■貴音の古典落語シリーズ
貴音「饅頭恐い」
貴音「目黒のさんま」


1:NULLP○N ◆NULLPO/3eM:2013/04/30(火) 01:01:16.86 :k4BreOte0

出囃子:フラワーガール 
三線:我那覇響 




貴音「みなさま、本日はようこそお越しくださいました」


5:代行ありがとうございます:2013/04/30(火) 01:10:39.76 :RZHTPtDOO

貴音「本日、四月の三十日というのは公には、図書館記念日というものだそうですが、遥か遠く北欧では『わるぷるぎすの夜』などという日にございます」 

貴音「初夏の訪れを祝う聖わるぷるがの日に対抗して、魔女が集まってお祭りをなさるそうです」 

貴音「さながら、初夏のはろうぃんといったところでしょうか」 

貴音「夏に抗う春の最後の日。ということで、私の出囃子も『ふらわーがーる』のままにしてございます」 

貴音「…響はとても『風花』を弾きたがっておりましたが」 

貴音「今回は、初夏のはろうぃんではなく、本物のはろうぃんの頃のお話にございます」


6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/30(火) 01:20:44.80 :RZHTPtDOO

貴音「さて、分からないものだらけの世の中ですが、よくできているなと思うこと、ございませんか」 

貴音「『片仮名の トの字に一の 引き方で 上になったり 下になったり』なんて言葉がございます」 

貴音「トの字の上に一を持ってくると『下』という字になって上の棒がつっかえになってしまって、上にいる人のことが見えません」 

貴音「逆にトの字の下に一を書くと『上』という字になって同じように下のことがわからないということを言ったのでしょう」 

貴音「では中くらいの人はどうかと申しますと、口という字に心棒が一本抜けておりますから、上にも下にも口がきけるのでございます」 

貴音「物のわからない人の代名詞といえばお殿様、お姫様、最近で言えばお坊ちゃま、お嬢様でしょうか」


8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/30(火) 01:29:54.79 :RZHTPtDOO

貴音「名家であれば男が生まれれば世継ぎができたと喜ばれ、女が生まれればお姫様お嬢様と可愛がられ蝶よ花よとそだてられる。すると一般常識たるものがわからないまま成長するのですね」 

貴音「『じいや、いつものことながらこのほうれん草のおひたし、まこと美味にございます。このようなおいしいものはどのようにできているのでしょうか』」 

貴音「『そうですなぁ…なにも特別なことはしておりませんよ、野菜というものは太陽の光を浴びて美味しくなるのですから。我々はその手伝いをしているだけです』」 

貴音「『それでは私も、このせろりを美味しくするお手伝いをしましょう』などといって、小鉢ごとせろりをお日様に献上したりなどして…///」 

貴音「…これを十五までやっていたのですから、箱入りというものは恐ろしいのでございます」


9:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/30(火) 01:37:22.16 :RZHTPtDOO

貴音「水瀬伊織といえば、今を時めくすぅぱぁあいどるであるのと同時に、あの水瀬財閥のお嬢様でございます」 

貴音「今でこそ、庶民の常識というものを理解している彼女ですが、事務所に入った頃は本当にお嬢様でございました」 

―――― 

伊織「新堂!これは何?」 

新堂「自動販売機というものでございます。ジュースなどを自動で販売してくれるすごい機械にございます」 

伊織「ふーん…新堂!私これ使いたい!」 

新堂「伊織お嬢様のお飲み物はお屋敷に帰ればあるのですが…仕方ありませんね。何が飲みたいですか?」 

伊織「新堂はわかってないわ!『私が』買いたいの!!」


10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/30(火) 01:41:07.44 :RZHTPtDOO

伊織「…新堂!」 

新堂「どうなさいましたか?」 

伊織「お金がはいらないわ!」ガシガシ 

新堂「お嬢様そこはキャッシュカードいれではございません」 

新堂「硬貨をお渡ししますね。そこに入れるんですよ。そしたらほしいもののボタンを押すのですよ」 

伊織「わかったわ」


11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/30(火) 01:46:22.22 :RZHTPtDOO

