1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 05:09:35.05 :urzOP9JL0

P「律子ですよね」

小鳥「えっ」

P「えっ?」

小鳥「ちょっと言っている意味がわからないです」

P「……音無さんは誰だと思うんですか?」

小鳥「当然、伊織ちゃんでしょう」

P「は?」

小鳥「あ?」

P「あ、じゃあ喧嘩します?」

小鳥「いいですよ、望むところで

春香「千早ちゃんだと思います!」バタンッ

P・小鳥「お?」

春香「あ、やります? 戦争します?」 


4:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 05:18:41.84 :urzOP9JL0

P「さて……戦争すると言っても、問題はどうやって勝敗を決めるか……」

小鳥「妄想しかないでしょう」

春香「私もそれがいいかと思います。オーディションと一緒、
   より強い力で相手を叩き潰した人の勝ちってことで」

P「春香、変わったな……」

春香「千早ちゃんが攻守最強だっていうのは譲れませんから」

P「よし、じゃあ誰から行く?」

小鳥「プロデューサーさんでいいですよ」

春香「そうですね。言いだしっぺですから」

P「わかった。それじゃあ、僭越ながら俺から……」 


10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 05:28:51.30 :urzOP9JL0

【律子の場合】

P(俺が律子と出会ったのは、まだ冬の寒さが残る初春のことだった──)

P「きょ、今日からお世話になりますっ! ○○です、よろしくお願いしまっす!」

律子「ふふっ、そんなに緊張しなくてもいいですよ。
   私は秋月律子、あなたと同じプロデューサーです。これからよろしくお願いしますね」

P「プロデューサー……ということは、先輩ですね」

律子「ああ、いいですって、先輩なんてそんなかしこまった呼び方しなくても。
   見たところ私より年上みたいだし、敬語もいらないし、呼び捨てで結構ですから」

P「あ、ああ。それじゃあ、これからよろしく、律子!」


────

春香「ごめんなさい、ちょっといいですか?」

P「なんだ?」

春香「ホントにこんな出会い方したんですか?」

P「違うよ。シチュエーションも何もかも全部妄想だよ」

春香「ですよね。それじゃあ続けてください」 


11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 05:38:30.05 :urzOP9JL0

────

P(あれは、俺の担当アイドル達が決まり、さあこれから本格的にプロデュース開始だとなった頃だった)


P「はぁ……」

律子「どうしたんですか、そんなため息ついちゃって」

P「あ、律子……い、いや、ため息なんてついてないよ」

律子「今はみんないないんだから、無理にカッコつけようとしなくてもいいですよ。
   ……もしかして、また?」

P「……うん。また、オーディション全滅したんだ」

律子「……そうですか」 


12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 05:45:49.07 :urzOP9JL0

P「何がいけないんだろうな……」

P「俺が入社する前もみんなレッスンを重ねてきていたし、
 そんなに大規模なオーディションってわけでもない。
 実力的には受かっても何もおかしくないはずなのに……」

律子「……」

P「っと、ごめんごめん。律子に愚痴るつもりなんてなかったんだけど」

律子「はい、どうぞ」スッ

P「え? これって……コーヒー?」

律子「さっき帰りに買ってきたんです。覚悟してくださいね、それ、すっごく甘いですから!」

P「……」

律子「……溜め込んでるものがあるなら、吐き出しちゃいましょう?
   今は私しかいないですし、一応、私はあなたよりはプロデュース経験もあります。
   だから……、何かアドバイスが出来るかもしれません」

