ。ただ好きで、ちょっとやってるだけだから」

たかね「それはやはり、おみくじや、きとうをするのですか」

あずさ「ええと…… そういう和風なのはわたし、あんまりわからないの」

たかね「というと、なにか、ようふうなしゅだんを?」

あずさ「そうね~、だいたいはこれを使ってるわね」スッ

たかね「これは…… とらんぷ? ……にしては、おおきいですね」

 
532 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/05(火) 17:19:02.11 :aP0qLNk+0

あずさ「タロットカード、っていうのよ。これが今のトランプの元になった、ってお話もあるみたい」

たかね「たろっと?」

あずさ「そう、タロット。全部で78枚のカードがあってね、これを組み合わせて占うの」

たかね「ほう…… いろとりどりで、しかも、たくさんのえがあるのですね」

あずさ「そうよね~。ながめてるだけでもきれいで、楽しいでしょ?」

たかね「とてもびれいです。しかし、これをつかって、なにを、どううらなうのですか?」

あずさ「占う内容も、やりかたもいろいろあるの。たかねちゃんもやってみたい?」

たかね「はい! ぜひ、わたくしのうんせいもみてください!」

あずさ「うふふ、わかったわ~。じゃあ、さっそく始めましょう」

 
533 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/05(火) 17:19:38.00 :aP0qLNk+0

あずさ「たかねちゃんは初めてだろうから、いちばんシンプルなやり方がいいかしら?」

たかね「そうですね、ふくざつなものは…… よしなにおねがいします」

あずさ「それなら今回は、22枚のカードだけ使ってやりましょう。まず、これを混ぜてね」

たかね「とらんぷのように、きるのですか?」

あずさ「ううん、ちょっと違うの。こうやって、テーブルにざあっと広げて……」

たかね「おお、しんけいすいじゃくのようです」

あずさ「確かに似てるわね~。これを全部、かきまわすみたいにしてもらえる?」

たかね「つまり…… こうして、うらむきのまま、まぜまぜすればよいのですね!」ワシャワシャ

あずさ「そうそう、上手上手。自分の運勢はどうなるのかな~? って、考えながらやってみてね」

たかね「はいっ!」

 
534 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/05(火) 17:20:14.68 :aP0qLNk+0

たかね「もう、だいたいまざったでしょうか?」

あずさ「そうね、そろそろいい感じだと思うわ。ここからは、わたしがやるわね」




あずさ「……よし、っと。それじゃ、この中から一枚、たかねちゃんの好きなのを選んでちょうだい」

たかね「むむ…… どれが、わたくしのうんせいにふさわしいでしょうか……」

あずさ「じっくり悩んでいいのよ~。そのほうが、わたしも占いがいがあるもの」

たかね「…… きめました! では、このいちまいにします!」

あずさ「決まったのね? はい、じゃあ、それを引き抜いて」

たかね「はいっ」スッ

あずさ「そしたら、そのカードをわたしに――」

たかね「さて、これは、なにがえがかれているのでしょうか」クルッ

あずさ「……あ!」

たかね「えっ……? ……な、なにか、まちがえてしまいましたか!?」

あずさ「ああ、ううん、大丈夫よ~。そうしたら、いよいよ実際に見ていくわね」

 
535 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/05(火) 17:20:58.44 :aP0qLNk+0

あずさ「たかねちゃんの引いたのは…… まぁ、『月』のカードだわ」

たかね「おつきさまですか! わたくし、おつきさまは、うつくしいのでだいすきです」

あずさ「うん、夜のお月様はきれいよね。それに、このカード、たかねちゃんにはぴったりかも」

たかね「わたくしに……? あずさ、なぜですか?」

あずさ「うふふ、理由は、ないしょ。さ、それじゃあ、改めて説明していくわね~」

たかね「はい……? では、よろしくおねがいします」

あずさ「その前に、たかねちゃん。わたしの言うことが絶対じゃない、っていうのは知っておいてね」

たかね「はて…… どういうことですか? あずさが、うらなってくれるのでしょう?」

あずさ「占いっていうのはね、あくまできっかけみたいなものなの」

たかね「きっかけ……」

あずさ「そう。それを聞いて、たかねちゃんがどうするか、がいちばん大事なのよ」

 
536 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/05(火) 17:22:00.16 :aP0qLNk+0

あずさ「『月』のカードはね、意味が難しいの。不安定とか、あいまいだとか…… 先のことがわからない、とか」

たかね「む…… あまり、よくないうんせいということですか?」

あずさ「そこだけ聞いたら、たしかにいいイメージは持ちにくいかもしれないわ」

たかね「むぅ…… なるほど……」

あずさ「でもね~? タロットカードって、描いてある絵のほかに、上下も大事なの」

たかね「じょうげ、ですか?」

あずさ「どっちが上を向いているか、ってこと。いま、たかねちゃんから見て絵の通りでしょう?」

たかね「はい」

あずさ「一般的には、占いをする側…… つまり、この場合はわたしから見て判断するの」

たかね「…… と、いうと?」

あずさ「今回は、『月』のカードで、上下は逆、ってことになるわね」

 
537 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/05(火) 17:22:43.14 :aP0qLNk+0

あずさ「そして、カードが逆さまになると、意味もだいたい逆になるのよ」

たかね「おお……! ということは、よいうんせいなのですね!」

あずさ「だいたいそういうこと。『月』が逆さまだから…… 希望があるとか、状況がよくなる、とかかしら」

たかね「ほんとうですか! あずさ、ありがとうございます」

あずさ「うふふ、わたしは何もしてないわ。このカードを引き当てたのは、たかねちゃんだもの」




あずさ(…… たかねちゃんがカードを引いたあと、縦方向に裏返したか、横方向に裏返したか)

あずさ(それ次第では、今回の『月』が正位置か逆位置か、変わっちゃうんだけど……)

あずさ(……いきなりめくっちゃうと思ってなかったから、どっちだったか、自信がないのよね~……)

 
538 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/05(火) 17:24:38.88 :aP0qLNk+0

【つまむってレベルじゃ】

ガチャ

 雪歩「ふぅー、今日は一段と寒かったね、千早ちゃん」

 千早「ええ、本当に…… お疲れ様です、戻りました」

たかね「ゆきほ、ちはや。おかえりなさいませ」

 雪歩「あっ、たかねちゃん。お迎えしてくれたの? ありがとう」

 千早「ただいま、しじ…… たかねちゃん。 ……あら、それは?」

たかね「おしごと、おつかれさまでした。これはほんじつのおやつです!」

 雪歩「もしかして、わたしたちの分をとっておいてくれたの?」

たかね「はい! ちゃんと、みなにいきわたるように、わたくしがくばっております!」

 雪歩「そうなんだ、ありがとう! じゃあわたし、さっそくお茶を淹れてくるね」パタパタ

 
539 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/05(火) 17:25:18.06 :aP0qLNk+0

 千早「これ、我那覇さんのサーターアンダギーね。たかねちゃんも、作るお手伝いをしたの?」

たかね「もちろんです。なにをかくそう、まるいかたちにしたのは、このわたくしなのですよ」エヘン

 千早「ふふ、とても上手ね。じゃあ、お茶を淹れてもらったら、萩原さんと一緒にいただきましょう」

たかね「はい!」

ガチャ

  響「ううー、今日も冷えるぞ…… お、千早、レッスン帰り?」

 千早「ああ、我那覇さん。ちょうど今、サーターアンダギーの話を聞いていたところよ」

たかね「ひびき! おかえりなさい!」

  響「ただいま、たかね。……ん? あれ、その数……」

 千早「? 我那覇さん?」

たかね「ど…… どうかしましたか、ひびき?」

 
540 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/05(火) 17:26:13.00 :aP0qLNk+0

  響「…… たかね、唇のはしっこ、食べかすくっついてるぞ」

 千早「えっ?」

たかね「なんと!? そんな、ちゃんとかがみでみて、おとしておいたはず…… はっ!?」

  響「語るに落ちたなー、たかねぇー……」ゴゴゴゴ

たかね「ひっ」




 雪歩「たかねちゃん、千早ちゃん、お待たせー。おいしいお茶が入っ……」

たかね「いひゃ、いひゃいれふ! ご、ごべんなはい、ひびひーっ」

 雪歩「!?」

  響「昨日、一人二個は食べられるようにって、数えながら一緒に袋詰めしたよね!?」ムギュー

 千早「あ、あの、我那覇さん、まだみんなの食べる分はちゃんとあるわけだから……」

  響「いーや、犬でも猫でも人でも、悪いことしたらその場で怒らないとダメなんだぞ!」ギュウウ

たかね「わたくひをよんれいたのれふ、あみゃいかおひが! くろじゃとうがー!」ジタバタ

 雪歩「ちょ、ちょっと、響ちゃん!? たかねちゃんがおたふくみたいになっちゃってるよぅ!」

 
541 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/05(火) 17:28:46.75 :aP0qLNk+0

  響「まったく。昨日だって、うちであんなに食べてたってのに」

 千早「まあまあ、我那覇さん。たかねちゃんも反省しているんだから、許してあげて」

 雪歩「すっごく美味しかったから、ついまた食べたくなっちゃったんだよ。ね、たかねちゃん?」

たかね「はい…… だめとわかっていながら、どうしても、りせいでおさえきれず……」ウルウル

  響「……まあ、千早と雪歩に免じて今日は許してあげるよ、たかね」

たかね「もうしわけ、ありませんでした、ひびき……」

  響「雪歩のお茶はもらっていいけど、罰としてたかねの分のサーターアンダギーはナシね」

たかね「……はい」




  響「ちょっとばたばたしちゃったけどさ、せっかくだから食べてってよ、二人とも」

 千早「え、ええ。じゃあ……」

 雪歩「うん…… それじゃ、いただき……」

たかね「……」ウルウル

 
542 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/05(火) 17:29:26.99 :aP0qLNk+0

  響「ああ、たかねのことは気にしなくていいって。自業自得なんだから」

たかね「……」ポロポロ

 千早(そ、そうは言っても、これは……!)

 雪歩(いたたまれないよ! この空気の中でわたしたちだけ食べるなんてムリですぅー!!)




  響「…… はー、それにしても、今日の自分のレッスン、かなりハードだったなー」

 雪歩「え?」

 千早「……我那覇さんは今日、ダンスのレッスンだったかしら?」

  響「そうそう。体力が売りの自分でもなかなかこたえてさ、あんまり食欲がわかなくって」

 雪歩「……! へえ、じゃあ、響ちゃんの分のサーターアンダギー、余っちゃうね?」チラッ

  響「んー、そうだね。おなか空いてないわけじゃないけど、半分あればいいかな」

 千早「でも、私も萩原さんもすでに1個いただいているから、量としてはこれで十分だし……」チラ

 
543 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/05(火) 17:30:35.29 :aP0qLNk+0

  響「あーあ、どうしよう。せっかく作ったのに、余っちゃうのはもったいないなぁ」

 千早「本当ね、こんなにおいしそうなサーターアンダギーだから、誰か食べてくれればいいのに」

 雪歩「それに一個の半分だったら、かんたんに食べちゃえる量なのにね」

たかね「……」

  響「たかね。ちゃんと反省した?」

たかね「……はい、もうにどと、しません。ごめんなさい、ひびき」

  響「じゃあ、『たかねの分』はナシだけど、自分のを半分あげる」

たかね「!」

  響「一人でこそこそつまみ食いするより、みんなと一緒に食べるほうがおいしいよね?」

たかね「…… はい…… はい、ごべんなざい…… ぎっど、おいしいでず……」グスグス

  響「もう、泣かないの。味がわかんなくなっちゃうぞ」




 千早「一件落着…… というところね。それじゃあ、私たちもいただきましょうか?」

 雪歩「うふふっ、そうだね」

 
544 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/05(火) 17:36:45.30 :aP0qLNk+0

【実用性はないそうです】

たかね「ひびき、これは、なにをつくっているのですか」

  響「ギョウザっていう中華料理だよ。お肉とかお野菜とかを混ぜて、この皮で包んで焼くの」

たかね「なぜ、かわはぺたんとしているのに、できあがりはおりめがあるのです?」

  響「包むときに、こうやって…… ね、ひだを寄せるみたいにしたらこうなるのさー」

たかね「ほう、おもしろそうですね。わたくしもやってみたいです!」




たかね「こ、こんどこそは、……ああっ!?」ボロッ

  響「あー、あんまり強くひっぱると、そんな感じで皮がちぎれちゃうぞ」

たかね「うう…… みているのと、じっさいにするのとで、こんなにもさがあるとは……!」

  響「慣れたら簡単なんだけどね。どうする? もうちょっとやってみる?」

たかね「だいたい、このおりめは、いったいなんのためにつけるのですか!」

  響「やれやれ。うまくできないからって八つ当たりなんて、かっこ悪いぞー、たかね」

たかね「ちっ、ちがいます! わたくし、やつあたりなどしません!」

 
545 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/05(火) 17:37:27.23 :aP0qLNk+0

【辛辣の辣】

  響「お待たせー。冬はお鍋で煮てもおいしいんだけど、今日はシンプルに焼いてみたよ」

たかね「なんとも、しょくよくをそそられるかおりです! はやくたべましょう、ひびき」

  響「うん、そうしよう。いただきます!」




たかね「ひびひ、ほれは、はんのびんでふは?」

  響「こーら。口に食べ物入れたまましゃべるなんて、淑女のすることじゃないぞ」

たかね「む…… ん、んく。そのびんにはいった、あかいどろどろは、なんですか」

  響「……あ、あー、これ? たかねは気にしなくていいよ」

 
546 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/05(火) 17:38:10.94 :aP0qLNk+0

たかね「さきほどひびきが、そのどろどろをたれにたしているのを、わたくし、ちゃんとみました!」

  響「今のままでもギョウザ、おいしいでしょ? あってもなくても大して変わんないって」

たかね「かくすあたりが、ますますあやしいですね。わたくしにも、それをください!」

  響「…… なら、ほんのちょっとだけね。お皿貸して、自分が入れてあげるよ」

たかね「いいえ、わたくし、じぶんでやります」

  響「うーん、そう? それじゃ、いきなりドバッと出ることあるから気をつけ――」

たかね「ふふふ、では、いざ!」ダバー

  響(あっちゃー)




たかね「か、からっ! あつ、いたた!? ひ、ひびき、したが、おくちが、ひりひりします!」

  響「大人の味、ってやつだよ、しっかり味わうといいさー」

 
547 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/05(火) 17:40:50.11 :aP0qLNk+0

【ESPと維管束】

  響「うん…… 甘くておいしい! 今回買ったぶんは当たりが多いなー」モグモグ

たかね「ええ、やはり、こたつにはみかんがなくてはなりませんね」ムグムグ

  響「そんなこと誰から聞いてきたの?」

たかね「ことりじょうが、じむしょでりきせつしておりました」

  響「あー…… なるほど、ピヨ子か…… それなら納得だよ」

たかね「さて、もうひとつとってください、ひびき」

  響「手がどんどん黄色くなっちゃうぞー?」

たかね「そのようなささいなこと、このえつらくにはかえられません!」

 
548 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/05(火) 17:41:30.85 :aP0qLNk+0

  響「……あ、そうだ」

たかね「ひびき? はやくわたしてください」

  響「たかね、実はなー…… 自分、超能力があるんだ」

たかね「…… はい?」

  響「証拠として、今からたかねが食べるこのみかんに、袋がいくつ入ってるか当ててみせるぞ」

たかね「なにをいいだすかとおもえば…… そのようなこと、できるはずがありません」

  響「むむむ…… んん…… よし、わかった。このみかんの袋は10個入りさー!」

たかね「はいはい、ひびきはこどものようですね」




たかね「さて、むけました! では、せっかくですから、ふくろのかずをかぞえてあげます」

  響「そうこなくっちゃね」

 
549 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/05(火) 17:42:14.27 :aP0qLNk+0

たかね「ひとつ、ふたつ、みっつ…… やっつ、…… ここのつ、…… とお……」

  響「ふふん、どう? 自分、カンペキだからなー」

たかね「……このみかんはひびきがえらんだからです、なにか、しかけが!」

  響「それなら今度は、たかねが好きなやつ選んでいいよ」

たかね「むむむ…… では、このとびきりおおきいもので!」

  響「よーし、じゃ、ちょっと貸して?」




  響「……わかったぞ、今度のこれは9個だ!」

たかね「いいましたね? では、わたくしがむいてたしかめます!」

  響「ん、よろしくー」

 
550 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/05(火) 17:42:50.61 :aP0qLNk+0





たかね「…… ほんとうに、ここのつ…… なんと…… なんとめんような……!」

  響「だから言ったでしょー、自分、超能力があるんだって」

たかね「ひ、ひびき! ぜひわたくしにも、そのちょうのうりょくをあたえてください!」

  響「ふふふ、残念だったなぁ、たかね。これは自分みたいにカンペキじゃないと使えないんだよ」

たかね「そんな! そこをなんとか!」

  響「……じゃあ、今度から朝はちゃんと起きる?」

たかね「は、はい!」

  響「もう自分が見てないときに、こっそり歯磨き粉吸ったりしない?」

たかね「もちろんです!」

 
551 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/05(火) 17:43:25.80 :aP0qLNk+0





  響「ほらね? こうやってヘタをはずして、裏の点々の数をかぞえれば……」

たかね「……」プルプル

  響「あれっ、たかね?」

たかね「しれものーっ! このぺてんし!」

  響「な、なんてこと言うんだ!? 自分はバカでもペテン師でもないぞ!」

たかね「このような…… このような、こてさきのまめちしきで、わたくしをたばかろうとは!」

  響「それにコロッとだまされてたのはどこの誰さー!?」

たかね「なにがちょうのうりょくですか! はじをしりなさい!」

  響「…… 『ぜひわたくしにも、そのちょうのうりょくをあたえてください』」キリッ

たかね「い、いっておりません! そのようなこと、わたくしはもうしておりません!!」

 
552 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/05(火) 17:44:19.12 :aP0qLNk+0

【明日には会える そう信じてる】

たかね「ひびき、こんやははれておりますね。おつきさまは、みえるでしょうか?」

  響「え? えー…… っと、この時期はちょっと無理だと思うぞ」

たかね「むっ、やってみなくてはわかりませんよ? ぼうしとまふらーを、もってきます」タタタ

  響「えっ、ちょっと、たかね! ……言い出したら聞かないの、昔からなんだから、まったく」




たかね「べらんだとはいえ、やはり、なかなかひえますね」

  響「当たり前だよ。真冬の、それも夜なんだから」

たかね「それにしても…… おや、おそらに、くもはないようなのに、みあたりません……」キョロキョロ

  響「実はね、ちょうど今の時期はほぼ新月って状態だから、夜中には見えないんだよ」

たかね「なんと…… そういうものなのですか、ざんねんです」

  響「タイミングの問題だからしょうがないさー。それより、急に月が見たいなんて、どうしたの?」

 
553 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/05(火) 17:44:59.17 :aP0qLNk+0

たかね「じつはきょう、じむしょで、あずさにうらないをしてもらったのです」

  響「あずささんに? ってことは、タロット使ったやつ?」

たかね「そう、その『たろっと』です! そのとき、おつきさまのかーどがでまして」

  響「へえー。よくピンポイントで引けたなぁ、たかね」

たかね「あずさにもいわれたのですが、おつきさまとわたくしは、なにかかんけいがあるのですか?」

  響「関係…… っていうか、イメージみたいなものかな」

たかね「ということはつまり、わたくしは、おつきさまのようにうつくしいのですね!」

  響「どうかなー? やせてるようですぐまるまると太っちゃう、ってことかもよ」

たかね「な、なんということを!? わたくし、そんなにふとっておりません!」

 
554 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/05(火) 17:45:47.51 :aP0qLNk+0

たかね「さておき、あずさによれば、わたくしのみらいは、きぼうにみちあふれていると!」

  響「おー、いいなぁ! あずささんの占い、よく当たるって事務所でも評判なんだぞ」

たかね「なんといってもわたくしですから、とうぜんです」

  響「…… えーっと、あれ? で、それと月を見るのとはなにかつながりがあるの?」

たかね「いえ? さいきん、あまりみていないとおもったので」

  響「なんだ、そうなのか。もう少しして年末とか、年が明けるころになれば、また綺麗に見えるよ」

たかね「そういうことなら、いたしかたありませんね。こんやはあきらめましょう」

  響「あれ、今日はずいぶんものわかりがいいなぁ、たかね」

たかね「む…… どういういみです? まるで、ひごろ、ものわかりがわるいようにきこえますが」

  響「あはは、気のせい気のせい。じゃあ月が見られなかった残念賞ってことで、ココア作ってあげる」

たかね「なんと! まことですか!? ならば、わたくしのぶんのましゅまろは」

  響「もちろん、いつも通り、ふたつだよね? ほら、寒いから、部屋に戻ろ」

たかね「はいっ!」


569 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/25(月) 23:05:22.06 :w0ojErqk0

【おおかみ少女】

  響「すごいよっ、たかね! 早く起きて、早く早く!」

たかね「…… んん…… いちおう、たずねますが、なにがあるのですか」モゾモゾ

  響「雪だよ! きれいに積もってるんだ、ホワイトクリスマスになったぞ!」

たかね「ひびき。わたくし、きょうというきょうは、だまされませんよ」

  響「今までさんざん引っかけたのは悪かったってば。今日こそは、ホントにホントだから!」

たかね「ふっ…… そのてにはもう、かかりません。わたくし、きょうこそはひゃああっ!?」

  響「えーい、それなら実力行使! このまま抱えて窓際まで連れてってやるさー!」

たかね「ひ、ひきょうなっ!? くちでかてないからと、ちからにうったえるなど、やばんで……」




たかね「…… ふわあぁ、すごい!! いちめん、まっしろです!!」

  響「ねっ、言ったとおり自分、今日はウソついてないでしょ?」

たかね「ひ、ひびき、はやくおそとへでましょう! いっこくもはやく!」

  響「まずはご飯食べてからね。これだけ積もってたら、すぐにはとけないから大丈夫」

 
570 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/25(月) 23:06:34.26 :w0ojErqk0

【だいのじ(XS)】

たかね「ひびき、ひびき、みてください、みわたすかぎり、ゆきが……!」

  響「うん、すごいなー! こんなに積もったのは自分もあんまり見覚えないよ」

たかね「はやく、はやくまいりましょう!」タタタッ

  響「ちょっと、気持ちはわかるけど落ち着いてってば、たかね。そんなに走ったら――」

たかね「ふふ、ついてこないのなら、わたくしゅぶほっ」ボスッ

  響「うわああっ!? だ、だから言ったのにーっ! 大丈夫!?」

たかね「……」ムクリ

  響「あーあー、顔がまっしろだぞ。ほら、じっとしてて、雪払ってあげるから」

たかね「……とうっ!!」バフーッ

  響「え、ええっ!? たかねっ、なんでわざわざ自分からっ!?」

たかね「……」ムクッ

  響「うわあ、もっと雪まみれになっちゃって…… どうしたっていうの、一体」

 
571 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/25(月) 23:07:44.15 :w0ojErqk0

【だいのじ(XS&S)】

たかね「みてください、ひびき! わたくしのからだのかたが、はんこのように!!」

  響「う、うん、それはわかったから。でもたかね、身体が冷えちゃうよ、もう……」

たかね「ふわふわで、ひんやりしていて、たいへんここちよいです! もういちど、えいっ」ボフー

  響「な…… っ、なに考えてるのさ、もーっ!? 三回もやればもう十分でしょ、ね」

たかね「さあ、ひびき、つぎは、ひびきもいっしょに!」

  響「はあっ!? い、いや、自分はいいよ、それより早く事務所に行こ?」

たかね「えんりょするものではありませんよ、ひびき、さあさあ」グイグイ

  響「ちょっ…… わわ、いきなり引っ張んないでって、ああっ、うぎゃーっ!?」




  響「……ぷあっ!? もう、何するのさたかねぇ!」ムク

たかね「ふふっ、ひびきのおかおも、まっしろです! わたくしとおそろいですよ!」

  響「…… ……ぷっ、くくく、あはは! ホントだなー、まったくもう!」

 
572 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/25(月) 23:08:56.46 :w0ojErqk0

【福利厚生のためにお休みなのであって仕事がないわけじゃありませんってば!】

ガチャ

  響「みんな、おっはよー! メリークリスマース!」

やよい「あっ、響さん、それにたかねちゃんも! おはようございまーすっ」ガルーン

たかね「めりー、くりしゅみゃ…… こほん、くりすましゅ!」

 千早(言い直してもなお言えていない! ……のに、勝ち誇った顔したりして、ふふっ)

 春香「おはようっ、二人とも! ステキなホワイトクリスマスになったねっ」
 
 伊織「まーたにぎやかなのが増えたわね…… 約一名言えてないけど、メリークリスマス」

  真「もー、遅いよ響ってば。たかねと響のこと、みんな待ってたんだから」

  響「え? 自分たち、集合時間には遅れてないよね。何かあるんだったっけ?」

 真美「おやおやー、とてもカンペキなひびきんの言うこととは思えませんなー?」

 
573 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/25(月) 23:09:46.98 :w0ojErqk0

 亜美「そーだよっ! こんだけ雪積もってるのになんにもしないとかモグリっしょー!」

あずさ「時間もあるし、この雪でしょう? みんなで雪合戦しよう、ってことになったのよ~、うふふ」

たかね「かっせん!? みなで、かっせんをするのですか!?」

 雪歩「た、たかねちゃん、あくまで遊びだからね? 雪で玉を作ってね、みんなで投げあうの」




 律子「……まったく。本当なら、クリスマスにそんな暇があることを気にするべきなのに」

 小鳥「ふふ、いいじゃないですか、律子さん。みんなが揃うこんな機会、この先あるかわかりませんよ?」

   P(…… 片手にビデオカメラ握り締めてさえなければ、もっとキマる台詞なのになぁ)

 美希「えーっ、ホントに雪合戦するの……? ミキ、お留守番しとくから寝てていーい?」

 律子「あんたはあんたで、ちょっと寒い思いするくらいがちょうどいいのよ。ほら起きなさい」グイ

 美希「やーん、なのー」

 
574 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/25(月) 23:11:04.68 :w0ojErqk0

【小鳥謹製あみだくじ:情熱の赤組】

 美希「あふ…… ぅ、これもう、チームわけの時点で勝ち確定だって思うな」

 真美「だーよねぃ! あっちで気をつけなきゃいけないの、ひびきんくらいっしょ」

 春香「ほんと、ものの見事に偏ったよね……」

  真「でもクジ運も勝負のうちだからね、手は抜かないよっ!」

やよい「わたしもがんばります! ……あれ、亜美、どうかしたの? 浮かない顔しちゃって」

 亜美「いやぁ、たぶん大丈夫だとは思うんだけどさー…… あっち、律っちゃんいるじゃん?」

 真美「なーに言ってんの亜美っ! 律っちゃんのひとりやふたり、どーってことないってば」

 春香「そうだよ、わたしはさておき、運動神経のいいメンバー、ほぼ全員こっちだもん!」

 
575 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/25(月) 23:12:05.50 :w0ojErqk0

【小鳥謹製あみだくじ:純情の白組】

 律子「みんな、いいわね? この作戦でいけば、たぶん勝てるわ」

 伊織「……いや、確かに可能性はなくもないだろうけど、どうなのよ、それ」

 雪歩「か、考え方がえぐいですぅ……」

 千早「あの、律子…… 遊びにそこまでする必要はあるのかしら?」

 律子「やるからには勝ちを狙わなくてどうするの。それに本人、すっごく乗り気よ」

たかね「ええ! うでがなります!!」

あずさ「あらあら…… うふふ、これは頼もしいわね~」

 伊織「わたし、止めたからね」

  響「う、うーん、そんなにうまくいくかなぁ……」

 
576 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/25(月) 23:13:19.16 :w0ojErqk0

【いくさがはじまる】

 小鳥「それでは、不肖音無小鳥、本日の審判をつとめさせていただきます!」

   P(ホイッスルまで持ってきて気合入ってるなー、音無さん)

 小鳥「両チーム、準備いいわねっ? では…… 開始ーっ!」ピピー




  真「よおーっし、さっそく…… !?」

たかね「まことがあいてですね! さあ、きなさい!」

 春香「た、たかねちゃん一人だけが突出して……!?」

やよい「はわっ! ほかのみんなは、遠すぎてねらえないですー!」

  真「えっ、ちょっと…… え、これ、ぶつけちゃっていいの?」

 美希「真くん、ためらってる場合じゃないの!」

  真「そんなこと言ったってさぁ!?」


578 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/25(月) 23:14:37.79 :w0ojErqk0

たかね「そこですっ、まこと! すきあり!」ヘロッ

  真「え、ああっ……!? しまったーっ!」ベシャ

 小鳥「ヒットぉ! 当てられた真ちゃんはコートから出てねー!」ピーッ

 真美「ああ!? こっちの最強こーほのまこちんがあっさりと!」

 亜美「だーっ! やっぱこれ絶対、律っちゃんが裏で指示してるっしょー!?」




 律子「読み通りね。たかねにためらいなく雪玉投げられる子なんて、うちにいるわけないもの」

 伊織「ねえ、これ、やってることは割とはっきり外道よね?」

  響「…… まあ、本人、盾にされてる自覚ないみたいだし、いいんじゃないかな」

 律子「みんな、コートの端ぎりぎりからたかねの援護に徹すること! 絶対近寄らないのよ!」


たかね「さあさあさあ! つぎに、わたくしのゆきだまのえじきになりたいのはだれです!?」


579 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/25(月) 23:16:10.37 :w0ojErqk0

【うらみはらさで】

  真「あのさ、提案があるんだけど。チーム替え、しようよ」ゴゴゴゴゴ

やよい(ま、真さん…… 笑って言ってるけど、目がぜんぜん笑ってないですっ!)