伊織「…新堂!!」 

新堂「どうなさいました?」 

伊織「ボタン押したのにメイドが来ないわ!!」ゲシゲシ 

新堂「そのための『自動』販売機でございます」 

がこん 

伊織「きゃっ!!」 

新堂「出てきましたね…そこを開けてとるのですよ」 

伊織「ありがと…にしてもめんどくさいのね」 

―――― 

貴音「あげくになんで事務所の蛇口はおれんじじゅうすじゃなくて水が出るのかと聞く始末…愛媛県じゃないんですから」


15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/30(火) 01:55:01.13 :RZHTPtDOO

貴音「箱入りのお嬢様が外に出ればいろいろなことを知ることとなります。水瀬の伊織といえども年頃の女の子。知ったことは誰かに喋りたくて仕方がありません」 

貴音「事務所でかっぷらぁめんを作っているところなどをちらと見たあかつきには」 

―――― 

伊織「これからカップラーメンの作り方を伝授するわ」 

桃華「大衆の文化を知ることは大切ですわ!」 

伊織「まずはフィルムをとるのよ」 

桃華「ええ」 

伊織「その時に必ず言わないとならない言葉があるわ」 

桃華「そんなものがございますの!?」 

伊織「そうよ、ええと『へへへ……ラップはもうビリビリだぜ、あとはフタだけだ』よ」 

―――― 

貴音「なんぞあさましからんや、おそらくは小鳥嬢などが作っておられたのを聞いていたのでしょう」


19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/30(火) 02:04:13.01 :RZHTPtDOO

伊織「ふたを開けると、中にスープのモトという袋があるわ。それを取り出しながら『おいおい、スープの素が2袋もあるぜぇ、こいつ誘ってんじゃねえのか?』」 

伊織「『そ、そんなんじゃありません…!』と言うの」 

桃華「なるほど勉強になりますわ」 

******** 

桃華「『せ、線まで!きちんと線まで入れてくださいぃいぃ!!』」 

伊織「『残念だったなあ、俺は1センチ残す派なんだよぉ!ははは!』とした後で、ふたをして、三分待つのよ」 

桃華「その時にもなにかあるのでしょう?」 

伊織「そうよ。なんでもBL音頭というものをしっかり歌いきらないといけないらしいわ」 

―――― 

貴音「ここから先は筆舌に尽くしかねます…面妖な///」


20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/30(火) 02:14:16.85 :RZHTPtDOO

貴音「さて、季節めぐって秋の運動会にございます。小学校の運動会と申しましても流石は水瀬の家、伊織お嬢様の徒競走の練習のためにと目黒のすぽぉつせんたぁを貸切にして練習に励んだのでございます」 

貴音「お昼と言うことで休憩のために外の階段へ腰を掛けておりますと、近所で焼いているのでしょうな。秋刀魚の匂いがやってまいりました」 

貴音「ええと、秋刀魚といいますのは油が強ぉくございまして、七輪で焼いたりしますとご近所一帯に、おかずが知られてしまうほど匂いの高いものでございます」 

貴音「お腹がペコペコのところにその、嗅いだことのない、いい匂いですから」 

―――― 

伊織「はぁーふっ、はぁーふぅ。…新堂!」 

新堂「お召しにございます」 

伊織「この匂いは、なあに?」 

新堂「おそらく近所のどこかで、お昼ご飯のために秋刀魚を焼く匂いにございます」


24:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/30(火) 02:28:58.37 :RZHTPtDOO

伊織「ふーん、秋刀魚っていう…魚なのね?いい匂いだわ。今まで食べたことがないような」 

新堂「はい、高級魚というわけではありませんからね。ですからお嬢様の、お口に入るのもでも、あうものでもございません」 

伊織「新堂!私は中学生になったら水瀬の家に頼らない、自立した人間になるの!アイドルのプロダクションに入ったのもそのためよ!」 

伊織「アイドルな以上、これからはいろいろな人と付き合っていかないといけないのよ。そのときさらに、水瀬の家の人間としても恥ずかしくないようにいないといけないの」 

伊織「だから、あれが食べられないこれが食べられないなんて言ってちゃいけないわ。私にも持ってきなさい!」 

―――― 

貴音「たしかに理屈はあっているのですから、仕方がありません。匂いを頼りに焼いている家に交渉をしに向かいました」 

貴音「おーどろいたのは、そこのお家のお爺さん、お婆さん」 

貴音「せっかく年金も出たことだしと秋刀魚を買いに行きまして、これ、走りだから、婆さんと二人で食べようということで、五、六本買ってきていたものでございました」


28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/30(火) 02:39:06.06 :RZHTPtDOO

