1:2013/10/03(木) 11:02:17.62 :qq4UNX1H0

競馬中心のSSになります。 

終盤に鬱展開があります。 

お気をつけください。


2:2013/10/03(木) 11:04:58.54 :qq4UNX1H0

   2011年5月7日(土)12:20 社長室 

P「失礼しまーす」 

社長「おお、来てくれたか! ま、そこに掛けてくれたまえ」 

P「はい。ところで、俺に話って何ですか?」 

社長「まあ、そう慌てなさんな。このレースが終わるまで、少し待っていてくれたまえ」 

 『さあこれから第四コーナーのカーブ。各馬、直線コースに入ります』 

P「社長、競馬を見ていたんですか? ……ん?」 

 『ここで一気にフレールジャック!』 

P「え!? 速っ!?』 

 『フレールジャック、勢いがまるで違う!』


3:2013/10/03(木) 11:07:23.18 :qq4UNX1H0

P「何だあの黒い馬、めちゃくちゃ速い!?」 

 『あっという間に、前の各馬を抜き去りました!』 

P「うわ、強! 一瞬でほかの馬をぶっちぎったぞ!」 

社長「ほほう。やはりキミも、ティンときたかね」 

 『フレールジャック、今一着でゴールイン! デビュー戦を鮮烈に飾りました!』 

P「へえぇ、デビュー戦だったのか。とてもそうは見えなかったぞ……」 

社長「ふむ、なかなかのものだ。今後も忘れずにチェックするとしよう」 

P「……あ、すいません。もう大丈夫ですか?」 

社長「おお、すまんすまん! いや、大した話じゃないんだがね」


4:2013/10/03(木) 11:10:09.85 :qq4UNX1H0

社長「アイドルたちの、最近の調子はどうかと思ってね」 

P「はい。みんな確実に、少しずつ成長していってくれてます」 

社長「そうか。私が見る限り、彼女たちもキミを非常に気に入ってるようだよ」 

P「いえ、俺なんかまだまだですよ。みんなの足を引っ張ってばかりで……」 

社長「そんなことはないさ。もっと自信を持ちたまえ」 

P「社長……ありがとうございます」 

社長「今後ともよろしく頼むよ、キミぃ!」 

P「はい! 全力で頑張ります!」


5:2013/10/03(木) 11:13:32.04 :qq4UNX1H0

   2011年5月22日(日)13:10 社長室 

P「社長、すみません。少しお話が……あれ」 

 『先頭はカリスマミッキーまだ粘っている。しかし、一気に後続が殺到します!』 

P「また競馬ですか?」 

社長「そう言うなよキミぃ。あの馬、キミも見覚えがあるだろう?」 

 『フレールジャックが先頭に立ちました! あっという間にリードを広げます!』 

P「あ、あれは……この間の」 

社長「そう、彼だよ」 

 『フレールジャック、今1着でゴールイン! 2連勝です!』 

P「相変わらずの強さですね」 

社長「なかなか有望そうだろう? ところでキミ、用件は何かね?」 

P「あ、はい。明日の響のオーディションの件ですが――」


6:2013/10/03(木) 11:17:35.67 :qq4UNX1H0

   2011年5月23日(日)15:00 オーディション控え室 

P「やったな響! 合格おめでとう!」 

響「へへん、自分にかかれば当然だぞ!」 

P「これで、オーディション二連続合格か」 

響「この調子なら、ランクアップも間違いなしだね!」 

P「いやあ、さすが響だよ!」 

響「いいや、自分だけの力じゃないよ」 

P「へ?」 

響「プロデューサーが、ずっと近くで見ててくれたからさ!」 

P「そうかぁ? 俺の力は、あんまり関係ないと思うけどなぁ」 

響「そんなことないって! プロデューサー、これからもよろしく頼むぞ!」 

P「ああ! もっともっと、一緒に高みを目指そうな!」


7:2013/10/03(木) 11:20:07.15 :qq4UNX1H0

   2011年7月3日(日)15:45 Pの自宅 

P「ふぅ……。久しぶりの休日だし、くつろがないと損だよな」 

P「テレビでも見るか」プチッ 

 『二番手にマイネルラクリマ、さらにはヒラボクインパクトが続いていきます』 

P「競馬中継か。ん?」 

 『さあ最後の直線! ここで一頭、外から上がってきました!』 

P「あの黒い馬、見覚えがあるぞ。名前は……えーっと」 

 『やってきたのはフレールジャックです!』 

P「そうだ、フレールジャックだ」 

 『外からフレールジャック! ここで粘るマイネルラクリマをとらえました!』 

P「おお……!」


8:2013/10/03(木) 11:23:23.24 :qq4UNX1H0

 『フレールジャック、ゴールイン! これで無傷の三連勝です!』 

P「いやあ、また勝っちゃったよ」 

P「……本当に強いな、この馬」 

P「迫力があるというか、他の馬を抜くときの切れ味がすごいというか」 

P「この分なら将来、とんでもないスターホースになるんじゃ……」 

P「…………」 

P「……しばらく応援してみようかな、この馬」 

P「えーっと、次はいつ走るんだろうか?」 

P「社長なら知ってるかな?」


9:2013/10/03(木) 11:26:23.28 :qq4UNX1H0

   2011年7月10日(日)11:00 事務所 

美希「ハニー! 見て見てなの!」 

P「どうしたんだ美希? これは、今日発売のアイドル雑誌か?」 

美希「じゃーん! ミキの写真、こんなにおっきく出てるよ!」 

P「おおスゲエ! あ、こっちにも! おお、こっちの雑誌にも!」 

美希「この雑誌なんて『将来のスター間違いなし』って書いてくれてるの!」 

P「ああ、なれるよ! 美希なら絶対になれる!」 

