【SS速報VIP】モバP「高垣楓」
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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/24(日) 23:04:03.89 :zFmBZDss0

短い 
地の分のみ


2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/24(日) 23:05:52.61 :zFmBZDss0

一目惚れ。 

俺にとっての彼女との出会いは、その一言に尽きる。 

得意先の会社へ打ち合わせに行ったとき、偶然、彼女とすれ違ったのだ。 

ただ、それだけ。 

たったそれだけだったが、俺はその一瞬でその目を奪われた。 

整った顔立ち、目を見張るスタイルのよさ、上品な立ち振る舞い。 

それらすべてに俺の瞳が、俺の中の男が、惹きつけられた。 

彼女は売れる。トップアイドルになれる。 

そんな確信めいたが俺の心を一瞬にして満たしていた。 

俺は得意先の打ち合わせも忘れ、彼女に声を掛け、必死とアイドルにならないかと説得した。


3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/24(日) 23:06:50.80 :zFmBZDss0

彼女は俺の突拍子もない行動に、いぶかしみ、戸惑っていたようにも思う。 

確かに我ながら、最悪の交渉だったと思う。突然声をかけ、アイドルにならないかと誘う。 

ナンパまがいの声の掛け方だ。下手をすれば通報されかれなかった。 

それほどまでに、俺は彼女に必死だったのだ。 

彼女は、俺の必死の言葉に耳を傾けてくれた。 

それが堪らなく嬉しかった。プロデューサーとしても、一人の男としても。 

話終えると、彼女は、少しだけなら、と頷いてくれた。 

それが、俺と彼女の始まりであり 

俺の人生の歪みの始まりでもあった。 


4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/24(日) 23:08:02.01 :zFmBZDss0

スカウトから数ヶ月。 

彼女の実力は驚くほどに向上していった。 

特に歌唱力の面はずば抜けており、100年に一人の逸材だ、とも言われていた。 

そんな彼女を世間が放っておくわけもなく、瞬く間にその知名度は増していった。 

俺は鼻が高かった。 

そんな彼女を見つけ出したということに。 

そんな彼女の傍にいられるということに。 

その頃の彼女との間柄は友好だったかに思う。 

酒を誘うこともあったし、誘われることもあった。 

交友を重ね、彼女を知れば知るほど、彼女に惹かれていった。 

彼女と共にいられる時間はとても幸せで、当時はそれさえあれば他は何もいらなかった。 

アイドルとプロデューサーとの垣根を何度越えたいと思ったかわからない。 

それでも俺と彼女はプロデューサーとアイドルだ。 

超えることなど許されない。 

代わりにと、俺は彼女を必ずトップアイドルに導くと、約束した。 

彼女もそれに、自分も必ずトップアイドルになる、と約束してくれた。 


5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/24(日) 23:09:10.51 :zFmBZDss0

幸せだった。本当に。 

思えば、その頃が幸せの絶頂であったと思う。 

その幸せが永遠に、永遠に続けばいいと願っていたのに。 


6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/24(日) 23:11:11.61 :zFmBZDss0

やがて、彼女は本格的に売れ始めた。様々なメディアの露出が増えていき、まさに引っ張りだこ、という状態だった。 

それと同時に彼女の働きを評価された俺は、彼女だけでなく、ほかのアイドル達のプロデュースも任されるようになっていた。 

当然、俺も彼女も仕事に追われるようになり、互いの時間を持つことができなくなっていった。 

週に一度でも顔を合わせられれば運がいいといえる程に。 

それでも俺は彼女を支えたい、彼女との時間を作りたいという一心で仕事を消化していった。 

エクセルの一文字を打つことが彼女の助けになる。彼女との時間が増える、と一心不乱と働いた。 

ほかのアイドル達が俺が必要ないようにとセルフプロデュースの術を身につけさせていった。 

まさにそれは、身を削るという言葉そのものだった。 

睡眠時間も十分に取れなくなり、疲労は段々と蓄積していく。 

それでも、俺は辛いと思ったことがなかった。 

それほどまでに彼女の為になりたかったから。 

彼女の傍にいたかったから。 

彼女を想っていたから。 


愛していたから。


7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/24(日) 23:12:14.54 :zFmBZDss0

だが、そんな生活も長く続かなかった。 

少ない睡眠時間、蓄積する疲労、膨大な仕事、他のアイドル達のミス、彼女に会えない時間。 

それらについに俺の体が悲鳴をあげてしまった。 

会社の中で俺は意識を失い、倒れてしまったのだ。 

原因は当然過労。 

俺は入院を余儀なくされた。 


8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/24(日) 23:14:21.31 :zFmBZDss0