貴音「きっちんなどで焼くのはおつじゃないと七輪なんぞを引っ張り出して焼いておりましたゆえ、頭が焦げたり、尻尾に灰が乗って少し燃えていたりなどします」 

貴音「皿に盛って、すっかり皮を剥ぎまして、粗骨をとり、おろしを添えまして、醤油をかけますと、焼きたてですから、じゅぅうというんです」 

―――― 

伊織「黒くて先の方に火がついてて…新堂!これ爆弾よ!」 

新堂「いいえ、これが秋刀魚という魚でございます」 

伊織「これが…魚?」 

―――― 

貴音「いかんせんいままで魚というものを『ふらい』か『むにえる』などでしか知らないものでしたから、水瀬伊織、魚は切り身の形で泳いでいるのだと心の底から信じておりました」 

貴音「そのために姿そのままな焼き魚は初めてで、はじめは箸をつけるのも躊躇していたのですが、空腹には勝てず覚悟を決めて口の中へ」


29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/30(火) 02:49:39.38 :RZHTPtDOO

貴音「走りの一油のった、焼きたての秋刀魚なのですから、一箸つけてみると、その美味たることこの上なし」 

貴音「そうでしょう、人間はどんな立場であれ人間なのですから、このような方にだってまずかろう訳がございません」 

―――― 

伊織「秋刀魚っていいのよね?」 

新堂「そのとおりです」 

伊織「すっごくおいしいのね!こんな食べ物があったなんて!目黒って良いところね!秋刀魚が食べられるし!おかわり!」 

新堂「はっ、はっ」 

伊織「ふふふ、秋刀魚っていうのよね?」 

新堂「その通りでございます」 

伊織「いいわぁ…美味しい…ふふ、目黒は良いな、ふふふ。おかわり」 

新堂「え、え、えぇ」 

―――― 

貴音「新堂殿の心配をよそに、一人で五、六本ぜーんぶ食べてしまいました」


30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/30(火) 02:57:09.72 :RZHTPtDOO

新堂「伊織お嬢様」 

伊織「なに?新堂」 

新堂「お屋敷へお帰りの節、目黒で秋刀魚を食べたということは、どうか秘密になさってもらいたいのです」 

伊織「目黒で、秋刀魚を食したこと、なにがいけないの?」 

新堂「まず、お昼ご飯自体、こちらで用意していたモノ以外をお食べになったということです。それも、よそ様からゆずってもらったものとあれば大変な騒ぎとなります」 

伊織「新堂の落ち度になるってことね…じゃあなんで止めなかったの?」 

新堂「…たまにはそういうことがあってもよいとは思いませんかな?」 

伊織「なるほどね、わかったわ。にひひっ♪アンタもわかるようになってきたじゃないの」 

新堂「お褒めに預かり光栄です」


31:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/30(火) 03:04:19.23 :RZHTPtDOO

貴音「言わぬと言って、帰ってまいりましたが、あれほどの衝撃の美味しさ、忘れることができません」 

貴音「食事となるたび、すぐ秋刀魚を思い出します」 

『伊織「あぁ、美味しかったなぁ…目黒へ、もう一度行きたいなぁ」』 

貴音「土地の話が出ると、すぐに目黒を思い出し」 

『伊織「あぁ、目黒は良いところよね。あの時食べた秋刀魚が美味しかったなぁ…うん」』 

貴音「目黒と秋刀魚、秋刀魚と目黒。ぱぶろふの犬の如く、条件付けされて頭へ入っていたのでした」


34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/30(火) 03:10:08.81 :RZHTPtDOO

貴音「ときどき、おもらしなさります」 

―――― 

伊織「新堂!」 

新堂「どうなさいましたか?」 

伊織「目黒は良いところよね…」 

新堂「そうですな。気温、風景、共に備わりまして」 

伊織「わかってないわね!気温だのなんのなんてどうでもいいのよ。あの時、食べた魚よ!秋刀魚だったかしら?」 

新堂「お、お嬢様」 

伊織「あっ…秘密だったわね。そういえば、あそこのお爺さんお婆さんは元気かしら」 


貴音「お爺さんも何もありやしません。新堂殿は常に冷や冷やしております」


35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/30(火) 03:16:19.79 :RZHTPtDOO