P「律子……ありがとう」

律子「お礼なんていりませんよ。あなたと私は、同じプロデューサー仲間じゃないですか」 


15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 05:57:39.51 :urzOP9JL0

P「……それでさ、あの局のディレクターのやつ、美希のことをいやらしい目で見てきて」

律子「うわぁー……美希、怒ったでしょう?
   やる気なくなっちゃったから帰る、とか言い出しませんでした?」

P「あはは……たしかにご機嫌斜めにはなったけど、まぁ、帰るとまでは言わなかったよ」

律子「あ、そう……ですか。ふーん……」

P「どうかしたのか?」

律子「……美希、最近変わったなって思って。半年前は、そりゃもうひどいもんでしたから」

P「そうなのか? 俺が知ってる美希は、最初からこんな感じだったけど」

律子「ふふっ。あなたが気が付かないだけで、
   あの子も何か感じ取れるものがあったのかもしれませんね」

P「……?」

律子「……プロデューサー。オーディションに勝つために必要なこと、何かわかりますか?」

P「必要なことって……そりゃあ、レッスンで実力をつけることだろう?」

律子「それもそうですけど、それだけじゃない。何より必要なことは、思い出です」

P「お、思い出?」

律子「そうです。なんだかんだ言って、あの子達もまだまだ子供なんですから。
   だから、ここぞという時に力になるのは……それまで築いてきた、思い出の力なんですよ」 


17:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 06:06:56.15 :urzOP9JL0

律子「話を聞いて思ったんですけど、プロデューサーはもっと、
   あの子達とコミュニケーションを取るべきですね」

P「コミュニケーション……」

律子「そうです。レッスンをさせるだけじゃなくて、
   あなたがアイドル達をどう思っているのかをちゃんと伝えること」

律子「話すだけでも、買い物に付き合うとかだけでもいい。
   『俺だけは絶対に味方なんだ』ってことを、忘れさせないであげてください」

P「……」

律子「大切に思っているんでしょう?」

P「そ、それはそうだけど……」

律子「だったら、その気持ちは伝わるはず。あの子達は本当に良い子ですから」

P「律子……うん、わかった! ごめんな、こんなこと話しちゃって」

律子「だから、これくらいいいですって。そんなことより、これからこれから!」

P「え? これからって……」

律子「ふふふっ、これからはちゃーんと、しっかりしてくださいねっ。プロデューサー殿っ!」

P「……ああ!」 


19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 06:16:39.13 :urzOP9JL0

P(それからの俺は、律子のアドバイス通り、アイドル達となるべくコミュニケーションを取るようになった。
 そして……、少しだけど、みんなはオーディションに合格しはじめたんだ)

P(毎日、着実に成長している。まだまだ売れっ子アイドルなんて言えないけど、一歩ずつ……)

P(そんなある日のこと……)