 亜美「そんで、そのとき、律っちゃんとおひめっちだけは絶対別チームでね?」

 美希「……っていうか、メンドーだから、たかねをこっちのチームにくれるだけでいーの」

 真美「うんうん。あ、なんならはるるんとおひめっちのトレードでもいいよん」

 春香「ひどくない!?」

たかね「ふふふ…… わたくしのようにつよいものが、ひくてあまたなのは、とうぜんですね」

 律子「…… いいわ、じゃあ、たかねだけチームチェンジってことでいきましょう」

 
580 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/25(月) 23:17:44.24 :w0ojErqk0

 伊織「ちょっと律子! あっさり要求に応じちゃってどうすんのよ!」

 雪歩「うう…… 絶対、あっちもたかねちゃんを盾にしてくるはずですぅ……!」

 千早「しかも、メンバーの運動神経的に、遠巻きにされるとより不利になってしまうわね……」

あずさ「勝ち負けがすべてじゃないのよ~。楽しかったらいいんじゃないかしら?」

 律子「いいえ。もちろん次も勝ちに行きます」

 雪歩「えっ、律子さん、なにかいいアイディアがあるんですか?」

 律子「当然よ。というわけで雪歩、それに響、ちょっと耳貸しなさい」

  響「え…… ええっ、自分!?」

 伊織「……だいたいどんな手で行くのか、もう察しがついたわ、わたし」

 
581 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/25(月) 23:18:45.73 :w0ojErqk0

【リベンジマッチ】

 小鳥「じゃあ改めて、両チーム、覚悟はいい? 二回戦、始めーっ!」ピピーッ




  真「よぉし、じゃあさっきあっちでやってたみたいに頼むよっ、たかね!」

たかね「おまかせください!」

 亜美「バンバンやっちゃっていーかんねおひめっち、んっふっふー」

 美希「あふぅ…… ミキ、今度は寝てても大丈夫そーなの」




たかね「ふっふっふ…… ちーむがかわっても、わたくしはむてきです!」

  響「おーい、たかねー」

たかね「む、ひびき。さきほどはみかたでしたが、いまはおたがい、てきどうしで……」

 
582 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/25(月) 23:19:58.27 :w0ojErqk0

  響「いいこと教えてあげる。実はさっき、あっちで霜柱見つけたんだ」

たかね「しもばしら!? まことですかっ! どこですか?」

  響「んーとね…… ずーっとあっちの方。今日は、たかねが全部ひとりで踏んでいいぞ!」

たかね「なんと! やくそくですよ、ひびき!」タタタッ




  真「…… あ、あれっ?」

やよい「ちょっ…… ええっ、たかねちゃん!?」

 真美「おひめっちーっ!? カムバーック!」

 小鳥「たかねちゃん、コート外に出てしまったので失格でーす!」ピピピー

 春香「ひ、響ちゃん、そんなの反則でしょー!?」

  響「なにが? 自分、霜柱があった、って世間話しただけだぞー」




たかね「しもばしら♪ どこでしょうかっ、しもばしら♪」

 
583 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/25(月) 23:21:06.88 :w0ojErqk0

 美希「……響がこんなこと考え付くわけないの、これゼッタイ律子……さんの作戦なの!」

  響「ちょっと待つさー、美希、さりげなく自分にすごく失礼なこと言ってない!?」

 美希「はっ…… ってことは!? みんな、気をつけ……」


 律子「混乱してる今がチャンスよ! 全員とーつげきーっ!」バッ

 千早「……!」ダッ

 伊織「あーっもう、こうなったらヤケクソよっ!!」ダダダ


やよい「わあぁっ、あっちのチームみんな、まとまって突っ込んできましたーっ!?」

 真美「まずいYO! みんなおひめっち任せだったから、早くゲーゲキしなきゃ――」

あずさ「よぉし、頑張っちゃうわよ、え~い!」ポイポイ

 真美「ぶへえっ!?」ボスッ

  響「え…… あ、あずささん!? 自分は敵じゃな…… うぎゃーっ!」ベシャ-

 亜美「ああ! 真美ついでにひびきんまであずさお姉ちゃんのノーコン球のギセーに!」

 小鳥「真美ちゃん、それに響ちゃんもアウトー!」ピーッ

 
584 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/25(月) 23:22:16.37 :w0ojErqk0

 千早「まずは美希、次に春香、あとは亜美と真美、真の順……」ビュッ

 美希「ちょっ、千早さんっ…… 一人狙いはズルいの! なんでミキばっかりーっ!?」

 千早「高槻さんは天使だから除外」ヒュッ

  真「み、美希が危ない! 待つんだ千早、ボクが相手――」

 千早「さっきも言ったとおりで、今はまだ真の番じゃないの。そこをどいて」

  真「あっ……、はい、ごめんなさい……」スッ

 美希「ま、真くん!? 真くーんっ!?」




やよい「も、もう、あっちもこっちもめちゃくちゃで…… わけがわかんないです!」

 亜美「えーい、こうなったらこっちもやってやろうわあああーっ!?」ズボォォ

 雪歩「……うふふふふふ、雪って、すっごく掘りやすいから助かりますぅ」

 春香「み、みんな、気をつけてーっ! このへん落とし穴だらけだよっ!?」




たかね「おお、ここにも…… それにこちらにも! ふふ、えいっ♪」ザクッ

 
585 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/25(月) 23:24:31.10 :w0ojErqk0

【ノーサイドとは名ばかりの】

 高木「今年も皆、よく頑張ってくれたね。ささやかだが本日のパーティ、楽しんでくれたまえ」

たかね「なんと……! すばらしい、ごちそうのかずかずが!」キラキラ

 高木「それでは、見事なホワイトクリスマスを祝して、また来年の我々の成功を祈って、乾杯!」

 小鳥「はーい、乾杯ーっ!」

元白組「「「「「「かんぱーいっ!!」」」」」」

元赤組「「「「「「…… かーんぱーい」」」」」」

   P「か、乾杯!」




 高木「キミ、一部アイドル諸君が浮かない顔をしている気がするのだが、何かあったのかね?」

   P「……ええ、と、いえ、特に問題はない、と思います、多分」

 高木「それに美希君や亜美君・真美君の、律子君を見る目に妙にトゲがあるような気もする」

   P「は、ははは、まさか! きっと社長の気のせいですよ!」

 高木「ふむ、それもそうか。どうも年をとると心配性になっていかんね、ははは!」

 
586 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/25(月) 23:25:43.42 :w0ojErqk0

 美希「律子……さんは、やることがえげつないの」

 亜美「そーだそーだー、それがオトナのオンナのやることなのかーっ!」

 真美「コドモを盾にしよーなんてヒキョーだぞーっ!」

 律子「別にルール違反はしてないでしょ。それに2戦目は、油断しきってたそっちにも問題あるわよね」

 亜美「ぐ…… ぐぬぬー、テラス口をたたきおってー!」

 真美「…… やめよう亜美、口ゲンカじゃあ律っちゃんにはかなわないよ……」

 律子「だいたい亜美も真美も動きが直線的すぎるわ。こういうときこそ連携して動かないと」

 亜美「ちょっ、律っちゃん、こんなときまでダメ出しとかやめてよね!?」

 美希「……じゃーミキは、おコゴト言われるまえにさっさとソファで――」ススッ

 律子「待ーちなさいってーの。あんたのやる気のなさはそれ以前の問題なのよ」ガッ

 美希「やーん!?」

 
587 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/25(月) 23:26:51.51 :w0ojErqk0

 千早「さっきから一体どうしたの、真。私が何かしてしまったのなら教えて、謝るから」

  真「い、いやっ、ホントになんでもないんだってば千早!」ビクビク

 春香(千早ちゃん、自分がどんなオーラ出してたかとかぜんぜん自覚ないんだろうなぁ……)




 雪歩「うう、またやっちゃいましたぁ…… 簡単に掘れるからって、ついハイになっちゃって……」

 伊織「雪歩、あんたの落ち込むポイントも毎度よくわかんないわね……」

 雪歩「落ち込む…… あ、穴だけに?」

 伊織「ねえ、ほんとは全然気にしたりとかしてないでしょ?」




あずさ「うーん、最高! たくさん運動したあとは、お料理がいつも以上に美味しく感じるわ~」モグモグ

やよい「ホントですねっ、あずささん! みんなはあんまり食べてないみたいですけど……」ムグムグ

 
588 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/25(月) 23:28:18.17 :w0ojErqk0

【常在戦場】

  響「はー…… ちょっと遊ぶくらいのはずが、こんなにハードとは思わなかったさー……」

たかね「ひびき! じっとしているばあいではありませんよ!!」

  響「……一人で霜柱踏んでた分、元気なのはわかるけど、たかねはもうちょっとじっとしときなよ」

たかね「あっ、あちらにあるおりょうり、わたくし、まだいただいておりません!」

  響「大丈夫だって、そんなすぐにはなくならないから」

たかね「いいえ、わかりませんよ? さあ、ひびき、さあさあ」

  響「もう全種類制覇しそうな勢いだなぁ。ちゃんと味わって食べなきゃダメだぞ」

たかね「とうぜんです。ですが、すべていただくことも、おなじくらいじゅうようです!」

  響「やれやれ…… それで? たかね、どれが食べたいって?」

たかね「ほら、そこの、それです! めろんにおにくがのっているそれです!」キラキラ

  響「生ハムメロン、ねぇ…… また人を選びそうなものに行くんだなー」

たかね「わたくし、てがとどかないので、ひびきがたよりなのです! はやくとってくださいませ!」

 
589 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/25(月) 23:29:49.90 :w0ojErqk0

【音無小鳥の場合】

 小鳥「さすが社長の知ってるお店のケータリング、レベル高いわ…… あ、これ、おいしい」モグモグ

たかね「あの、ことりじょう」
 
 小鳥「そしてこの、春香ちゃんのおみやげのケーキがまた……! ああ、幸せ……」ムグムグ

たかね「ことりじょう!」

 小鳥「きゃっ!? ……あ、ああ、たかねちゃん? どうしたの、急に」

たかね「どうです? その…… ことりじょうは、たのしめていますか?」

 小鳥「えっ?」

たかね「その、わたくしは、くりすますをたいへんたんのうしているのですが」

 小鳥「うふふ、そうでしょうね。さっきの雪合戦じゃたかねちゃん、大活躍だったじゃない?」

たかね「ひょっとするとことりじょうは、たのしめていないのではと、きになりまして……」

 小鳥「……もしかして、わたしが前にぼやいてたの、気にしてた?」

たかね「はい、おせっかいかとはおもったのですが」

 小鳥「あっちゃー、たかねちゃんに気を遣わせちゃうなんて、事務員失格だわ……」

 
590 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/25(月) 23:31:14.94 :w0ojErqk0

 小鳥「たかねちゃん。わたしももちろん、今日のクリスマス、すっごく楽しんでるわ」

たかね「しかし、ゆきがっせんでもことりじょうは、いっしょではなかったでしょう?」

 小鳥「ふふ、それは確かにそうね。でもね、わたしの場合、みんなを見てるだけでも満足なのよ」

たかね「みんな?」

 小鳥「そう。たかねちゃんもだし、響ちゃんや、春香ちゃん、千早ちゃん…… 765プロのみんな」

たかね「ですが、みなといっしょにうごきまわるほうが、もっとたのしいのではありませんか?」

 小鳥「そうできたら楽しいかな、と思うこともあるけどね。そばで見ててこその楽しみもあるの」

たかね「そういうもの、なのでしょうか」

 小鳥「そういうものなのよ。見守る楽しみ…… っていうのかしらね」




たかね「なるほど…… やはり、ことりじょうは、みなのははうえのようなひとです」

 小鳥「は…… 母上!? そこ姉上ってわけにいかない!? ねえっ!?」

 
591 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/25(月) 23:33:51.23 :w0ojErqk0

【あなたのお目目はなぜあかい】

  響「たかね、お買い物して帰る前にさ、ちょっとそこの公園に寄り道して行こうよ」

たかね「まだだいぶ、つもっていますね…… はっ! もしや、ふたりでゆきがっせんですか!?」

  響「それ絶対くたびれるし、それ以上にすごく空しくなると思うぞ……」




  響「あったあった、これこれ」

たかね「これはなんのきですか、ひびき?」

  響「ナンテンって言うんだよ。お薬とかに使えるって聞いたことがあるぞ」

たかね「あかいみが、あざやかで、おいしそうです!」

  響「食べられるって聞いたことはないなー、さすがにそれはやめとこうか」

たかね「ふむ、そうですか…… ざんねんですが、あきらめましょう」

 
592 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/25(月) 23:34:25.35 :w0ojErqk0

  響「それより今は、この実と葉っぱがほしかったんだ」

たかね「えっ? しかし、たべられないのでしょう? なんにつかうのですか?」

  響「ふふふ、それはまだナイショ」

たかね「む…… ひびき、なにをかくしているのですか。あやしいです!」

  響「それからさ、たかね、両手で持てるくらいの雪玉作ってくれる?」

たかね「ゆきだま? ……やはり、ゆきがっせんをするのですね!?」

  響「違うってば。このナンテンがあれば、かわいいものができるのさー」

たかね「かわいいもの?」

  響「そうそう。ほら、雪玉、早く早くー」

 
593 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/25(月) 23:35:07.89 :w0ojErqk0

たかね「ひびき、いわれたとおり、ゆきのたまをつくりましたよ」

  響「お、ありがと。これに、今とった実と葉っぱを、こうやってくっつけると……」




  響「よーし、できたぞー。ほらっ、たかね、これなーんだ?」

たかね「……おお!! これは、うさぎさんです」

  響「そう、雪でできてるから、雪うさぎっていうの」

たかね「なんてんのはっぱがおみみで、あかいみは、うさぎさんのめですね!」

  響「うさ江の目も赤いけど、この子の目はもっと真っ赤だなー」

たかね「それに、おみみがみどりのうさぎさんは、めずらしいです、ふふっ」

 
594 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/25(月) 23:36:41.86 :w0ojErqk0

たかね「おや? このゆきうさぎさんは、つれてかえってあげないのですか?」

  響「うん、あったかいお部屋だとこの子はすぐとけちゃうから、ここにいた方が幸せじゃない?」

たかね「たしかに…… そのとおりです。では、ひびき、ゆきだまをひとつ、つくってください」

  響「雪玉? なんで?」

たかね「ゆきうさぎさんも、ひとりではきっと、さびしいでしょう?」

  響「……! ふふ、そうだね。じゃあたかねは葉っぱと実、とってきてよ」

たかね「はいっ!」




たかね「おみみと、めをつけて…… できました!」

  響「よし、そしたら、さっきの子の隣に並べてあげよう」

たかね「おともだちがまいりましたよ、ゆきうさぎさん。これで、さびしくありませんよ」

 
595 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/25(月) 23:38:11.52 :w0ojErqk0

たかね「ひびきのつくったゆきうさぎさんは、さきほどのゆきうさぎさんより、ちいさいですね」

  響「そっちがたかねで、最初にできた大きい方が自分なんだぞ」

たかね「ふむ、いわれてみれば…… いろじろで、めもあかいですし、わたくしににているきもします」

  響「おっ? たかね、ちっちゃいって言われてるのに怒らないのー?」

たかね「ええ。だって、さびしがりのひびきのために、わたくしがきたことになります!」

  響「…… うまいこと、言っちゃって。今日は、自分が一本とられたことにしとくさー」




  響「さ、それじゃ、そろそろ行こっか」

たかね「そうですね。ひびき、つぎにゆきがふったときは、ゆきだるまをつくりましょう!」

  響「うん、そのときは大っきいのを作ろうなー。たかねや自分より背の高いやつ!」

たかね「おやくそくですよ? つぎはいつ、つもるでしょうか、あすでしょうか?」

  響「たかねがいい子にしてたら、きっとすぐ降るよ。それまでのお楽しみだぞ」

 
596 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/25(月) 23:39:49.62 :w0ojErqk0

【吸引力の変わ(ry】

たかね「しかしきょうは、せかいじゅうで、けーきをたべるひなのだ、とききましたが」

  響「いやいやいや。事務所で春香のもって来てくれた分とか、さんざん食べてたでしょ、たかね」

たかね「それはそれ、これはこれ、ですよ、ひびき」

  響「まーた妙なことばっかり覚えてきて。ほら、帰るよ」グイ

たかね「そんな!? あえてよのながれにさからうひつようは、ございません!」

  響「よそはよそ、うちはうちなの!」

たかね「おうぼうです! わたくし、けーきをようきゅういたしますーっ」グググ

  響「ヤモリじゃあるまいし、どうやったらショーケースにこんなに吸い付けるんだー!?」ググググ

たかね「よいでは…… あり、ません、かっ! ひびき、よいではありませんか!!」グググググ

  響「ちっ、ともっ、よく、なーい! いいから、っ、離れるさーっ!」ググググググ

 
597 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/25(月) 23:41:36.09 :w0ojErqk0

【丸太とか薪とか】

たかね「……」ムスー

  響「おーい、たーかねー」

たかね「……」プイッ

  響「ちょっとこっち見てみてよー、ほらほらー」

たかね「……どうせ、ここあかなにかで、わたくしをつろうというのでしょう」

  響「ん、ココア飲みたい? 作ってあげようか?」

たかね「なんと、まことで…… ち、ちがいます! わたくし、いまは、おかんむりなのです」

  響「そうなの?」

たかね「そうなのです。ここあくらいでは、わたくしのこのぜつぼうは、いやされません!」

  響「そっかー。じゃあ、このブッシュドノエルでもダメかなー」

たかね「…… ぶ…… ぶしどう? の、える? それはなんのじゅもんですか、ひびき」クルッ

 
598 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/25(月) 23:43:43.05 :w0ojErqk0

たかね「!!」

  響「二人用にと思って作ってたけど、たかねがいらないんなら自分ひとりで……」

たかね「いりますっ!! おまちください、いります!!」

  響「あれれ、たかねはおかんむりだったんじゃないの?」

たかね「お、おかんむり…… では、ありますが、いえ、おかんむりだからこそ、いります!」




たかね「まっはふ、ひびひも、ひふぉがわるいでふ」ムグモグ

  響「ごめんごめん、せっかくだから、たかねをびっくりさせたかったの」

たかね「はるはのふくっふぁものとは、いんひょうふぁ、ことなひまふね」モゴモゴ

  響「これ、ビスケット使って作ったんだ。その分、ケーキとしてはちょっと独特かも」

たかね「んぐ…… みためも、まるたのようで、おもむきがあります!」

  響「フランスとかじゃこれが普通なんだって。まだあるけどおかわり、どうする?」

たかね「!! しれたこと! ぐもんですっ!!」

  響「あはは、だよね」

 
599 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/25(月) 23:44:19.06 :w0ojErqk0

【ジェルジェム】

たかね「ところでひびき、それは?」

  響「飾りつけの余り、もらってきちゃった。窓に貼ったらにぎやかかなーと思って」ペタ

たかね「おほしさまや、もみのきに…… あっ、それは、ゆきだるまですね」

  響「さわった感触も、ぷるぷるしてて面白いぞ。ゼリーっていうか、グミみたいな」ペタ

たかね「わたくしも、わたくしもはりたいです、ひびき!」ピョンピョン

  響「よーし、じゃあ、たかねは窓の下半分お願い。上半分は自分がやるよ」

たかね「こころえました!」




  響「思ったとおり! ね、ずいぶんクリスマスっぽくなったでしょ」

たかね「はい! きらきらして、いろとりどりで…… みているだけで、たのしくなります!」

 
600 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/25(月) 23:45:23.03 :w0ojErqk0





  響「それで、たかね。なんでこんなことしたの」

たかね「な、なんのことでしょうか?」

  響「このジェムについた歯形、どう見ても、いぬ美でもねこ吉でもないよね」

たかね「…… ぜりーや、ぐみみたい、といったのは、ひびきです」

  響「自分、さわった感触が似てる、としか言ってないよね?」

たかね「いいえ! みためもよくにています!!」

  響「そこは否定しないけど! どうしてそこでかじってみようと思うのさ!」

たかね「…… しょうじきなところを、もうしますと……」

  響「うん、間違っちゃうことは誰にでもあるんだ、そこでちゃんと謝れるようになれば」

たかね「しゅねぇけんよりも、おいしくありませんでした」

  響「誰も聞いてないぞ!?」

 
601 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/25(月) 23:46:55.78 :w0ojErqk0

【Present for】

  響「たかね、きょう一日過ごしてみて、どうだった?」

たかね「はい、ゆきがっせんも、ぱーてぃも…… ぶしどうおのれも! どれも、さいこうでした!」

  響「それはなによりだぞ。じゃ、最後にこれがなくちゃ、クリスマスは終われないよね」ゴソゴソ

たかね「なんと! まだ、なにかあるのですかっ!?」

  響「前に説明したときにも言ったでしょ。家族とかに贈り物をあげる日なんだって」

たかね「あっ! だからきょうは、はむぞうどのやぶたたどののごはんも、ごうかだったのですね?」

  響「そうそう。あの子たちも、なんとなくわかってくれてるんじゃないかな」

たかね「たしかに、ゆきもつもりましたし、とくべつだ、とかんじているかもしれません」

 
602 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/25(月) 23:48:12.34 :w0ojErqk0

  響「ってことで、たかねにはこれ、あげるよ」

たかね「ちいさいですが、きれいなはこです! すぐに、あけてもかまいませんか?」ワクワク

  響「もちろんだぞ。そのためのプレゼントなんだから」

たかね「ありがとうございます、ひびき! では、さっそく……」




たかね「これは……?」

  響「イヤリング。耳飾りだよ」

たかね「そ…… それは、つまり、わたくしのみみに、あなをあけろと!?」

  響「そう来ると思った。安心してよ、それは穴を開けなくて大丈夫なやつだから」

たかね「ほ、ほんとうですか……?」

 
603 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/25(月) 23:48:56.41 :w0ojErqk0

  響「それにほら、見てみて。これ、小さいけど、お月様のかたちしてるんだ。きれいでしょ?」

たかね「おお…… ぎんいろの、これは、みかづき…… でしたか?」

  響「そうそう、三日月。自分がつけてあげるからさ、たかね、ちょっと横向いて」

たかね「うう、しかし、だいじょうぶでしょうか…… ぜったいに、いたくありませんか?」

  響「痛くないって。気をつけてゆっくりやるから、信用してよ」

たかね「…… わかりました。では…… おねがいします、ひびき」




  響「…… はい、できたぞ! どう? 痛かった?」

たかね「い、いえ、しかし…… しょうしょう、きんちょうしました……」

  響「それより自分でも見てごらん、ほら、鏡あるよ」

 
604 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/25(月) 23:49:32.64 :w0ojErqk0





たかね「…… どうなのでしょうか、ひびき」

  響「ん? どうって、なにが?」

たかね「わたくし、こういうものははじめてなので、よいのかどうか、わかりません……」

  響「あー、それはそうかもね。選んだ自分が言うのもなんだけど、ホントにすごく似合ってるよ」

たかね「そう…… なのですか?」

  響「たかねの髪の銀色と、白い肌に、銀のお月様が映えててさ。とっても綺麗」

たかね「まことですか? ひびきのおすみつきなら、こころづよいです」

  響「そりゃそうさー、カンペキな自分が選んだんだもん。似合わないわけないぞ!」

 
605 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/25(月) 23:49:59.12 :w0ojErqk0

たかね「……あっ!?」

  響「わっ、びっくりした……! 今度はなんなのさ、たかね」

たかね「ど、どうしましょう、ひびき……」オロオロ

  響「何かあったの? 落ち着いてよ、いったいどうしたの」

たかね「わたくし…… あの、わたくし、ひびきへのおくりものを、よういしておりません」

  響「……ああ、なんだ、そんなこと? ぜんぜん気にすることじゃないさー」

たかね「しかし、わたくしだけおくりものをもらうのでは、ふこうへいです」

  響「不公平なくらいでちょうどいいよ。たかねがいるおかげで、毎日飽きないもん、自分」

たかね「いいえ、しゅくじょとして、それはみとめられません!」

  響「そうは言ってもねー…… あ、それなら、ひとつお願い聞いてもらおうかな?」

たかね「はい! わたくしにできることなら、なんでも!」

 
606 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/25(月) 23:52:37.08 :w0ojErqk0

【つめたいよるに】

たかね「……ほんとうにこれで、よいのですか?」

  響「うん、お布団ひくのちょっとめんどくさかったし、今夜は特に温度下がるらしいしね」

たかね「だからといって、いっしょにべっどでねるだけでは、おくりものにならないのでは……」

  響「たかね、できることならなんでもしてくれるんでしょ?」

たかね「ええ…… たしかに、そうもうしましたが」

  響「じゃあ決まりー。ほらほら、入って入って」




たかね「……ひびき、まだ、おきていますか?」

  響「もちろん。たかね、眠れないの?」

たかね「わたくし、ゆきうさぎさんたちのことを、かんがえていました」

  響「へえ?」

 
607 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/25(月) 23:53:20.88 :w0ojErqk0

たかね「あすにはきっと、あのゆきうさぎさんたちは、いなくなってしまいますね」

  響「…… うん、たぶんね。予報だと、明日は晴れるって言ってたし」

たかね「でも、おともだちがいっしょですから、さびしくないはずです」

  響「……」




たかね「ひびき。あの、おつきさまのみみかざりですが」

  響「あれがどうしたの?」

たかね「……ほんとうは、もっとまえから、よういしていたのでしょう?」

  響「!」

たかね「ちがいますか?」

  響「…… どうして?」

たかね「しょうしょう、わたくしには、おおきすぎるかんじがいたしました」

 
608 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/25(月) 23:54:18.87 :w0ojErqk0

  響「…… たかねって、妙なとこで察しがいいから困っちゃうな」

たかね「ふふ、やはり、そうでしたか」

  響「でもさ、たかね"にも"きっと似合うって、心からそう思ったから、あげたの。それはホント」

たかね「ええ。わかっておりますとも」

  響「別に使いまわしとか、そういうんじゃないからね?」

たかね「もちろん、わかっておりますよ、ひびき」

  響「むーっ…… なんなのさー、そんな何もかもお見通しー、みたいな!」

たかね「わたくし、しっていますから。ひびきは、おおきくてもさみしがりの、ゆきうさぎさんです」

  響「う、うがーっ! ベッドに呼んだのはそういうんじゃなくて、今日は冷えるからだって――」

たかね「しんぱいせずとも、わたくしは、とけていなくなったりいたしませんよ」

  響「……当たり前でしょ。そんなことしたら、もうめちゃくちゃ怒っちゃうぞ、自分」

たかね「おこられるのは、いやですから、きをつけなくてはなりませんね。ふふっ」

 
609 :◆ccGlDikGP2 :2015/05/25(月) 23:56:20.36 :w0ojErqk0





たかね「まえに、ひびきはいいましたね。こうして、ふたりでいっしょのほうが、あたたかいと」

  響「ああ、そうだったね」

たかね「ゆきうさぎさんなら、とけてしまいますが、ひびきとわたくしなら、だいじょうぶです」

  響「ん、確かに。 ……じゃあ、今夜はすっごく寒いからさ、たかね、もうちょっとこっちに来ない?」

たかね「おや…… よいのですか? またわたくしのかみのけが、かぶさるかもしれませんよ」

  響「いいよ、それくらい。たかねが、すぐそばにいてくれるほうがいい」

たかね「しょうちしました。それでは、しつれいして」




  響「……ありがとね、たかね」

たかね「はて、なんのことでしょうか?」

  響「なんでもないよ。それじゃ、おやすみ。メリークリスマス」

たかね「おやすみなさい、ひびき。 ……めりー、くりすます」


649 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 20:32:56.93 :J/jxjDXo0

【年の終わりのためしとて】

たかね「ひびき、しまっているおみせがおおいのは、どうしてです?」

  響「年末だからねー。みんな、自分のおうちの年越しの準備とかで忙しいんだよ」

たかね「なんだか、さびしいかんじがいたしますね……」

  響「あと一週間もしたら、また元に戻るから大丈夫さー」

たかね「ふむ。ところで、おかいものは、これでおしまいでしょうか」

  響「いーや、まだまだ。次はいつものスーパーだぞ。たかね、そろそろ疲れちゃった?」

たかね「わたくし、げんきいっぱいです! ぼうけんでもしているようで、たのしいです」

  響「そっか、なら良かった。迷子にならないように、しっかりついてきてね」

たかね「はい! ちゃんとてをにぎっておりますから、だいじょうぶです!」

 
650 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 20:33:50.32 :J/jxjDXo0

【※お姫様と王子様は入ってる具がちがいます】

たかね「ひびき、ひびき」

  響「どうしたの?」

たかね「おせちもいいけど、かれーもね、とは、どういういみですか?」

  響「また唐突な…… どこで聞いてきたのさ、そんなの」

たかね「あちらのうりばで、こえがながれておりましたよ」

  響「なるほどね。まあ確かに、ちょうどそんな時期だもんなぁ……」

たかね「そもそも、かれー、とはなんでしょうか」

  響「あー、そういえば、たかねが来てからカレー作ったことってまだなかったっけ」

 
651 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 20:34:36.74 :J/jxjDXo0

たかね「わたくし、いただいたおぼえはありません。たべものなのですね? びみなのですか?」

  響「そりゃもう。子供ならだいたいみんなカレー大好きだもん」

たかね「となると、ひびきもすきなのですね」

  響「なんかちょっとひっかかる言い方だけど、もちろん自分も好きだよ?」

たかね「しかし、ひびきやおこさまがこのむおりょうりでは、わたくしのこのみにあうかどうか……」

  響「そう? 作ってあげようと思ってたけど、じゃあ止めとこうかな」




たかね「ごめんなさい、ひびき、しょくしてみたいです、どうか、つくってください」

  響「ん、よし。人間、素直なのが一番だぞ」

 
652 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 20:35:34.67 :J/jxjDXo0

【雲をつかむような】

たかね「……」ジーッ

たかね「…… そこですっ!」バッ

たかね「む、もうすこしで、この、くっ」シュッ

たかね「あっ…… うう、やはり、かんたんにはいきません……」




  響「…… さっきから加湿器の前でなにしてるの、たかね?」

たかね「あっ、ひびき。わたくし、このけむりをつかもうとしているのですが、なかなか」

  響「それ煙じゃないし、そもそもなんでつかめると思ったのさ」

たかね「はて…… みていなかったのですか? いまも、おしいところだったでしょう?」

  響「いやいやいや」

たかね「さきほどは、てにかすりました。ふふふ、あといっぽです!」

  響(……ねこ吉ですら無理だって気がついて、最近やんなくなったのになぁ、これ)

 
653 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 20:36:25.09 :J/jxjDXo0

【奥から手前へ上から下へ】

  響「さて、っと。そしたら、新年を気持ちよく迎えるために、まずは大掃除をするぞー!」

たかね「こころえました! おそうじですね!」

  響「……ん? たかね、大掃除だよ、お・お・そ・う・じ」

たかね「はい? いまから、おそうじをするのでしょう?」

  響「うん、お掃除はお掃除だけど、特に年末にやるのは"大"掃除っていうんだ」

たかね「…… ええ、ですから、おそうじ、ですね?」

  響「うーん、わかんないかなぁ。別に間違いじゃないんだけど、大掃除っていうのは――」

たかね「いったいなにをいっているのですか、ひびき。だいじょうぶですか?」

  響「自分はいつも通りカンペキだよ? どっちかっていうと、たかねの耳の問題かな」

たかね「よいですか、ひびき。じしんのまちがいをみとめるのには、ゆうきがいりますが」

  響「ねえ、なんで自分がおかしいことになってるのさ」

 
654 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 20:37:20.46 :J/jxjDXo0

【aquascutum】

たかね「よいしょ、よいしょ……」キュッキュッ

  響「おっ、がんばってるなー、たかね」

たかね「じゃぐちどのにも、ひごろ、おせわになっておりますから」キュキュッ

  響「ふふ、いい心がけだね。自分、もうちょっと浴槽のほうやるから、しっかりみがくんだぞー」

たかね「もちろんです、おまかせを!」

  響「ところでそれはいいとして、たかね、ひとつ聞いていい?」

たかね「おや、なんでしょう。なにかございましたか」




  響「あのさ、お掃除するだけなのに、どうしてシャンプーハットかぶってるの?」

たかね「これはまた、いなことを…… おふろばでかぶるものだといったのは、ひびきですよ?」

 
655 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 20:37:55.67 :J/jxjDXo0

【なんとかと煙は】

  響「こんどは窓拭き! 上半分は自分が拭くから、下半分はたかね、よろしくね」

たかね「それなのですが、ひびき」

  響「なあに?」

たかね「たまには、やくわりをこうたいすべきだとはおもいませんか?」

  響「えっ? でもたかね、背が届かないでしょ」

たかね「そういうひびきも、うえのほうは、だいにのってふいているでしょう」

  響「う…… ま、まあ、それはそうなんだけど」

たかね「ならば、わたくしがだいにのっても、おなじことでは?」

  響「んー、一理あるといえばあるか。じゃあ今日は、上をお願いしようかな」

 
656 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 20:38:44.21 :J/jxjDXo0





たかね「ひっ、ひびきっ! だいは、まちがいなく、おさえてくれていますね!?」ブルブル

  響「だからちゃんと支えてるって。そんなに気になるなら、ほら、こっち見て確認してごらん」

たかね「このたかさで、したをみろと!? わたくしにしねというのですか!?」

  響「大げさだなー。もし仮に落っこちたって、自分がここにいるから受け止めてあげるよ」

たかね「え、えんぎでもない! そのようなこと、くちにしないでください!!」

  響「……ねえ、たかね、やっぱり今からでも自分と交代したほうがいいんじゃない?」

たかね「はっ、そういえば! わたくし、このたかさから、どうやっておりたらよいのです!?」ガクガク

  響「どうしてそのレベルで台にのぼって窓拭き、いけると思ったかなぁ」

 
657 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 20:40:01.86 :J/jxjDXo0

【頭は下げるのがコツ】

  響「じゃ、あっちの廊下の端っこまで、どっちが早く雑巾がけできるか競争だぞっ!」

たかね「ふふふ。もちろん、わたくしがかつにきまっています」

  響「おっ、自信満々だなー」

たかね「まえにもいいましたが、わたくしの"どらいびんぐてくにっく"はすごいのですよ?」

  響「へえー? でも自分も運動神経にはけっこう自信、あるからね」

たかね「のぞむところです。では、かいしのあいずを」

  響「恨みっこなしの一本勝負だぞ。よーし、位置についてぇ…… よーい、どんっ!」


ダダダッ
ダッズルッベチンッ


  響(……べちんっ?)