美希「ミキ、もっともっとキラキラするの! 次のお仕事、早く来ないかなぁ……」 

P「よし、まかせろ美希! 俺が今すぐ取ってきてやるからな!」 

美希「ホント!? さすがハニーなの!」 

P「お、おいおい美希、そんなにくっつくなって!」 

美希「ハニー、大好きなのー!」


10:2013/10/03(木) 11:29:31.50 :qq4UNX1H0

   2011年9月25日(日)15:35 オーディション控え室 

春香「プロデューサーさん、遅くなってごめんなさい!」 

P「おう、お疲れ春香! 結果はどうだった?」 

 『スマートロビンがレースを引っ張ります。そのリードは三馬身』 

春香「あれ? プロデューサーさんが見てるテレビ、競馬ですか?」 

P「実は最近、注目してる馬がいてな。フレールジャックっていうんだ」 

春香「へえ……。その馬、速いんですか?」 

P「速いなんてもんじゃない! ちょっと見てみるか?」 

春香「はい! どれどれ……」


11:2013/10/03(木) 11:32:13.87 :qq4UNX1H0

 『オルフェーヴル先頭! これを追ってウインバリアシオン!』 

春香「ん……?」 

 『後方からフレールジャックがようやく追い込んで、三番手をうかがっています!』 

P「あ、あれ……?」 

 『オルフェーヴルゴールイン! 2着にウインバリアシオン!』 

P「負け……た……?」 

 『3着はフレールジャックが上がったか』 

春香「えーっと……3着だったみたいですね」 

P「……なぜだ」 

春香「勝ったお馬さん、金色に輝いててかっこいいなぁ」 

P「…………」 

春香「プ、プロデューサーさん? 大丈夫ですか?」 

P「あ? あ、ああ。すまない春香」


12:2013/10/03(木) 11:35:22.51 :qq4UNX1H0

P「で、結果はどうだったんだ?」 

春香「えーっと、3位でギリギリ合格でした」 

P「ギリギリでも合格は合格だ。おめでとう!」 

春香「ありがとうございます……はぁ」 

P「……? どうしたんだ、ため息なんてついて」 

春香「1位と2位の人とは、すごい点数の差があって……」 

P「あ……なるほどな」 

春香「ダンスもボーカルも、今の私とはちょっとレベルが違うなって……思いました」 

P「……そうか。トップを目指すには、もっともっと努力しないといけないな」 

春香「もちろんです! 今回負けた人に追いつけるように、これから精一杯練習します!」 

P「その意気だ! 一緒に頑張ろう、春香!」 

春香「はい! 次こそは1位通過しちゃいますよ! 1位通過!」


13:2013/10/03(木) 11:38:15.18 :qq4UNX1H0

   2011年10月23日(日)15:40 Pの自宅 

P「社長から仕入れた情報によると、今日の大レースにあの馬が出るらしい」 

P「そろそろ始まる時間かな」ポチッ 

 『スタートしました! 第72回菊花賞の発走です!』 

P「よし、いいスタートを切ったぞ! 頑張れフレールジャック!」 

 『先頭集団にフレールジャック。人気のオルフェーヴルは中団からレースを進めています』 

P「このレースには、前回負けた馬が出てるみたいだが……」 

 『ウインバリアシオンは最後方待機の作戦か』 

P「二度は遅れを取らないはずだ! 普通に走れば……ん!?」 

 『おっと!? レースは中盤ですか、今度はフレールジャックが先頭を奪いました!』 

P「え!? なんだなんだなんだ!? 急に先頭に立っちゃったぞ!?」 

 『フレールジャックがレースを引っ張ります! これは意外な展開となりました!』 

P「そんな無茶なレースをして、大丈夫なのか……?」


14:2013/10/03(木) 11:41:25.10 :qq4UNX1H0

 『さあ第四コーナーのカーブ! フレールジャックは四番手に後退しています!』 

P「ああ……こりゃダメだ……」 

 『これが三冠だ! オルフェーヴル強い! ウインバリアシオン追い込んで二番手!』 

P「このオルフェーヴルって馬も、やっぱり強いなぁ……」 

 『オルフェーヴル、最後は流してゴールイン! ウインバリアシオン2着!』 

P「…………」 

P「10着ぐらいかな……」 

P「…………」 

P「……確かに上位の馬たちは強いけど」 

P「相手以前に、自分に負けたような感じがするな……」


15:2013/10/03(木) 11:44:14.06 :qq4UNX1H0

   2011年10月29日(土)15:40 オーディション控え室 

雪歩「プロデューサーごめんなさいぃ! 私……やっぱりダメダメですぅ」 

P「そんなに落ち込むなって、雪歩。不合格で悔しい気持ちはわかるけどさ」 

雪歩「……あの、プロデューサー」 

P「ん?」 

雪歩「今回の私、何がいけなかったんでしょうか……?」 

P「うーん。今日の演技は全体的に、レッスンよりも気負ってたように見えたぞ」 

雪歩「うぅ……絶対に受からないといけないって思ったら、固くなっちゃって……」 

P「そっか……。自分に勝つのって、本当に難しいよなぁ……」 

雪歩「で、でも私、同じ失敗はしません!」 

P「お!」 

雪歩「次のオーディションでは、どんなことがあっても自分に勝ってみせますぅ!」 

P「その意気だ雪歩! 雪歩の芯の強さがあれば、絶対に勝てるとも!」


16:2013/10/03(木) 11:47:22.96 :qq4UNX1H0

   2011年12月3日(土)15:45 Pの自宅 

P「いやあ、土曜日に休みなんて、何だか久しぶりだぞ……」 

P「そういえば今日は、あの馬が走る日だったかな?」ポチッ 

 『スタートしました! 第64回鳴尾記念の発走です!』 