律子「……あ、プロデューサー」

P「おお律子! あはは、聞いてくれよ!
 実はさ、今度、あの番組のオーディションに参加できることになったんだ!」

律子「あの番組? ああ、前に言ってたあれね」

P「うん。いやぁ、たしかにこれまでより大規模だけど、今のあの子達ならきっとだいじょ──」

律子「……」

P「……律子? どうしたんだ?」

律子「え!? あ、ああいえっ、なんでもないです!」

P「……」 


20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 06:21:25.47 :urzOP9JL0

P「あのさ……俺、まだまだ新米プロデューサーだから、こんな生意気言うのもなんだけど……」

P「律子、なにかあったんじゃないか?
 アドバイスなんて大それたことは出来ないけど、話を聞くだけなら、できるよ」

律子「……」

P「……同じプロデューサー仲間、だろ?」

律子「……そう、ですね」

律子「実は……」


  *  *  *


P「伊織と喧嘩した?」

律子「……そうなんです」 


23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 06:30:02.68 :urzOP9JL0

律子「今から言うことは、本当に意味もない、ただの愚痴。だから、気分を悪くさせたらごめんなさい」

P「大丈夫だよ。なんでも話してみてくれ」

律子「……私、最近ちょっと、あせってたんです」

P「あせる?」

律子「はい。あとから入社したあなたがプロデュースするアイドル達が、
   すごい勢いで力を付けているから……私も負けていられないって思って」

P「……」

律子「だから私も、とにかくいろんなところに営業の電話をかけて、走り回って、
   大きな仕事を取ろうとしてたんです。でも……そうしたら、伊織が」


『律子、最近私たちのこと、ちゃんと見てる? 亜美やあずさが何を考えてるか、知ってる?』


律子「って……」

P「……あまり、話してなかったのか?」

律子「……ええ。経験のある今の竜宮小町なら、ある程度放っておいておいても平気だって思ったから」

律子「私に出来ることは、あの子達に仕事を与えることだって……そう思って」 


24:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 06:39:38.24 :urzOP9JL0

律子「そのときの私は疲れていたし、つい頭に血が昇っちゃって……。
   その、売り言葉に買い言葉というか……」

P「……それで、言い争いになったのか」

律子「……そうなんです。たしかに前に比べたら直接付き添いに行ったりすることは減ったけど、
   それがあの子達のためになることだ、って、私はそう考えていたから」

P「……そっか」

律子「でも、だめね。結局、伊織とも仲直りできないまま……」

律子「以前、私はあなたに偉そうなこと言っちゃったけど……、
   こんなんじゃ、私こそ、プロデューサー失格だわ……」

P「……」

律子「……ごめんなさい。こんなことあなたに話しても──」

P「なぁ、律子」

律子「……?」

P「……美希がさ、前に言ってたんだよ」

律子「美希?」

P「うん。律子に認めてもらうために、自分はやる気を出し始めたんだって」

律子「え……!?」 


25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 06:52:30.71 :urzOP9JL0

P「竜宮小町に入れてもらえなかったこと、あの子なりに色々と考えたらしい。
 やる気を出して、頑張って……そうしたら、きっと律子は認めてくれるって思ったんだってさ」

律子「……」

P「……あの子が最近、どんどん才能を開花させているのは、決して俺だけの力じゃないんだ」

P「だから、あせる必要なんかない。俺たちは、全員で、同じ765プロの仲間なんだから」

律子「プロデューサー……」

P「それにまぁ、俺のプロデュースするアイドル達は、
 知名度で言ったらまだまだ竜宮小町の足元にも及ばないしね。あはは……」

律子「……ふふっ。自分のことになると謙虚なんだから」

P「でも、いつかは……、とはもちろん思っているからな?」

律子「わかってます。私だって、負けていませんよ! ……っと、ちがうちがう」

律子「負けない、じゃなくて……切磋琢磨する、って言ったほうがいいわね」

P「……冷静になった頭で、さっきみたいに反省が出来ているなら、きっともう大丈夫。
 伊織が今、どんなことを考えているか……、想像できるだろ?」

律子「……はい。私、ちょっと電話かけてきます!」 


26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 07:04:20.06 :urzOP9JL0

  *  *  *

ガチャ

律子「……ふふ」

P「お、その顔は……」

律子「ええ。ちゃんと、言いたいことを話して……それで、また明日ねって言えました」

P「そっか! それなら良かった」

律子「ありがとうございます、背中を押してくれて」

P「いいんだよ。まぁ、律子も伊織も、なかなか素直になれないところがあるからなー」

律子「……ちょっと? 伊織はともかく、私は別に、そんなつもりはないわよ?
   大体、素直になれないって、あなたは私の何を知ってるっていうんですか。担当アイドルでもないのに」