たかね「…… う、ぇ、うぁ、うわあああああん……!」

 
658 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 20:41:24.23 :J/jxjDXo0





  響「うん、痛かったね、よしよし…… スタートダッシュはすごかったぞ、うん」ナデナデ

たかね「う"ぇぇぇぇ"ぇ"ん……」ギュー

  響(あれだけ見事に顔面ダイブしちゃうとは、さすがに予想してなかったさー……)

  響「ほーら、たかね、こんなときのためのおまじない、してあげるよ」

たかね「ひっぐ、えぐ、…… おま"、じない?」

  響「そう、これですぐよくなるぞ。痛いの痛いの、飛んでけー」

たかね「…… ……い"っごうに"、どん"でゆぎまぜん"!!」

  響「え…… えーと、そこはほら、気の持ちようっていうか、言葉のあやっていうか……」

たかね「うう"、ぐしゅっ、えほっ…… うえ"、うああぁん」

  響「……ちょうどいいや、少し休憩しよ? あまーいココア作ったげるからさ、ね、泣かないの」

 
659 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 20:42:45.70 :J/jxjDXo0

【cocoa break】

たかね「……」ズズ

  響「どう、おいしい? ちょっと落ち着けた?」

たかね「…… まだ、おはなが、じんじんします」グスッ

  響「勢いつけて思いっきり床にぶつかっちゃったんだもん、仕方ないさー」

たかね「あのじこさえなければ、わたくしが、かっておりましたのに!」

  響「うんうん、きっとそうだったなー。惜しかったよ、たかね」

たかね「……ほんしんから、いっておりませんね、ひびき」

  響「えっ、い、いや、そんなことないぞ」

たかね「いいえ! わたくし、わかるのです! いまからあらためて、もういちどしょうぶを――」

  響「そういえばココアのおかわりあるんだけど、どうする?」

たかね「…… あ、あまっては、もったいないですね。さめないうちに、くださいませ」ソワソワ

  響「はーい。ちょっと待っててねー、ふふふっ」

 
660 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 20:43:35.07 :J/jxjDXo0

【こな耳べた耳】

  響「はい、じゃあたかね、ここに横になって」ポンポン

たかね「わ…… わたくし、これから、なにをされるのです?」

  響「さっきのやりとりで、たかねの耳がちょっと気になってさ。耳そうじ、してあげる」

たかね「わたくしのおみみと、ひびきのおひざにねるのは、なんのかんけいがあるのですか?」

  響「だって横になってくれなきゃ、耳の中が確認できないでしょ」

たかね「し、しかし、けいけいに、おみみをのぞかれるのは……」

  響「だーいじょぶだって、優しくするから。実家でも自分、上手だって評判だったんだぞ?」

たかね「むむ…… そうまでいうならば、いたしかたありませんね」コロン

  響「はいはい、ありがたき幸せです、姫さま」

 
661 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 20:44:12.56 :J/jxjDXo0

  響「どれどれ…… おおー、これはこれは……」

たかね「あ、あまりみないでください、ひびき」

  響「だけど、まずは見て確かめなきゃ取れないからね。じゃ、さっそく」

たかね「ひゃあぁ!?」

  響「おっ、と……! ごめん、たかね、痛かった?」

たかね「いえ、いたいわけでは…… ただ、これは、おみみをこちょこちょされるようで、その……」

  響「そっか、痛くないなら大丈夫だよね。続けるよー」

たかね「ちょっ…… そんな、ひびき、おまちを、ふにゃんっ!」

  響「もー、たかね、あんまり変な声出すもんじゃないぞー」

たかね「だって、くすぐったいのです! わざとやっているのではありませんか!?」

  響「まっさかー、そんなことないってー。くっくっく」

たかね「そ、そのあやしげなわらい、どういうことです!? ひびき! ひびきーっ!?」

 
662 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 20:46:41.89 :J/jxjDXo0





  響「よし…… こんなもんかな? はーい、おしまいっと」

たかね「…… はぁ、はぁ……」グター

  響「お疲れさま、たかね。ほら、けっこう取れたぞー」

たかね「よ、よくも、わたくしをもてあそびましたね、ひびき……」

  響「だから違うってばー。自分、ちゃんと真剣にやったんだからね?」

たかね「つぎは、ひびきがおみみをのぞかれるばんですっ!!」ガバッ

  響「えっ」

 
663 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 20:47:16.80 :J/jxjDXo0

たかね「ほら! ひびき! はやく、わたくしのおひざに!」バシバシ

  響「……い、いやあ、自分は遠慮しとこうかな、うん」

たかね「なぜです? わたくしは、ひびきをしんじ、みを…… みみを、まかせたというのに!」

  響「だいたい、たかねのひざに自分の頭は重たすぎるだろうしさ」

たかね「かんけいございません! それに、わたくしだけそうじしてもらうのでは、ふこうへいです!」

  響「気持ちはうれしいけど、自分は耳掃除くらい自分でできるから大丈夫だよ」

たかね「ひとりではみえないでしょう? わたくしがみたほうが、かくじつにきまっています!」

  響(うっ…… たかねのやつ、妙なところで正論を……!)