P「お、始まった始まった。いいスタートだな!」 

 『ミッキーパンプキンとダノンスパシーバが、並んで先頭に立ちます』 

P「今回のレースに、前回上位に来た馬は出ていない」 

P「あとは自分にさえ負けなければ……」 

 『フレールジャックはいい手ごたえで、中団を追走していきます』 

P「おお、今日はリラックスして走れてるんじゃないか?」 

P「この分なら……」 

 『最終コーナーをカーブして、直線コースに入ります!』 

P「勝てる!」


17:2013/10/03(木) 11:50:18.55 :qq4UNX1H0

P「前回に比べて相手は格下のはず! ここから一気に伸びて!」 

 『外から追ってくるのはレッドデイヴィス、フレールジャックはその内!』 

P「……あら?」 

 『レッドデイヴィスが先頭だ! 迫るショウナンマイティ、サダムパテック!』 

P「お、おいおい……」 

 『ショウナンマイティ前に迫ってくるが、レッドデイヴィスゴールイン!』 

P「…………」 

 『2着ショウナンマイティ、3着サダムパテック、4着にフレールジャックです』 

P「……負けた」 

P「相手は格下だと勝手に思ってたけど……」 

P「何か、普通に強かったな……」


18:2013/10/03(木) 11:53:22.48 :qq4UNX1H0

   2011年12月10日(土)10:00 事務所 

P「亜美、真美。明日はオーディションだぞ? レッスンは大丈夫か?」 

亜美「だいじょーぶだよ! 明日の相手って、ランクが下の人ばっかりなんでしょ?」 

P「……何?」 

真美「らくしょーに決まってるって! だから兄ちゃん、真美たちと一緒にあそぼーよ!」 

P「……そういう甘い考えはやめておけ」 

亜美「へ? だって、負ける可能性なんて――」 

P「そんなふわふわした気持ちで、100パーセント勝てるって断言できるのか?」 

真美「そ、そりは……」 

P「油断してると足元をすくわれるぞ! 相手はみんな、全力で挑んでくるんだからな!」 

亜美「……兄ちゃんごみん」 

真美「真美たちが間違ってまちた……」 

P「わかればいいんだ。さ、レッスン頑張ってこい」 

亜美真美「「はーい!」」


19:2013/10/03(木) 11:56:11.16 :qq4UNX1H0

   2012年2月5日(日)15:45 Pの自宅 

P「ふう……ここの所忙しくて、疲れがたまってる気がするぞ」 

P「でも、弱音を吐いてる場合じゃない。アイドルたちは、もっと大変なはずだしな!」 

P「さて、時間時間っと」ポチッ 

 『スタートしました! 第62回東京新聞杯の発走です!』 

P「よし、今回もいいスタートだ!」 

P「さあフレールジャック、今日はどのぐらいの位置につけるんだ?」 

 『フレールジャックは五、六番手。その外側にサダムパテック』 

P「ふーむ、前回と同じぐらいの位置か」 

P「今日こそ、昔みたいな迫力あるレースを見せてくれよ……」 

 『コスモセンサーが先頭で、第四コーナーをカーブしていきます!』


20:2013/10/03(木) 11:59:12.39 :qq4UNX1H0

P「よし行け! 頑張れフレールジャック! 頑張れー!」 

 『ミッキードリーム、フレールジャック、マイネルラクリマ上がってくるが!』 

P「あ、あれ……全然伸びないぞ……」 

 『コスモセンサー逃げる、ガルボが二番手に上がってきた!』 

P「ど、どうしたんだ……」 

 『ガルボとコスモセンサー、並んだ並んだわずかにガルボかゴールイン!』 

P「…………」 

P「……7着ぐらいか」 

P「何というか……普通に負けたな……」 

P「うーむ。迫力がかけらも感じられなかったぞ」 

P「もしかして、体調がよくなかったのか……?」


21:2013/10/03(木) 12:03:33.42 :qq4UNX1H0

   2012年2月11日(土)13:00 事務所 

P「……ん? やよい、何だか顔色が悪くないか?」 

やよい「だ、だいじょうぶです! 私は元気です!」 

P「本当か? ちょっと額を触るぞ」 

やよい「あ……」 

P「って、やよい! すごい熱があるじゃないか!」 

やよい「こ、これぐらいへっちゃらです! 午後のレッスンに行ってきますね!」 

P「ダメだやよい! 今日は早く帰って、ゆっくり休むんだ!」 

やよい「で、でも、オーディションが近いのに休むなんて……」 

P「無理して悪化して、本番で力を出せなかったらどうするんだ?」 

やよい「うぅ……」 

P「それに俺だけじゃない。やよいの兄弟たちにも、心配をかけることになるんだぞ」 

やよい「……わかりました。プロデューサーのお話が、ぜーんぶ正しいと思います」 

P「ああ、よろしく頼むぞ。体調管理だって、立派なアイドルの仕事なんだからな?」


22:2013/10/03(木) 12:06:20.30 :qq4UNX1H0

   2012年7月8日(土)13:00 社長室 

P「社長、お話とは何でしょうか?」 

社長「まずは、彼の近況からだ」 

P「彼? 誰ですか?」 

社長「フレールジャック君だよ。忘れたとは言わせないぞ、キミぃ」 

P「あ、ああ……。そういえば最近、走ってないですね」 

社長「今は長期休養中で、復帰は秋になるそうだよ」 

P「な、なるほど。わざわざ教えていただき、ありがとうございます」 

社長「それから次は、律子君のアイドル復帰の件だ」 

P「え!? 律子がアイドルに戻るんですか?」


23:2013/10/03(木) 12:09:30.22 :qq4UNX1H0

社長「やはり、律子君にはアイドルの舞台が似合う。そうは思わんかね、キミ?」 

P「それは、まあ確かに……そうですね」 