そのことは当然、彼女の耳に届いていた。 

入院して2日目、彼女は自分が忙しいにもかかわらず、俺に会いにきてくれた。 

前回会ってから一月以上たっていたかと思う。 

彼女と会えたのは、心の底から嬉しかったが 

こんなところで顔を合わせてしまったこと。 

そして、彼女も疲れているというのに、自分だけ倒れてしまったことが、酷く情けなく思えてしまった。 

そのときの俺は思うように笑えていなかったと思う。 


どうして俺は、ちゃんと笑えなかったんだ。 


入院期間は5日と短いものだった。 

しかし、そのたった5日で俺と彼女の運命は決まってしまっていた。


9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/24(日) 23:16:28.57 :zFmBZDss0

病院を退院し、倒れた分を取り返せねばと出社したとき、俺を待っていたのは 

部長の高垣楓のプロデュースの任を解く、という言葉だった。 

目の前が真っ白になった。どうしてという言葉が頭の中を埋め尽くした。 

気づかぬうちに俺は部長に詰め寄って、なぜと叫んでいた。 

部長は俺と彼女を引き裂く理由を話していたが、よく覚えていない。 

ただ、唯一覚えているのは。 


彼女に、高垣楓に別のプロデューサーを付け、その任に俺がもう付くことはない。ということだった。 


どうして俺はあの時倒れてしまったのかと、未だに自分を責めている。 

倒れなけば、平気と仕事をしていればと、悔やまない日はない。 

どうして、俺は倒れてしまったのだ。 

どうして……。


10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/24(日) 23:17:48.84 :zFmBZDss0

それから俺はどん底まで堕ちていった。 

営業成績は急落し、書類の作成もままならず 

他のアイドル達のプロデュースもおろそかになって行った。 

築き上げた会社、得意先、アイドル達の信用も崩れ去っていった。 

それに比べて、彼女はどんどんと先へ進んでいった。 

大きな会場でのソロライブもこなし、レギュラー番組の司会も努めるようになっていった。 

そんな彼女の功績に対し、後任が持て囃される。 

やつは大したことはしていないのに、ほぼ、彼女のセルフプロデュースで成り立っているというのに。 

それなのに、どこの馬とも知れないやつが皆から認められる。 

俺が見つけてきたのに、俺が彼女と一緒に歩んできたのに。 

それが酷く不快だった。 

しかし、それ以上に、彼女は俺から離れたというのに、以前とまったく変わらないということに酷く悲しくなった。 


11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/24(日) 23:19:03.94 :zFmBZDss0

そして遂に俺は、詐欺まがいの仕事を契約をし、会社に多大な損害を与えてしまう。 

しかし、俺はそれらに何の思いも持たなかった。 

もう、何もかもどうでも良くなってしまっていた。 


やがて、俺は会社を首になった。 

会社を辞めることに悔いはなかったが 

彼女をトップアイドルに導くという約束を果たせなかったことを、酷く悔やんだ。 


12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/24(日) 23:20:55.60 :zFmBZDss0

そして現在。会社を辞めてから3ヶ月くらいたっただろうか。 

俺は誰もいない実家で引きこもっていた。 

毎日ただただテレビを眺め、眠る。そんな生活を送っている。 

テレビを眺める理由はただ一つ。 

彼女のトップアイドルになった姿をその目に納めるためだ。 

それさえできれば、もう俺に後悔はなかった。


13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/24(日) 23:21:58.82 :zFmBZDss0

俺は彼女がトップになるのは近いうちだと確信していた。 

そしてその確信通り、その時はすぐにやって来た。 

年に一度のアイドルランク発表の日。 

テレビではその様子が放送されていた。 

10位から順に名前が発表されていく。 

俺は妙な安心感の中、それただ呆然と眺めていた。 

そして遂に、一位の名前が発表された。 

当然名前は高垣楓。 

発表と同時に彼女が控えから顔を出す。 

テレビの向こうの彼女は満面の笑みを浮かべると同時に、喜びに涙を流していた。 

その姿をみて、俺は心の底からの喜びをかみ締めた。


14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/24(日) 23:22:50.38 :zFmBZDss0

「おめでとう、楓さん」 



これで、後悔はもう何もない。 

これが俺のすべてだったのだから。 





15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/24(日) 23:25:20.61 :zFmBZDss0

終わり 
なんか違うなぁ 


17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/24(日) 23:31:49.46 :Z5KO306+o
乙乙 
一流アイドルともなれば、すれ違っただけの人が身を持ち崩すなんてこともあるんかもね 
ちょっとだけ谷崎を連想した


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