たかね「さあ、ひびきっ! かんねんして、わたくしにおみみをみせるのです!!」

  響「いや、いらないって…… ちょ、こらっ、耳ひっぱるのはやめ、あでででっ!?」

 
664 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 20:48:17.47 :J/jxjDXo0

【いんたらぷしょん】

たかね「ひびき」

  響「どしたのー」カリカリ

たかね「せっかく、あそんであげようとおもったのに、いぬみどのがねているのです」

  響「そっかー。ちょっと待っててあげてねー」カリカリカリ




たかね「ひびき!」

  響「んー?」カリカリカリ

たかね「はむぞうどのが、けーじからぬけだしました!」
 
  響「えっ!? もー、またあの子はっ」ガタッ

たかね「ですので、つかまえて、つれてきました」

ハム蔵「ジュイィ……」

  響「あ、なーんだ…… よかった。ありがと、たかね」

 
665 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 20:48:50.72 :J/jxjDXo0

たかね「ひびき?」

  響「なーにー」カリカリ

たかね「なぜ、ふゆはさむいのですか」

  響「……うえっ!? え、えっと…… そうだ、あれだよ、雪の妖精さんがね」

たかね「そういうこどもだましは、わたくし、もとめておりません」

  響「うがっ!?」




たかね「ひびきー」

  響「ねー、たかね、あのさぁ」カリカリカリ

たかね「なんでしょう?」

  響「さっきから、自分が宿題してるの、わかってやってるよね?」

たかね「…… は、はて?」

  響「はてじゃなくて」

 
666 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 20:49:34.82 :J/jxjDXo0

  響「いくら自分がカンペキでもさ、勉強するからには集中したいんだけど」

たかね「ほんとうにかんぺきなら、そのくらい、きにならないでしょう」

  響「うぐっ…… いやでも、そういうことじゃなくてね」

たかね「わたくし、あえて、ひびきにしれんをあたえているのです」

  響「試練? ……宿題の邪魔しにくるのが?」

たかね「しゅういにまどわされない、つよいこころをえられますよ」

  響「なんちゃって、本当はたかね、自分にかまってほしいだけなんでしょー」

たかね「なっ、ちっ、ちがいます! しっけいな!」

  響「ごめんね、今やってるこれ終わったら、たっぷり相手してあげるからさ」

たかね「ちがう、ともうしております! かってに、きめつけられては――」

  響「あと15分…… いや、10分で片付けちゃうぞ。それまで、ねっ?」

たかね「……じゅっぷん、ですね。おやくそくですよ」

 
667 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 20:50:48.44 :J/jxjDXo0

【長毛種の宿命】

いぬ美「はっはっはっはっ」

たかね「ひいっ!? ちかよらないでください、いぬみどの!」

いぬ美「くぅーん……」

たかね「そ、そのようなこえをだしても、だめなものはだめなのです!」




  響「あれ、たかね、どうしたの? いぬ美が起きるの、待ってたんじゃなかったっけ」

たかね「それが…… さきほど、いぬみどのにふれたとき、いたみがはしったのです」

  響「えーと、それってなんかこう、ちくっとするって言うか、ばちっ! て来る感じ?」

たかね「そう、そうです! なにがあったのか、わたくし、わからなくて」

  響「まあ、たかねも体格に対する髪の量で言えば、自分とあんまり変わんないもんね……」

たかね「かみのりょう? どういうことですか?」

 
668 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 20:51:26.65 :J/jxjDXo0

  響「そのばちっとするの、静電気って言ってさ。この時期、毛の多いいぬ美とかに近づい…… あ」

たかね「ひびき? きゅうに、どうし――」

ねこ吉「ニャーゴ」スリスリ

バチンッ

たかね「な"ぁっ!? ……ねこきちどの! ひごろはよりつかないくせに、なぜこんなときだけ!」

ねこ吉「ゴロニャー」スリスリ

バチッ

たかね「あいたっ! な、なにゆえわたくしにすりよるのです!? どうせなら、ひびきに!」

  響「…… ねこ吉、たかねがもっと遊んでほしいって言ってるぞー」

たかね「なんと!? ひびき、や、やめっ」

ねこ吉「ウナー」スリスリスリ

たかね「めんようなー!」 バチィッ

 
669 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 20:52:05.69 :J/jxjDXo0





たかね「…… この『ばちばち』は、どうにかならないのですか、ひびき」

  響「壁にまめに触ったりすればある程度予防できるけど、完全になくすのは無理かなー」

たかね「そうなのですか……」

  響「それにいぬ美たちに限った話じゃなくて、人どうしでも起きることあるからね、これ」

たかね「えっ!?」

  響「特に、たかねや自分みたいに髪の毛が多いと、ねこ吉とかと条件はあんまり変わんないもん」

たかね「そ、そんな、こまります!」

  響「まあでもそうしょっちゅう起きるわけじゃないし、自分は別に静電気体質じゃないから――」

 
670 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 20:53:23.57 :J/jxjDXo0

たかね「……」ススッ

  響「んー? あれれ、たかね、どこ行くのー?」

たかね「い……、いえ、べつに、どこ、というわけでは……」

  響「どうしたのさー、なんか腰が引けちゃってるぞー」ニヤニヤ

たかね「そのようなことは…… きっと、ひびきの、きのせいで」

  響「ふーん? あ、なんか急に、美希みたいにたかねのことハグしてみたくなってきたぞ、自分」

たかね「…… はいっ!?」

  響「たっかねーっ!」ダッ

たかね「ひ、ひびき、わかってやっておりますでしょう!?」ダダッ




  響「ふふん、つかまえたー。ね、あれだけ逃げ回ってたけど、案外大丈夫でしょ?」ギュ

たかね「……たしかに、いたいめをみずにすんだので、よしとします」

 
671 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 20:54:14.16 :J/jxjDXo0

【そこに触れたらあとはもう】

  響「せっかくお正月迎えるからには、おせちも作らないとね」

たかね「おせちとは、どんなおりょうりなのです?」

  響「うーん、けっこういろんな種類があるから、一言じゃ言えないかなぁ」

たかね「ほほう」

  響「まあ、今回はちっちゃいたかねと自分の二人しかいないし、簡易版って感じでいこっか」

たかね「む。おまちなさい、ひびき。ちっちゃい、というのはとりけすのです」

  響「そこはどう転んでも事実なんだからさ、そろそろ認めなよ、たかね」

たかね「…… まえまえからおもっておりましたが、ひびきだって、ちいさいではありませんか!」

  響「う、うがーっ!? そんなことないよ!」

たかね「ぷろぢ…… ぷろじゅーさーどのや、あずさのほうが、ひびきよりずっとおおきいです!」

  響「うっ、で、でもそれは…… そう! プロデューサーもあずささんも自分より年上だから当然なの!」

 
672 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 20:55:36.91 :J/jxjDXo0

たかね「ですが、とししたのみきや、それにあみも、まみも! ひびきよりおおきいではありませんか!?」

  響「う、うるさーい! あんまり身長のこと言うと、もうたかねのおせち作ってあげないからね!?」

たかね「なんと!? そのようなおうぼう、ゆるされません!」

  響「だいたいたかねと自分とで比べたら、たかねの方がずーっとちっちゃいんだし!」

たかね「とうぜんでしょう? ひびきのほうが、としうえなのですから」

  響「ぐっ…… い、いきなり立場変えたりして、たかね、ずるいぞっ!?」

たかね「これこそ、おとなのよゆうというものです。ひびき、もっとせいちょうしなさい」フフン




  響「……へび香! ワニ子も! 今すぐ台所に集合ーっ!」

たかね「な、ひ、ひびき!? えんぐんなどと、ひきょうです!!」

  響「卑怯だっていいもん! 大人には引けない戦いってやつがあるのさー!」

たかね「まるでだだっこではありませんか! それの、なにがおとなですか!?」

ギャーギャー

 
673 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 20:56:17.44 :J/jxjDXo0





  響「……はあ。さんざんバカみたいに騒いだおかげで、ちょっとは落ち着いたぞ……」ゼーゼー

たかね「き、きぐう……、ですね、わたくしも、です」ハーハー




  響「で、おせちってのはね、お正月に食べる特別なお祝いのお料理なの」

たかね「なかなか、てがかかりそうですね」

  響「なんて言っても、かんたんなものいくつか作るだけで十分それっぽくなるんだよ」

たかね「あらためて、どのようなものができるのか、おしえてください!」

  響「そうだなー…… 黒豆を煮て、伊達巻ときんとん作って、あとは紅白なますくらいあればいいかな?」

たかね「くろまめ……? だて…… こうはく、なまず?」

  響「ごめんごめん、いっぺんに言われちゃわかんないよね。まず、黒豆っていうのはさ……」

 
674 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 20:57:21.00 :J/jxjDXo0

【だぶる・らいすけーき】

たかね「ところでひびき、それは?」

  響「これ? 鏡餅っていって、新年の飾りつけみたいなものだよ」

たかね「はて…… あたらしいとしのものを、まえのとしからかざるのですか?」

  響「自分もよくは知らないんだけど、年が明ける前に出しといていいんだって」

たかね「それに、かがみ、とはいいますが…… おかおがうつりませんよ」

  響「あー、そういえば確かにこれ、なんで鏡って言うんだろうね」




  響「お餅…… あっ、お餅といえば……」

たかね「……」ジリッ

  響「あれ、たかね、今度はどうして後ずさるの?」

たかね「なんというか、まえにもおぼえのある、とてもわるいよかんがするのです」

  響「へえー…… どんな?」ズイ

たかね「ひ、ひびき、わたくしのほっぺに、てを、のばひゅのは、ひゃめっ」

 
675 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 20:58:28.89 :J/jxjDXo0

【細くて長ければいい(急進派)】

ハム蔵「ジュジュイイ」カラカラカラカラ

たかね「はむぞうどのは、はしるのがすきなのですね」

ハム蔵「ジュッ!」カラカラカラ

たかね「ふふ、きっと、まことときがあいま…… ……この、かおりは?」スンスン




パタパタ

  響「おっ、早速来たなー、たかね。匂いで反応したんでしょ」

たかね「らぁめんのかおりがいたします!! らぁめんが、わたくしをよんだのです!」

  響「テーブルで座って待っててよ。すぐ持っていくから」

たかね「いそぎましょう! ひびき! のびてしまいます! はやく、はやく!」

  響「大丈夫だよ、まだゆで上がっては…… お、ちょうど時間だ」

 
676 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 20:59:05.34 :J/jxjDXo0

たかね「いちねんのおわりのゆうげを、らぁめんでしめくくる…… なんとすばらしい!」

  響「ふつうは年越しそばだけど、まあ、麺類には違いないわけだからね」

たかね「ひびき、あまりおしゃべりしていては、さめてしまいますし、のびてしまいます」ソワソワ

  響「ふふ、はいはい、そうでした。じゃ、いただきます!」

たかね「いただきますっ!!」




たかね「いまさらですが、としこしそばとはなんですか?」ズズ

  響「一年の最後におそばを食べる習慣があるんだよ。いわゆる縁起物ってやつ」ズズッ

たかね「ほほう。なぜおそばなのですか、ひびき」

  響「いろいろ説があるらしいぞ。おそばは切れやすいから、厄を切る意味がある、とかさ」

たかね「となると、らぁめんではいけないのでは……?」

  響「いいのいいの、気持ちの問題だから。ラーメンのこと中華そばとか言ったりするし」

 
677 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 20:59:47.39 :J/jxjDXo0

  響「それともたかね、ラーメンよりおそば食べたかった?」

たかね「いいえ! おそばもすきですが、らぁめんのほうが、もっとすきです!」

  響「聞くまでもなかったね。で、今日は大晦日だから、ラーメンも特別仕様にしてみたの」

たかね「とくべつしよう?」

  響「……じゃーん! ほらこれ、麺だけ別に追加で買っといたから、替え玉ができるよ」

たかね「かえだま、というと…… はっ! お、おかわりがあるのですか!?」

  響「麺だけだけどね。だから、あんまりスープ飲んじゃわないようにするんだぞ」




たかね「……! ……!!」ズズズズゾゾゾゾ

  響「たかね、麺は逃げないし、自分は替え玉いらないからさ、落ち着いて食べてねー」

 
678 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 21:00:52.30 :J/jxjDXo0

【Bath Tour】

たかね「きれいになったおふろは、いつもいじょうにここちよいですね……」

  響「うん、大掃除がんばったかいがあったぞー」

たかね「ほんじつの、にごっているこれは、どこのおゆなのです?」

  響「えーっとね…… これは熊本の黒川温泉ってところなんだって」

たかね「くまもと、ですか。そこは、とおいのでしょうか」

  響「そうだね、けっこう離れてるよ。九州っていう、ここからかなり南の方にあるの」

たかね「ひびきのいた『おきなわ』よりも、みなみですか?」

  響「ううん、そこまでじゃないさー。沖縄はそれよりももっとずーっと南なんだ」

 
679 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 21:01:35.64 :J/jxjDXo0

たかね「いつか、わたくしもいってみたいものです」

  響「お、いいねー、その時は自分がいろんなとこ案内してあげる!」

たかね「まことですか! たとえば、なにがおすすめですか?」

  響「いっぱいあるぞ。まずは首里城でしょ、万座毛もいいし、それに美ら海水族館とか……」




たかね「あの…… ひびき」

  響「そこにね、地元の人しか知らないすっごくきれいな砂浜が…… ん、たかね、どした?」

たかね「おきなわの、おはなしの、せいか…… あ、あづい、です」 キュウ

  響「…… わーっ、ごめん! テンション上がって喋りすぎちゃった、早く上がろう!」

 
680 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 21:02:36.80 :J/jxjDXo0

【源平試合】

たかね「ひびき、ひびき! すごいですよ、あんなにたくさん、ひとがならんでいます!」

  響「おー、ほんとだー。もうこれ、年末恒例のお祭りみたいなもんだしね」

たかね「このかたがたは、これからなにをするのですか?」

  響「踊ったり喋ったりいろいろだけど、メインはやっぱり歌うんだよ。歌合戦、だからさ」

たかね「それでは、うたがどれだけじょうずか、きそいあうのですね!」

  響「うーん…… 建前としては、そういうことのはずなんだけどなー」

たかね「たてまえ?」

  響「たかねは気にしなくていーの、大人の事情ってやつ。ほら、続き見よう」

 
681 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 21:03:20.92 :J/jxjDXo0

たかね「ひびきや、じむしょのみなは、このぶたいにでないのですか?」

  響「あはは、出られたらよかったんだけどね。さすがにまだそこまでは難しいさー」

たかね「なぜですか? まいにち、あんなにうたやおどりをがんばっているのに」

  響「んーと…… 今はね、まだちょっとだけ実力不足なの。でもいずれ、みんなで絶対あそこに立ってやるんだ」

たかね「おお、そのいきです! きっと、ひびきとみななら、だいじょうぶですよ」

  響「…… そのときは、貴音…… それともたかねかな、も、一緒に立てるといいなぁ」ボソ

たかね「? ひびき、なにかいいましたか?」

  響「いーや、なんにも? ……おっ、たかねの好きなサバニャン出てきたぞー!」

たかね「なんとっ! ああ、さばにゃんどの!! きょうもちあいのいろが、さいこうです!」

 
682 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 21:04:20.98 :J/jxjDXo0

【進捗どうですか?】

たかね「♪ ……♪」アミアミ

  響「たかねの編み物姿も、ずいぶん堂に入ってきたね」

たかね「ええ。わたくしにかかれば、このていどはとうぜんです」アミアミ

  響「どれどれ、今どんなふう? ……おー、長さもこれだけあれば、たかねが巻くには十分だぞ」

たかね「そうですか? せっかくですから、もうすこし、あみます」アミアミ

  響「でも、あんまり長すぎると今度は取り回しが悪いかもよ?」

たかね「ながいほうが、たくさんまけますから、あたたかいにきまっております!」アミアミ

  響「まあ確かにそうか。にしても、あんまり根詰めすぎないようにね」

たかね「はい、そのあたりはわたくし、こころえておりますので、だいじょうぶです」




たかね「…… くぅー……」コックリ

  響「あーもーほら、たかね! せっかく編んだとこによだれ垂れちゃうってばー!」ユサユサ

 
683 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 21:07:24.12 :J/jxjDXo0

【Ring out the old, and ring in the new】

たかね「……さきほどまでのばんぐみから、きゅうに、しずかになりましたね」

  響「この落差がいいのさー。いよいよ年が変わるんだなー、って感じで」

たかね「このいちねんも、いろいろなことがございました……」

  響「あはは、なに言ってるの。うちに来てからまだ一月も経ってないくせに」

たかね「きもちのもんだい、ですよ、ひびき」

  響「えーっ、それはちょっと違うんじゃないかなぁ?」




たかね「…… それにしても、こんなさむいよるに、おおぜいひとがいるものです」

  響「年越しの瞬間を誰かと一緒に迎えたいんだよ、きっと」

たかね「しかし、それなら、わたくしとひびきのように、おうちにいてもできますよ?」

  響「……ふふっ、ほんとだなー。ここなら、こたつもあってぽかぽかだしね?」

たかね「ええ、それに、おみかんも、ここあもそろっております!」

 
684 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 21:08:41.98 :J/jxjDXo0

【乙未】


  響「…… あと10秒、9……」

たかね「はち、なな、ろく、ご、」

  響「4、3、2、1、ゼロ!」


たかね「…… こほん。あけまして、おめでとうございます、ひびき!」

  響「新年明けましておめでとう、たかね。よくこの時間まで起きてたね?」

たかね「わたくし、もうごさいですから、ねむくなったりしないのです」

  響「へーえ? そんなこと言うわりには、紅白の間もけっこう船こいで……」

< ヴィーッ ヴィーッ

  響「おっ? 一気にメール何通も…… あっ、そうか! うっかりしてたぞ!」

たかね「こんなよなかに、めーるですか。はためいわくな……」

  響「今日この日ばっかりはそうでもないんだよ。えーと、これは春香と、亜美も真美も……」

たかね「なんと!? みなが、めいわくめーるを!?」

  響「いやいや、だから、そうじゃなくって」

 
685 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 21:09:31.41 :J/jxjDXo0

< ヴィーッ ヴィー  ヴィーッ

  響「わわ、どんどん……! すっかり忘れてた、すぐ返事書かなくっちゃ」

たかね「きょうは、やけにみじかいあいだに、たくさんおくられてくるのですね」

  響「…… そうだ! たかね、ちょっとこっち来てくれる?」

たかね「はい? しかし、ひびき、わたくしたちはおなじこたつにはいっておりますが」

  響「いいからいいから。ほら、早くー」

たかね「もう、しかたがありませんね…… いったい、なんだというのです?」

  響「よし、そしたらここ、自分のひざに座って?」

たかね「やれやれ。ここでよいのですか」ポス

  響「そうそう、いい感じ! あっ、そうだ、あとこれ、頭にのっけてね」

たかね「はて…… なんですか、このもこもこは」

  響「こないだのクリスマスパーティのとき、事務所の飾りつけに使ってたわたの余りだよ」

たかね「これを、あたまに、というと…… このようなかんじでしょうか?」モフッ

  響「おおー、うん、ばっちり!」

 
686 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 21:10:19.26 :J/jxjDXo0

  響「じゃ、1枚だけ写真撮るよー」

たかね「またなのですね。みな、なぜそのようにしゃしんがすきなのでしょう……」

  響「まーまー、すぐ済むからさ。それに魂抜いたりもしないし? くくっ」

たかね「そ…… そのはなしは、もうおやめください、ひびき」

<ピピッ カシャッ




  響「で、今のをちょいちょいっと加工して……、こんな感じで! ほらたかね、どう、これ?」

たかね「…… おおっ!? わたくしが、このように、へんしんして!?」




  響「えーっと、そして文面はどうしよう。なんて書こうかな…… ……よし」

  響「『遅れてごめん、あけましておめでとう! 今年もたかねと自分のこと、よろしくお願いするぞっ!』」

  響「そして、たかねのとこに吹き出しくっつけて…… 『めぇぇんような』、なんちゃって」

  響「よーし、できたー! これでみんなに送信っと!」

 
687 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 21:11:41.68 :J/jxjDXo0

【りあくしょんず】


 春香「もー、返信遅いぞー、響ちゃん…… って、なにこれ、たかねちゃんが羊になってるっ! かーわいいー!!」




 千早「写真を撮るのに時間がかかったのかしら? それにしても、め、『めぇぇんような』って…… くっ、くくくっ」




 美希「あふ…… たかね、まだ起きてるんだ…… いくら…… 新年でも、ミキ、もーゲンカイなの…… すぴー」




やよい「うちの弟たちも、たかねちゃんみたいにおりこうだったらなぁ…… 長介っ、歯はみがいたのー!?」




  真「すごい、こんなスマホのスナップでも写真写りいいなあ、たかね! ボクもコツ教えてほしいくらいだよ」




 雪歩「二人とも楽しそう。ああ、わたしも四条さ…… たかねちゃん、お膝に乗せてみたいなぁ、えへへ」


688 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 21:12:43.03 :J/jxjDXo0


 真美「おおーっ! おひめっちの部屋着姿って初めて見たよ、すっごいレアじゃない!?」

 亜美「ひびきんのプライベート部屋着も実はお宝だってば! まずは画像保存しなきゃだよっ!」




あずさ「まぁ…… うふふ、かわいい羊さん。響ちゃんが羊飼いさんみたいなものね、ぴったりだわ~♪」




 律子「こんな時間まで夜更かしさせたりして、全く! ……たかね、これ案外デビューとか狙えたりして」




 伊織「へぇ、見たとこ、たかねもすっかり写真に慣れたみたいね。撮ってるのが響だから、かしら?」








 小鳥「1ヒビ2タカ3ヒビタカッ」バターン


690 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 21:16:35.24 :J/jxjDXo0

【2 in 1】

  響「さ、もうそろそろいい子は寝る時間だぞー」

たかね「そうですか? わたくし、まだまだおきていられますよ?」

  響「そりゃちょこちょこ居眠りしてたからね。でも夜更かししすぎると、明日がつらいよ」

たかね「はっ、そうでした! あしたはみなと、はつもうでにいくのでした」

  響「明日っていうか、もう今日だけどなー。晴れたらいいね」

たかね「それより、ゆきがふってほしいです! みなと、またゆきがっせんができますゆえ!」

  響「あはは、明日はみんな晴れ着で来るだろうから、ちょっと難しいんじゃないかな?」

 
691 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 21:17:17.40 :J/jxjDXo0





たかね「……ひびき。しんねんになったことですから、ていあんがあります」

  響「えっ? なあに、急に。改まっちゃって」

たかね「まいばん、ひびきにふとんをしかせるのはこくであると、わたくし、こころをいためております」

  響「ふとん? いや、別にそれくらい大したことでもないけど……」

たかね「それにわたくし、このべっどというものについても、じゅうぶんけんしきをふかめました」

  響「ベッドってそんなに奥深いものだったのかぁ。知らなかったなー」

たかね「つきましては…… としのかわりめですし、その……、こんご、ねるときは――」

  響「ま、続きはちゃんと中で聞くからさ、早く入りなよ。からだ冷えちゃうよ?」

 
692 :◆ccGlDikGP2 :2015/07/25(土) 21:18:26.50 :J/jxjDXo0

  響「ああー、あったかい! やっぱり毛布はお布団の上からかけるに限るさー。ね、たかね」

たかね「……」

  響「そうそう、ごめん、提案があるって話だったね。なあに?」

たかね「…… もう、いいです」プイ

  響「えー、なんで? 聞かせてよ」

たかね「しりません。ひびきの、いけず」




  響「えーと、『今年からは毎晩、響と一緒にベッドで寝ます』、ってことで合ってる?」

たかね「……いいえ! ちがいます! ねてあげても、かまいませんよ、ですっ!」

  響「あははっ、そうか、嬉しいなー! じゃあ毎晩、自分がおうかがい立てなくちゃね」ワシャワシャ

たかね「で、ですから、わたくしのあたまを、きやすくなでないでくださいませ! もう!」




709 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:14:11.00 :PbQMQGi20

【はうめに】

  響「あ、そうだ、たかねはいくつにする?」

たかね「はい? ひびきもしってのとおり、わたくしはごさいですよ」

  響「ああ、いや、年の話じゃなくて、お雑煮のお餅のことさー」

たかね「おぞうに……? けさは、『おせち』をたべるのでは?」

  響「おせちだけじゃ物足りないよ。お雑煮っていうのは、具がいろいろ入ったスープみたいなやつ」

たかね「すうぷですか。めんは、はいっていないのですか?」

  響「残念ながら麺は入れないなー。だけど、お餅が入ってるぶん、ボリュームはあるから」

たかね「なるほど、それはそれでたのしみです!」

 
710 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:15:09.18 :PbQMQGi20

  響「うん、もうちょっとでできるからね。で、お餅、いくつ欲しい?」

たかね「そうですね…… ならば、わたくしのとしにちなんで、いつつで!」

  響「はぁっ!? い、5つ!?」

たかね「む、なにかおかしいですか」

  響「いくらたかねでも、それはちょっとないんじゃないかなぁ……」

たかね「…… わたくし、しょうしょう、せんたくをあやまったようにおもいます」

  響「そうそう、わかってくれればいいの」




たかね「ではここは、やっつでおねがいします!」

  響「あのね、数が多いとえらいとか、そういうやつじゃないからね」

 
711 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:15:46.06 :PbQMQGi20

【アミロペクチン】

たかね「これが、おせち…… それに、おぞうに!」キラキラ

  響「本格的とまでは言わないけど、我ながら雰囲気は十分だと思うぞ!」

たかね「いちねんのはじめの、おめでたいおしょくじです。こころして、いただかねば」

  響「うん、自分が腕によりをかけて作ったんだから、気合入れて食べてね」

たかね「はいっ! それでは、いただきます!!」




たかね「ふぬぬぬぬぬぬ!!」

  響「…… おおー……」

たかね「お、おもひ、とは…… ほ、ほのように、のびゆものほは!」

  響「そんな長さまで切らずに伸ばせるなんて、たかねは器用だなあ」

 
712 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:16:25.29 :PbQMQGi20

【西と東でモノがちがう】

たかね「……おや? ひびき、かがみもちは、そのままなのですね」

  響「んー? そうだよ、あれは新年の飾り物なんだって言ったでしょ?」

たかね「わたくし、おぞうにのおもちが、かがみもちだとおもっておりました」

  響「鏡開きっていって、鏡餅には食べる決まったタイミングみたいなのがあるんだぞ」

たかね「ふむ、それはいつなのです?」

  響「1月の…… えーっと、だいたい10日くらいかな。もうすぐだよ」

たかね「そのときはまた、おぞうにをつくるのですか」

  響「決まりはないと思うけど、おぜんざいとか、おしることかにすることが多いかも」

たかね「おぜんざい? おしるこ……?」

 
713 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:16:53.77 :PbQMQGi20

  響「そのふたつはあんまり違わないんだけどね、甘く煮たあずきとお餅を一緒にして食べるの」

たかね「あまい、あずき……! それも、たいへんにおいしそうです」ジュルリ

  響「寒いときにはあったまるしね。ってわけで、そのときまでは、鏡餅はおあずけ」

たかね「ああ、おしるこに、おぜんざい! どのようなあじなのでしょう、まちどおしいです!」




  響「…… えっ、ちょっと待って、両方は作んないよ?」

たかね「なんと!?」

  響「いや、だって、ほとんど同じもの作ったってしょうがないし」

たかね「そ、そんな! わたくしのいきるたのしみのはんぶんを、うばおうというのですか!?」

  響「さっき存在知ったばっかりで何言ってるの、たかね」

 
714 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:18:06.47 :PbQMQGi20

【debutante】

たかね「あの、ひびき。ほんじつの、わたくしのこおでぃねえとなのですが」

  響「それなら心配ないぞー。新年最初のお出かけだもんね、ばっちりおしゃれに決めてあげる!」

たかね「そこはひびきのことですから、しんようしております」

  響「うん、自分に任せといて! で、コーディネートがどうしたの? なにか注文ある?」

たかね「そうなのです。ひとつ、ぜひともみにつけたいものがございまして」

  響「ふんふん、じゃあ今日はそれをメインにしよっか。どれが着たいの?」

たかね「いえ、その…… おようふくではなくて、ですね」

  響「洋服じゃない? ……たかね、前にも言ったけど、シャンプーハットはお外には――」

たかね「ちがいます!! それではありません!!」

 
715 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:19:00.11 :PbQMQGi20

【周囲に植わってる】

  響「やっぱりお正月の街って、独特な雰囲気があるなー」

たかね「ひびき、さきほどから、あちこちにたけがたててあるのはなぜですか?」

  響「ああ、あれ? あれは門松って言って、鏡餅とかと同じお正月の飾りのひとつなの」

たかね「ほほう…… しかしなぜ、『かどたけ』ではなく『かどまつ』なのでしょう」

  響「えっ?」

たかね「たけが、まんなかで、とてもめだっています。しゅやくはたけなのでは?」

  響「…… いい、たかね。目立ってる人やものが、いつも主役だとは限らないんだよ」

たかね「はっ……!」




たかね「いえ、そういうことではなく、りゆうをきいたのです。ごまかさないでください」

  響「さあてたかね急がないとみんなとの待ち合わせに遅れちゃうぞー」

たかね「ひびき、ひびき! こちらを! わたくしのめをみてはなすのです!!」

 
716 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:20:07.75 :PbQMQGi20

【暗くないところで】

 亜美「おっ、二人とも来たみたいだよん」

 真美「やっほーひびきん、おひめっち! あけおめー!」

  響「ごめんみんなー、お待たせー! あけましておめでとーっ」

たかね「あけましておめでとうございます。ことしも、よろしくおねがいします」

あずさ「うふふ、こちらこそよろしくね~、たかねちゃん」

 律子「ああそうだ、響? ゆうべのメールだけど、あんな遅くまでたかねを起こしとくのは……」

 真美「げげっ……!? り、律っちゃん、その話は今はしなくていーっしょ!」

 亜美「そーそー律子サマ、年のはじめくらいカタいこと言いっこナシでさ、ね?」

 
717 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:20:36.13 :PbQMQGi20

【ふぁっしょんちぇっく】

たかね「みき、それに、はるかも、いつもとおようふくがちがいますね」

 美希「ミキはメンドくさいからいいって言ったんだけど、ママがせっかくだからって」

 春香「わたしはみんなでお参りするこの機会に、と思ったの。どう、たかねちゃん、似合うかな?」

たかね「はい! はるかもみきも、とてもきれいで、すてきです」

 春香「本当? えへへ、ありがとう!」

 美希「……まあ、ホントはこういう和服って、貴音のほうがぴったりってカンジもするけど」

 春香「ああ…… うん、それはわかるかも」

たかね「? わたくしが、どうかしたのですか?」

 春香「んーん、なんでもないよ。きっと、たかねちゃんが着ても似合うよね、って話」

たかね「おお! まことですかっ!」

 
718 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:21:34.93 :PbQMQGi20

 美希「……あれ? たかね、イヤリングなんて前からつけてたっけ?」

たかね「ふふふ、ほんじつはわたくし、おめかししているのです!」

 春香「えっ? あっ、ホントだ! おしゃれさんだねー、たかねちゃん」

たかね「ふたりとも、さすが、おめがたかいですね。どうでしょうか、にあっておりますか?」

 春香「うん、とっても! 銀色がたかねちゃんの髪と引き立てあってて、すごく綺麗だよ!」




 美希「へえー…… それに、これ、三日月の形してるんだ」

 春香「…… ねえ、たかねちゃん。これ、響ちゃんからもらったんでしょ?」

たかね「ええ、そうです。やはりわかりますか」

 美希「ミキたちにはすぐわかっちゃうの。たかね、それ、大事にしなくちゃダメだよ」

 春香「きっとね…… 響ちゃん、選ぶのに時間とかいっぱいかけたと思うんだ」

たかね「もちろんです。ひびきが"わたくし"にくれた、たいせつな、おくりものですから」

 
719 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:22:42.04 :PbQMQGi20

【ご対面の前に】

たかね「としのはじめから、たくさんのひとがあつまっているのですね」

  真「初めだからこそ、だよ。お参りしたら、なんとなくいいことありそうな感じがするしさ」

たかね「いちりあります。では、さっそくまいりましょう!」

 雪歩「あっ! ちょっと待って、たかねちゃん。まずこっちで手とお口をすすがないと」




たかね「そういえば、ゆきほも、きょうはわふくなのですね?」

 雪歩「うん、わたしはお洋服にしようと思ってたんだけど、お父さんがどうしてもって……」

  真「いいなあ。ボクも振袖着てみたかったんだけど、父さんがどうしてもダメだって……」

たかね「…… よのなかは、いずこも、かなしいすれちがいばかりです」

 
720 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:23:10.30 :PbQMQGi20

たかね「ところでわたくし、おうちをでるまえに、てはあらっておりますよ」

  真「うーんとね…… 今から神様に会うんだから、もう一度ちゃんと洗うのがルールなんだよ」

たかね「そういうものなのですか」

 雪歩「ちょっと面倒かもしれないけど、そういうものなの。はい、たかねちゃん、ひしゃくをどうぞ」

たかね「ありがとうございます。これで、おみずをくむのですね?」

 雪歩「そう、それで両手を片方ずつ洗ってね、それからお口もすすぐの」

たかね「こころえました!」




たかね「ところで、このおみずは、のんでもよろしいのですか?」

  真「うん、よろしくないね」

 雪歩「マナー的にも衛生的にもやめとこうね、たかねちゃん」

 
721 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:25:17.18 :PbQMQGi20

【いざお目見え】

たかね「……」

 千早「…… あら? たかねちゃん、どうしたの?」

 伊織「あとは参拝するだけでしょ? なにをぼーっと突っ立ってるのよ」

たかね「その…… じつは、さほうが、わからないのです」

 千早「ああ、なるほど……」

 伊織「日ごろの振舞い見てると忘れそうになるけど、あんた5歳だものね……」




 伊織「いい? まずは、この紐をひっぱって鈴を鳴らすのよ」

たかね「…… あっ、よくみると、うえにまるいものが! あれが、すずなのですね」

 伊織「そうよ。この鈴の音には、神様をお招きする意味があるんですって」

 
722 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:25:45.80 :PbQMQGi20

ガラガラガラ

 伊織「……っと、こんなものかしら」

たかね「……」ジー

 伊織「ん? なあに、鈴を鳴らす仕草もパーフェクトな伊織ちゃんに思わず見とれちゃった?」

たかね「いえ、いおりがせのびをしているのは、あまりみないものですから」

 伊織「なぁっ!?」

 千早「…… くすっ」

 伊織「ち、千早、あんた今笑ったわね!? あとで覚えてなさいよ!」

たかね「はて…… せのびをするのは、なにかはずかしいことなのですか?」

 伊織「たかね、いい!? 念のために言っとくけど、響よりはわたしの方が身長高いんだから!」

たかね「なんと! ほとんどおなじとおもっておりました」

 伊織「なんですって!? 1cmよ!? 1cmも違うんだから今後は気をつけなさいよね!」

  響「ところで念のために言っとくけど、自分、ちゃんと聞いてるからなー?」


724 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:26:17.32 :PbQMQGi20

 千早「さて、それじゃあたかねちゃん、改めて参拝のしかたを教えてあげるわ」

たかね「ちはや、よしなにおねがいします」

 伊織「ちょっと待ちなさい千早、なにさらっと流してるの!?」

  響「それより伊織はさ、身長の件で自分とちょっと話、しようか」ガッ

 伊織「い、いやああああ!?」ズルズル




 千早「最初は、さっき水瀬さんがしたように鈴を鳴らしてから、お賽銭を投げるの」

たかね「おさいせん、というのはしっております! ひびきから、このごえんだまをもらいました」

 千早「そうだったのね。それは、目の前の賽銭箱に投げ込めばいいわ」

たかね「はい! では…… とおっ!」

チャリン

 千早「ふふ、上手。この後はいくつか決まった作法があるけど、すぐ覚えてしまえるから」

たかね「わたくしに、おぼえきれるでしょうか。しょうしょうふあんが……」

 千早「大丈夫。少しくらい間違ったとしても、神様はそんなことで怒ったりしないわ」

 
725 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:28:11.44 :PbQMQGi20





 千早「まずは、おじぎを二回するの。神様に尊敬の気持ちを表すためね」

たかね「さいしょは、おじぎがにかいですね」

 千早「そう。そうしたら次は、手を胸の高さに持ち上げて、手のひらを重ねて」

たかね「むねのたかさで、りょうてを…… ゆびは、のばしていてよいのですか?」

 千早「それでいいわ。じゃあ、合わせた手をこうして、肩幅より少し狭いくらいに開きましょう」

たかね「……はい! ひらきました!」

 千早「そして、二回、拍手(かしわで)…… つまり、手を打ち合わせて音を立てるの」

たかね「なんと。それでは、かみさまがびっくりしてしまいませんか?」

 
726 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:28:50.51 :PbQMQGi20

 千早「たかねちゃんは嬉しいときや驚いたとき、思わず手を叩いてしまいたくなることがない?」

たかね「そういえば、ほんとうにするかどうかはべつで、あります」

 千早「もともとこの拍手は、そういう自然な感情の表れが由来だと聞いたことがあるわ」

たかね「なるほど…… かみさまにあえた、うれしさがこもっているのですか」

 千早「そうね。素敵な音楽や歌を聴いたときに思わず拍手(はくしゅ)をするのも、きっと同じ」

たかね「すると、ごちそうをまえにしたとき、てをうちたくなるのもおなじですね!」

 千早「ふふっ…… そうね、それも一緒に違いないわ」




 千早「ここまで済んだら、最後にもう一回おじぎをして、それでおしまい。簡単でしょう?」

たかね「おじぎ、おじぎ、てをうつ、てをうつ、おじぎ…… で、あっておりますか?」

 
727 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:29:27.65 :PbQMQGi20

 千早「ええ、ばっちりよ。ああ、それと最後のおじぎのときに、お願い事をするのも忘れずに」

たかね「おねがいごと?」

 千早「拍手までが神様へのご挨拶みたいなもので、その後でお願いをする感覚ね」

たかね「おねがいごと…… といっても、どのていどのことをおつたえすれば?」

 千早「確かに、複雑だと神様も困ってしまうかしら。じゃあ、好きなもののことを考えてみたら?」

たかね「おや、それだけでよいのですか」

 千早「シンプルなほうがわかりやすくていいと思うわ。神様もきっと、察してくれるでしょう」

たかね「それならかんたんです。わたくしのおねがいごとは、もうきまりました!」

 千早「そう? だったら早速、実際に参拝しましょうか」

 
728 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:30:23.68 :PbQMQGi20

【でざいあ】




ガラガラガラ


        パン  パンッ


 千早(…… さすが元四条さん、ちゃんと一度の説明で全部覚えているわね)

 千早(あとは一礼して…… ふふ、小さな手を合わせて、いったいどんなことをお願いし――)



たかね「らぁめん!!!!」



 千早「!?」

 周囲「ブフォッ」

 
729 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:30:59.91 :PbQMQGi20

 千早「ちょっ、ちょっと、四じ…… たかねちゃん、別に声に出す必要はなくて――」



たかね「それから、もちろん…… ひびき!!!!!」



 千早「!」

 周囲「……」ザワザワ

たかね「……はっ!? わ、わたくし、ねんじるあまり、つい、くちに……!」




  響「なんか大声で呼ばれた気がしてこっち来たんだけど…… たかね、どうかした?」

たかね「い、いえ、なにもありませんよ、ひびき」

  響「そうなの? ねえ千早、たかねと一緒にいたんでしょ、何か知らない?」

 千早「さあ? 私は何も。それより我那覇さん、今年はきっといい年になるわ」

  響「?」

 
730 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:31:55.18 :PbQMQGi20

【Green-Eyed-Carmine Eyes】

 伊織「まったく。わたし、本当のこと言っただけなのに……」ズズッ

やよい「でも伊織ちゃん、人が気にしてることを言うのって、あんまりよくないかも」ズズ

 伊織「う…… わ、わかってるわよ」




たかね「あっ! ふたりとも、それはなにをのんでいるのですか?」

やよい「たかねちゃん、おかえりー。これはね、甘酒っていうの。あっちでもらえるよ」

たかね「おさけですか。わたくし、もうごさいですから、だいじょうぶかとはおもいますが……」チラ

  響「はいはい、飲んでみたくてしょうがないんだよね?」

たかね「とうぜんです! いろいろなあじをしってこその、しゅくじょですから」

  響「仕方ないなー。やよい、伊織も、いっしょに行かない?」

やよい「ええっ? でもわたし、もう一杯もらっちゃいましたし……」

 伊織「まあおめでたいお正月だし、神様もそうケチじゃないでしょ。付き合ってあげるわ」

 
731 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:32:30.41 :PbQMQGi20

たかね「…… こうしてみると、たしかにいおりのほうが、ひびきよりも、すこしおおきいですね」

 伊織「ちょっと!? たかね、やめなさい、その話はもういいから!」

  響「そりゃしょうがないさー、1cm"も"違うんだもん。1cmも」ジトー

 伊織「だ、だから、悪かったって言ってるじゃないの」

やよい「でも、うらやましいなあ。わたしなんて、まだ150センチにもとどいてないんですよ」

  響「なに言ってるの、やよいはそれがいいんじゃないかー」ナデナデ

 伊織「そうよ、突き詰めたら小柄なのも立派な個性になるんだから」ナデナデ

やよい「えへへー、そうですかー?」

  響「うん、絶対そうだぞ!」ナデナデ

たかね「……」




  響「もう事務所で自分よりちっちゃいのやよいくらいだし、いっそ連れて帰っ…… ん?」

たかね「ひびき、はやく、あまざけをもらいにまいりましょう」クイクイ

 
732 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:33:07.98 :PbQMQGi20

  響「どうしたのさ、たかね。焦らなくたってなくならないよ」

たかね「……」ギュッ

 伊織「…… よく考えたらわたしたち、わざわざ二杯目もらいに行くこともないわね、やよい」

  響「え?」

やよい「うん、まだたっぷり残ってるもんね。待ってますから、二人で行ってきてください!」

  響「急になに言い出すの、二人とも。さっきまでは一緒に行こうって……」




 伊織(…… 響、ちょっと耳貸して)

  響(えっ、なになに? なんか内緒話でもある?)

やよい(あの、響さん。たかねちゃん、すごくむくれちゃってます)

  響(え、ええっ!?)チラッ

たかね「……」

 伊織(きっと、あんたがやよいにとられちゃったような気がしてるんでしょ)

 
733 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:33:48.80 :PbQMQGi20

  響(だって自分、ちょっとやよいの頭なでたくらいだよ?)

やよい(ちっちゃい子って、そういうのよく見てますし、けっこう気にするんですよー)

 伊織(しっかりしてるように見えても、まだまだ子供ってことよ。ちゃんと安心させてあげなさい)




  響「…… よし、たかね。それじゃ改めて、甘酒もらいに行こっか」

たかね「……」

  響「あったかくて、ちょっと不思議な味で、おいしいぞ。期待してていいよ」

たかね「…… ひびき」

  響「なあに?」

たかね「ひびきは、わたくしよりやよいのほうが、かぞくにほしいですか?」

  響「!」

 
734 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:34:26.35 :PbQMQGi20

たかね「たしかに、やよいは、しっかりしていて、おうちのこともできますし――」

  響「…… ここで、たかねに問題!」

たかね「は、はい?」

  響「お餅はお餅でも食べられないお餅って、なーんだ?」

たかね「たべられないおもち? …… そのようなめんようなものが、あるのですか?」

  響「あるんだよ。しかも今、ちょうどたかねが持ってるね」

たかね「わたくしが? というと…… ひびきがよくいう、わたくしのほっぺですか?」

  響「ブッブー。それじゃないぞ。ほかには?」

たかね「む、むむむ…… おもち、たべられない、おもち……」

  響「どう、もう降参?」

たかね「うう…… こうさんいたします。こたえはなんですか?」

  響「…… "やきもち"」

 
735 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:35:09.39 :PbQMQGi20

たかね「む…… わたくし、べつに、やきもちなど、やいておりません」

  響「ごめん。自分、ちょっと無神経だった」

たかね「……やよいがこがらで、かわいいのはじじつです。でも、わたくしだって、こがらです」

  響「うん、たかねは自分より、やよいより、ずっとちっちゃいもんね」

たかね「けっしておおきくはないひびきが、かんたんに、あたまをなでられるほどに!」

  響「そうそう。ちょうどいい高さだから、ついなでちゃうんだよなぁ」

たかね「どうせ、いやだといっても、ひびきはやめないのですから」

  響「そんなことないよ。はっきり言ってくれたら、自分、やらないように……」




たかね「いまだけは、もんくをもうしません。ですから、その…… すきになでても、かまいませんよ」

  響「お、そうなんだ? それじゃ遠慮なく、お言葉に甘えて」ナデナデナデ

たかね「…… んふふ、ふふ」

 
736 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:35:37.02 :PbQMQGi20





たかね「あっつ、あちっ…… あちちっ!?」

  響「無理しないほうがいいよ、たかね。冷めるまで自分が持っといてあげるってば」

たかね「いいえ! これは、あち、わたくしがいただいたぶんですから、わたくしがじぶんで!」

  響「心配しなくても、誰も取ったりしないって」

たかね「そうではないのです! おとなとして、そのくらいのことは、じしんで、あちち!!」

  響「大人ならちゃんとそのへん、聞き分けてくれたっていいでしょ!?」

ギャーギャー




やよい「あっ、響さんとたかねちゃん、帰ってきたよ! 大丈夫だったかなぁ?」

 伊織「…… ここからでも見えるくらい、にこにこしてるじゃない。心配するだけ損ってやつよ」

 
737 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:37:37.62 :PbQMQGi20

【実力のうち】

 亜美「さーて、おひめっち! 亜美たちとことし最初の勝負といこーぜぃ!」

たかね「ほう…… わたくし、まけませんよ。なにでたたかうのです?」

 真美「んっふっふー、読みが甘いぞよおひめっち。みんなで初詣とくれば、アレっきゃないっしょ?」

たかね「はて、あれ、とは?」

 亜美「これだよこれっ! 年のはじめの運だめしといえばこれ、おみくじなのだー!」




 律子「はぁ、全く、勝負って…… あの子たち、縁起物だってことわかってるのかしら」

あずさ「でもお正月には引きたくなりますよね~。そうだ、律子さん、わたしたちもやりましょう!」

 律子「は!? え、いえ、私は別に……」

あずさ「わたしもたまには、誰かに運勢を見てもらいたいんですよ。ほらほら♪」

 律子「ちょっ、あずささん、わ、わかりましたから、引っ張るのは!」

 
738 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:38:08.02 :PbQMQGi20

 真美「そんじゃ、いっせーのせ、でみんな開くんだよっ!」

 亜美「おひめっち、負けを認めるならいまのうちだよん」

たかね「ふっ、なにをいっているやら…… あみもまみも、てきではありません」

あずさ「うふふ、何が出るかしら~。どきどきしちゃうわ」

 律子「…… ねえあずささん、なんで私たちまで一緒に混じってるんです?」

 真美「よーし、行っちゃうかんねー!? いっせえのー…… せっ!!」




 亜美「…… しょ、小吉…… うあうあー、ビミョーすぎてコメントしづらいよー!」

 真美「真美は吉ゲットだーっ! ……ねえ亜美、小吉と吉ってどっちがいいんだったっけ?」

あずさ「えいっ…… わあ、中吉! 二番目にいいのを引けるなんて、いい年になりそう♪」

 律子「どうして私までこんな…… …… あっ、大吉……」

あずさ「まあ、おめでとうございます律子さん。きっと今年は最高の年ですよ~!」

 真美「あーっ、いいなー、律っちゃん」

 亜美「ていうかもうこれで勝者確定じゃーん、つまんないのー!」

 
739 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:38:49.86 :PbQMQGi20

 真美「あ、そーいえば、おひめっちはどうだったのさ?」

 亜美「黙りこくってるとこ見るとー? んっふっふ、さては……」

たかね「…… ……ふふ、ふふふ」

 律子「た、たかね? どうしたの、大丈夫?」

あずさ「たかねちゃん、前も言ったけど、占いやおみくじの結果ってそんなに気にしなくていいのよ?」

たかね「ふふふ。わたくしがだまっていたりゆうは、そのようなことではないのですよ、みな」

 真美「んんー……? どゆこと?」

 亜美「およっ、てことはおひめっちも大吉だったの?」

たかね「さあ、これをごらんなさい! きっと、たいへんにめずらしいものにそういありません!!」



   「大凶」 バァーン


740 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:39:35.83 :PbQMQGi20





 真美(……ねえ亜美、おひめっちアレ読めてないっぽいから、ホントのこと教えてあげなよ)

 亜美(うええっ、なんで亜美!? そーゆーのはズノーどーろ担当の律っちゃんっしょ!)

 律子(それこそどうして私なのよ! ……確か一番いい運勢引いた人が勝ちで、偉いのよね?)

あずさ(り、律子さん、どうしてそれをわたしの方を見ながら言うんですか~!?)

 律子(だって占いやおみくじに一番造詣が深いのはあずささんじゃありませんか!)

あずさ(で、でもっ! たかねちゃん以外でいちばん結果が悪かったのは真美ちゃんですよ!?)

 真美(にゃ、にゃんだってー!? あずさお姉ちゃん、真美のこと売るつもりなの!?)




たかね「ふふふ、みな、わたくしのごううんに、こえもありませんか」ドヤァ…

 亜美(声が出てないのはホントだけど理由が全然ちがーう!!)

 
741 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:40:47.27 :PbQMQGi20

【氏名住所を忘れずに】

 春香「うーんと…… どうしようかなぁ……」

 美希「あふぅ…… ミキは、こんなカンジでいーかな、っと」

 春香「は、はやっ! え、美希、もう書いちゃったの!?」

 美希「神様へのお願い、でしょ? ミキの自力じゃできないことなんて、ケンコー祈願くらいなの」

 春香「う、うわあ…… これだけ言い切られて説得力があるの、なんかくやしい……!」

  真「雪歩ー、できたー? あんまりのんびりしてたら、いい場所とられちゃうよー」

 雪歩「あ、あうぅ、ごめんね、真ちゃん…… もうちょっと待ってて」

  真「待つのはいいけど…… そんなに熱心になに書いてるのさ、ちょっとボクにも見せてよー」

 雪歩「わあっ!? ダメ、見ちゃダメー!」




たかね「はて。みなできのいたをてに、なにをしているのです?」

 春香「あっ、たかねちゃん。これ、絵馬っていう、お願い事を書くものなんだよ」

 
742 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:41:56.68 :PbQMQGi20

たかね「…… おねがいごとは、さんぱいのときにおつたえするのではないのですか?」

 春香「あ、そういえば……」

  真「言われてみればそうだね…… 絵馬って、なんのために書いてるんだっけ」

 美希「単に口で伝えるだけじゃなくて、書いてショーコも残しとく、ってことじゃないの?」

 春香「証拠、かぁ…… なんか世知辛いけど、そんなところかもね」

 雪歩「…… ええっとね、みんな。昔は、本物のお馬さんを神様に捧げてたんだよ」

  真「ええ!?」

たかね「なんと!?」

 雪歩「貴重なお馬さんをあげるから、かわりにお願いを聞いてください、ってことだったの」

 春香「じゃあ絵馬って、本物の馬のかわりにこれで、ってことだったんだ……」

 美希「ふーん。それでオッケーなんだったらずいぶん安上がりなの」

 雪歩「ちょっ、美希ちゃん!? ストレートすぎるよぉ!」

 
743 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:42:57.18 :PbQMQGi20

  真「さてと、せっかくだからたかねも書いていけば?」

たかね「それはよいですね。かみさまに、ねんをおしておきましょう!」

 春香「そうだ。たかねちゃん、絵馬の書き方のコツ知ってる?」

たかね「いえ、わたくし、みるのもはじめてですので」

 春香「あはは、だよね。これ、お願いするんじゃなくて、言い切るといいんだって」

たかね「いいきる?」

 美希「『○○できますように』じゃなくて、『○○する!』みたいに書くといいってコトだよ」

たかね「なるほど! では、すこし、かえまして……」




たかね「これで…… できました!」

  真(三文字!)

 美希(ミキよりシンプルなの!)

 雪歩(漢字はまだ難しいよね。あの字は、特に)

 春香(ふふっ、たかねちゃんなら当然、そうなるよねっ)

 
744 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:44:27.41 :PbQMQGi20

【注連/三五七】

たかね「ひびき、さきほどから、きになっているのですが」

  響「なあに、どうしたの?」

たかね「おみせやおうちのとびらのまえに、みかんがあります! ほら、あそこにも、ここも!」

  響「…… さっきからやたらそわそわしてると思ったら、それが原因だったんだな」

たかね「どれもたいへんおおきく、いろもきれいです! いただいてもよいのでしょうか」キラキラ

  響「ダーメ。っていうかそもそもあれ、みかんじゃないからね?」

たかね「ぬ…… わたくしをあきらめさせようとして、うそをついていますね、ひびき」

  響「嘘じゃないよ。確かにみかんの仲間だけど、ダイダイって言って、種類が違うんだぞ」

たかね「だいだい?」

  響「お家や子孫が代々栄えるようにって、そういう願いをこめてあるの」

たかね「なんと! ただのだじゃれではありませんか!」

  響「縁起物なんて、どれも案外そういうものさー」

 
745 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:45:27.12 :PbQMQGi20

【いま明かされる衝撃の】

たかね「えんぎもの、といえば…… ひびきは、おみくじはひきましたか?」

  響「おみくじ? ああ、そういえば今年は引かなかったなー」

たかね「おや、それでは、わたくしとしょうぶできませんね」

  響「たかねは引いてたんだ。 ……ちょっと待って、勝負ってなに?」

たかね「もちろん、おみくじのけっかのよしあしできそいあうのですよ」

  響「どうせ亜美と真美が言い出したんでしょ、それ。で、たかねはどうだったの」

たかね「このとおり、わたくしにふさわしい、さいこうのものでした!」ピラ

  響「へえー? まあ、初詣のときは大吉多めに入れてる、なんて話もあ――」




たかね「ふふふ、どうです? それをみるとみな、ひびきのように、おしだまってしまうのですよ」

  響(……ってことはつまり、その場にいた誰もまだホントのこと言ってないんだな!? もー!!)