社長「プロデュースは、もちろんキミにまかせるつもりだよ」 

P「わかりました。全力で取り組みます」 

社長「うむ、よろしく頼むよ。それから最後にもう一つ、キミに伝えておこう」 

P「何です?」 

社長「律子君が、今後のオーディションでトップを取り次第……」 

P「取り次第?」 

社長「新たなユニット、『765スターズ』を発足させるつもりだ」 

P「何だか野球チームの名前みたいですね……。ところで、メンバーは誰ですか?」 

社長「キミも何となく、予想がつくんじゃないのかね?」 

P「……もしかして」 

社長「その通り! 律子君を含めた、765プロ全員がメンバーだよ!」


24:2013/10/03(木) 12:12:19.22 :qq4UNX1H0

   2012年9月8日(土)15:35 事務所 

P「ふぅ……」 

P「いよいよ今日が、律子の復帰後初オーディションか」 

P「現地までついてこなくていい、なんて言われたけど……」 

P「……不安だなあ」 

P「テレビでもつけて、気を紛らわすか」ポチッ 

 『さあ、先頭はワンダームシャ。軽快に飛ばしていきます』 

P「お、競馬中継。そういえば、あの馬もそろそろ復帰するらしいけど……」 

 『そして二番手には、休み明けとなるフレールジャック』 

P「あ! いた!」 

 『さあ七か月ぶりとなるフレールジャック、果たしてどういったレースを見せるのか』 

P「そうか、今日が復帰戦だったのか。これはナイスタイミングだったな」


25:2013/10/03(木) 12:15:24.94 :qq4UNX1H0

 『これから最終コーナーをカーブ。最後の直線です!』 

P「さて、どうなる?」 

 『さあ、ここで先頭が変わった! フレールジャックが先頭だ!』 

P「おおっ!? ひ、久しぶりに勝つのか!?」 

 『しかし追ってくるのはランリョウオー! 残り200メートル!』 

P「ま、まずい! 追っかけてくる馬が速い!」 

 『ランリョウオーが追い上げるが、内で粘るフレールジャック!』 

P「粘れ粘れ粘れ粘れ粘れ! 頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ!」 

 『フレールジャックかランリョウオーか、二頭並んでゴールイン!』 

P「ど、どっちだ!? どっちが勝った!?」


29:2013/10/03(木) 18:05:11.35 :qq4UNX1H0

 『わずかにフレールジャック、粘り通したか!』 

P「か、勝ったのか……!?」 

P「……よ」 

  ガチャ 

律子「プロデューサー、戻りました――」 

P「よっしゃああああああああ!!」 

律子「ひあああああああああっ!?」 

P「え!? あ、律子」 

律子「び、びっくりさせないでください! いきなり大声出して!」 

P「お、おお……すまんすまん。悪かった」


30:2013/10/03(木) 18:07:54.30 :qq4UNX1H0

律子「ところで、誰から聞いたんですか?」 

P「へ、何を?」 

律子「とぼけないでください。今日のオーディションの結果です」 

P「いや、俺知らないけど?」 

律子「またまたウソばっかり。私の結果を聞いて、思わず叫んじゃったんですよね?」 

P「ちなみに何位?」 

律子「一位です」 

P「……マジ?」 

律子「マジです」 

P「本当に? 復帰戦でいきなり一位なの?」 

律子「あのねえ。この状況で、私が嘘を言うとでも――」 

P「よっしゃあああああああああああ!!」 

律子「ひゃああああああああああああ!?」


31:2013/10/03(木) 18:09:56.07 :qq4UNX1H0

   2012年10月1日(月)15:30 Pの自宅 

P「いよいよ明日から、『765スターズ』の活動が始まるんだなぁ……」 

P「きっとこれまで以上に、忙しくなるに違いないぞ!」 

P「今日はゆっくり休んで、明日への英気を養わないとな!」 

P「……っと、そろそろか。テレビテレビ」ポチッ 

 『スタートしました! ポートアイランドステークスの発走です!』 

P「よし、いいスタートだなフレールジャック! 昔と変わらずに!」 

P「さて、どのあたりの位置を取るんだ……お」 

 『フレールジャック、今日は後方からレースを進めます』 

P「ふーん、この間よりもずいぶん後ろだな」 

P「でも復活した今なら、多少後ろからでも勝てるはずだ!」 

 『ガンダーラにミキノバンジョーが迫る! 第四コーナーをカーブしていきます!』


32:2013/10/03(木) 18:12:18.08 :qq4UNX1H0

P「よし、ここから一気に……ん?」 

 『おっとフレールジャック、ちょっと前が壁になっている!』 

P「な、何だ? フレールジャックの前に、馬群が密集してるぞ……!?」 

 『ミキノバンジョー粘るが、オリービンが上がってくる! さらにゴールスキー!』 

P「ま、前が壁になって進路がない! もうすぐゴールだってのに!」 

 『フレールジャックは馬群の中だ! これは厳しいか!』 

P「あ、ああっ……ああ」 

 『先頭はオリービンか、ゴールスキーか並んでゴールイン!』 

P「……13着ぐらいか……?」 

P「いくらなんでもあんなに前が壁になってたら……」 

P「さすがに厳しいよな」 

P「うーん。競馬の世界にも、こういう試練があるんだなぁ……」


33:2013/10/03(木) 18:15:28.62 :qq4UNX1H0

  2012年10月6日(土)15:30 事務所 

P「どうしたんだ、千早? 何だか浮かない顔をしてるな」 

千早「最近、壁に当たったみたいで……。微妙な感情の揺れを、うまく表現できないんです」 

P「壁……か」 