P「ご、ごめんごめん、怒らないでくれよ」

律子「……なーんて。ふふっ、冗談ですっ♪」

P「……律子が笑顔になって、俺も嬉しいよ。律子はやっぱり、そういう顔が一番似合うからな」

律子「なっ……!? ……はぁ」

P「どうした?」

律子「……べ、べつに、なんでもないです」 


30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 07:12:23.64 :urzOP9JL0

律子「……そういうことは、アイドルのみんなに言ってあげてください。きっと喜ぶから」

P「そういうこと?」

律子「あーもう、わかってないならいいですよっ。
   もう、無自覚でそんなこと、サラっと言えちゃうんだから……恥ずかしいったらないわ」

P「……」

律子「な、なんですか?」

P「いや……やっぱり、もう少し早く入社すればよかったかなって思って」

律子「え? なんでそんなこと……」

P「だってそれなら、律子がプロデューサーになる前だし……
 アイドルとして俺がプロデュースすることも、できたかもしれないだろ?」

律子「……まぁ、そうね。でも元々私、プロデューサー志望でしたし……断ったかも」

P「だけど、今の律子、すごく魅力的だって思うよ。だからきっ──」

律子「はぁぁ!?」

P「えっ!? な、何か俺、へんなこと言ったか?」

律子「……い、いえ」 


32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 07:19:48.42 :urzOP9JL0

律子「……あなたのアイドル達は、いつもこんな気持ちになってるのかしらね」

P「こ、こんな気持ちって?」

律子「プロデューサーの適当な発言で、いちいち一喜一憂するってこと」

P「適当に発言したつもりなんてないんだけどな……」

律子「……じゃ、じゃあ、本気だとでも?」

P「もちろん!」

律子「……」

P「律子?」

律子「べっ、べつに、喜んでなんかいませんけど!?」

P「な、なんにも言ってないじゃないか!」

律子「あーだから……もういいですっ、仕事も終わってるから、私帰りますっ」

P「そ、そっか。送っていこうか?」

律子「……結構です」

P「でも、もう遅いし……」

律子「……今はひとりにして欲しいんですよ」 


34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 07:22:59.65 :urzOP9JL0

P「それじゃあ、また明日。気をつけて帰れよ」

律子「ええ。……あ、あの」

P「ん?」

律子「ありがとうございました、色々と」

P「お礼なんて、そんなのいいって。そんなことより、これからこれから! ……だろ?」

律子「……ふふっ、そうね!」


  *  *  *


P「……さて、と。俺ももう少ししたら──」

ピピピ

P「ん? メール……ああ、律子からか。どれどれ……」

ピッ

P「……はは」 


36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 07:31:28.11 :urzOP9JL0

………………………………………………………………
From:秋月律子
Sub:ありがとう

律子です。
あなたはさっきお礼なんていらないって言ったけど、
やっぱりちゃんと言っておきたくて、メールしました。

今日は、色々と話を聞いてもらってありがとうございました。
プロデューサーとして大切なこと、思い出せた気がするわ。
これからも、アイドルの子たちを見守る同じプロデューサーとして、
共に頑張っていきましょう!

…それで、えっと、最後にあなたが言ったことですけど…
私も…、あなたにプロデュースされるなら、
アイドルを続けるのも悪くないかなって、そう思いました。

べ、べつに深い意味はありませんからね!?
ただ、プロデューサーとしてもっと実力をつけるために、
アイドルの気持ちになってみるのも必要かなって、そう思っただけで…

勘違いをして、明日から妙に態度を変えたりしないでください。
私はあくまで、あなたと同じ、プロデューサーなんですから!