 
746 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:46:04.73 :PbQMQGi20





たかね「……」ズーン

  響「えーとね、その…… そう、珍しいのは間違いないから、ある意味運はいいんだって!」

たかね「…… そのようななぐさめ、けっこうです……」ズーン

  響「ただの運試しなんだから、そんな気にするようなことじゃないさー」

たかね「よりによって…… あたらしい、いちねんのはじめに……」

  響「いやでもおみくじってだいたい、年の初めくらいにしか引かないし」

たかね「それにくわえ、みながこのことをひみつにしていたのもゆるせません!」

  響「みんな、たかねがショック受けないようにって気を遣ってくれたんだよ、きっと」

たかね「あとできかされるほうが、よりしょっくです!!」

  響「…… あー、そこはさ、あのー…… あれだよ、ほら、その……」

 
747 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:46:46.90 :PbQMQGi20

  響「…… でもさ、たかね、考えようによっては大凶って、すごくいいのかもよ」

たかね「なにがですか!? まずみかけない、さいあくのけっかなのでしょう!」

  響「今が最悪なんだったら、これから先はいいことしか起こらない、ってことじゃない?」

たかね「え? …… あっ、なるほど……」

  響「それに、たかね一人だったら大変だけど、自分もいっしょにいるんだから大丈夫だよ」

たかね「…… ふふふっ。それならば、わるいことはすべて、ひびきに、ひきうけてもらいましょうか」

  響「えーっ、何それ。ひっどいなぁ」

たかね「おみくじをひいていないひびきへの、おすそわけですよ」




  響「…… 夕飯、たかねの食べたがってたカレーの予定だったけど、やめちゃおうかな?」

たかね「な、そ、そんな!? さっそく、わるいことがはじまっているではありませんか!?」

  響「いーや、これに関してはたかねの自業自得だぞー」

 
748 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:47:53.05 :PbQMQGi20

【もはや日本料理】

たかね「おおお…… これは、はじめてかぐ、えもいわれぬかおり……」スンスン

  響「確かにこの匂いって、これでしか味わえないからね」

たかね「みためにも、こがねいろ…… ともうしますか、つやつやと、かがやいていて!」

  響「あんまり眺めてばっかりいると冷めちゃうから、早く食べようよ、たかね」

たかね「なりません! まずは、めとはなで、しっかりとたのしまねば!」

  響「まったくもう。どこの美食家なのさ……」




たかね「んん! んんんん!!」ムグモグムグ

  響「どう? これが、日本人のソウルフードのひとつとか言われることもあるカレーだぞ!」

たかね「んんむ…… こ、これは、まさしくびみです!!」

 
749 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:48:32.36 :PbQMQGi20

たかね「ほどよいからさで、とろみが、ごはんとからみあって!」

  響「そうそう、カレーはお米でこそだよね。いや、ナンとかでもおいしいけどさ」

たかね「なん……? ごはんのほかにも、かれーとくみあわせられるものが!?」

  響「え? ああ…… うん、外国のパンみたいなのがあるんだよ」

たかね「なんと! それは、ほんじつはないのですか!?」

  響「ごめん、今日は準備してないや。次にカレー食べるときはそっちにしようね」

たかね「むぅ…… いたしかたありませんね。つぎのたのしみに、とっておきます」




たかね「さきほどひびきのいっていた、"そうるふーど"とはなんですか?」

  響「ようは、その国の人ならたいてい好きで、よく食べるお料理のことさー」

たかね「ではたとえば、ごはんや、おにぎり…… それに、おみそしるなどでしょうか」

  響「そういうのだぞ。それ以外に、カレーとか、ラーメンもそうだって言う人もいるね」

たかね「らぁめんもですか! ではわたくしは、みもこころも、まぎれもないにほんじんです!」

 
750 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:49:16.15 :PbQMQGi20

  響「間違いないね。ちなみに、組み合わせたカレーラーメンなんてのもあるよ」

たかね「まことですか!? ではつぎのときは、ぜひそれを!」キラキラ

  響「それはいいけど、そうするとナンが食べられなくなっちゃうぞ?」

たかね「あっ…… うう、それはこまります……」

  響「ふふふ、いっぱい悩むといいよ。そうだ、ラーメンとカレーならどっちが好きだった?」

たかね「どっち? ……らぁめんと、かれーで?」

  響「そ、あえてひとつだけ選ぶとしたら、たかねはどっちが好き?」

たかね「……」




たかね「…… ……」ポロポロポロポロ

  響「ちょっ!?」




  響「ホントにごめん、ちょっと聞いただけだから、ね、自分が軽率だったぞ、ごめんね」

たかね「う、うう…… わたくし、じしんのこころは、うらぎれませんでした……」ポロポロ

 
751 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:50:27.84 :PbQMQGi20

【計画倒れ】

たかね「『いちねんのけいは、がんたんにあり』…… たいへん、よいことばです」

  響「昔の人はためになること言うよね」

たかね「それにまなび、わたくし、ことしのもくひょうをたてることにします!」

  響「ほほー。まさかと思うけどラーメン何杯食べるとか、そういうのじゃないよね?」

たかね「ふっ…… わたくしをあまくみないでください、ひびき。もちろん、ちがいます」

  響「へえ、じゃあ、どんなの?」



たかね「ことしは…… たくさんたべて、わたくし、ひびきよりもおおきくなってみせます!」



  響「……たかね、目標って、一般的には努力でなんとかなるものにするんだよ?」

たかね「やってみないで、あきらめるのはよくありませんよ」

  響「何事にも限度ってあると思うぞ、自分」

 
752 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:50:59.44 :PbQMQGi20

【昔は大人ももらえました】

たかね「ときに、ひびき。なにかわすれていることがございませんか?」

  響「え? ……あれ、自分、なにか約束とかしてたっけ?」

たかね「おやおや、そのようなことでは、かんぺきのながないてしまいますよ」

  響「えーっと…… ごめん、まだ思い出せないや。なあに?」

たかね「いたしかたありませんね、おしえてさしあげます。わたくしの、おとしだまですよ」

  響「えっ」

たかね「おとしだま、です。 ……ま、まさか、しらないのですか!?」

  響「いやもちろん自分は知ってるぞ。じゃなくて、なんでたかねが知ってるのかなぁ、って」

 
753 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:51:31.21 :PbQMQGi20

  響「やっぱりこれも亜美と真美が元凶かー…… ほんと、ロクなこと教えないんだから」

たかね「それはさておき、わたくしにも、もらうけんりがあるはずです」

  響「ちょっと待ってよ。むしろ、自分だってまだもらってておかしくない立場なんだからね?」

たかね「ですが、いまのわたくしのほごしゃは、ひびきでしょう?」

  響「そりゃそうだけどさー」

たかね「ならば、まずはひびき、ほごしゃとしてのせきむをはたしてください!」

  響「お年玉あげるのが保護者の義務だなんて話、初めて聞いたぞ、自分……」




  響「はい、じゃあ、たかねにはこれあげる」ペラッ

たかね「まっておりました!」

 
754 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:52:04.78 :PbQMQGi20

たかね「…… はて、これは? きっぷ、ですか?」ピラピラ

  響「できたてのほやほや、しかも自分のお手製で、ほかじゃ手に入らない超レアものさー」

たかね「しかし、ひびき。おとしだまとは、おもに、おかねだとききましたが」

  響「たぶんそれ、たかねにとってはお金よりよっぽど嬉しいと思うよ」

たかね「そうなのですか? なぜですか?」

  響「そこに使い方も書いといたから、まずはちゃんと読んでみて」

たかね「む。そのようにてまをかけずとも、ひびきがせつめいしてくれれば、すむのでは?」

  響「たかねももう5歳のりっぱな淑女なんだし、たまにはお勉強しなくっちゃ」

たかね「…… いわれてみれば、たしかにそうです」

  響「ん、がんばってねー」

 
755 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:53:07.81 :PbQMQGi20





たかね「ひ、ひびき! ひびき!!」タタタッ

  響(おっ、きたきた)

たかね「このきっぷにかいてあることは、まことなのですか!?」

  響「もちろん、まことだよー」

たかね「では、これをだせば…… しゅうにふたつめのかっぷめんをしょくしても、よいのですね!?」

  響「うん、自分も大人として、アイドルとして、二言はないぞ」

たかね「なんと……、なんとすばらしいのでしょう!! ゆめのようなきっぷです!」キラキラ

  響「でも使えるのは週に一枚限り、全部で七枚だけだから、タイミングはよーく考えるんだよ?」

たかね「む、むむむ…… たしかにこれは、いつつかうか、はんだんがじゅうように……!」

  響(……苦しまぎれの思いつきだったけど、喜んでるみたいでなによりだぞ。ふふふ)

 
756 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:55:57.86 :PbQMQGi20

【Waxing Gibbous】

たかね「あっ、そうです! ひびき、ことしさいしょのおつきさまをみましょう!」

  響「初日の出見に行くかわりの、初お月見かー。うん、風流でいいかもね」

たかね「もうそろそろ、まんげつになっているでしょうか?」

  響「んーと、ちょっとタイミングが早いかなぁ。でも、あと一週間もしないくらいのはずだよ」

たかね「そうですか、わたくし、はやくみてみたいです」

  響「そっか、そういえば、たかねはまだ満月見たことないんだったっけ」




  響「おおー。もう、半月よりけっこう大きくなってるなー」

たかね「こんばんも、おつきさまはきんいろで、あかるくて…… とてもうつくしいです!」

  響「うん、ホントに。今日は雲もないからよく見えるね」

たかね「まんげつのばんは、あれがまんまるになるのですね?」

  響「そうだよ。この感じなら一週間もかかんないかな、あと三、四日くらいだと思うぞ」

 
757 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:56:32.99 :PbQMQGi20

たかね「そういえばひびき、しっていますか? おつきさまには、うさぎさんがいるのですよ」

  響「へえー、たかね、それは誰に教えてもらったの?」

たかね「むっ…… だれでもありません。これはわたくしのはっそうです!」

  響「そうだったんだ。ごめんごめん、その言い伝え、もともと有名なんだよ」

たかね「おや、そうだったのですか? ざんねんです」

  響「それにしても、どうしてうさぎさんがいると思ったの?」

たかね「せんじつのゆきうさぎさんが、きっと、おつきさまへいったとおもいまして」

  響「なるほど。じゃあ、お友達も一緒に、かな?」

たかね「もちろんです!」




たかね「それより、そのいいつたえは、なぜできたのでしょうか?」

  響「満月じゃなくても、これだけ大きかったらわかるかな。ほら、あのお月様の模様がさ」

たかね「もよう?」

  響「そう、影みたいになってるでしょ。あれがうさぎに見えるって、昔から――」

 
758 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:57:30.84 :PbQMQGi20











759 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 21:58:19.48 :PbQMQGi20













  響「――ね! たかね? たかね、ねえ、たかねってば、聞こえてる!?」

 
760 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 22:00:13.85 :PbQMQGi20

たかね「……おや、ひびき? どうしました?」

  響「あ…… もうっ、『どうしました?』じゃないぞ!? 急に黙り込んで、ぼーっとしちゃってさ」

たかね「…… ……わたくしが、ですか? ぼおっと?」

  響「気になったから声かけても全然返事もしないし。自分、心配したんだからね?」

たかね「こえをかけていたのですか? ひびきが、ずっと?」

  響「…… ちょっとたかね、ホントに大丈夫なの? 自覚もなかったなんて……」

たかね「い、いえ、なにもないのです。だいじょうぶ、ですよ」

  響「まぁ、今なんともないならいいんだけどさ」




  響「さ、もう十分見たでしょ? まだまだ寒いし、お部屋に戻ろうよ」

たかね「…… そう、ですね」

 
761 :◆ccGlDikGP2 :2015/09/09(水) 22:00:48.35 :PbQMQGi20

たかね「ひびき。さきほどの、おはなしなのですが」

  響「先ほどの? どの話?」

たかね「あとどれくらいたてば、まんげつになるのか、というおはなしです」

  響「あはは、そんなに楽しみなんだ。ちょっと待っててね、ちゃんと調べてみるから」




  響「えーっとね…… うん、自分の見立てで合ってるみたい。あと四日ってところかな?」

たかね「よっか…… まんげつは、よっかごなのですね?」

  響「うん、そしたら真ん丸なお月様が見られるぞ! もちろん晴れてれば、だけど」

たかね「きっと、はれますよ。そんなきがいたします」

  響「だといいね。そうだ、前の日になったらてるてる坊主とか作ろっか!」


784 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 21:42:59.81 :mKrcaVT70

  響「じゃあみんな、おつかれー! 自分たちはお先に失礼するぞー」

 雪歩「あれっ…… 響ちゃん、もう帰っちゃうの?」

  響「うん、冬休みもそろそろ終わっちゃうし、今日はたかねのことかまってあげるつもり!」

 伊織「なるほど、そういうこと。よかったじゃないの、たかね」

たかね「……ええ、そうですね」

 伊織(あら……? てっきり大喜びしてると思ったのに、意外と反応薄いわね……)

 律子「正月休み終わりがけで交通量も増えてきてるし、気をつけて帰りなさいよー」

 小鳥「今日もお疲れさまでした、響ちゃん」

あずさ「また明日ね~、響ちゃん。たかねちゃんも、ばいばい」

  響「うん、また明日! たかねもほら、ちゃんとあいさつしよう?」

たかね「あ…… そうでした。みな、おつかれさまでした」

 
785 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 21:43:37.79 :mKrcaVT70





  響「はーっ、寒い寒い……! こんな日は急いで帰って、こたつであったかいもの食べなきゃね」

たかね「……そう、ですね。それがよいでしょう」

  響「あれ…… ねえたかね、具合でも悪いの?」

たかね「はい? いえ、とくには…… なぜですか?」

  響「だっていつもなら『ほんじつのめにゅーはなんですか!?』って、すぐ食いついてくるのに」

たかね「…… じつは、すこし、かんがえごとがございまして……」

  響「考え事?」

 
786 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 21:44:08.75 :mKrcaVT70

たかね「あの…… ひびき。こんばんが、まんげつなのでしたね?」

  響「そうだよ。よく晴れてるし、きっときれいに見えるぞー。たかねがいい子にしてたからさー」

たかね「そこでわたくし、おりいって、おねがいがあるのですが……」

  響「あはは、今日はまたえらく神妙だなぁ。なに、どうしたの?」

たかね「またてんたいかんそくをしたいのです。あのおかへ、つれていってくれませんか?」

  響「え…… えぇ!? こんな寒い日に、わざわざ? たかね、また風邪引いちゃうよ」

たかね「わたくしなら、だいじょうぶです」

  響「今日はベランダから見ればいいでしょ。あそこに行くのはもっと暖かい日にしない?」

たかね「どうか、おねがいします、ひびき。わたくし…… どうしてもこんやは、あのばしょがよいのです」

  響「……もーっ、しょうがないなぁ。それじゃ、しっかり寒さ対策してかなくっちゃ」

 
787 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 21:47:59.91 :mKrcaVT70





  響「よーし、とうちゃーく、っと! ……ううー、わかってたけど、すっごい冷えてるなー……」

たかね「…… ……」

  響「たかねは大丈夫? ホントに寒くない?」

たかね「ひびき」

  響「ん? なあに?」

たかね「いつも、わたくしのわがままをきいてくれて、ありがとうございました」

  響「……ちょっと、今日はどうしちゃったのさ? たかね、ずいぶんおとなしいじゃないか」

たかね「そう、でしょうか」

  響「間違いないぞ、口数も少ない感じだし。なにかあったの?」

たかね「…… ……ひびき、じつは、わたくしは……」

  響「うん、たかねが?」

たかね「ひびきと、おわかれせねばなりません」

  響「……え?」

 
788 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 21:48:44.17 :mKrcaVT70






【きみのふるえる手を】





789 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 21:53:54.80 :mKrcaVT70

  響「お別れ、って…… えっ、たかね、なんの話してるの?」

たかね「てんたいかんそくがしたいのは、ほんしんですが…… ここにきたのは、べつのりゆうです」

  響「な、なに言ってるのさ。あのね、そういう冗談ってぜんぜんおもしろくないぞ」

たかね「きょう、このよる、おむかえがある、とれんらくがありました」

  響「お迎え……? だから、いったい、なんのことなのか――」




たかね「…… ……きた、ようです」

  響「えっ?」






  響「……なに、あれ?」

 
790 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 21:54:23.50 :mKrcaVT70





  響「え…… え、ええ!? ゆ、UFO!?」

たかね「こちらでは、そのようによぶことがおおいようですね」

  響「なに平然としてるの、たかね!? 早くここから――」

たかね「だいじょうぶです。ひびきに、もちろんわたくしにも、きけんはありません」

  響「…… ……ねえ、待って、『こちらでは』ってどういうこと?」

たかね「あれが、わたくしのおむかえです」

  響「さっきからさっぱり意味がわかんないよっ! たかねのお迎えって、なんなのさ!?」

たかね「わたくしが…… "くに"へかえるときがきた、ということです、ひびき」

  響「くに? くに…… って、かえる、ってそれ、どういう意味……?」

 
791 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 21:55:00.86 :mKrcaVT70





  響「…… なんだあれ、今度は、人が出てきて…… どうなってるの、これ……」

たかね「……」

  響「夢、きっと、夢だ…… 早く覚めてよ、こんな意味のわかんない夢なんかうんざりだぞ……!」






???「お久しゅうございます、姫君。先般お伝えしました通り、お迎えに上がりました」

たかね「…… ……おやくめ、ごくろうにぞんじます」

 
792 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 21:55:39.19 :mKrcaVT70

  響「だ、誰なんだ、あんた! たかねのこと、どうするつもり!?」

???「姫君。これは?」

たかね「こちらでの、わたくしのかぞくで、ともです」

???「…… ご家族で、かつご友人…… ですか?」

たかね「はて。それになにか、おかしなことがありますか」

???「いえ、これは失礼を。承知仕りました」

たかね「ひびき。こちらは――」


 使者「そのようなお気遣いは無用です、姫君。いずれにせよこの方とは二度とお会いしませんゆえ」

793 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 21:56:37.21 :mKrcaVT70

  響「だから、自分を残して勝手に話を進めないでってばっ!!」

たかね「あの…… どうか、どうかおちついてください、ひびき……」

  響「これが落ち着いてられる!? それよりたかね、自分から離れるんじゃないぞ!」

 使者「……ご友人、ということですので大目に見ますが、あまり気安い口をおききになりませんように」

  響「うるさい! さっきも聞いたけど、姫君うんぬんより前にまずあんた誰なの!?」

 使者「私は、姫君にお仕えする家臣がひとりに過ぎませぬ」

  響「家臣だの姫君だのって…… まるで、たかねが本当にお姫さまかなんかみたいな、」

 使者「実際に姫君であらせられるとしたら?」

  響「……え?」

 使者「この方こそ、月世界の第一王女である姫君でございます」

  響「月……? 月、って、あの…… あそこで空に浮かんでる、あの月?」

 使者「いかにもその通りです」

  響「……はは、あはは、は! 冗談、冗談だよね? ドッキリとか…… そういうの、でしょ……?」

 使者「お信じになるかどうかは、ご随意に。こちらとしては事実をお伝えするのみですゆえ」

 
794 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 21:57:10.48 :mKrcaVT70

  響「…… ……じゃあ、その、月の人、が…… なんで急にたかねを迎えに来るの?」

 使者「所定の期間が経過したゆえにございます」

  響「期間? 所定の、って……」

 使者「姫君がこのたび地球に参りましたのは、王族の子女としての試練をお受けになるためでした」

  響「し…… 試練? はは、ははっ、アイドルやるのがなんの試練だっていうのさ!?」

 使者「そうではありません。地球を訪れること、それ自体が試練でございます」

  響「…… つまり、大事に育ててきた子に、あえて一人で旅させる…… みたいな?」

 使者「概ね、そのようなものと捉えていただいて結構です」

  響「一応…… 理屈としてはわかるよ。でも、なら、なんで貴音はちっちゃくなっちゃったの?」

 使者「ああ、そうでした。その点で大きな認識の齟齬があるのですね」

  響「そご? ……どんな勘違いがあるっていうんだ?」

 
795 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 21:57:47.45 :mKrcaVT70





 使者「姫君は "小さくなってしまった" のではございません。"元にお戻りになった" のです」




  響「…… ……はっ?」






  響「な、なに言ってるの……? 小さくなったんじゃない、って、でも現にいま、こんなちっちゃい子に――」

 使者「おわかりになりませんか。現在のそのお姿こそが、姫君本来の風采である、ということですよ」

たかね「……」

 
796 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 21:58:29.71 :mKrcaVT70

  響「えっ、ま…… 待って! どういうこと!? 自分、意味がわかんないよ!」

 使者「そのままの意味でございます。一時的に成長しておられたのが、こうして元に戻られただけのこと」

  響「バカ言わないでよ!! そもそも一時的に成長だなんて、そんなこと、できるわけが……」

 使者「我々の技術をもってすれば、さほど困難なことでもありません」

  響「でも、じ、自分のよく知ってる貴音は…… 自分より2歳も年上で、背だってずーっと高くって!」

 使者「ですから、それらはすべて、この姫君の仮の姿であった、ということですよ」

  響「見た目だけの話じゃないよっ! 態度とか知識とか、話の内容とかも…… 貴音は!」

 使者「当然でしょう。身体の成長に合わせ、精神年齢を引き上げない理由などありますでしょうか?」

  響「そ……、んな! じゃあ…… 貴音と、自分が、初めて会ったときから、ずっと……?」




 使者「左様でございます。貴女が知っていたとお思いの"四条貴音"なる存在は、幻想に過ぎません」

 
797 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 21:59:18.58 :mKrcaVT70

  響「…… なんで、なんでそんなことしたの!? たかねを無理やり成長させて、なんの意味があるのさ!?」

 使者「先ほども申しました、試練をお受けいただくための準備のひとつです」

  響「こんなちっちゃい子を、大人に見せかけて…… それでよそにひとりぼっちで放り出すのがあんたのいう試練なの!?」

 使者「ああ、ようやくご理解いただけましたか。その通りですよ」

  響「ふざけてるのか!? そんな危ないことやらせるなんて、いったいなに考えてるんだ!」

 使者「どんなものであれ、試練というからには相応の危険が伴うものだと存じますが」

  響「そういう問題!? それに、あんたの話だとたかねは月のお姫様なんでしょ!? なのに!」

 使者「王族だからこそ、この程度も乗り越えられぬようでは到底務まらない、ということでございます」

  響「それで―― それで、もし万が一のことでもあったら、取り返しつかないじゃないか……!」

 使者「ええ。間引き…… とまでは申しませんが、ふるいにかけるような面もございまして」

  響「…… ……なんだって?」

 使者「過去には、政治的に対立する者らが試練の機会を利用し、王族を亡き者にした例もあったとか」

  響「…… おかしいよ、そんなの…… 絶対おかしい、間違ってるぞ……!」

 
798 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 22:00:00.26 :mKrcaVT70

たかね「いままで、なにもおつたえできなくて…… ごめんなさい、ひびき」

  響「…… たかねも、このこと…… 初めから、全部、知ってたの……?」

たかね「いいえ!! ちがいます! それだけはぜったいにちがいます、しんじてくだ――」

 使者「姫君は本当にご存知ありませんでしたよ。少なくとも、四日前の晩までは」

  響「なんであんたがそんなこと言い切れるのさ?」

 使者「その時点でようやく、我々と姫君との間で連絡が取れたからでございます」

  響「は!?」

 使者「お迎えにあがる旨、その日時…… 同時に、姫君がお忘れだった情報もお伝えした次第でして」

  響「忘れてた……?」

 使者「……致し方ありませんね。ここまでお話しした手前、もう少しご説明して差し上げましょう」

 
799 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 22:00:53.55 :mKrcaVT70

 使者「まずそもそも、試練に臨むにあたり、対象者は月の民としての記憶を一時的に抹消されます」

  響「えっ…… どうして?」

 使者「地球の民として溶け込めるように、ですね。その際、地球人としての仮の記憶も与えられます」

  響「それじゃ、貴音の名前なんかのプロフィールも、全部うそっぱちだってことなのか……」

 使者「苗字に関してはその通りです。『四条』という姓は、月の民が代々名乗ってきた仮の苗字でして」

  響「! つまり、貴音って名前だけは本名だってこと?」

 使者「はい。少なくとも音としては、もっとも近い表記と言って差し支えないでしょう」

  響「……そう、なんだ。少なくとも自分、貴音のこと、全然知らなかったわけじゃないんだね」

 使者「まあ、そういうことである、としておきましょうか」

 
800 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 22:01:31.92 :mKrcaVT70

 使者「ただ問題は、我々の有する地球についての記録がいささか現状に即していないことにあります」

  響「…… もしかして、貴音の言葉づかいがやたら時代がかってたのって……」

 使者「そういうことです。数十年、部分的には数百年単位での乖離が生じてしまっていたようですね」

  響「なるほど、ね…… さもそれが普通みたいな感じで喋ってたけど、そんな理由があったのか」

 使者「また、当然ですが、年齢を成長させる施術の維持にはそれなりの熱量を必要と致しまして」

  響「つまり、なに? 貴音が食いしん坊だったのも実はそこが原因だってこと?」

 使者「仰る通りです。もちろん、姫君にその意識はありませんので、無自覚だったはずですが」

  響「なんだか話が急すぎて、現実味はぜんぜんないけど…… 確かに、理にはかなってるね」




 使者「さて…… では改めて、私が今回姫君をお迎えに参るまでの経緯をご説明しておきましょう」

  響「うん。聞かせてもらうぞ」

 
801 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 22:02:12.52 :mKrcaVT70

 使者「本来であれば、定められた試練の期間が終わり次第幼子に戻られ、迎えの者がすぐ参ります」

  響「今あんたがここにいるのも、そのルールに従ったからじゃないの?」

 使者「その前に、そもそもまず私含め、ほとんどの者は試練の正確な期間を知らされておりません」

  響「……じゃあ、どうやって迎えにくるタイミングを合わせられるんだ?」

 使者「元に戻られたことが我々に自動的に伝わる仕組みになっており、それを確認してから伺うのです」

  響「おかしいじゃないか! だって、貴音がたかねになっちゃったのはもう一月くらい前なのに!」

 使者「今回に限り、少々事情が異なっておりましたゆえ」

  響「事情……?」

 使者「はい。姫君は、王位継承の優先権で言うと第一位にあたるお方です」

  響「女王様の候補として、優先順位が一番上、ってこと?」

 使者「その通りです。その分、試練も常と比べると困難なものとなります」

  響「あんたたち……、こんなちっちゃい子にどれだけ要求したら気が済むんだ!?」

 使者「そう申されましても、こちらにはこちらの慣例がございますので」

 
802 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 22:03:25.16 :mKrcaVT70

  響「っ……、もういいよ! それで、たかねの場合が普通とはどう違ったっていうの?」

 使者「単純なことです。姫君の側から、接触を図ってもらう必要がございまして」

  響「接触…… っていったって、たかねが自分から誰かに連絡を取る手段なんて…… ……まさか」

 使者「お気づきになりましたか。こちらで言う『満月』直前の月を、姫君がご覧になることが必要でした」

  響「じゃあ…… この間の晩、たかねが急にしばらく反応しなくなったのって……」

 使者「お察しの通り、その折に我々と交信しておられたためです」

  響「それで、貴音がたかねになっ…… "戻ってる"のがようやくわかって、あんたがのこのこ来たってわけだ」

 使者「ええ。すでに一月近くも経っているとは、さすがに思いませんでしたが」

  響「それで家来とかよく言えるよ! ふつう、心配でいてもたってもいられないんじゃないの!?」

 使者「我々は決め事に従うのみです。仮に姫君が失敗なさったとして、そこまでの器だっただけのこと」

 
803 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 22:04:56.99 :mKrcaVT70

  響「……もうこの際、あんたが本当に月の人で、たかねを連れ戻しに来た、ってのは信じるしかなさそうだぞ」

 使者「それは大変に助かります」

  響「でも…… なら、あんたが、たかねをちゃんと無事に連れて帰ってくれる、って保証は?」

 使者「かえって疑念を抱かせてしまいましたか。しかし、もしも私が姫君に害意を抱く身なら――」フッ


  響(なっ…… き、消え…… っ!?)


 使者「――貴女相手にゆるりと言葉を交わしている必要など、特にないのでございまして」


  響「…… ひっ!?」


  響(い、いつの間に自分の後ろに!? 見えもしなかったし、気配も、全然……!)

 使者「ここまでで『そうした行動』を取っていないこと、それ自体をもって信用していただければ、と」

 
804 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 22:05:46.59 :mKrcaVT70

  響「…… じ、自分のこと、どうにか、するつもり…… なの?」

 使者「申し上げましたでしょう。そうする必要があれば、最初からそのようにしております」

  響「っ……!」

 使者「むしろ貴女には感謝しているのですよ。この一月ほどの間、姫君を保護してくださったのですから」

  響「それ、は…… だって当然でしょ、友達が、困ってたんだから」

 使者「…… なんにせよ、おかげで何事もなく無事に試練が済みましたこと、改めて礼を申し上げます」

  響「あ…… ああ、ごていねいにどうも…… 別に自分、たいしたことはしてないけど」


  響(どうにもペースが狂わされちゃうぞ…… そういう意味では貴音と似てるけど、でも……!)


805 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 22:06:23.24 :mKrcaVT70

 使者「それでは、私どもはこれで失礼致します。もうお会いすることもありませんゆえ、ご安心を」

  響「…… 気に入らないぞ、自分。やっぱり、どうしても気に入らない」

 使者「礼ならば申し上げましたし、貴女をどうこうするつもりもございませんが…… 他に何かご不満でも?」

  響「いっぱいあるよ。その中でもいっちばん気に食わないこと、言っていいかな」

 使者「構いませんが、手短に願えますか」

  響「ありがと。じゃあ、教えてほしいんだけど」


  響「ねえ、あんたさ…… なんでたかねに謝らないの?」


 使者「…… はい?」

  響「さっきからずーっと気になってたんだ。自分でおかしいと思わない?」

 
806 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 22:07:49.11 :mKrcaVT70

 使者「私は役目通りお迎えに上がったまでで…… 姫君にお詫びするようなことは、特にないかと思いますが」

  響「…… たぶん、自分、あんたとは一生わかりあえないさー」

 使者「立場も何もかも異なる以上、当然かと。それで、つまり、貴女は何が仰りたいのですか?」

  響「なにが、って……? ホントにまだわかんないのか?」

 使者「ええ。解りかねます」

  響「こん…… っの、ふらー!! あんた、やっぱりどうしようもない大バカだぞ!」

 使者「…… どういうことでしょうか。さすがに聞き捨てなりませんが」

  響「迎えに来たあんたがいまここで、たかねに言わなきゃいけないことなんてひとつだけでしょ!?」




  響「『ずっとひとりぼっちにさせてさびしかったよね、待たせてごめんね』って!!」




  響「お姫様とかの前に、お母さんや、……お父さんと、一緒にいるのが当たり前の年の子なんだよっ!?」

たかね「……!」

  響「よくがんばったねって、もう心配ないよって…… どうして言ってあげられないのさ!!」

 
807 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 22:09:13.37 :mKrcaVT70

 使者「……やはり、貴女の仰ることは、私には理解の及ばないところが多いようです」

  響「自分も、だぞ。たかねの知り合い相手にこんなこと言いたくないけど、わかりたくもないよ!」

 使者「まあ、どうとでもご自由に。それでは、もうよろしいですね?」

  響「……」

たかね「あ、あの……」

 使者「お待たせ致しまして申し訳ございません、姫君。さ、参りましょう」

たかね「…… ……」






 使者「……はて。もうよろしいですね、と、つい今しがた確認させていただいたはずですが」

  響「…………」

 使者「私の袖を、放していただけますか?」

 
808 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 22:10:04.35 :mKrcaVT70

  響「…… 待って……、やっぱり自分、いやだ、これでお別れなんて納得できるわけない!!」

たかね「…… ……ひびき」

 使者「失礼ながら、貴女が得心されるかどうかは私になんら関わりのないことです」

  響「お願い、お願いしますっ、せめて最後にたかねと話をさせて!」

 使者「お断りします。貴女とお会いするのは勿論、ここまで時間を割いたこと自体、特例中の特例のようなもので――」

たかね「……よいのです。すこしのあいだ、はなれていなさい」

 使者「なっ、しかし姫君! この者の振る舞いはあまりにも目に余ります、本来ならば」


たかね「ひかえよ!!」


 使者「!?」

  響「っ、た、たかね……?」

たかね「すこしのあいだ、はなれていなさい、と、わたくしはそうもうしましたよ」

 使者「……っ。仰せの、通りに」




たかね「おおきなこえをだして、ごめんなさい、ひびき。あちらで、おはなししましょう」

 
809 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 22:10:39.04 :mKrcaVT70

たかね「…… あのもののことを、わるくおもわないであげてくださいね」

  響「う、うん。まあ実際、無理言ってるの、たぶん、自分のほう、なんだし……」

たかね「きっと、なれないばしょで、きんちょうしているのですよ。ふふ、いつぞやのねこさんのようです」




  響「…… たかね、ホントに、お姫様だったんだね」

たかね「はい…… しかし! ほんとうにおぼえていなかったのです。それはどうか、しんじてください」

  響「そこはもう疑ってないよ。たかねが最初から覚えてたら、隠しとけるわけないもんね」

たかね「む。どういういみです?」

  響「だって…… 自分にばれずに隠し事なんて、たかねはできないでしょ?」

たかね「そっ、そんなことはありません! わたくしのえんぎをもってすれば!」

  響「よく言うよ。サーターアンダギーつまみ食いしてたのとか、バレバレだったのに」

たかね「う…… ……ふふっ。たしかに、そのとおりですね」

 
810 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 22:11:45.97 :mKrcaVT70

  響「それより、ねえ、たかね…… ……ホントに、もう月に、"くに"に帰っちゃっていいの?」

たかね「……」

  響「あと5日もしたら、前に教えてあげた鏡開きだぞ。おぜんざいも、おしるこも、まだ食べてないでしょ」

たかね「そうでした…… きっと、ひびきがつくってくれたら、びみなのでしょうね」

  響「そうだよ、甘くて、あつあつでさ…… 食べたかったら、両方作ってあげたっていいし」

たかね「…… くすっ…… かがみもちだけでは、たりなくなってしまいそうです……」

  響「事務所のみんなにもお別れのあいさつ、していこうよ」

たかね「ええ、したかったですね…… これほど、きゅうなはなしでなければよかったのに」

  響「確かに急だけど、きっとみんなわかってくれるよ。自分もいっしょについてってあげるからさぁ!」

たかね「…… ひびきは、ほんとうに、やさしいですね」

 
811 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 22:12:26.78 :mKrcaVT70

  響「自分の家族だっているぞ! 今日のおでかけが実は最後だったなんて、みんな絶対さびしがるって!」

たかね「でも、おわかれをいうためだけにもういちどあうのも…… きっと、さびしいです」

  響「それ、は…… そうかもしれないけど、だけど……!」




  響「それにさ…… そうだ、たかね、まだお年玉のきっぷだって1枚も使ってないじゃないか!」

たかね「ああ、それについてはまこと、おしいことをしてしまいました」

  響「今からだって使えばいいよ! なんだったら、毎週2個くらいまでは食べたって――」

たかね「とてもみりょくてきな、ていあんですが…… それは、わたくし、おことわりいたしましょう」

  響「どうして!? たかねは立派な淑女なんだから、カップ麺のひとつやふたつ!」

たかね「ひびきとの、たいせつな、おやくそくです。わたくしのいままでのがまんを、むだにするのですか?」

 
812 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 22:12:56.23 :mKrcaVT70

  響「なんで…… なんでこんなときだけそんなに物分かりがいいんだよ、たかね!」

たかね「……わたくしも、わからないのです。なぜでしょうね……」

  響「無理にいい子ぶらなくていいから…… 自分に今までさんざん言ったみたいに、わがまま言いなよ!」

たかね「…… ふふっ…… これは、こまってしまいました」

  響「なにがさ!?」

たかね「いままで、ひびきに、たくさんわがままをきいてもらったから…… もう、おもいつかないのです」

  響「…… ねえ、やだよぅ…… たかね、行かないで、もっと自分にわがまま言ってよ……」

たかね「ふふ…… あべこべではありませんか、ひびきが、わがままをいって、どうするのですか……」

  響「あべこべでいい、わがままだって言うよ、たかねがいなくなるなんて自分絶対やだ、だから――」






 使者「さて。そろそろよろしいですか、姫君」グイ

たかね「あっ……!」

 
813 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 22:13:46.43 :mKrcaVT70


  響「そんな! ちょっと待ってよ、まだ話は―― っ!?」ガクッ


  響(な、なん……、で、こんな…… 急に、眠気が…… っ……!?)