千早「せっかく『765スターズ』として、新しいスタートを切ったのに……スランプなんて」 

P「千早、気持ちは痛いほどわかる。だけど、今は焦らない方がいいぞ」 

千早「でも……」 

P「大丈夫だ! 千早の歌で打ち破れない壁なんて、この世にあるわけがない!」 

千早「!」 

P「だから心配するなって! きっかけがあれば、スランプなんてすぐ脱出できるさ!」 

千早「……はい。あの……プロデューサー」 

P「ん、どうした?」 

千早「励ましてくれてありがとうございます。私、頑張ります……!」


34:2013/10/03(木) 18:18:19.42 :qq4UNX1H0

   2012年12月8日(土)15:45 Pの自宅 

P「明日は、『765スターズ』の初オーディションか……」 

P「やるだけのことはやったはずだ。後はみんなの力を信じるだけだな」 

P「おっと、そろそろあいつが走る時間かな」ポチッ 

 『スタートしました! 第63回朝日チャレンジカップの発走です!』 

P「今日のスタートは……まずますか」 

 『フレールジャック、今回は二番手につけていきました』 

P「この間は後ろからで、今度は二番手か」 

P「……素人考えだけど、どうもポジションが一貫してない気がするなぁ」 

P「でもこの間勝った時も、確か二番手だった気がするぞ!」 

 『先頭はイケドラゴン。フレールジャックが二番手で、第四コーナーをカーブ』 

P「さあ、こっからどうだ……!」


35:2013/10/03(木) 18:20:52.63 :qq4UNX1H0

 『先頭イケドラゴンに、並んできたフレールジャック!』 

P「よし、先頭に立ったか!?」 

 『フレールジャック先頭だが、後方からアドマイヤタイシ、ショウリュウムーン!』 

P「うわ、後ろからたくさん迫ってきたぞ!」 

 『リルダヴァル、デルフォイ、ヒストリカル! 後続が殺到します!』 

P「おおお!? 何が何だかよくわからん!」 

 『トライアンフマーチ、タガノエルシコも来る! 横に広がって大接戦!』 

P「あ、抜かれたっぽいな……」 

 『大激戦だが、わずかにショウリュウムーンかゴールイン!』 

P「う、うーん……8着ぐらいかな?」 

P「……でも、差は本当にちょっとだけだったな」 

P「順位は悪くても、それほど負けてはいないと思うが……」


36:2013/10/03(木) 18:23:56.96 :qq4UNX1H0

   2012年12月9日(日)17:00 事務所 

P「『765スターズ』の初オーディション、結果は6位か……」 

真「ボクたち、まだまだ実力不足なんですね。ショックだなぁ……」 

P「いや。俺は、そこまで落ち込む必要はないと思う」 

真「どうしてそんなことが言えるんですか!? だって、6位ですよ!」 

P「確かに順位はイマイチに見える。でも、獲得ポイントによーく注目してくれ」 

真「……あ! 1位から6位まで、ほとんどポイント差がない!」 

P「そういうことだ。俺たちと他との差は、見た目の順位ほど大きくないんじゃないか?」 

真「そうか、そういう考え方もあるのか……」 

P「まあ、色んな視点から物事を見るのも大切ってことだな」 

真「さっすがプロデューサー! 勉強になりました!」 

P「ははは……。次のオーディションは一か月後だ。気を落とさずに頼むぞ、真!」 

真「了解です! 次回はガツーンと行きますよ! ガツーンと!」


37:2013/10/03(木) 18:27:16.61 :qq4UNX1H0

   2013年1月13日(日)15:35 Pの自宅 

P「来週は二回目の『765スターズ』のオーディションだな」 

P「アイドルたちの呼吸は、前回よりも合ってきてる」 

P「果たして、どれぐらい順位を上げられるか……」 

P「ふぅ……そろそろあいつの発走時刻かな」ポチッ 

 『スタートしました! ニューイヤーステークスの発走です!』 

P「あっ! 遅れた!?」 

 『おっとフレールジャック、やや出遅れてしまいました』 

P「何てこった……このロスを挽回するのは厳しくないか……?」 

 『フレールジャック、今日は後方から。しかし、徐々にポジションを上げていきます』 

P「うーむむ……走りは悪くないと思うんだけど……」 

 『前はレッドスパーダ、オウケンサクラ、ミトラと続いて直線です!』 

P「先頭とは離れすぎてるかなぁ……」


38:2013/10/03(木) 18:30:31.73 :qq4UNX1H0

 『さあレッドスパーダ、ミトラ、そしてフレールジャックが三番手に上がってくる!』 

P「おお、それでも来てるぞ来てるぞ! よし、行け行け! 頑張れ頑張れ!」 

 『ミトラ先頭! フレールジャック、二番手までは上がってきたが!』 

P「あー……。ちょっとトップとは差があるかな……」 

 『ミトラ1着でゴールイン! 2着にフレールジャック!』 

P「むう……惜しかった」 

P「……スタートで遅れなければな」 

P「でも、最後の勢いは見どころがあったぞ!」 

P「これなら近い将来、結果がついてくるんじゃないか?」


39:2013/10/03(木) 18:33:21.64 :qq4UNX1H0

   2013年1月20日(日)17:00 事務所 

P「よし、今回のオーディションは2位か! いい感じだな!」 

貴音「申し訳ありません、あなた様……」 

P「お、おいおい貴音。どうして謝るんだ?」 

貴音「とっぷあいどるを目指す身でありながら、2位に甘んじることとなり……」 

P「大丈夫だ! 少なくとも俺は、今回でトップへの手応えを掴めたぞ」 

貴音「まことですか?」 

P「ああ! みんなの一体感が、前回よりも格段に増してたからな」 