そ、それでは!
……………………………………………………………… 


40:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 07:37:48.97 :urzOP9JL0

P「……ふふっ。やっぱり、素直になれないところ、あるじゃないか」

パタンッ

P「律子……でも俺は、お前のそういうところも愛して

──────
────
──

小鳥「ウェイト! ウェイトですよプロデューサーさん!」

P「えっ」

小鳥「ど、どさくさに紛れてなにを言おうとしてるんですかっ!」

P「いや、まぁ……妄想ですし」

春香・小鳥「……」

P「ま、妄想は以上なんだけど……わかってくれたかな? かな?」

春香「かな? じゃないですよっ!」

小鳥「そうですよプロデューサーさんっ!」

P「えっ、えっ」

春香・小鳥「こんなの、全然ツンデレじゃない!!!」 


42:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 07:49:34.20 :urzOP9JL0

P「いやだって、ほら、素直になれないシーンとかあったじゃないか」

小鳥「あれがツンだとでも? あんな微々たるもの、ないものも同然ですよ」

春香「そうですよぅ。律子さん、デレデレだったじゃないですか」

P「そうかな……でもさ、ツンデレってこういうもんだろ? 二面性が大切なんだ」

春香・小鳥「二面性?」

P「うん。わざわざツンツンしたり敵対したりする必要は無いって、俺は思うんだよ」

春香「え……」

P「出会った頃は、そりゃあ普通の態度だけど……
 でも、仲良くなっていくにつれて、少しずつ素直な一面を見せていくんだ」

P「だけど本人は恥ずかしいから、それが素だとは認めたくない。
 ついつい、違うわよっ! って言っちゃう」

P「律子は、そういうツンデレなんじゃないかなぁ。うへへ……」

小鳥「……プロデューサーさん、律子さんのこと好きでしょう?」

P「そ、そんなわけないんだからねっ」

春香「ツンデレだー!」 


44:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 07:59:17.33 :urzOP9JL0

P「とにかく! どうだったかな!? 律子、可愛かっただろ!?」

春香「……ま、まぁ」

小鳥「それなりに……でも、ねぇ」

P「あれ? 意外とリアクションが薄い……」

春香「もっとこう、ツンツンしたのが来るかと思って身構えてましたから」

小鳥「私たちはそれぞれ、ツンデレに対して信念があるんです。
    だから肩透かしを食らった気分なんですよ」

P「そんな……」

春香「えへへ……これなら私の千早ちゃんの大勝利かなぁ」

小鳥「あら、そんなこと言ったら私の伊織ちゃんだって……」

P「ま、まだ終わってない! 次、次行きましょう! えーっと……」

小鳥「おほん! それじゃあ、次は私が行きますね」

小鳥「私がいつも妄想してる、大正義やよいおり物語をお聞かせしちゃいますよっ! ふっふっふ……!」

春香(小鳥さん本人じゃないんだ) 


51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 08:36:51.22 :urzOP9JL0

【伊織の場合】

小鳥(あれはそう……伊織ちゃんが所属するユニット、竜宮小町が売れに売れていた頃のことでした)

ガチャッ

伊織「……ただいま戻ったわ」

小鳥「あら、お帰りなさい伊織ちゃん」

伊織「……」キョロキョロ

伊織「小鳥だけ?」

小鳥「ええ、そうだけど……どうしたの? 暗い顔してるみたいだけど」

伊織「! そ、そう見える?」

小鳥「私はいつもみんなのことを見てるんだから、それくらいわかるわよ。
   何があったの? 私でよかったら、話してみて」

伊織「……ううん、やっぱりやめておくわ」

小鳥「……」

伊織「勘違いしないでね。小鳥に話してもしかたないって思ってるわけじゃないのよ。
   ただ……これは、私の問題だから」

小鳥「……そう」 


53:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 08:46:42.28 :urzOP9JL0

────

伊織「ってことで……今日の活動の報告は以上ね」

小鳥「わかったわ。ユニットの代表としてわざわざ来てくれてありがとね」

伊織「……代表、ね」

小鳥「……ねぇ、伊織ちゃん。もしかして──」

バターン!