  響(…… だ、めだぞ…… ここ、で、……寝ちゃ、っ、たら! たかね、と―― にど、と…… ……)








  響「……」

たかね「ほんとうに…… ぶじなのですか? ねむるだけ、なのですね?」

 使者「はい。時間が来れば、問題なくお目覚めになります」

たかね「ここはとてもさむいです。ひびきが、かぜをひいてしまいませんか?」

 使者「ご心配なく。目を覚まされるまで、危険がないよう、監視および温度の調節を行います」

たかね「……そう、ですか。それなら、だいじょうぶ、ですね」

 
814 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 22:17:21.28 :mKrcaVT70

 使者「さあ、もう十分でしょう、姫君。参りますよ」

たかね「あの…… まってください、さいごに、いますこしだけ」タタッ

 使者「……! 姫君、どちらへ?」

たかね「きてはなりません!!」

 使者「!」

たかね「すぐです。すぐにもどります。ですから、あとほんの、ひとときだけ」

 使者「…… やれやれ。お気の済みますように」






  響「……」

たかね「ひびき。これで、おわかれです」

たかね「いままで、わたくしも、ほんとうにたのしかったですよ」

 
815 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 22:22:20.66 :mKrcaVT70



たかね「……ひびきは、いつも、わたくしのあたまを、なでていましたね」


たかね「わたくしがとめてもきかず、それはもう、すきなように、わしわしと……」


たかね「じつはわたくし、ずうっと、ひびきにしかえしをするきかいをねらっていたのです!」


たかね「しかし、てがとどきそうにないので、あきらめていましたが……」


たかね「ふふふ…… ねているいまならば、わたくしでも、かんたんにさわれます」


たかね「かくごしなさい、ひびき。いままでのぶんの、おかえしですよ。ふふふふ……!!」


816 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 22:23:40.64 :mKrcaVT70



たかね「おお…… これが、ひびきのあたまのてざわりですか。これは、なかなか」


たかね「ふふふ。はるかにせのちいさいわたくしからなでまわされるとは、いいきみです!」




たかね「さきほど、わたくしが、ひびきにはかくしごとをできない、といいましたね」


たかね「それはほんとうですが…… わたくし、ひとつだけ、ひびきをだましおおせましたよ」


たかね「この、よっかかん…… ひびきと、おわかれせねばならぬと、しってから……」


たかね「そのことを、ひびきにけどられぬよう、わたくしはひっしでした」


たかね「どうです? ひびき、きづいていなかったでしょう? ……ふふっ、わたくしのかちです!」


817 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 22:24:24.51 :mKrcaVT70



たかね「それにしても……、ほんとうに、ひびきのかみは、くろくて、ゆたかで…… つのも、はえていて……」


たかね「……っ、つやつや、と、していて…… ふれて、いて、とても…… ここちがよい、ですね……」


たかね「これが…… さいご、ですから…… っ、いますこし、いま、すこし、だけ……」






たかね「…… ごめんなさい、ひびき。ちゃんと、さよならを、いえなくて、ごめんなさい」


たかね「どうか…… わたくしのことは、わすれてください」


たかね「わたくしが、ひびきをおぼえていれば…… それで、いいのです」


818 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 22:25:17.26 :mKrcaVT70









たかね「……じかんをとらせました。まいりましょう」

 使者「ご随意に」

たかね「もう、てはずはととのったのですか?」

 使者「万端です。もっとも難儀するであろうこの方には無事お休み頂きましたので、あとは順次」

たかね「ひびきも、ほかのみなにも…… くれぐれも、きけんなど、ないようにしてください」

 使者「もちろんでございます、姫君。すべて心得ておりますので、ご安心を」

たかね「ならば、よいのです」

 
819 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 22:25:48.18 :mKrcaVT70











820 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 22:36:03.21 :mKrcaVT70





  響「…… ん、ううん……」




  響「んんー……? う、うわっ!?」


  響「寝て…… たのか、自分。ううー、それにしても寒いぞぉ……」

  響「…… ちょっと、だいたいここ、どこ!? 丘…… っていうか、山っていうか……?」

  響「あっ! そ、そうだ、スマホで見てみたらわかるかも!」ゴソゴソ

  響「えっと…… って、うぎゃー! もう真夜中じゃないか!? と、とりあえず、今は場所を……」

  響「うわー、うちから結構遠いなあ…… まあ、歩いて帰れない距離じゃなさそうだけど」

  響「ああもう、なんでこんなとこにいるんだ自分!? あのまま寝てたら凍え死んじゃってもおかしくないぞ!」

  響「とりあえず、そんなことより今は早く帰らなきゃ。明日にも差支えちゃう」

 
821 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 22:37:02.31 :mKrcaVT70













  響「……あ」

  響「今日、満月なんだ…… ここから見るお月様、すごく、きれいだなぁ……」




  響「は……っ、 くしゅんっ! …… ああ寒いぃ、風邪ひいてないといいけど……!」

 
822 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 22:40:14.15 :mKrcaVT70













823 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 23:37:31.38 :mKrcaVT70

【"As Usual"】

ガチャ

  響「はいさーい、おっはよーっ!」

 小鳥「あら、おはよう、響ちゃん。今日はずいぶん早いわね」

  響「う…… うん。実は昨日の夜、あんまり寝られなくって……」

 小鳥「そうなの? まだまだ毎日寒いんだし、あんまり無理したらだめよ」

  響「ありがと、ピヨ子。でも自分カンペキだから、このくらいへっちゃらさー!」

 小鳥「ふふ、そうよね、響ちゃんなら大丈夫よね」



 小鳥「あら、そういえば…… 今朝は響ちゃん、一人なの?」



  響「えっ? うん、そうだぞ、特に誰とも一緒にならなかったもん。どうして?」

 小鳥「…… あれ? なんでわたし、わざわざこんなこと聞いたのかしら……」

  響「もー、自分みたいにカンペキになれとは言わないけどさ、しっかりしてよピヨ子ぉ」

 
824 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/15(火) 23:38:42.34 :mKrcaVT70





   P「よーし、みんな揃ったなー? それじゃあミーティング始めるぞー」

   P「今日は…… スケジュール見ての通り、だいたいみんなレッスンとレコーディングだな」

   P「まず春香、真美、それに雪歩。午前中にボーカルレッスンだからすぐ移動な、遅れないように」

   P「あずささんと千早はスタジオでレコーディングだ。千早、あずささんの先導頼むぞ」

   P「伊織と亜美は…… と、そうか、雑誌取材だったな、ちゃんと律子の指示に従えよー」

   P「真に響、美希、それとやよいは、ダンススタジオでレッスン。俺が車で送ってく」




   P「えーと、とりあえずは以上だけど…… なんか確認しときたいこととか、あるか?」

   P「大丈夫そうだな。じゃあ、765プロ全員、今日も一日しっかり頑張ろう!」

 一同「「「「「「「「「「「「はーいっ!」」」」」」」」」」」」


833 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:00:33.26 :jeBrEKzd0

【Waning Gibbous / 15.8】

  響(……ん、 ……あー、朝かぁ)

  響(そうだ、もう学校始まるんだったぞ。ぐずぐずしてらんない)

  響(でも…… 寒いし、まだ時間は余裕あるし…… もうちょっと、あと5分だけ――)

いぬ美「ばうっ!」

  響「うわ、わわぁっ!? ……あー、いぬ美、ありがと。おかげで目が覚めたよ」

いぬ美「くぅーん……」

  響「あはは、大丈夫だってば。すぐ朝ご飯作るからね、ちょっと待っ……」


  響「……え? いぬ美、ごめん、もう一回言って?」


  響「あの、子……? はどこだ、って…… 待って待って、なんの話?」


  響「へ、変な冗談やめてよ、もう…… いくらカンペキでも自分、そういうの得意じゃないんだから」


834 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:01:42.15 :jeBrEKzd0

【双海亜美&双海真美の場合:2】

 真美「ねーえ、亜ー美ー」

 亜美「なーにさー」

 真美「ヒマー。ヒーマーだーよーぉ」

 亜美「だねぃ…… にーちゃん、早く帰ってきてくんなきゃ、亜美たち待ちボケ殺しだよー」

 真美「あーあー。どーせレッスンまで待っとかなきゃだし…… ひと狩りしとこっか?」

 亜美「いやいやいやそれはダメっしょ。亜美たち、事務所じゃハンターはいぎょーって決めたじゃん!」

 真美「あっ……、そーだったそーだった! いやー、へへへ、うっかりうっかり……」




 真美「…… ありっ? ねえ、真美たち、どうしてモンハンやんないことにしたんだっけ?」

 亜美「何言ってんの真美、そりゃ…… ……えっ、と? あれっ、なんでだったっけ……」

 
835 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:02:11.55 :jeBrEKzd0

 真美「あ、それはそーとさ、亜美?」

 亜美「なんだい、どしたい真美さんや」

 真美「これ、マシンセッティングさぁ、変えるのはいーけど、ちゃんと戻しといてよねー」

 亜美「は?」

 真美「トボけたってムダだよー? どーしてこんな初心者向けなのかは知んないけど」

 亜美「え、ちょっと待ってってば。最近、亜美はマリカーさわってもないよ?」

 真美「真美も久々だったから、すぐには気づかなかったYO…… ああ、別に怒ってるわけじゃないから」

 亜美「いやいやいや! 勝手に亜美が変えたことにしないでよ、知らないって!」

 真美「オージョー際が悪いよん、亜美ー。次から気をつけてくれればそれでいい……」

 亜美「違うよ! 亜美がこだわってるのはそこじゃないってば!!」

 真美「もー、なんなのさ、しつっこいなぁ……」

 
836 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:02:41.78 :jeBrEKzd0

【Waning Gibbous / 16.2】

  響「まーったく、プロデューサーもいいかげんさー。レッスンの終了時間、勘違いするなんて」

  響「時間潰しといてくれ、って言われてもなぁ…… 落ち着いて、座れるようなとこ……」

  響「……あ! ちょうどいいところに!」




  響(どれにしよう。レッスンでちょっとくたびれてるし、甘いの飲みたいなー)

  響「えっと、じゃあ、このココアで」

  響「…… あの、ごめんなさい、やっぱり変えていいですか?」

  響「こっちのキャラメルマキアートにします。レギュラーサイズで!」

  響「えっ? セットのほうがお得? んーと…… それじゃあ、スコーンもください」

  響(……ここのお代くらい、あとでおごってもらってもバチはあたんないよね? くふふ)

 
837 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:03:51.60 :jeBrEKzd0

【如月千早の場合:2】

 千早「…… ~♪ …… ♪ ♪」カリカリ

 千早「~♪ …… ~♪」ペラ カリカリカリ




ガチャ

 真美「ひゃーっ、たっだいまーっ!!」

 亜美「ううう…… なんで傘もってない日に限って雨なんかーっ! あ”ー、さぶいぃー……」

 千早「ああ、お帰りなさい、二人とも。エアコンの温度、ちょっと上げる?」

 真美「女神だ…… 千早お姉ちゃんマジ女神!」

 亜美「ぜひ、ぜひともおねげーします!」

 
838 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:04:46.60 :jeBrEKzd0



 真美「あれっ? ねえねえ千早お姉ちゃん、なんで楽譜にわざわざドレミなんか書いてんの?」


 千早「…… ……えっ?」


 亜美「ホントだー。どしたのさ、千早おねーちゃんなら音符読むのなんかアホの子はいさいでしょ?」

 千早「あほの……? ひょっとして、お茶の子さいさい、かしら?」

 亜美「えへへ、うん、それそれ!」

 真美「あー、亜美ってば、今のひびきんに聞かれたらメッチャ怒られちゃうYo」

 千早「もう…… スマホやゲームもいいけれど、たまには本も読まなくちゃだめよ」




 千早(…… でも確かに、私、どうしてこんなことを……?)