貴音「それは……はい。最近日増しに、皆の気持ちが一つになっていくのを感じております」 

P「だろ? この調子でチームワークを高めていけば、いずれ結果はついてくるさ!」 

貴音「……ふふっ。そうですね、あなた様の言うとおりです」 

P「よし! これからも頑張ろうな、貴音!」 

貴音「はい! 次こそ目指せ、とっぷあいどる、です!」


40:2013/10/03(木) 18:36:43.87 :qq4UNX1H0

   2013年2月17日(日)15:30 事務所 

P「『相談があります。お暇な時間によろしくお願いしますね』か……」 

P「あずささん、どうしたんだろう?」 

P「……まだ約束の時間までは少しあるか。それなら」ポチッ 

 『スタートしました! 洛陽ステークスの発走です!』 

P「む……。今回も少し出遅れたか、俺の愛馬は」 

P「でも大丈夫そうだ。すぐ前に上がっていったぞ」 

 『一番人気のサウンドオブハートは5番手。その後ろにフレールジャックです』 

P「うんうん。スムーズに走ってるな、フレールジャック」 

 『オウケンサクラが後続を離して、最終コーナーのカーブを迎えます』 

P「よし、こっからだフレールジャック! 行け行け行け!」


41:2013/10/03(木) 18:39:10.89 :qq4UNX1H0

 『フレールジャックも上がってくるが、外からサウンドオブハートが伸びてくる!』 

P「あら……あっという間に引き離されちゃったぞ」 

 『先頭はサウンドオブハート、二番手争いの一角にフレールジャック!』 

P「あらららら……」 

 『2着争いは接戦だが、サウンドオブハート突き抜けてゴールイン!』 

P「……結局、フレールジャックは4着だったか」 

P「むぅ、勝てそうで勝てない。もどかしいというか、いじらしいというか……」 

 『若き牝馬サウンドオブハート、素晴らしい競馬を見せました!』 

P「え、勝った馬ってメス馬なの!? しかも若いって――」 

あずさ「いいわねぇ……。やっぱり若いっていいわねぇ……」 

P「うわっ!? あ、あずささん、いつからそこに!?」 

あずさ「うふふ~。お馬さんたちが最後のカーブを曲がる、少し前からですね~」


42:2013/10/03(木) 18:42:14.99 :qq4UNX1H0

P「あずささん。相談って何ですか?」 

あずさ「私、みんなの足を引っ張ってるんじゃないかと思って……」 

P「そんなこと、あるわけないじゃないですか。どうしてそう思うんです?」 

あずさ「だって私、一人だけ20代ですもの……」 

P「へ?」 

あずさ「若い子だけで固めた方が、もっとウケがいいんじゃないかしら~?」 

P「あずささん。さっきの競馬で俺が応援してた馬なんですけど」 

あずさ「はい?」 

P「年齢を重ねるにつれて、昔と違う新たな魅力が出てきたように感じるんですよ」 

あずさ「それはつまり、私が年を取ってるって言いたいのかしら~?」 

P「え!? い、いや、そういう意味では決して――」 

あずさ「うふふ~」 

P「と、とにかく! あずささん抜きの『765スターズ』なんて、俺には考えられませんから!」 

あずさ「うふふふ~。ありがとう、プロデューサーさん……」


43:2013/10/03(木) 18:45:16.82 :qq4UNX1H0

   2013年5月18日(土)15:45 Pの自宅 

P「次のオーディションまで、もう残り一週間か」 

P「三度目の正直でトップ通過! といきたい所だな!」 

P「さーて、今日の俺の愛馬は?」ポチッ 

 『スタートしました! メイステークスの発走です!』 

P「おわっ!?」 

 『おおっとフレールジャック、今日もスタートが良くありません』 

P「……またか。確か昔は、いつも良いスタートを切ってたと思うんだけどなぁ……」 

 『先頭から後方まで、かなり縦に長い展開となっています』 

P「何とか盛り返して中団までは上がってきたか……しかし」 

 『さあ、最後の直線コースに入ります! 先頭集団が、後続を大きく離している!』 

P「……これ、後ろにいる馬届くのか……?」


44:2013/10/03(木) 18:48:25.09 :qq4UNX1H0

 『さあ、馬群の中からフレールジャック!』 

P「おお、来た来た来た! 頑張れ頑張れ! 頑張れー!」 

 『中からフレールジャックが追い上げてきた! 再内を突くのはマルセリーナ!』 

P「追い上げてる追い上げてる! 追い上げてるんだが……」 

 『しかし先頭はタムロスカイ、二番手セイウンジャガーズ! 大勢は決したか!』 

P「……ダメだ。やっぱり前にいた馬には届かない……」 

 『タムロスカイ、今1着でゴールイン! 前にいた各馬が、上位3着までを占めました!』 

P「……またしても4着か」 

P「よく追い上げてるんだよ。よく追い上げてるんだけど……」 

P「これがちょっとした、勝負のアヤってやつなのかな……」


45:2013/10/03(木) 18:51:25.71 :qq4UNX1H0

   2013年5月25日(土)17:00 事務室 

P「今回のオーディションは3位か。もっとやれると思ったけどなぁ」 

伊織「同感よ。勝つ気で挑んだだけに正直……ショックだわ」 

P「伊織、敗因は何だと思う?」 

伊織「そうね……。私達の前のグループ、思ってた以上に演技が素晴らしかったわ」 

P「ふむ……」 

伊織「審査員も沸いてたみたい。その後だったから、ちょっと雰囲気に飲まれたかも……」 

P「なるほどな。実力差がない中で明暗を分けるのは、順番、当日の体調、展開……」 

伊織「ふん。言い訳するなんて、私らしくないわね」 

P「まあ、勝負は時の運もある。次回はきっと、俺たちに運が味方するさ!」 