貴音「ある日、娘が学芸会の劇で主役を張ったことに大喜びした水瀬の旦那様が『伊織の欲しいものをなんでもあげよう』と、仰いました」 

貴音「こういう時に、秋刀魚を食べねば、もう二度と食べられないのではと考えまして…」 

―――― 

伊織「それなら、私は秋刀魚が食べたい」 

メイド「はいっ?」 

伊織「秋刀魚よ!わからないの?」 

メイド「さっ、秋刀魚にございますね?」


38:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/30(火) 03:20:18.86 :RZHTPtDOO

料理長「伺ってきたかね?」 

メイド「はい…」 

料理長「お嬢様はなんと?」 

メイド「秋刀魚」 

料理長「えっ?」 

メイド「秋刀魚」 

料理長「お嬢様が、秋刀魚をご存知な訳がない。どうせ『ちょっとタンマ』とかの聞き間違いだろう?」 


貴音「たんまとは言わないでしょうに…」 


料理長「とにかく、もう一度伺ってきなさい」


40:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/30(火) 03:30:27.60 :RZHTPtDOO

貴音「再度お伺いしたところが、やはり、秋刀魚と仰る」 

貴音「さぁ、大変です。なんとかせねばと銚子(ちょうし)港の魚市場まで走って、全力疾走で帰ってくる。とにかく、本場の秋刀魚を入手しました」 

貴音「これを焼きまして、じゅうじゅうと油が滴る様を見て悲鳴をあげるは専属の栄養士。こんな脂っこいものを食べさせてはこれすてろぉるが云々かんぬん」 

貴音「蒸し器にかけて油を全部抜いてしまいました」 

貴音「それから皮をめくって小骨が多い。大切なお嬢様の記念日であられるのに小骨が喉につかえてはと、調理師が一本一本丁寧に真心込めて双眼実体顕微鏡と毛抜きで抜いていきます」 

貴音「そうすると形が崩れてしまうものですから、お団子にして、つみれです。とりあえずお吸い物の中に入れて、出しました」


42:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/30(火) 03:37:12.31 :RZHTPtDOO

貴音「水瀬伊織はわくわくと待っていて、この、お皿の上に、長やかなる、黒やかなるものが出てくるかと思うと、なにやら丸やかなるものが出てきました」 

―――― 

伊織「これ…秋刀魚?」 

新堂「その通りです」 

伊織「そんな訳ないわ!秋刀魚は欠けたお皿の上って相場が決まってるわ!」 


貴音「しかし蓋を取りますと、微かに、秋刀魚の匂いが、ふわりとします」 


伊織「たしかに、確かに秋刀魚だわ。会いたかったわ。待ってたのよ」


44:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/30(火) 03:42:49.34 :RZHTPtDOO

貴音「これですと、待ってましたと食べてみるとまぁ、不味いのなんのという。それはそうでしょう」 

貴音「めいっぱい運動したあと、吸い込まれるように高い秋の空と涼しい秋風の中で食べた秋刀魚は脂も乗った一番に一番おいしいもの」 

貴音「そうでなくても、出されたこれは秋刀魚のそっぽ殻でございますからね。出し殻。何も残ってはおりません」


45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/30(火) 03:47:15.69 :RZHTPtDOO

伊織「これ!秋刀魚なの!?」 

新堂「その通りにございます」 

伊織「まっずい!!前食べたのとぜんっぜん違うわ!いったいどこの秋刀魚よ!?」 

新堂「銚子の沖の本場モノでございます」 

伊織「だからよ!!銚子ぃ!?ほんっとにわかってないわね!!」 









伊織「秋刀魚といったら目黒でしょ!!」


46:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/30(火) 03:49:03.79 :RZHTPtDOO

貴音「お後がよろしいようで」


49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/30(火) 03:55:46.52 :RZHTPtDOO

楽屋 

貴音「みなさまお疲れ様でした」 

響「貴音お疲れ様!」 

貴音「響、今日は起きていたのですね」 

響「もちろん!いつもは最後まで待てずに寝ちゃうけど、なんたってゴールデンウイークだからね!」 

貴音「しかし…今日火曜日は平日ですよ?」 

響「……えっ?」 


おわり 
代行してくださった方、支援してくださった皆様、本当にありがとうございました


元スレ
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1367251276