 
839 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:05:26.47 :jeBrEKzd0

【Waning Gibbous / 16.4】

  響「そうだ、たまには違うルート通って帰ってみようかな。なにか新発見があるかも!」




  響「お! こんなとこにケーキ屋さんあったんだ、知らなかったぞ」

  響「うわー、どれもきらきらしてて…… 全部おいしそうだなー、目移りしちゃう」

  響「春香はここのお店、知ってるかな。今度教えてあげよっと」




  響「…… はっ、この匂い! これ、間違いなくラーメン屋さん……」

  響「ああ、ダメだー、ただでさえ寒い上、おなか空いてるときにこれ嗅いじゃったらダメだぞー……」

  響「今月はそんなにお金使ってないし…… うん、たまにはいいよね!」


 < イラッシャイマセー
 

840 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:06:10.36 :jeBrEKzd0







841 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:08:25.68 :jeBrEKzd0

【Waning Gibbous / 18.8】

  響「みんな、おはよー。ごはんできてるぞー、おいでー」

  響「はいはい、まだ、まだだぞー? 食べるのは全員にちゃんと行き渡ってからね」




  響「ふーっ。お正月気分もずいぶん抜けてきたなー」

  響「お飾りもそろそろ撤収しないと。……ああ、それに、そういえば今日って」

  響「んー、朝からそこまで甘いの食べたいわけでもないし。帰ってきてからにしよう」

  響「というか…… ひとりでおぜんざいとかお汁粉とかって、なんかわびしい気がするぞ」

  響「だいたい自分、いつもはそこまで準備しないのに。なんで今年はこれ買ったんだっけ……?」

  響「まあ、あるものは仕方ないよね。事務所で誰か、誘ってみようかな」

 
842 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:08:55.72 :jeBrEKzd0

【菊地真の場合:2】

  真「さーてっ、今日もいつものコース行ってこようっと!」

 美希「こんなに寒いのにお外でランニングなんて、真くん、ホントに元気だね……」

  真「トレーニングは毎日欠かさないのが基本なんだよ。たまには美希もいっしょにどう?」

 美希「ヤなの。ミキ、毎日かかさずソファで寝なくちゃ死んじゃうもん」ボフ

  真「それなら、ひとっ走りしてから寝てみたら? きっといつも以上に気持ちいいよ!」

 美希「うーん…… そんなこと、しなくても…… 気持ち…… いい、から、だいじょーぶ……」




  真「…… まーた話してるうちに寝ちゃうんだから。これってもう才能だよ」

  真「いくら暖房きいてても、このままはちょっと…… タオルケット、どこかなぁ?」

 
843 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:09:25.52 :jeBrEKzd0


  真「じゃあボクは…… っと、出かける前に、ちゃんと持つもの持ったっけ?」


  真「えーっと。タオルよーし、お金よーし、iPodよーし、飲み物よ……」


  真「…… あれー、おっかしいなぁ。なんでボク、アクエリなんか持ってきちゃったんだろ」


  真「これ、甘すぎるんだよねー…… ランニングで飲んでたら、すぐお腹たぽんたぽんになっちゃうし」


  真「……まあ、でもいつも水ってのもあれだし、たまにはいいかな?」


  真「よおーしっ、改めてしゅっぱーつ! いってきまーす!」


844 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:09:53.58 :jeBrEKzd0

【萩原雪歩の場合:2】

 雪歩「さてと。今日もみんなのぶんのお茶、おいしく淹れられますように……」

ガチャ

 雪歩「はうぅ!?」




 伊織「ちょっと、今の声なに!? なにかあったの!?」

 雪歩「……えっ、な、なにこれ? どうして、こんなにたくさん……!?」

 伊織「雪歩? どうしたの、お茶がなんだっていうの?」

 雪歩「い、伊織ちゃん! 伊織ちゃん、お家からお茶っ葉持ってきてくれたりした!?」

 伊織「…… はぁ?」

 雪歩「だって、だってほら、給湯室のストックがいつの間にかこんなにいっぱいぃ!!」

 
845 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:10:21.29 :jeBrEKzd0

 伊織「え……? いや、わたしは何もしてないわよ」

 雪歩「ええっ、そしたら…… わ、わたしが買ってきたんだっけ? うう、覚えがないよぅ……」

 伊織「そもそもここ、雪歩の聖域じゃない。誰も勝手に手を加えたりしないと思うけど」

 雪歩「そ、そうかな、うん、そうかも……?」




 雪歩「ああ、しかもこれ全部、ちょっとだけしか使った跡がないよ…… なんてもったいない!」

 伊織「ふーん。ねえ、これ、似てるように見えるけど全部違うやつ?」

 雪歩「そうだよ。せっかくだから今度みんながいる時に、飲み比べとか、してもらおうかなぁ」

 伊織「ああ、いいんじゃない? 普通はなかなかそんな機会ないもの」

 雪歩「うーん、でもでも、わたしの淹れ方のせいで、味がわかってもらえなかったりしたら……」

 
846 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:11:02.89 :jeBrEKzd0

【Waning Gibbous / 19.3】




  響「んっ? なんだろ、これ」

  響「……あ、そっか。飾りつけの余り、せっかくだからってもらって帰ったんだった」

  響「自分でもらって貼っといて、自分で忘れてたら世話はないなー」

  響「クリスマスどころかもうお正月も過ぎちゃったし、固まっても困るし、はがしとこうっと」




  響「…… しっかし、これ、なんでこんな低いところに貼ったんだっけ?」




  響「うわっ、しかも噛んだあとまで! どうせねこ吉かブタ太あたりだろ、ほんとにもー……」

 
847 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:11:47.06 :jeBrEKzd0







848 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:13:15.75 :jeBrEKzd0

【天海春香の場合:2】

 春香「よーっし、時間ぴったり! さてさて、本日のマドレーヌはっと……」

 春香「どれどれー? ……わぁ、ばっちりきれいなきつね色っ♪」

 春香「でもお菓子って、見た目だけじゃダメだもんね。かんじんのお味はどうでしょうか!」




 春香「えへへ、焼きあがってすぐのお味見は、お菓子を作るひとだけの特権だよねー」

 春香「それじゃ、早速…… いただきまーす」

 春香「……んん! おおー! 我ながらこれはいい感じですよ、いい感じっ!」

 春香「よしよしっと。うち用のは別にして、今日の事務所のおやつ用にラッピングしよっ」

 
849 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:14:05.85 :jeBrEKzd0





 春香「…… あれれ? おかしいなぁ…… やだなあ、わたしってホントにドジだなぁ」

 春香「なんか自信なくなってきちゃった、念のためもう一回、確認してみよっと」

 春香「千早ちゃんでしょ、あずささんでしょ、それに律子さん、伊織、亜美と真美」

 春香「真、雪歩、やよい、美希、響ちゃん、そして、わたし。うん、12人、誰も忘れてない」

 春香「それからプロデューサーさん、小鳥さん、社長で…… みんな合わせて15人。間違いないよね」




 春香「……なのに、なんでわたし、16人分作っちゃったんだろう?」


850 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:14:40.61 :jeBrEKzd0

【Waning Gibbous / 19.8】

  響「よく晴れてるなー! 冬の朝は空気が澄んでる感じで気持ちいいさー」

  響「…… うぅー、しかし、つめた……! やっぱりホームは風がモロに来るからきっついぞー……」

  響「これ着ててまだ寒いってなんなのさー、もー! うちなーじゃこんなの、絶対いらないのに」

  響「だぼだぼな分、ちょっと子供っぽい感じもするけど…… 背に腹はかえられないや」

  響「それにしても、生地がもったいないなぁ。余裕ありすぎっていうか」

  響「ちっちゃい子一人くらいなら一緒に入れちゃいそう。そしたらきっと、あったかいだろうなー」

  響「…… なーんて。そんなの、まだまだずーっと先の話だよね」




  響「あっ、よかった、電車、時間通りだ。はーっ、やっと少しはマシになる!」

 
851 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:15:13.59 :jeBrEKzd0

【Waning Gibbous / 19.9】

  響「お、もう明るいのに…… そっか、そろそろ下弦の月だっけ」

  響「夜空の月はもちろんきれいだけど、青空に月っていうのもいいよね」

  響「太陽と月がいっしょの空で見えるなんて、よくよく考えたら不思議っていうか」

  響「ふつうは対照的だけど、コンビにしたらそれはそれで――」




  響「……ん?」

  響「下弦の、月……? なんでそんな名前、急に出てきたんだろ」

  響「確かに習ったはずだけど、今見えてるあれ、それで合ってるんだっけ……」

  響「今度誰かに聞いてみようっと。律子…… それか、あずささんも占いつながりで詳しいかな?」

 
852 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:15:47.37 :jeBrEKzd0







853 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:17:05.62 :jeBrEKzd0

【Last Quarter / 21.8】

  響「よしっ、きょうもいい天気。傘はなくても大丈夫そう!」

  響「…… それはいいんだけど、この窓一面の結露。これ、なんとかなんないかなぁ」

  響「暖房入れる以上は仕方ないけど、なんかすっきりしないぞ」




  響「……」スッ


  響「…… うひゃっ、つ、つめたっ!?」




  響「もう、何やってるんだ、自分…… 窓にお絵かきなんて年でもないのにさ」

 
854 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:17:38.39 :jeBrEKzd0

【高槻やよいの場合:2】

やよい「あっ、真さん! おはようございまーすっ!」

  真「おはよっ、やよい。そうだ、いつものあれ、やってくれる?」

やよい「! わかりましたっ! じゃあ、行きますよー?」

  真「よーし、思いっきり頼むよっ」

やよい「はい! せーのっ、はいたーっ――」

  真「いえ……」

やよい「………… あれっ……?」

  真「……っっとぉ!? ちょっとちょっと、やよい、なんで途中でやめちゃうの?」

やよい「え? …… あ、あっ、ご、ごめんなさい真さん! 大丈夫でしたか!?」

  真「うん、思いっきり空振りしただけだよ、あははは……」

 
855 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:18:17.64 :jeBrEKzd0

やよい「…… 真さん。ちょっとだけ、ヘンなことお願いしてもいいですか?」

  真「変なこと? なーに?」

やよい「ハイタッチするときに、しゃがんでほしいんです」

  真「えっ? ……ん、んん、ええ? ボクがしゃがんだらそれ、ハイタッチにならなくない?」

やよい「あのっ、一回! 一回だけでいいんですっ、お願いします!」

  真「いやまあ、ボクのほうは別になんの苦労もないけどさ」




  真「えーと、そしたら……、よっと。こんな感じ?」グッ

やよい「あっ…… それ、その高さですー! ありがとうございます真さん! 今度こそ、いきますよっ」

  真「あはは、やっぱりこれじゃ低すぎて、やよいもちょっとかがみ気味じゃない」


   「「はいたーっち! いえい!」」パンッ
 

856 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:18:57.17 :jeBrEKzd0

【Last Quarter / 22.4】


  響「うわっ、これ…… ちょっとねこ吉! またオウ助にちょっかい出したな!?」


  響「言い訳しない! こんなに羽とか毛とかが散らばってて、自分にばれないとでも思ったの?」


  響「ああもう、今からだと掃除機かけるには微妙な時間だぞ…… ん、そうだ!」




  響「あったあった、コロコロ。ちゃんとこういう時にも備えてる自分って、やっぱりカン……」

  響「…… あれっ、これ、開けてからそんなに経ってないよね?」

  響「残りがずいぶん少ないなぁ…… 今までしまいこんでたし、大して使ってないはずなのに」

  響「まあ、いいか。次の買い物のとき、買うの忘れないようにしとかなくちゃ」

 
857 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:19:46.87 :jeBrEKzd0







858 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:21:12.94 :jeBrEKzd0

【Waning Crescent / 22.8】

  響「この時間なら十分間に合うな、よしよし…… ん?」

  響「おっ……? キミ、このへんじゃ見かけない子だね。おっはよ!」

  響「そんなに緊張しないでよ。ねえねえ、キミはどのへんから来――」

  響「…… えっ、ごめん、そうだっけ……? 前にも会ってたっけ? ど忘れかなあ」

  響「前のときに、一緒にいた…… ちっこいの? ちっこいの、って…… 子猫とか?」




  響「じゃあ、自分はそろそろ学校に行かなくちゃ。呼び止めてごめんねー」

  響「あ、待って、そっちはやめといたほうがいいよ。このあたりのボス猫の縄張りが……」

  響「それも聞いた……? そっか、ならいいんだ、何度もごめん」

 
859 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:21:59.97 :jeBrEKzd0

【秋月律子の場合:2】


 律子「……」カタカタカタカタ


 律子「…… ……ふぅっ。あとは細かいところ詰めたらオッケー、かな」


 律子「よし、もうひと頑張り…… と、その前に……」ゴソゴソ






 亜美「ねーえー、律っちゃーん」

 真美「軍そ…… 律っちゃんどのぉー」

 律子「…… ふぁによ」カタカタカタカタ

 
860 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:22:29.41 :jeBrEKzd0

 真美「真美たち、ヒマでしょーがないんだけどー…… って」

 亜美「あれれ、なに今の? 律っちゃん、今日カツゼツすっごい悪くない?」

 律子「ひょうろいいわ、これあふぇるから、おとなひくひてなさい」コロン

 真美「えっ? おおっ、キャンディだー!」

 亜美「これ亜美たちがもらっちゃっていいのー? わーい!」

 律子「わたひ…… ん、ん、こほん。私の好みで選んでるから、味の文句は受け付けないわよ」

 亜美「ぜんぜんいーよ! あんがとー律っちゃん!」
 
 真美「…… でもさー、なんか意外ってゆーか、めずらちーね」

 亜美「だよねー、お仕事しながら律っちゃんがお菓子食べてるなんてさー」

 律子「べ、別に、それくらいいいでしょ? 最近、飴舐めてる方がはかどるのよ」

 
861 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:23:01.12 :jeBrEKzd0

【星井美希の場合:2】

 律子「……」ペラッ

 小鳥「……」カタカタカタ ターンッ

ガチャ

 美希「ねえ小鳥、律子…… さん」

 律子「あんた、寝てたんじゃなかったの。どうしたのよ」ペラッ

 小鳥「あら美希ちゃん、何かあった?」カタカタカタカタ

 美希「ミキね、眠れないの」

 律子「ああ、そう」ペラ

 小鳥「へえー、珍し」カタカタカ




 律子「なんっですって!?」ガタタッ

 小鳥「み、美希ちゃんがおかしくなった!」ガタッ

 美希「ちょっ…… な、なんなのなの、二人して」

 
862 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:23:35.36 :jeBrEKzd0

 律子「美希あんた、熱でもあるんじゃないでしょうね」

 小鳥「だ、大丈夫なの? 病院にはもう行った?」

 美希「ミキのこといったいなんだと思ってるの!? いまいち寝つけないだけなのー!」

 律子「あんたが眠れないなんて異常事態以外のなにものでもないわよ……」

 美希「むー…… あ、ねえねえ小鳥、抱き枕みたいなものってなーい?」

 律子「あのねえ、毎度のことだけど、あんたこそ事務所をなんだと思ってるの?」

 小鳥「うーん、タオルケットくらいしかないわね…… これ、丸めたらかわりにならないかしら」

 律子「小鳥さんも! そんなに甘やかしてやらなくていいんですよ!」

 美希「んー…… もっとあったかくて、もふもふしてて、ぎゅってできるくらいのサイズのがいいな」

 小鳥「ああ、そうなるとちょっと難しいかなぁ……」

 律子「だいたいあんた、今までそんなのなくてもぐーすか寝てたじゃない」

 美希「そのハズ、なんだけど…… なーんか、物足りないの」

 
863 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:24:19.52 :jeBrEKzd0

【Waning Crescent / 23.4】


  響「…………」カリカリカリ


  響「……」カリカリ ペラッ


  響「…… ……あ、違った。こっちか」


  響「…… ……」カリカリ


  響「…………」ペラ カリカリカリ




  響「…… ふーっ。でーきたっ!」


  響「今日はなんだかいつもより集中できた気がするなー。なんでだろ?」


  響「ああ、そっか、誰も邪魔しに来なかったからか! いぬ美、ねこ吉も、ありがとね」

 
864 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:24:46.78 :jeBrEKzd0







865 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:26:47.53 :jeBrEKzd0

【Waning Crescent / 24.8】

  響「さてと、忘れ物はしてないよね? よし、大丈夫……」

  響「……あー! 透明ピアスつけてなかったぞ、危ない危ない」




  響「よーし、今度こそばっちり…… って」

  響「…… ……? あれ、自分、こんなイヤリング買ったっけ……」

  響「記憶にないぞ…… これ、誰かうちに来たときに忘れて帰ったんだったかな?」

  響「銀の、三日月かー。デザイン的には…… シンプルだし、伊織か千早あたりが好きそう」

  響「でも付けてるの見た記憶はないし、置いてったら自分に聞くだろうし……」

  響「うーん。今度事務所で、みんなに確に…… って、うぎゃー! 時間ーっ!!」

 
866 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:27:38.47 :jeBrEKzd0

【水瀬伊織の場合:2】

 伊織「…… どう考えても、おかしいわ。いったい誰が……」

やよい「あれっ、伊織ちゃん? 冷蔵庫になにか探しもの?」

 伊織「えっ?」

やよい「えーっと、用事が済んだなら、扉は早めに閉めたほうがいいかなー、って」

 伊織「あ…… ああ、そうね、うっかりしてたわ、ごめんなさい」




やよい「それで、どうしたの? 伊織ちゃん、なにか困ったことでもあったの?」

 伊織「…… 誰にも言わないでくれる?」

やよい「ええっ、そんな大変なこと……!? う、うん、わかった、わたし、約束する」

 伊織「実は…… オレンジジュースが、減ってるの」

やよい「えっ?」

 伊織「名前書いたびんに入れて、勝手に飲むな、って注意書きまでしてるのに!」

 
867 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:28:25.58 :jeBrEKzd0

やよい「でも、みんな伊織ちゃんがオレンジジュース大事にしてることは知ってるし、そんなこと……」

 伊織「だから悩んでるんじゃないの…… まさか、プロデューサー……?」

やよい「そんな、それこそありえないよ。プロデューサーは黙ってそんなことしないよ!」

 伊織「わ、わかってるわよ。言ってみただけ」

やよい「うーん、でもたしかに、どうして少なくなっちゃったんだろう……」

 伊織「……わたしが自分で、無意識に飲んだのかしら」

やよい「それはちょっと無理があるんじゃないかなぁ、伊織ちゃん」

 伊織「疲れてたりで記憶にない、とか…… あるいは、誰かに分けてあげたのを覚えてないとか」

やよい「ひょっとして、そういう心あたりがあるの?」

 伊織「ぜんぜん。そうとでも考えないと、この状況に説明がつかないってだけよ」

 
868 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:29:31.45 :jeBrEKzd0

【Waning Crescent / 25.5】


  響「…… んー。なんか、寒いなぁ」


  響「あれ、なあに、ねこ吉。どうしたの?」


  響「…… いや、これはこの順番でいいの。毛布を上にかけたほうがあったかいんだよ」


  響「なんででも! ふとんの上に毛布ってしたほうが熱が逃げないんだぞ!」




  響「そのはず、なのに、どうしても、なんか寒い感じがするぞ……」


  響「…… 誰かいっしょにいてくれたら、この寒いの、少しはマシになるのかなぁ」


  響「って、うぎゃー!? じ、自分のバカ、なに考えてるんだ!?」


  響「ああもう、ねこ吉でいいよ、おいで…… って、どうしてそこで出て行っちゃうのさー!」

 
869 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:30:11.72 :jeBrEKzd0







870 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:31:06.26 :jeBrEKzd0

【Waning Crescent / 25.8】


<  『そして今日最も悪い運勢なのは、ごめんなさーい、てんびん座のあなた!』


  響「うがっ…… 今日の自分、ワースト!?」

  響「いやまあ、別に本気で信じてはいないけど、朝からこれだとテンション下がっちゃうぞ……」


<  『でも大丈夫! そんなてんびん座のツキを回復させるラッキーパーソンは「最近会ってない人」!』


  響「最近会ってない友達、かぁ…… うちなーのみんな、元気にしてるかな」

  響「でもこれ、ラッキーパーソンって、つまりはその人に会えってことだよね?」

  響「しばらくぶりの人にばったり会えるなら、それ自体がラッキーなことなんじゃ……」

  響「……ま、どうでもいいか。さっさと準備しなくっちゃ」

 
871 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:31:40.80 :jeBrEKzd0

【三浦あずさの場合:2】


あずさ「…… ふむふむ?」


あずさ「えーっと、ああ、でも、そうねえ、それなら……」


あずさ「じゃあ最後は…… さあて。何が出るかしら~、っと!」


あずさ「…… ……あら? 今度も、まただわ」




 雪歩「あっ、あずささん、タロットですか。いい運勢でした?」

あずさ「ああ雪歩ちゃん、おかえりなさい。それが、ちょっと変なのよねぇ」

 
872 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:32:11.10 :jeBrEKzd0

 雪歩「ヘン? そういえばあずささん、すっごく難しい顔してましたね」

あずさ「ええ。レッスンの時間まで、ちょっと暇つぶし程度のつもりで始めたんだけど……」

 雪歩「…… ま、まさか、すごく悪い結果が出ちゃったとかですかぁ!?」

あずさ「ううん、そんなことじゃないの。むしろ運勢自体は好調そう♪」

 雪歩「そ、そうですか? よかった…… ほっとしました」

あずさ「ただ…… さっきから、何度やってもおんなじカードが必ずどこかに出るのよね~」

 雪歩「それって、やっぱり珍しいことなんですか」

あずさ「そうね、78枚もあるのに毎回、ってなると、ちょっと気になっちゃうかも」

 雪歩「へえ…… ちなみに、よく出るのはどのカードなんですか?」

あずさ「『月』と『太陽』の2枚。う~ん…… 不思議ねぇ。もう一度、やってみようかしら」

 
873 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:32:53.50 :jeBrEKzd0

【Waning Crescent / 26.1】

ガタンゴトン

  響「ぁーっ、くたびれたぞ…… でも、レコーティング、大変だったけどいい感じ!」

  響「事務所戻ったら次は即ダンスレッスンだっけ。急がなくちゃね」


   「ねえ、おかーさん、しりとりしたい!」

   「いいわよ、ふふっ、ほんとに好きなのねぇ。じゃあ、――ちゃんからスタートよ」

   「よーし、それじゃあ…… しりとりの"り"!」

   「り、ね? そうね…… さっきいっしょに買った、"りんご"」

   「ご、ご…… うーんと、あっ、あった! "ごみばこ"!」


  響「……子供って、なんであんなにしりとりが好きなのかな?」


   「何にしようかしら。"こ"で始まることば、たくさんあるし……」


  響「しりとり、かぁ…… 最後に自分が真剣にやったのって、いつだったかなぁ」

 
874 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:33:29.60 :jeBrEKzd0

【音無小鳥の場合:2】

 小鳥「…… なんだか、そろそろ降り出しそうですね」

 高木「ん? ああ、確かにね。予報では午後もせいぜい曇りと言っていたはずだが」

 小鳥「にわか雨で済めばいいんですけどね。けっこう冷えてますし」

 高木「まったくだ。音無君は傘の用意はあるのかね?」

 小鳥「わたしより社長、みんなの方が心配なんです。今日はほぼ全員、現場の移動がありますから」

 高木「ああ…… いかん、アイドル諸君のことにまで頭が回っていなかった」

 小鳥「一応、傘のストックはあるので、事務所に寄って帰る子たちのフォローはできると思うんですけど」




 小鳥「…… あー、やっぱり。響ちゃんと真ちゃん、それに伊織ちゃん、今日は直帰だわ」

 高木「ふうむ…… 彼女たちが傘を持っていてくれることを祈りたいものだ」

 
875 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:34:13.62 :jeBrEKzd0

 小鳥「伊織ちゃんには新堂さんがいらっしゃるので大丈夫でしょう。問題はあとの二人ですね……」

 高木「……音無君は、まるでアイドル諸君の母のような存在だな」

 小鳥「はは? 母…… え、ええっ、急になに言い出すんですか社長!」

 高木「いや、変な含みはないよ。君は本当に、皆のことを娘のように思っているのだな、と、今更感じたまでだ」

 小鳥「そんな、大げさですよ、わたしにできることはしてあげたいな、ってだけです。それに」

 高木「それに?」

 小鳥「一番年下の亜美ちゃん真美ちゃんだって、わたしの娘としてはまだまだ大きすぎますっ!」

 高木「ははは、確かにその通りだね。幼児、せいぜいが幼稚園生くらいなら――」

 小鳥「社長?」ギロッ

 高木「……と、すまない。軽口が過ぎたようだ」

 小鳥「ホントですよ、もうっ」

 
876 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 21:35:51.24 :jeBrEKzd0















877 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 22:00:16.33 :jeBrEKzd0

【我那覇響の場合】

  響「うひゃーっ、思いっきり降られちゃった…… みんなー、ただいまー!」

  響「おー、よしよし、ちょっとだけ待っててね。すぐ着替えないと自分、風邪引いちゃう」




  響「さて…… と、みんなお待たせ。はいっ、じゃ、食べていいよーっ!」

  響「あとは自分の分だな。ううー、おなかすいた……」

  響「でもなー、外すっごく寒かったし、まだ雨はひどいし。買い物に行くの、めんどくさいなぁ……」

  響「帰りにスーパーでも寄っとくんだったぞ…… 冷蔵庫になんか残ってないかなー?」

  響「……あっ! よかった、卵がまだあった! 今日はこれでなんとかなる!」

  響「何つくろっかなー…… お腹空いてるし、ちゃちゃっとできる炒り卵にでもしようっと」

 
878 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 22:01:05.99 :jeBrEKzd0


  響「2個でいいかな…… いや、今日は豪勢に3ついっちゃおう!」


  響「あ、バターも少なくなってる。今度買ってくるの忘れないようにしなきゃ」




  響「固まりすぎないように、火を通しすぎないように、外から中に、寄せる感じで……」


  響「まだ、ちょっとだけ、やわらかすぎる、かなー? ……ってタイミングですぐお皿にあける!」


  響「…… よしよし、いい感じにとろっとろのふわふわさー。ふふふ、我ながらカンペキっ!」


  響「生クリームあったらもっとふわっとするんだけどなー、今日は牛乳でがまんだぞ」


  響「この前作った時は自分でも最高の出来だったもん、   だってあんなに大喜びして――」


879 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 22:04:13.25 :jeBrEKzd0 

  響「……ん? そういえばこの前炒り卵作ったのって、いつだったっけ?」


  響「やだなー、こんなことも思い出せないなんて。自分、ボケちゃってるんじゃないか? あはは!」


  響「ああ、そうだ! 卵が余ってて、使い切っちゃいたいから卵料理にしよう、って、   に言って」






  響「んん……? …… あれ…… うーん……?」


880 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 22:05:05.65 :jeBrEKzd0





  響「なんだろ、これ…… おかしいぞ?」




  響「あはは、まいったなぁ…… ホントに、自分、きょうは、どうしちゃったんだろ……」








  響「………… なん、で…… なみ…… だ、とま、ら、 な、っ…… ……」




881 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 22:05:56.92 :jeBrEKzd0





  響「そ、うだ…… よ、そう、だ……」




  響「そう、だっ、た、…… これ……、炒り卵、じゃ、ない…… スクランブル、エッグ、だ」




  響「…… そうだ、自分…… 前にも、おなじ、こと……、炒り卵の、つもりで…… お願いされて、」










  響「誰に?」


882 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 22:07:00.75 :jeBrEKzd0

  響「…… ……決まってる…… じゃないか、そんなの、っ」










  響「たかね」






  響「貴音」






  響「貴音!」






  響「なんで…… なんで、自分、こんな大事なこと…… 大事な友達のこと、今の今まで!!」


883 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/23(水) 22:07:39.62 :jeBrEKzd0













【いまだにぼくは】


889 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/26(土) 20:00:05.88 :UJ1dh6+B0

【我那覇響の場合:2】

ガチャッ

   P「おはようございまーす」

やよい「あっ…… よかった、プロデューサーっ!!」

   P「お、やよい。おは……」

 伊織「あんたやっと着いたのね!? いいからこっち、すぐ来て! お願い、早くっ!!」

   P「うわっ、い、伊織っ!? 待ってくれ、一体どうしたんだ? わけが――」




   「――だからっ! なんで、どうしてみんなわかってくれないんだ!?」

   「落ち着いてよ!! おねがいだから話を聞いてほしいの!!」




   P「な、なんだ!? 誰か喧嘩でもしてるのか?」

 
890 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/26(土) 20:01:01.30 :UJ1dh6+B0

  響「美希、美希なら覚えてるよね!? プロジェクト・フェアリーは、三人のユニットで!」

 美希「…… やめてよ…… なに、言ってるの? 響とミキは、二人で、ずっといっしょに……」

  響「ちがう、違うよっ、美希と、自分と…… それに貴音と! 三人で一緒にやってきたんじゃないか!!」

 美希「ねえ…… さっきからずっと言ってる、その"たかね"って、いったい誰のこと……?」

  響「……美希、まで? 美希も、やっぱり、忘れちゃってるの……?」




 春香(あっ…… プロデューサーさん!!)

   P(今来たところなんだ、状況がわからない! 春香、二人に何があったんだ?)

 春香(わたしもわからないんです! わたしが来たときから響ちゃん、ずっとあんなふうで……)

   P(あんな風、って?)

 春香(この事務所にはもう一人、"たかね"ってアイドルが所属してるはずだ、って言い張ってるんです!)

 
891 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/26(土) 20:02:30.49 :UJ1dh6+B0

   P「お、おい、響……」

  響「プロデューサー……? プロデューサー!! プロデューサーは貴音のこと、思い出せるでしょ!?」

   P「たかね……?」

  響「そうっ、貴音! 髪が銀色で、すっごく背が高くて! 自分と一緒に765に入社したアイドルの!!」

   P「…… あのな、響、落ち着いて聞い……」

  響「ちょっと不思議な、でも高貴な感じでっ、そう、だから亜美や真美はお姫ちんなんてあだ名を――」




   P「………… すまん、響。嘘はつけない。お前の言ってることが、俺には…… わからない」

  響「~~~~~~~~っっ!!」




ガチャ

 小鳥「おはようござい…… って、あれ? みんな集まって、何かあったんですか?」

 
892 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/26(土) 20:03:17.49 :UJ1dh6+B0

  響「ピヨ子…… ……あっ、そ、そうだ!! そうだよ、ピヨ子っ!!」

 小鳥「え……? わ、わたし!? わたしが、なに?」

  響「ピヨ子はさ、事務所にたかねがいるとき、たっくさんビデオ撮ってたよね!?」

 小鳥「なに、なんの話!? ちょっと落ち着きましょ、響ちゃん、ねっ?」

  響「あのビデオカメラ、どこにあるの!? メモリーにきっと映像が残ってるはず! 」

 小鳥「カメラの…… メモリー? それがなにか必要なの?」

 律子「…… いい加減にしなさいよ、響。小鳥さんも困ってるでしょう」

 小鳥「いえ、大丈夫ですよ、律子さん。よくわかりませんけど、響ちゃんの役に立つなら」




 小鳥「ええと、最近だと…… これね。ここ1ヶ月くらいずっと使ってたと思うわ」

  響「ほんとにありがとっ、ピヨ子! これがあれば絶対みんなも思い出してくれるぞ!」

 
893 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/26(土) 20:04:18.66 :UJ1dh6+B0

  響「じゃあ、いい? みんなよく見ててよ……」

 千早「我那覇さん……? その映像で、いったい何が……」

  響「あっ、これ、ほらここっ! 朝のミーティングのあとで、プロデューサーと、たか…… ね……」




   P『みんな、ちゃんと確認できたな? それじゃ各自、時間が来るまで――』




 亜美「…… ねえ、これさ…… ずーっとにーちゃんしか写ってないよ、ひびきん……」

 真美「しっ! 黙ってなよ亜美、それがなんか大事なのかもしれないっしょ!?」




  響「…… そんな、なんで…… あ、あっ、そうか、たかねが小柄すぎて写せてないんだ!」

 美希「響、あのね――」

  響「そっか、そうだ、美希がたかね抱えて寝てるとこだったらもっと見やすいはず!」

 
894 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/26(土) 20:07:25.53 :UJ1dh6+B0





 伊織『例によって寝てたのね、美希……』

 美希『ふにゃ…… くぅ……』




 美希「……ミキが、ソファで寝てるだけだよ。その、えっと…… たかねだっけ、その子、どこにいるの?」

  響「なん……で、どうして!? あんなにずっと事務所にいたのに、なんでどこにも写ってないの!?」

 小鳥「響ちゃん…… わたし、確かによくビデオまわしてるけど、そのたかねちゃんって子は、一度も……」

  響「……ピヨ子! ピヨ子もグルなんだな!?」

 小鳥「えっ?」

  響「後から編集してたかねのことだけ消しちゃったんだな!? ピヨ子ならきっとそんなの簡単に!」

 小鳥「きゃっ……!? やめて響ちゃん、待って、わたし、そんなこと全然……!」

  響「そうなんでしょ、ねえっ!? そうだって言ってよピヨ子ぉぉ!!」

 
895 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/26(土) 20:08:28.61 :UJ1dh6+B0

  真「ちょっと響っ!? 小鳥さんに何してるんだよっ! やめ――」

  響「放してよ!! こんなのありえない、おかしいよ、自分絶対信じないぞ!」

  真「うわっ、この……っ、落ち着いてってば響! プロデューサー、押さえるの手伝ってくださいっ!」

   P「あ…… ああ、すまん!」


  響「うがああああっ!! 放して! 二人とも、放せよっ、はなせぇえーっ!!」

   P「響、いったいどうしたっていうんだ、落ち着け、頼むから落ち着いてくれ!」


あずさ「音無さんっ、大丈夫ですか!? 怪我とか、してないですか」

 雪歩「わ、わたし、救急箱取ってきますっ!」

 小鳥「けほ、っ、げほっ…… わたし、っ、だいじょうぶ、ですから、響ちゃんを……!」




  響「うそだ、うそだ、うそだ、こんなの絶対うそだぞ! 映像にも写真にもどこにもたかねがいないなんてうそだ!」

 
896 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/26(土) 20:10:07.65 :UJ1dh6+B0





   P「…… 社長。これから響を自宅まで送り届けてきます。すみませんが、その間……」

 高木「わかっている。事務所は私と律子君で取りまとめておくよ。幸い、音無君も大事ないようだ」

   P「申し訳ありません、お手数をおかけします」

 高木「何、気にしないでくれたまえ、いつもキミには苦労をかけているからね。それよりも」

   P「はい?」

 高木「我那覇君を、しっかり支えてあげてほしい。彼女に何があったのか、私にはわからないが……」

   P「……はい。正直なところまだ原因はわからないんですが、全力を尽くします」

 高木「うむ。とはいえ、今日のところはまず、しっかり休ませてあげるべきだろうな」

   P「そう思います。話を聞くにしても、もう少し落ち着いてからがよさそうですね」

 
897 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/26(土) 20:10:44.55 :UJ1dh6+B0

   P「それじゃあ社長、しばらく空けます。後のことをお願いします」

 高木「ああ、引き受けたよ。大変だと思うがキミも、よろしく頼む」

   P「もちろんです。失礼します」

ガチャ

   P「……! お前たち」

 春香「あのっ、プロデューサーさん! 今から響ちゃんのこと、送っていくんですよね?」

   P「……ああ、そうだ。今日の響は、レッスンとかできる状態じゃなさそうだからな」

 春香「だったらお願いします、わたしにも手伝わせてください!」

   P「春香…… 気持ちはありがたいが、いまの響には……」

 春香「何ができるわけじゃなくても、響ちゃんのそばにいてあげたいんです」

 
898 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/26(土) 20:11:19.00 :UJ1dh6+B0

  真「ボクも、一緒に行きます。万が一、またさっきみたいなことになったら危ないですし」

 美希「ミキもついていくの。みんなの中で、響といちばん一緒にいる時間が長いの、ミキだから」

   P「ダメだ…… って言っても来るんだろうな、三人とも」

 春香「はい!」

  真「へへっ、もちろんですよ」

 美希「トーゼンなの」

   P「…… 女の子の部屋に俺だけで入るのはマズいだろうし、どうしようかと思ってたとこだ」

 春香「じゃあ!」

   P「今日は三人ともレッスンだけだったな?」

 美希「えーっと、そうだったっけ? でもこの際、そんなのどーでもいいよ」

  真「こら、美希、何言ってるのさ。プロデューサー、ボクら三人とも午後からですよ」

   P「……よし、わかった。それまでには戻れるようにしよう」

 
899 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/26(土) 20:13:28.26 :UJ1dh6+B0





ガチャ

 春香「…… おじゃま、しまーす」

 美希「ミキ、響の家族とはだいたい顔見知りだから、ちょっとアイサツしとくね」

 春香「そうなんだ? 助かるよ、そっちはよろしくね。……真、大丈夫?」

  真「うん、オッケー。響、歩ける? ゆっくりでいいからね」

  響「……」

   P(…… 真、俺も手を貸そうか?)

  真(ありがとうございます、ボクひとりで大丈夫ですよ)


 美希「みんな、久しぶりー。ごめんね、今日はちょっとだけお騒がせするの」


 春香「えっと…… 響ちゃん、まず、シャワーでも浴びてきたらどうかな? きっとさっぱりするよ」

  響「……」

 
900 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/26(土) 20:14:03.04 :UJ1dh6+B0





 春香「じゃあ、すみませんけどプロデューサーさん、リビングで待っててもらえますか?」

   P「ああ、わかった、そうする。お前たちに来てもらってよかったよ」

 美希「ぜーったい、のぞいたりしちゃダメだからね?」

   P「なっ…… なに言ってるんだバカ! そんなこと、するわけないだろ」

  真「あははっ。それまで響の家族のこと、ちょっと見といてあげてください」

   P「そ、そうだな…… 三人とも、よろしく頼む」




   P(…… 響の部屋、か。こんな形で足を踏み入れることになるとは思わなかったよ)

   P(大家族がいる分広めだけど、それ以外はいたって普通だな)

 
901 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/26(土) 20:15:22.74 :UJ1dh6+B0

   P(……少なくとも昨日までの響は、特に変わった様子はなかったと思う)

   P(だから恐らく、何かあったとしたら、昨日…… それも事務所を出た後のことなんだろうが)

   P(響の場合、一人暮らしだから、ご家族に話を聞くって手も使えないし……)

ねこ吉「ニャーゴ」

   P「…… お前さんに話が聞ければいいけど、俺は響と違って、そんなことできないからなぁ」

ねこ吉「ウニャー」

   P「ああいや、それより、まずは謝らなくちゃな……」

ねこ吉「……」

   P「お前のご主人の様子が違うことに、すぐに気づいてやれなかった。すまない」

ねこ吉「ニャッ」

   P「…………ん? お前、なにくわえてるんだ?」

ねこ吉「……」ジリッ

   P「おい、ちょっと待てってば。ダメじゃないか、それ、ご主人様のだろ」

ねこ吉「……!」タタタッ

   P「あ、こら! ……っと、持って行っちゃったか」

 
902 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/26(土) 20:16:13.06 :UJ1dh6+B0





ガチャ

   P「!」

 春香「お待たせしました。プロデューサーさん、もういいですよ」

   P「ああ、ありがとう。……響はどんな様子だ?」

 美希「なんとかベッドに入らせて、やっと寝ついたの。泣き疲れちゃったカンジ」

   P「そうか、よかった。今はまず何よりも休息が必要だろうからな」

  真「わりと落ち着いてはいました。ただ、すごく沈み込んでて、反応も薄くって……」

   P「そうなるのも当然だよな…… 誰とも話が合わない状態になってたわけだし」

 
903 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/26(土) 20:16:46.56 :UJ1dh6+B0

   P「担当として本当に恥ずかしい話だけど、俺は思い当たる原因が何もないんだ……」

 春香「それは…… 仕方がないと思います。わたしたちも、ほとんどついていけてませんでしたから」

   P「お前たちはなにか心当たりがないか? どんなことでもいいんだ、聞かせて欲しい」

 美希「やっぱり、響がずっと言ってた『たかね』って名前がヒントなんじゃない?」

   P「そうだな、そこは間違いないと思う」

  真「その子がまるで、ずっとボクらともいっしょにいた、みたいな口ぶりでしたもんね」

   P「そもそもこの『たかね』って名前自体、響は前に口にしたこと、あったか?」

 春香「えっと、響ちゃんの学校のお友達のこととか、全部は知らないですけど…… 記憶にないです」

 美希「ミキも、なの。961プロにも…… たぶん、いなかったと思うな……」

  真「……あ! いっしょに仕事したことのある、べつの事務所のアイドルとかじゃないですか?」

   P「そう思って、待ってる間、今まで付き合いのあった事務所のHPとかを記憶の限り確認してみた」

 春香「それで…… どうだったんですか?」

   P「『たかね』という名前も、それに苗字も…… 今のところ、どこにも該当がないんだ」

 
904 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/26(土) 20:17:18.11 :UJ1dh6+B0

 美希「…… 今までずっといっしょにいたはずなのに、ミキ、響のこと全然知らなかったのかも」

  真「美希よりは響との付き合い、短いけどさ。ボクも同じこと思ってるよ」

 春香「響ちゃん…… なにか、わたしたちがしてあげられることってないかな……」

   P「今はそっとして、休ませてやるのが一番大事だと思う。それに、三人とも、そろそろ時間だ」

 春香「……そうだ! プロデューサーさん、レッスンまでまだ余裕ありますよね?」

   P「まあ…… 車だし、直接スタジオに向かえばいいからな。もうちょっと大丈夫だけど」

 春香「じゃあ、響ちゃんごめんね、ちょっとだけ台所借りちゃいます!」

  真「え? 春香、何するの?」

 春香「ちょっとねー。そうだ、真と美希、それにプロデューサーさんは、その間に……」

 
905 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/26(土) 20:18:00.92 :UJ1dh6+B0







906 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/26(土) 20:24:35.44 :UJ1dh6+B0





  響(……ん、 ……あー、朝 ……?)


  響(………… ちがう、ここ、自分の部屋だ…… あれ、事務所に行ったんじゃ、なかったっけ?)


ムクッ


  響(いまは…… うわっ、もう暗くなっちゃってる。どうして……?)

  響(…… ああ、そうか。思い出した…… 自分、事務所でパニックになって……)

  響(そこから…… どうしたんだっけ、覚えてないぞ…… ん?)

  響(なんだろ、これ。何枚も…… 書置き?)ガサッ

 
907 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/26(土) 20:25:58.06 :UJ1dh6+B0 

    響へ

    とりあえずきょうはゆっくり休むといい。
    明日についてもレッスンのみの予定だったから、こっちでオフにしといた。

    響の許可もなく勝手に部屋に入るのはよくないとは思ったんだが、
    緊急だったし、春香と真、美希に一緒に来てもらったので勘弁してほしい。
    実際のところ俺はろくに何もしてない。三人が全部やってくれたから安心してくれ。

    気が向いたらでいいので、目が覚めてから余裕があるときにでも連絡をくれると助かる。

    それとは別に、困ったこととか、悩みとかがあるなら、いつでも相談してほしい。
    俺がすぐに解決できるようなことじゃなくても、できるかぎり力になりたいんだ。




  響(…… プロデューサー……)

 
908 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/26(土) 20:26:42.01 :UJ1dh6+B0

  響(こっちの…… この字は真ので、これは、美希の……)ガサガサ


    響へ

    春香がいまおいしそうなお料理作ってくれてるから、起きたらまずはしっかり食べなきゃだよ!
    おなか空いてると人間、頭まわんないし、気も弱くなっちゃうから。

    実は、響の家族みんなにもごはんをあげるべきかなって話になったんだけど、
    下手なことしないで響にまかせたほうがいいよね、ってことでなにもしてないんだ。
    響のことすごく心配してるみたいだから、春香のごはんで元気出たら、相手してあげてね。

    いろいろ考えちゃうときは、思いっきり体動かすのもかえっていいと思うんだ。
    言ってくれればトレーニングとかいっくらでも付き合うからね、ボク。

    今度のダンスレッスンのときにはいつもの調子取り戻してくるの、待ってるから。
    響がうかうかしてたら置いてっちゃうよ!

 
909 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/26(土) 20:28:09.03 :UJ1dh6+B0

    響サマ

    よく眠れた?
    心配ごととかって、寝ちゃえばわりとカイケツしちゃうの。

    ミキはね、響のこと、とくに心配はしてないよ。
    だって響は、ちょっとちっちゃいだけでカンペキだって知ってるもん。

    でも、ミキにこっそり話したいこととかあるんだったら教えてね?
    ずっとコンビ組んでた響とミキの間にかくしごとなんてナシなの!

    そうそう、響の家族ね、みんなミキのこと覚えててくれたみたい。
    あらためてミキからよろしくって伝えといてほしいな!
    じゃ、また事務所でね☆


910 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/26(土) 20:28:55.48 :UJ1dh6+B0

   響(最後のこれは、春香のだ……)




    響ちゃんへ

    わたしもプロデューサーさんにくっついてお邪魔しました。
    響ちゃん、きっとすごく疲れちゃってるんだと思うから、たっぷり眠れますように。

    さすがの響ちゃんも、起きてすぐはおなか空いてるんじゃないかな? と思って、
    お台所を借りてかんたんなごはんを作っておきました。よかったら食べてね。
    ちなみに材料は冷蔵庫の中身を勝手に使わせてもらっちゃいました! ごめん! >_<

    いつもがんばり屋さんな響ちゃんだから、たまにはちょっとお休みしても大丈夫。
    くれぐれも無理はしないでゆっくり過ごしてほしいです。

    P.S.
    いつでも連絡待ってるからね!
    わたし、最近は夜更かし気味だから、ちょっとくらい遅くても大丈夫だよー!

 
911 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/26(土) 20:30:31.24 :UJ1dh6+B0





  響(…… プロデューサーも、春香も、真も美希も。それにきっと、事務所のみんなも)

  響(自分のこと、本気で心配してくれてる。それはわかるし、すごく嬉しい)


  響(――でも)


  響(ここでいま、たとえば自分が、プロデューサーに、それか春香に、電話でもかけて)

  響(もう一度…… 今度は落ち着いて、全部、説明できたとして)

  響(心配とか同情はきっと、今以上にしてくれる。大変なんだなって、心から気遣ってくれる)


  響(でも…… ……でも、それだけ、それでおしまい)


  響(一番わかってほしい、思い出してほしい、貴音のことは―― 伝わらない)


912 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/26(土) 20:31:10.63 :UJ1dh6+B0

  響(みんなが忘れてるのは、貴音がたかねになっちゃってからのことだけじゃない)

  響(そもそも、貴音が…… 最初から、いなかったことになってるんだ……)

  響(けさ、事務所についたときからそうだった。春香も、千早も、やよいも、伊織も)

  響(あずささんも、律子も、亜美も真美も、雪歩も、真も、みんな…… みんな、覚えてなかった)

  響(最後に来た美希に聞いても―― そうだ、それで自分、かっとなって)

  響(そうだ…… それから、ピヨ子に、最低の八つ当たりして…… 謝らなくちゃ……)

  響(まず誰よりもピヨ子に謝って、迷惑かけたみんなにも、プロデューサーにも謝って……)




  響(謝って、 ……それから? それから、自分、どうしたらいいんだ?)

 
913 :◆ccGlDikGP2 :2015/12/26(土) 20:31:49.40 :UJ1dh6+B0


  響(みんなに謝って? "貴音"なんていなかった、自分の勘違いだった、って、言って?)


  響(勘違いなんかじゃないのに? 貴音は、たかねは…… たしかに自分たちの仲間で、友達で)


  響(自分は―― 自分だけは、こんなにはっきり、全部、全部覚えてるのに!?)


  響(…… なんで…… なんで、なんで、なんで、っ!!)






  響「………… わかんない…… わかん、ない、よ、貴音ぇ…… 自分、どうすればいいの、わかんないよぅ……」


943 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 19:29:34.50 :p1xr7Yhy0







たかね「――びき、ひびき。おきてください! ひびきーっ!」




  響「ん、ううん…… わかった、わかったぞ、すぐ起きるって、たか、ね…… ……!?」

たかね「あっ、ようやくおき…… ぷっ! どうしたのですか、ひびき。おくちが、ひらいたままですよ」

  響「たかね…… たかね!? たかねぇっ!!」

たかね「ひゃあっ!? ひびき? ど…… どうか、したのですか?」

  響「たかねだ、たかね、よかった…… ウソじゃなかった! ちゃんと、たかねはここにいるじゃないか!」

 
944 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 19:30:04.80 :p1xr7Yhy0

たかね「…… ふふ、とうぜんでしょう。わたくしは、とけていなくなったりしない、ともうしましたよ?」

  響「うん…… うん、そうだよねっ…… あはは、自分寝起きでちょっと混乱してたぞ、ごめんごめん」

たかね「まったくもう…… さあ、ひびき! びみなあさごはんを、おねがいします!」

  響「まかせといて、びっくりするくらいおいしいの作ってあげるから!」


  響「そうだよ、やっぱりなんかの間違いだったんだ、今までのは全部、悪い――」








  響「ゆ、 め ……か。だよね、わかってたよ…… わかってたさー」

  響「………… 悪い、夢、なら、もういいかげん、覚めたっていいはずだぞ……」

 
945 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 19:30:51.99 :p1xr7Yhy0

【Waning Crescent / 28.9】


  響(いくらカンペキだって言っても、自分だって風邪くらいひいたことはあるし)


  響(お仕事の関係で、公欠扱いにしてもらったこともあるけど……)


  響(………… 二日続けて学校サボったのなんて、考えてみたら、初めてかもしれないや)


  響(昨日はオフにしといた、ってプロデューサーが書いてくれてたけど)


  響(きょうもお休みさせてほしい、って言い出したのは、自分)


  響(プロデューサーも、何も聞かないで、すぐわかったって言ってくれて……)


  響(こんなことしてたって、なんにもならないのはわかってる…… わかってる、けど)


946 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 19:31:21.70 :p1xr7Yhy0


  響(おととい、目が覚めてから。何度も家中ひっくり返して、なにか痕跡がないか、ずっと探した)


  響(…… なんにもない。ほんとに、きれいさっぱり残ってない)


  響(ジェルジェムとか、たかねに直接関係ないものはいくつか見つけたけど)


  響(たかねが着てた服とか靴とかはもちろん…… 使ってたお箸や歯ブラシなんかも、全部、なくなってる)


  響(ピヨ子のカメラだけじゃない。自分のスマホのデータも、そこだけ抜け落ちたみたいに消えてた)


  響(送信履歴まで…… みんなに送ったメールも画像も、当然、残ってないらしくて)


947 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 19:31:50.90 :p1xr7Yhy0


  響(自分の家族も、いぬ美とねこ吉、それにハム蔵は、断片的に覚えてるみたいだけど……)


  響(あとのみんなは、ほとんど忘れてる。そもそも、貴音にすら会ったことないって感じになってる)




  響(結局、ほかに見つけられたのって言ったら)


  響(自分が選んであげた髪留めと…… なんでか残ってた、シャンプーハット。そして)


  響(貴音にプレゼントするつもりで買って、クリスマスにたかねにあげた、三日月のイヤリング……)


  響(………… こんなので…… 貴音が、たかねがいたことの証拠になるわけない……!)