伊織「だといいけど。それじゃ、レッスンに行ってくるわ」 

P「お、おい伊織。最近レッスンのやり過ぎじゃないか? 少しは体を休めた方が……」 

伊織「休んでなんかいられないわ。次は何があっても、絶対勝ってみせるんだから!」 

P「お、おい伊織! くれぐれも、ケガにだけは気をつけてくれよなー!」


49:2013/10/03(木) 21:42:08.84 :qq4UNX1H0

   2013年7月21日(日)15:30 事務所 

   トゥルルルルル トゥルルルルル 

小鳥「はい、765プロですが――」 

P『小鳥さんですか! やりました! やりましたよ!』 

小鳥「うわびっくりした! プロデューサーさんですよね?」 

P『はい、俺です!』 

小鳥「その喜びっぷりは、もしかして……?」 

P『はい! 『765スターズ』、今日のオーディションをトップ通過です!』 

小鳥「おおおおおお! ついにやりましたね、プロデューサーさん!」 

P『これで全国区のテレビに出演できます! 知名度もバンバン上がりますよ!』 

小鳥「すごいすごーい! これは、盛大にお祝いしないといけませんね!」 

P『来週の土曜日あたり、事務所でパーッとやりましょう!』 

小鳥「大賛成です! プロデューサーさん、本当におめでとうございました!」 

P『ありがとうございます! それではまた後ほど!』


50:2013/10/03(木) 21:44:51.17 :qq4UNX1H0

   2013年7月21日(日)23:00 Pの自宅 

P「みんな、本当に嬉しそうだったなぁ……」 

P「そうだよなぁ……なんてったって、全国デビューだもんなぁ……」 

P「このチャンスを活かせれば、全員まとめてトップアイドルも夢じゃないぞ!」 

P「……おっと。そういえばすっかり忘れてた」 

P「今日は俺の愛馬も、レースがあったんだよな!」 

P「…………」 

P「……思えばフレールジャックには、色んなことを教えてもらった気がするなぁ」 

P「今の俺があるのは、あいつのレースをずっと見てきたからかもしれないな」 

P「よし、それじゃあ録画したDVDを再生するか!」プチッ 

 『スタートしました! 第61回、中京記念の発走です!』


51:2013/10/03(木) 21:48:15.26 :qq4UNX1H0

P「おっ!」 

 『全馬、揃った綺麗なスタートを切りました』 

P「今日は出遅れてないぞ! おおっ!」 

 『フレールジャックが先手を取りました。先頭はフレールジャックです』 

P「トップに行ったぞ! しかも、楽な感じで走ってる!」 

 『フレールジャックが主導権を握ったまま、第三コーナーに入ります』 

P「いいぞいいぞ! これはひょっとして……」 

P「『765スターズ』の晴れの日に愛馬の勝利なんて、奇跡みたいなことが……」 

P「でもそんな出来過ぎな話があったって、いいじゃないか!」 

P「よし、頑張れフレールジャック! あともう少しだぞ!」 

 『さあ、これから第四コーナー……おっと!?』 

P「え?」


52:2013/10/03(木) 21:51:20.60 :qq4UNX1H0

P「な、何だ……? フレールジャックが下がっていく……?」 

 『フレールジャックどうした!? ずるずると後退していきます!』 

P「お、おい……」 

 『あーっと、どうやら故障発生か!』 

P「何だよ……これ……」 

 『せ、先頭はシャイニーホークに変わっています!』 

P「まさか……ケガ、しちゃったのか……?」 

 『……さあ第四コーナーをカーブして、これから直線コースに入ります!』 

P「そんな、馬鹿な……」 

 『大外からフラガラッハ! フラガラッハが前に出るか!』 

P「…………」 

 『フラガラッハ、今1着でゴールイン! 昨年に続いて、中京記念を連覇!』 

P「…………」 

 『なおフレールジャックは故障発生。競走を中止しています』


53:2013/10/03(木) 21:54:19.19 :qq4UNX1H0

P「…………」プチッ 

P「……大丈夫なんだろうか?」 

P「そんなに重いケガじゃないといいけど……」 

P「…………」 

P「……ネットで調べてみるか」カタカタ 

P「…………」カタカタ 

P「…………」カタカタ 

P「!!」


54:2013/10/03(木) 21:57:32.34 :qq4UNX1H0

P「…………」 

P「ひ、左第1指関節……脱臼」 

P「あ、安……」 

P「安楽死処分……」 

P「…………」 

P「……う」 

P「ウソだろ……?」


55:2013/10/03(木) 22:00:15.17 :qq4UNX1H0

P「…………」 

P「…………う」 

P「うう……」 

P「う……」 

P「どうしてだよ……どうしてなんだよ……」 

P「あんなにいつも頑張って走ってたのに……」 

P「レースで、俺に色んなことを教えてくれたのに……」


56:2013/10/03(木) 22:03:11.29 :qq4UNX1H0

P「…………」 

P「うう……」 

P「うう……くそっ……」 

P「どうして……どうして……くそ……!!」 

P「くそおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」 

P「うああああああああああああああああっ!!」 

P「うあ……うううっ……」 

P「フレールジャックが……」 

P「俺の……愛馬が……」


57:2013/10/03(木) 22:06:24.57 :qq4UNX1H0

   2013年7月27日(土)16:10 事務所 

小鳥「それではこれから、祝勝会を始めたいと思いまーす! かんぱーい!」 

   カンパーイ! 