伊織「!」ビクッ

やよい「おっつかれさまでーっす!」

P「あはは、やよい、そんなに勢いよくドアを開けなくても、事務所は逃げたりしないぞ」

美希「そうだよ~。今日はレッスンとオーディションで疲れちゃったし、
   もうちょっと、のんびりしてもいいんじゃないかなぁ~……あふぅ」

やよい「でもでもっ、プロデューサーっ、美希さんっ!
    私いま、やる気がメラメラーって出てて、もう止まらないって感じなんですっ!」

伊織「……やよい、お疲れ様」

やよい「あっ、伊織ちゃん! えへへー、伊織ちゃんもおつかれさまっ!」

伊織「あんたはいつも元気そうねぇ……」 


55:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 08:54:54.90 :urzOP9JL0

やよい「あれ……? どうしたの、伊織ちゃん」

伊織「なにが?」

やよい「あの……なんだか、いつもより元気がないかなーって……」

伊織「そ、そんなことないわよ。へんなこと言わないでちょうだい」

やよい「でもー……」

伊織「……そんなことより、事務所に帰ってきたんだし報告があるんでしょ? 
   私は大丈夫だから、さっさと済ませちゃいなさい」

やよい「……うん」

伊織「それじゃあみんな、私は先に失礼するわね」スタスタ

P「ああ、お疲れ」

美希「……zzz……」

伊織「……」プニッ

美希「うひゃあっ! な、なにっ?」

伊織「にひひっ♪ 立ちながら寝てるんじゃないわよ」

美希「もー、でこちゃん、ミキのお昼寝のジャマしないでほしいって思うな」

伊織「もうお昼って時間でもないでしょっていうかでこちゃんって言うな!」 


57:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 09:01:34.06 :urzOP9JL0

────

P「……こんなところですかね」

小鳥「了解しました、社長にもそう伝えておきますね。
   それにしてもプロデューサーさん、最近すごいじゃないですか!」

P「あはは! みんなの頑張りのおかげですよ」

小鳥「ふふ、またご謙遜しちゃって……あら? そういえば、春香ちゃんは?」

P「ああ、春香なら……」



やよい「……あの、美希さん」クイクイ

美希「んー? どうしたの?」

やよい「伊織ちゃん、元気が無かったかなーって思いませんでしたか?」

美希「そう? ミキ的には、いつも通りのでこちゃんだったってカンジ」

やよい「でもでも……いつもより、おでこも暗かったし……」

美希「……シンパイ?」

やよい「はい……伊織ちゃんは、私の一番の友達だから……」 


61:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 09:11:27.94 :urzOP9JL0

美希「それなら~、電話すればいいって思うな!」

やよい「え? 電話ですか?」

美希「うんっ! ミキもね、お仕事でいやなこととかがあったら、
   学校の友達とかプロデューサーに電話するの。
   そしたらそしたら、いやなことなんてすぐ忘れちゃうんだから!」

美希「社長からもらったケータイ、あるんでしょ?」

やよい「はい……」

美希「ケータイって、どんなに離れてても、いつでもどこでもお話できるから、すっごいよね」

やよい「どんなに離れてても……」

美希「でこちゃんもきっと、やよいとお話できたら、いやなこともすぐ忘れちゃうよ?」

やよい「……はいっ、わかりましたっ!
    じゃあ私、家に帰ったら、伊織ちゃんに何があったのか聞いてみますっ!」

美希「あはっ! それじゃあミキは、もう一回……おやすみなさいなの……」

P「あっ、こらこら美希! こんなところで寝るなって……」 


62:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 09:19:54.08 :urzOP9JL0

小鳥(そして、その日の夜……)