948 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 19:32:27.31 :p1xr7Yhy0

  響(昨日も今日もみんなが、なにかにつけてメールをくれる)

  響(絵文字をいつもよりいっぱい使ったり、事務所とかで撮った写真を送ってくれたり……)

  響(気にかけてくれてるのが、痛いくらいわかる)



  響(だから、言えない。言えるわけ、ない)



  響(そういうことしてほしいんじゃない、って)


  響(自分のことなんてどうでもいいって、気なんかぜんぜん遣ってくれなくっていいんだって)


  響(自分がみんなにしてほしいことなんて、ひとつだけ)


  響(ただ、貴音の…… たかねのこと、せめて思い出してくれたら、それでいい。それだけ、なのに)


949 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 19:33:04.13 :p1xr7Yhy0



  響(結局、ここに戻ってきちゃう。昨日からずっと、堂々めぐりだ)



  響(みんなに貴音のことを、思い出してもらうために)



  響(もう、アイドル、一緒にできないとしても…… せめてもう一回、貴音に会うために)



  響(いま、自分にできることって、なにがある?)



  響(それがずっとわかんない。…………わかんないから、なにもできない)


950 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 19:34:35.34 :p1xr7Yhy0

【Waning Crescent / 29.3】

  響「…… よし、っと」

  響「お待たせみんなー、夕飯、できたぞー。おいで」




  響(自分がどうだろうと、みんなのご飯はちゃんと用意してあげなきゃいけない)

いぬ美「くーん」

ねこ吉「ニャン」スタスタスタ

  響(でも、準備してる間は、ほかのこと考えなくていいから…… ちょっと助かってるとこもある)

ブタ太「ブヒッ」

うさ江「……」ピョン

  響「買い置きのがメインでごめんね、みんな。明日には買い物、行けると思うから」

  響(買い物、か。 ……自分一人だから、持てる荷物、減っちゃうな)

 
951 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 19:35:08.72 :p1xr7Yhy0

  響(ああ、でも、食材買うにしても、料理するにしても……)

  響(…… ひとり分だけあればいいんだから、結局そんなに変わらないのか)



  響(おとといも昨日も、自分、レトルトやインスタントのものばっかり食べてる)

  響(料理すると…… 無意識に、ふたり分作っちゃいそうになるから)



  響(それに気づいちゃったせいで、買い物行くのすらずるずる先延ばしにしてたけど……)

  響(いいかげん、そんなことも言ってられないぞ。自分には家族がいるんだから)

  響(自分用にはまだカップ麺なんかもあるから、当面はいいとして……)

 
952 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 19:36:00.38 :p1xr7Yhy0

  響(…… だいたい、カップ麺にしても)

  響(もともと自分、そうしょっちゅう食べるほうじゃなかったのに)

  響(貴音が味を覚えたせいで、うちに必ずストックがある状態になっちゃって)



  響(たかねがうちに来てからも、結局毎週ひとつは必ず買ってたし)

  響(…………お年玉にあげたきっぷ、たかねなら絶対すぐ使うと思ってたから)

  響(その分も、と思って、ちょっとよけいに買い込んでたのに…… ははっ。自分、ばかみたい)



  響(たかね、今ごろ、どうしてるんだろう。無事に帰れたのかな)

  響(あっちにはカップ麺なんてないだろうから、今ごろ、食べたいってだだこねてたりして)

  響(週にひとつってだけでも散々ぐずったのに、それを2回もおあずけなんて――)

 
953 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 19:37:28.61 :p1xr7Yhy0

  響(…… そうか。もう、あの満月の夜から、2週間ちょっと経つんだ)

  響(自分が毎週、カップ麺買うの、やめて…… たかねのこと、すっかり忘れて)

  響(学校行って、貴音も、たかねもいない事務所に行って、レッスンしたりお仕事したりして)

  響(みんなも、たかねがいないのが当たり前になってから、まだ2週間…… いや、もう2週間、か)






  響(満月見るのを楽しみにしてたたかねに、見せてあげられたのはよかったけど)

  響(それが最後になっちゃうって、もし知ってたら…… 絶対、連れて行かなかったのに)

  響(でも考えてみたら、貴音がたかねに変わっちゃってからは、あれが最初の満月だったわけで……)

 
954 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 19:38:00.65 :p1xr7Yhy0

  響(……ああ、そうか)


  響(満月の夜から、ほぼ2週間、ってことは)


  響(きょうの夜が、ちょうど…… そうだ、間違いないや、新月になるんだ)


  響(月が見えないのはそのせいなんだよって、ひと月くらい前、たかねに教えてあげたっけ)




  響(…… どのみち何していいかわかんないなら、きっと、シンプルに考えたほうがいい)




  響(もう一度、今夜、行ってみよう。あの場所に)


955 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 19:38:36.54 :p1xr7Yhy0

  響(なにか、意味があるのかもしれない)


  響(自分がたかねを連れて流星群を見に行ったのは、ただの偶然だけど)


  響(貴音がまだ"貴音だった"ころに、何度か一緒に星を見に行って)


  響(そして、たかねとお別れしたのも同じ場所だったんだ)


  響(きっとみんなは知らない、と思う。でも、たかねも、自分も…… 貴音も、よく知ってる場所)


  響(それに…… 今晩がちょうど新月なのは、たまたまだとしても)


  響(自分は、消えちゃったお月様を探しに行くんだ。タイミングとしてはぴったりだぞ)


956 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 19:39:16.45 :p1xr7Yhy0

  響(もちろん、行っても何もない可能性のほうがずっと高いし……)


  響(…… 何かあったらあったで、どうなるか、わかったもんじゃない)


  響(だって、自分やみんなの記憶をいじったのも、たかねに関係してるものがなくなってるのも)


  響(たぶん…… っていうかほぼ確実に、たかねを連れてっちゃったあいつの仕業だ)


  響(そんなワケわかんないこと、一晩のうちに簡単にやっちゃうような相手なんだから)


  響(たかねついでに、自分に関するみんなの記憶とかだって……)


  響(むしろ―― 自分そのものを消しちゃうこと、だって、きっと、楽勝なはず)


957 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 19:39:57.12 :p1xr7Yhy0

  響(でも、そうだとしても)


  響(自分には、ほかに思いつく手がかりはないし)


  響(それにウジウジ引きこもってたって、なんにも変わらないんだ)


  響(……なんか、考えてたらムカムカしてきたぞ。この状況にも、自分自身にも!)


  響(なんで自分、カンペキなんて言っといて、あっさり尻尾巻いて引き下がっちゃってるんだ?)






  響(貴音のこと覚えてるのが、世界中でホントに自分だけなら――)


  響(貴音のためになにかできるのだって、自分ひとりしかいないんじゃないか!)



響「貴音!?」たかね「めんような!」その2に続きます。





961 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 21:24:25.55 :p1xr7Yhy0

【すねーく・れっぐす】

 
962 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 21:24:53.71 :p1xr7Yhy0

※※※

 これらは番外編であり、いわゆる埋めネタです。

 いろいろな事情で本編からは省くことにした没ネタや
 本編終了後の日常ネタ的なもの等等、時系列も統一されていないごった煮です。

 パラレルということで、箸休め程度にお楽しみください。
 また、性質上、次スレ読了後にお読みになることを強くおすすめします。


 (なお、言うまでもないことかとは思いますが、
  snake legsでは「蛇足」の意味になりませんのでご注意ください。)

※※※


963 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 21:25:57.75 :p1xr7Yhy0

【千早ちゃんはどうしてそうなっちゃったの?】

※ >>104

 春香「っ、あいったたたぁ……」

 千早「どうしたの春香、大丈夫!? 怪我はしていない!?」

 春香「あっ、ち、千早ちゃん! あのね、幼女が、古風で! 銀髪の、ていうか貴音さんが、ちっちゃくなって!」

 千早「どうしたの春香、大丈夫!? 頭を打っていない!?」

 春香「ほ、ほんとなんだってば!」

 千早「……待って、春香。今、四条さんが小さくなった、と言ったのよね?」

 春香「うん、うんっ、そう! よかった千早ちゃん、信じてくれ――」

 千早「具体的にはどのあたりが小さくなっていたの?」

 春香「え?」

 千早「とても大事なことなの、答えて。やはりあの立派なお尻? それともひょっとして」

 春香「何言ってるの千早ちゃん!? 頭打ってないよね!?」

 
964 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 21:26:43.55 :p1xr7Yhy0

【ずー】

たかね「ひびき、ひびき。あすは、おでかけするおやくそくですよ」

  響「あー、そうだったね。たかねはどこに行きたいの? どうせラーメン屋さんとか……」

たかね「わたくし、どうぶつへんへいきたいです!」

  響「は、はぁ!? ええー、この寒いのにわざわざ動物園なんて……」

たかね「ではひびきはこのさむぞらに、すいぞくかんのほうがよいのですか?」

  響「なんでその二択しかないの?」

 
965 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 21:27:14.73 :p1xr7Yhy0

  響「とかなんとか言って、結局動物園来たけど…… やっぱりめちゃくちゃ寒いぞぉぉ!!」

たかね「なさけない。うちなーんちゅは、そのていどなのですか?」

  響「ううー…… そんなこと言ったって、寒いものは寒いんだもん……」




たかね「あっ、ひびき! みてください、とらさんです!」

  響「お、おおー、うん、でっかいなぁ、かわいい、ああ寒いぃ……」

たかね「こちらには、らいおんさんが!」

  響「ああ、たてがみ暖かそうでいいなあ…… 寒いぞ、うん、だよね、やっぱり寒いよなキミも……」

たかね「ひびき、ひびき!? ふたりのせかいにはいらないでください!」

 
966 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 21:27:46.00 :p1xr7Yhy0





  響「あれ…… たかね? ちょっ、たかね、どこ行ったの!?」

  響「ああもう! きっと自分が話してる間に、ほかの動物に気を取られたかなんかしたんだ……」


< ピンポンパンポーン

   『ご来園のお客様に、迷子のお知らせを致します』


  響「あっ、さてはこれ、たかねだな? まったく、どこまで迎えに行けばいいんだろ」


   『えー…… 髪が黒くて、つの……? が、生えていて」


967 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 21:28:36.96 :p1xr7Yhy0

  響「あれっ、髪が黒? そしたらたかねのことじゃないなぁ…… って、つの?」


   『ええ、と、…… 年の割に、ちっちゃい? がなは、ひびきちゃん』


  響「」


   『お連れ様がお待ちです、正門そばの園内事務所まで――』


  響「…………」






  響「…… たぁかねぇぇえええ!!!!」ダッ

 
968 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 21:29:04.58 :p1xr7Yhy0





  響「勝手にうろついたらダメでしょ、たかね! きょうはすぐ見つかったからよかったけど……」

たかね「……どうですか、ひびき。すこしは、きがはれましたか?」

  響「え?」

たかね「おせっかいかともおもいましたが…… さいきん、ひびきのげんきがないように、おもいまして」

  響「…… たかね、動物園に来たいって言ったの、もしかして自分のためだったの?」

たかね「い、いえ、わたくし、いろいろなどうぶつをみてみたかったので! けっしてひびきのためというわけでは!」

  響(この寒いのに、水族館か動物園か二択って、ちょっとおかしいとは思ったけど……)

  響「……もう、そんなとこ、やっぱり貴音だなぁ」ナデナデ

たかね「あ、あの、その……」

 
969 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 21:29:25.53 :p1xr7Yhy0

  響「おかげでばっちり元気になったぞ、自分! たかね、売店でソフトクリーム食べてかない?」

たかね「そふとくりーむ…… なにやらすてきなおなまえですが、それはいったい!?」

  響「ちょっと違うけど、アイスクリームの親戚みたいなやつだよ」

たかね「あいす!! はいっ、たべたいです! ぜひたべましょう!」

  響「よーし、決まり! 行こっ!」






  響「…… さ、寒いぞぉぉぉぉ……!」ブルブル

たかね「か…… かんがえてみれば、いえ、かんがえずとも、あたりまえでした……」ガタガタ

 
970 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 21:29:54.81 :p1xr7Yhy0

【千早さんはどうしてそうなっちゃったの…?】

 千早「四じ…… たかねちゃん。今、少しいいかしら」

たかね「おや、ちはや。どうしたのですか?」

 千早「ちょっと教えてほしいことがあるの。時間はかからないから」

たかね「わたくしでよろしければ、なんでもおききください!」

 千早「ふふっ、ありがとう。じゃあ…… たかねちゃんの胸囲はいくつあるの?」

たかね「きょうい? きょういとはなんのことですか?」

 千早「ああ、胸囲っていうのはお胸の大きさのことよ」

たかね「おむね、ですか…… じつはわたくし、はかったことがないのです」

 千早「そうなの? ちょうどよかったわ、私、今日は思いがけず偶然たまたまここにメジャーを持っていて」




 美希「………… ち、千早、さん……? たかね相手に、なにしてるの……?」

 千早「」

たかね「きゃははっ! く、くすぐったいです、ちはや! ……ちはや?」

 
971 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 21:30:45.43 :p1xr7Yhy0

【あほのこ】

※ >>463


たかね「どこにもつもっていないではありませんか! だましたのですね!?」

  響「…… たかね、これでひっかかるの何度目だっけ。そろそろ気づこうよ」

たかね「ああっ!? いまのあいだに、おふとんをあげてしまうとは! なんとひれつな!」

  響「ここまでチョロいとかえって不安になってくるぞ、自分」

たかね「おに! あくま! いけず! ひびき!!」

  響「はいはい、まず顔洗っておい……」




  響「…………ちょっと待って!? "ひびき"って悪口あつかい!?」

たかね「いささか、おそすぎませんか?」

  響「否定しないの!?」

 
972 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 21:31:13.65 :p1xr7Yhy0

【我那覇響と四条貴音の場合:えくすとら】

 律子「あれ? あんたたち、もうちょっとでレッスンの時間でしょう?」

 貴音「はい、そうなのですが…… 響、律子嬢の言う通りですよ、そろそろ出立しなくては」

  響「だよね、でもちょっと待って、えっと…… 台本、どこに置いたかなぁ……」

 貴音「まったく、なぜ前もって準備しておかないのですか」

  響「うぅ、ご、ごめん…… すぐ見つけるからさー」

 千早「我那覇さん、これ? ソファのところにあったのだけれど」

  響「あ、それだー! ありがと千早! ごめんごめん、お待たせ貴音。さ、行こっ」

 貴音「ええ、参りまし…… ……あの、響?」

  響「ん? どうしたの、早くー」

 貴音「その…… これは、いったい?」

  響「急に黙っちゃってヘンなの。ほら、いつも通り手を…… っ!?」

 
973 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 21:31:58.04 :p1xr7Yhy0

  響(う、うぎゃー!? たかね連れて歩いてたときのクセでつい無意識にっ!!)

 亜美「ちょっと見ましたオクサマ? 今めっちゃ自然に手ぇ握らせようとしましたザマスよ」

  響「なんなのざますって!? どういうキャラなのさそれ!?」

 真美「んっふっふ~…… ひびきんってば、けっこーガンガンいっちゃう系?」

  響「な、な、なっ、そんな、別にそういうんじゃないってば!」

 貴音「はて…… "そういうの"とは、どういうのを指すのですか、響」

  響「話がややこしくなるから貴音はちょっと黙っててね!?」

 美希「あふ…… そーいえばさっき、響が『いつもどおり』って言ってた気がするの」

 雪歩「や、やっぱり? あれ聞き違いじゃなかったんだ……」

やよい「わたしも聞きましたー! 響さんと貴音さん、なかよしさんですねっ」

あずさ「あら~? なにか面白そうなお話の気配がするかも~、うふふふ」

  響(……まずい! この流れはまずいって自分のカンが言ってるぞ、さっさと出てかないと!)

 
974 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 21:32:36.27 :p1xr7Yhy0

  響「そ、そうだほら…… その、そう自分たちレッスンに遅れちゃうからね!?」

 春香「えー、響ちゃーん、そんなこと言わないでもうちょっと詳しく……」

  響「貴音っ、ぼーっとしてないでさあ行こうすぐ行こう急いで逃げよう!!」

 貴音「は…… きゃっ、あ、あの、響っ!?」

  響「じゃーねみんなっお疲れーっ!!」

バタバタバタ




  真「けっきょく思いっきり手つないで行くんじゃないか」

 伊織「ツッコんだら負けよ。ほっときなさい」




   P「お疲れさまで…… お、音無さん!? 鼻血ですか、大丈夫ですか!?」

 小鳥「………… 生ぎでて…… 生ぎでで、よがっだでず……」

 
975 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 21:33:30.30 :p1xr7Yhy0

【過ぎたるは】

 貴音「あぁ…… まさに、至福です……」

  響(ちっちゃかったころもだけど、ホントにいい顔してココア飲むんだから。ふふ)

 貴音「改めて実感致しました。ここあにはやはり、ましゅまろがなくてはなりません」

  響「それも、ひとつじゃなくてふたつ以上、でしょ?」

 貴音「もちろんです。ところで、響」

  響「なあに?」




 貴音「…… このうえ、おやつにお善哉とお汁粉をいただくことになるのでしょうか?」

  響「……………うん、合わないし、甘味に甘味はキッツいなー。夕ご飯のあとにしよう」

 
976 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 21:33:58.03 :p1xr7Yhy0

【タイトルに忠実に】




 貴音「そういえば、わたくし秘蔵のらぁめんが、確かまだ戸棚に入っておりましたね」

  響「え? 貴音秘蔵の…… って、ひょっとして、カップ麺?」

 貴音「ええ、そうですよ」

  響「……だいぶ前に買ってきてた、限定ものだとかっていう?」

 貴音「その通りです。これは特別な時に食べるのだ、とわたくし、申しましたでしょう」

  響「あ、ああ、そうだったね、ところでさ、貴音」

 貴音「ひとり占めするつもりでしたが、たいへん気分がよいので、響にも分けて差し上げます♪」

  響「あのね、貴音…… ほかでもない、そのカップ麺についてのことなんだけどね?」

 
977 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 21:34:48.62 :p1xr7Yhy0

 貴音「はい?」

  響「そういうわけでね、もうないの」

 貴音「…… はい?」

  響「もう、ないんだよ、あれ」

 貴音「…………響が、わたくしに黙って、食したのですね?」

  響「ちがうよ」

 貴音「ではなぜなくなったのです!?」

  響「貴音…… じゃなくて、たかねが、ね。食べちゃったの」

 貴音「なななな何を言っているのですか、響、だ、だいじ、だいじょうぶ、です、か」

  響「貴音こそ大丈夫? 目が泳ぎまくってるんだけど……」

 貴音「…………」ワナワナワナ

  響「ちょ、ちょっと、貴音? ショックなのはわかるけど…… 聞いてる? ねえ、貴音、貴音――」

 
978 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 21:35:30.85 :p1xr7Yhy0





  響「貴音!?」






 貴音「めんようなーっ!」




979 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 21:36:10.86 :p1xr7Yhy0


  響「貴音!?」たかね「めんような!」

  【すねーく・れっぐす】 おしまい。


980 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 21:36:29.98 :p1xr7Yhy0


…………本当におしまい?


981 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 21:37:01.76 :p1xr7Yhy0













982 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 21:37:53.31 :p1xr7Yhy0

【りばーさる・りはーさる】

 
983 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 21:38:27.83 :p1xr7Yhy0


 貴音(…… 朝、ですね)


 貴音(本日は、ひさびさのおふです。存分に羽を伸ばすと致しましょう)


 貴音(それはそうと、響は…… ああ、やはりもう起き出しているようですね)


 貴音(そうです、本日は響のつくる朝食がいただけるのでした! ふふっ、わたくしは果報者です)


 貴音(すぐに起きてもよいですが…… いま少し、べっどのぬくもりを堪能してから……)




<ガシャーン

 貴音「っ!?」ガバ

 
984 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 21:39:02.08 :p1xr7Yhy0

 貴音「どうしました、何があったのですか、響! 無事で――」




ひびき「あれっ、ここどこ……? それに、おねえさん、だれ?」

 貴音「!?」




 貴音(口元からのぞく八重歯、小麦色の肌…… 聞き紛うはずもない、独特のいんとねえしょん……)

 貴音(それに、腰より下まで届く豊かな黒髪…… なによりこの、碧く澄みきった瞳……!)

 貴音「………… まさか…… 貴女は、響、なのですか!?」

ひびき「おじいー? おばあ、いないの……? いぬみどこ!? う、うぁ、うえぇ……」

 貴音「ちょっ、あの、待っ――」

ひびき「うぎゃー! あんまー! にぃにー、たすけてぇー! うわあああぁーん!!」

 貴音「ああ、どうすれば!? と、ともかく落ち着いてください! 泣かないで、ね、よしよし……」

 
985 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 21:39:28.97 :p1xr7Yhy0


ひびき「ずびっ…… じぶん、な"いてない、もん。かんぺき、だもん」


 貴音「ええ、そうです、偉いですよ。ところで…… 貴女のお名前を、わたくしに教えてくれませんか?」


ひびき「えっと、ひびき…… がなは、ひびき。ごさいだぞ…… じゃない、ごさい、です」


 貴音「やはりそうなのですか…… とても良い名ですね、ひびき」


ひびき「えへへー、そうでしょ? じぶんもすきなの!」


986 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 21:40:09.54 :p1xr7Yhy0

ひびき「ねえ、どうしてかぞくいないの? たかねはいぬとかねことか、きらいなの?」


 貴音「い、いえ、特にそういうわけではないのですが……」


ひびき「それにたかね、ひとりでくらしてるの? あんまーは? おばぁとかは?」


 貴音「よいですか、ひびき。人にはそれぞれ、"ひみつ"がたくさんあるのですよ」


ひびき「ひみつ?」
 

987 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 21:40:50.56 :p1xr7Yhy0


ひびき「たかね…… あのね、じぶん、おなかすいちゃった」

 貴音「おや、これはしたり! 少々お待ちください、すぐ用意しますからね」




 貴音「どうです、ひびき。これこそは人類の誇る至宝のひとつ、らぁめんです!」

ひびき「おいしい! でもじぶん、めんなら、そーきそばがいちばんすきだぞ!」




 貴音「ひびき。お尻を出しなさい」

ひびき「あいっ!?」

 貴音「悪い子には、お尻ぺんぺんです。さあ。はやく」


988 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 21:41:28.31 :p1xr7Yhy0

   P「確かに見た目はよく似てるけど…… その子、本当に響なのか?」

 貴音「はい、おそらくは。いかがしたものかと思い、とりあえずは事務所まで一緒に……」

 小鳥「はーいひびきちゃん、おねえさん怖くないからねー、まずはお写真とビデオ撮らせてねー」

ひびき「う、うとぅるさん……」ガクガク

 貴音「小鳥嬢!?」

   P「ちょっ、音無さん!? めちゃくちゃ怯えてるじゃないですか! やめてくださいよ!」




 真美「ねえねえ、亜美。真美はこれお姫ちんがカンケーしてるとニラんでるんだけど、どーよ」ヒソヒソ

 亜美「間違いないね。お姫ちん、ひびきんが好きすぎて、黒まほーかなんかでコドモにしちゃったんだよ」ヒソヒソ

 貴音「二人ともわたくしを一体なんだと思っているのです!?」

 
989 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 21:41:56.19 :p1xr7Yhy0

あずさ「あらあら…… ほんとにそっくり。可愛いですね~、響ちゃんの親戚の子ですか?」

 律子「あずささん、話聞いてましたか!? この子が響本人なんですよ!?」

 春香「かーわーいーいー!! ちっちゃかった響ちゃんがもっとちっちゃくなったらもっとかわいいぃー!!」

やよい「……う? 千早さん、どうしたんですかー? 寒いんですか?」

 千早「いいえ、大丈夫よ高槻さん。新たな世界が開けそうなだけ。これはいわば、武者震い」ブルブル

 伊織(いざという時はアレ止めなさいよ、真)

  真(え、ごめん。ボク今の千早をどうにかできる自信ないんだけど)

 雪歩「ねえひびきちゃん四条さんと一緒に住んでるんでしょちょっとお話詳しく聞かせてほしいなねえねえねえねえ」

 美希「もー、なんなの、みんなうるさいの…… ひびき、ミキといっしょにソファいこ?」

ひびき「あいえなー! あきさみよー!!」ガタガタガタ




 亜美「マズいよ真美、お姫ちんよりヤバいメンツがちょこちょこいるよーな気がするよ」ヒソヒソ

 真美「ちびっ子ひびきんのパゥアーをナメてたね…… ま、あとはがんばってね、お姫ちん」ヒソヒソ

 貴音「二人ともわたくしに一体どうしろというのです!?」

 
990 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 21:42:24.89 :p1xr7Yhy0

 貴音「よいですか、ひびき? 小鳥嬢や高木殿の言いつけを、ちゃんと聞くのですよ」

ひびき「うんっ、だいじょうぶだぞ! じぶん、かんぺきだもん!」

 貴音「ふふ、その様子なら心配なさそうですね。では、行って参ります」

ひびき「いってらっしゃーい! たかね、きをつけてねー!」




ひびき「ねえねえ、ことり。ことりっておなまえなのに、おうむとか、かわないの?」

 小鳥「うーん、一人暮らしだとなかなか難しいのよねえ」

ひびき「えっ、ことりもかぞく、いないの? ひとりでおうちにすんでたら、さびしくない?」

 小鳥「…………」




 小鳥「ガフッ、ゴハァッ」

ひびき「うぎゃーっ!?」

 高木「我那…… ひびき君、こちらへおいで。それ以上は音無君が危ない」

 
991 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 21:43:03.62 :p1xr7Yhy0

 貴音「動物園…… ですか?」

ひびき「うちなーよりずーっとおおきいのがあるんでしょ? たかね、おねがい、つれてって!」

 貴音(はて…… 困りました、本来なら響のほうがよほど詳しいはずですが……)




ひびき「なんでだめなの!? じぶん、はいってみたい! いこうよたかねぇー!」

 貴音「な、なんででも、絶対に駄目です。あの館だけはいけません」

ひびき「やだやだーっ!! せっかくきたんだからぜんぶみたいぞー!」

 貴音「聞き分けなさい、ひびき。世の中にはこれ以上の理不尽など、いくらでもあるのですよ」

ひびき「う…… うぎゃー!! たかねのけちんぼー!! ばがー!! うわあぁぁん!!」

 貴音(ひびきの涙を見るのは胸が痛みますが…… 心を鬼にするのです、四条貴音……!)

 貴音(爬虫類館、など…… 絶対にあれがいるに決まっております! そこだけはなりません!!)ガクガク

 
992 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 21:43:39.69 :p1xr7Yhy0

ひびき「たかね、たかねっ!! みてみて! そらからいっぱい、しろいのがおちてくるぞ!」

 貴音「ふふっ…… あれは、雪というのですよ。おや、ひょっとして、ひびきは初めて見るのでしたか」

ひびき「うん! きらきらしてて、きれい…… たかね、おでかけしよ! じぶん、あれさわってみたい!!」




ひびき「うわぁ、わぁぁーっ……! すごい、まっしろ! せかいじゅうまっしろ!!」

 貴音「まことよく積もりましたね。どうぞ、存分にさわってごらんなさい」

ひびき「わっ…… つ、つめたい! でも、かるくて、あっ、なくなっちゃった!?」

 貴音「雪は、触れると溶けてしまうのです。すぐになくなってしまうからこそ、美しいのかもしれませんね」

 
993 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 21:44:08.04 :p1xr7Yhy0



 貴音「ひびき、お母様にもお兄様にも、ずいぶん会っていないでしょう。寂しくありませんか?」



ひびき「うーん…… さいしょはそうだったけど、いまはたかねがねえねだもん! さびしくなんかないぞ!」



 貴音「ねえね? …………わたくしが?」



ひびき「うん! ふしぎでやさしくて、きれいで、かっこいい、じぶんのじまんのねえね!」


994 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 21:44:37.29 :p1xr7Yhy0

 貴音「確かに、本当に楽しく…… そして心地よい毎日です。しかし、このままでよいわけがありません」


   P「元に戻る方法だって見つかるかもしれないし、あんなに貴音になついてるんだ。そう急がなくても……」


 貴音「いずれ迎えねばならぬことなら、早い方がよいに決まっております。ですから、高木殿」


 高木「もちろん手配自体は、そう難しいことではないが…… それで本当によいのかね。四条君」


 貴音「二言はございません。ひびきのためを思えば、それが最善かと」


995 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 21:46:28.12 :p1xr7Yhy0


 貴音「ひびき。お夕飯のあとで、大事なお話があります」






ひびき「えっ、なになに? ひょっとして、たかね、またどこかつれていってくれる?」


996 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 21:47:05.60 :p1xr7Yhy0



ひびき「どうして……? どうして、かえれなんていうの!?」



 貴音「貴女は故郷にご家族がいるのです、ひびき。わたくしと居続けても、ためになりません」



ひびき「たかね、たかねは、じぶんのこときらいになったの? もう…… ねえねじゃ、いてくれないの……?」



 貴音「…………っ!!」


997 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 21:47:46.54 :p1xr7Yhy0

   P「本当に行かなくていいのか、貴音。ひびきと約束したんじゃなかったのか」

 貴音「わたくしがいては余計に収拾がつかなくなるでしょう。ひびきのこと、どうかよろしくお願い致します」

   P「…………」






ひびき「なんで! なんでぇっ!? ねえはるか、たかねは!? なんでたかねいないの!?」

 春香「…… あのね、ひびきちゃん。貴音さんは急にお仕事が入っちゃって、今日はどうしても……」

ひびき「うわああああん!! うそつき、たかねのうそつきーっ! おみおくりしてくれるって、やくそくしたじゃないかぁぁ!!」

 
998 :◆ccGlDikGP2 :2016/03/22(火) 21:48:31.39 :p1xr7Yhy0


ひびき「たかねー!」貴音「面妖な……」
http://ex14.vip765ch.com/test/read.cgi/uso800desu/xxxxxxxxxx/








※埋めネタです。続きません。


SS速報VIPに投稿されたスレッドの紹介です