響「それにしても、本当に全国デビューできるんだな! 信じられないぞ!」 

美希「これも全部、ハニーのおかげなの!」 

P「いや……俺の力なんて、大したことないよ」 

春香「またまたぁ。プロデューサーさん、謙遜しないでくださいよ!」 

雪歩「そうですよぉ。プロデューサーはすごいですぅ!」 

P「いやいや……俺なんか全然全然……」 

真美「……ねえ、兄ちゃん。何だか最近、元気ないんじゃない?」 

亜美「うん、亜美もドーカンだよ。どったの?」 

P「……まあ、ちょっとな」 

やよい「もしかして、体の具合が悪いんですか?」 

P「いや、違うんだやよい。……そうじゃないんだ」


58:2013/10/03(木) 22:09:27.65 :qq4UNX1H0

P「……実は、知り合いに不幸があってな」 

やよい「あ……ご、ごめんなさい!」 

律子「なるほどね。最近のプロデューサーの重たい雰囲気は、それが原因か」 

P「え? 俺、そんなに酷かった?」 

千早「酷いなんてものじゃありません」 

真「はっきり言って、別人ですよ! 話しかけても、生返事ばっかりだし」 

P「……そうだったか。すまなかったな、みんなに心配かけたみたいで」 

貴音「よほど大切な方だったのですね。……お悔み申し上げます」 

P「ありがとう、貴音。あいつもきっと、空の上で喜んでるよ」 

あずさ「あの……プロデューサーさん? 元気出してくださいね」 

伊織「そうよ! アンタが暗い顔してると、こっちまで気が滅入ってくるんだからね!」 

P「ああ……そうだな。なるべく早く、気持ちを切り替えられるように頑張るよ」


59:2013/10/03(木) 22:13:26.30 :qq4UNX1H0

小鳥「それにしても社長、遅いわねぇ……」 

P「確か開始時刻から、ちょっとだけ遅れるって言ってましたけど――」 

   ガチャ 

社長「すまんすまん! 打ち合わせが長引いてしまってね」 

P「お、噂をすれば。お疲れ様です!」 

小鳥「社長、飲み物は何にしますか?」 

社長「まあ待ちたまえ。その前にテレビだ」ポチッ 

P「テレビですか? 何か緊急のニュースでも?」 

 『スタートしました! 本日の小倉競馬場、最終レースの発走です!』 

P「あ……」 

小鳥「社長、こんな時に競馬中継ですか?」 

社長「すまんな音無君。だが、どうしてもこのレースは見ておきたいのだよ」


60:2013/10/03(木) 22:15:28.77 :qq4UNX1H0

 『先頭はタマモピッコロ、続いてゲットハッピーが二番手』 

P「あの……すいません社長。俺、今競馬は見たくないんですけど……」 

社長「いいや。キミにはぜひとも、見てもらいたいんだ。彼のためにもね」 

 『それからポポルブフ、ケイワイツヨシと続きます』 

P「ですから俺は、その彼を思い出すのが――」 

響「お、何だか面白そうだな! どの馬も良い体つきで、速そうに見えるぞ!」 

美希「ねえねえハニー! ハニーはどのお馬さんが勝つと思う?」 

P「悪い美希。俺、今はそんな気分じゃ――」 

 『そしてここにいるのがマーティンボロ。先日亡くなったフレールジャックの弟です』 

P「……え!?」 

春香「ん?」 

あずさ「あら?」


61:2013/10/03(木) 22:18:31.61 :qq4UNX1H0

春香「フレールジャック……。この名前、ずっと昔にどこかで聞いたことがあるような?」 

あずさ「あら、春香ちゃんも? 実は、私もそうなのよ」 

雪歩「マーティンボロかぁ。真っ黒くてかっこいい馬ですねぇ、プロデューサー」 

P「…………」 

雪歩「プロデューサー……?」 

美希「ハニー? 何かヘンだよ?」 

 『さあ、マーティンボロは中団の位置。これから第三コーナーに入ります』 

P「……あいつの……弟……」


62:2013/10/03(木) 22:21:13.52 :qq4UNX1H0

P「…………」 

亜美「に、兄ちゃんどうしたのさ!? 急にマジな顔で画面をギョーシしちゃってさ!」 

真美「おそらく兄ちゃん、さっきの馬を応援することに決めたんじゃん?」 

やよい「それなら私も応援します! マーティンボロさん、ファイト―!」 

美希「ミキも応援するの! 頑張るのー!」 

春香「うーん、思い出せないなあ。昔のオーディションの時だったかなあ……」 

あずさ「あ! 前に相談をした時、プロデューサーさんがテレビで応援してたお馬さんって……」 

春香「……あっ! あの時控え室で、プロデューサーさんに教えてもらった馬の名前、確か……」 

 『第四コーナーを回って、最後の直線です!』


63:2013/10/03(木) 22:24:21.37 :qq4UNX1H0

 『さあ、マーティンボロは大外に進路を取った!』 

律子「うーん、コーナリングで外にふくらんだわね……」 

千早「ずいぶん外に振られてしまったわ。これでは、勝つのは厳しいかしら?」 

 『さあ先頭はクリサンセマム! それを追って外からマーティンボロ!』 

真「いや、来てるよ来てるよ! うわっ、もの凄い伸びだ!」 

伊織「いけるわ! あともうひと息よ! 負けるんじゃないわよ!」 
  
 『二頭の馬体が並ぶ! 勢いは外のマーティンボロか!』 

貴音「これは……恐ろしい気迫ですね。まるで、何かが乗り移ったかのような……」 

あずさ「勝ってちょうだい! 勝って! お願い、勝ってぇ!」 

春香「…………」ギュッ


64:2013/10/03(木) 22:27:19.59 :qq4UNX1H0

小鳥「あ……!」 

響「おっ! おおっ! 勝てるぞ!」 

 『さあここで、マーティンボロが前に出た!』 

あずさ「……!」 

春香「やった!」 

 『マーティンボロだ! マーティンボロだ!』 

社長「うむ!」 

 『マーティンボロ先頭で今、ゴールイン!』


65:2013/10/03(木) 22:30:24.83 :qq4UNX1H0

やよい「うっうー! やりました! 1着でーす!」 

亜美「おっしゃー!!」 

真美「やったじぇーい!!」 

伊織「……ふぅ。ま、この伊織ちゃんが応援したんだから、当然よね」 

律子「ふぅん……あんなにコーナーでロスがあったのに勝つなんてね」 

千早「そうね。正直、2着ぐらいが精一杯かと思ったわ」 

響「いやぁ、最後のスパートにはビックリしたぞ!」 

真「だね! ボク、興奮して鳥肌が立っちゃったよ!」 

貴音「あの気迫は、わたくしたちも見習わなければなりませんね」 

雪歩「プロデューサー、よかったですねぇ……あれ?」 

P「…………」 

美希「ハニー……泣いてるの?」


66:2013/10/03(木) 22:34:34.51 :qq4UNX1H0

春香「美希。今は、プロデューサーさんをそっとしといてあげようよ」 

美希「え? でも――」 

あずさ「そうね~。私も、それがいいと思うわ。ね?」 

美希「む~……。何だかよくわからないけど、そうするの」 

小鳥「それじゃ、プロデューサーさん。落ち着いたら、一緒に盛り上がりましょうね!」 

P「…………」コクリ 

社長「……彼がいなくなって、つらいとは思うが」ポン 

P「……社長」 

社長「これからも765プロをよろしく頼むよ、キミ」ポンポン 

P「……はい」


67:2013/10/03(木) 22:36:12.58 :qq4UNX1H0

P「ありがとな……フレールジャック」 

 『勝ったのはマーティンボロ! 亡き兄、フレールジャックに捧げる見事な勝利でした!』 



     完


68:2013/10/03(木) 22:36:50.60 :qq4UNX1H0

以上になります。 



デビュー戦の走りに衝撃を受け、最後まで応援し続けたこの馬を忘れないために、 

今回SSを書かせていただきました。 

多少誇張している部分があるかもしれませんが、ご容赦ください。 



最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


元スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1380765737