やよい「えっと……伊織ちゃん、伊織ちゃん」

ポパピプペ……

ピッ

伊織『……もしもし? やよい?』

やよい「! い、伊織ちゃん……」

伊織『珍しいじゃない、あんたが電話してくるなんて。どうしたの?』

やよい「あの……今日、事務所で伊織ちゃん、元気なかったみたいだから」

伊織『……』

やよい「だから私、気になっちゃって……」

伊織『……心配してくれたのね、ありがと』

やよい「伊織ちゃん、なにが──」

伊織『でも大丈夫よ。さっきも言ったけど、べつに、なにがあったってわけじゃないから』

やよい「……」 


64:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 09:28:08.56 :urzOP9JL0

やよい「……伊織ちゃん、うそついてます」

伊織『私がやよいに、うそですって? そんなわけないじゃない』

やよい「ゼッタイそうだよっ! 私、わかるもん!」

伊織『っ! ……なんで、そう言えるのよ』

やよい「だ、だって……伊織ちゃんは私の、お友達だし……」

伊織『……そうね、たしかにやよいは私の友達よ。
   普段は面と向かってこういうこと、言えないけど……』

伊織『でも、だからって、考えてることがなんでもわかるってわけじゃないでしょう?』

やよい「……!」

伊織『……私のことは本当に心配ないわ。あんたも明日、はやいんだから、もう寝ちゃいなさい』

やよい「あ、あのっ! 伊織ちゃん、怒って……」

伊織『……怒ってなんか、ない』

やよい「もしかして、今日のお仕事中に、り──」

伊織『ちがうって言ってるでしょ!?』

やよい「っ!」 


66:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 09:33:19.04 :urzOP9JL0

伊織『あ……や、やよい……』

やよい「……」

伊織『……ごめんなさい。怒鳴ったりして』

やよい「……ううん」

伊織『……ちゃんと言うから』

やよい「え? 言う?」

伊織『片付いたら、あんたにもちゃんと言う。だから……、今は、放っておいて』

やよい「……わかりました」

伊織『……本当にありがと。
   やよいが私のこと考えてくれてたっていうのは……嬉しいわ』

伊織『それじゃあ、また明日ね』

やよい「うん……」

ピ……

やよい「……」 


67:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 09:44:12.67 :urzOP9JL0

小鳥(そして、その翌日……)

小鳥(その日のやよいちゃんたちのお仕事は、ライブ。
   それまでに比べたらたしかに大きなステージだったけど、
   これまで何度もレッスンとリハーサルを重ねてきました)

小鳥(だから、今のやよいちゃんたちなら、パーフェクトにこなせるはずだったんですけど……)


ワー ワー……

P「……やよい、そう気を落とさないでくれ」

やよい「プロデューサー……でも、私……」

P「あのあとはすぐ、いつものやよいを取り戻せたじゃないか。
 ファンのみんなも気にしちゃいないしさ。
 なーに、一度や二度の失敗なんて気にするな! これからこれから!」

やよい「……はい」

P「よし、それじゃあ……衣装替え、行ってこい!」

やよい「……わかりました!」


小鳥(やよいちゃんはステージ中に、一度だけ、尻もちをついてしまったのです……) 


71:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 09:53:38.47 :urzOP9JL0

  *  *  *

P「ということがあって……」

小鳥「そうですか……そのあと、やよいちゃんは?」

P「大丈夫、なんとか持ち直したみたいです。
 でもやよいも、いつもならこんなことを気にしたりしないんですけどね……」

小鳥「……やっぱり、昨日のことを気にしているのかしら」

P「昨日?」

小鳥「見ていてわかりませんでしたか? 伊織ちゃん、元気なかったでしょう」

P「……言われてみれば、たしかに。いつもみたいに俺のこと、蹴ってくれなかった……」

小鳥「……いつも元気なやよいちゃんだけど……、
   あの子がへこんでしまうことがひとつだけあるんです」

P「それって……」

小鳥「……それは、仲間のこと。大切な友達になにかあったときだけ、
   やよいちゃんは元気をなくしてしまうんです」

P「伊織のことを、心配してるってことですか?」

小鳥「そうですよ、きっと」 


74:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 10:02:38.63 :urzOP9JL0

P「……俺、気が付いてやれなかったな」

小鳥「しかたありませんよ。あの年頃の女の子は、
   表面をちょっと見ただけではわからない、難しい問題を抱えがちですから」

P「……」

小鳥「でもプロデューサーさん? あなたがそれを気にしては、なおさらだめですからね」

P「え……」

小鳥「だって、あなたはプロデューサーなんですから。
   いつだって、みんなの頼れるお兄さんでいてください」

P「……そうですね」

小鳥「大丈夫、伊織ちゃんもやよいちゃんも、そんなに弱い女の子ではありません」

小鳥「だから……ときには、見守ってあげることも必要です」

P「……わかりました! よしっ、それじゃあ俺は、
 やよいたちがもっと活躍するために、もっともっと頑張らないといけませんね!」

小鳥「ふふっ、それでこそプロデューサーさんですよ」 


77:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 10:09:52.59 :urzOP9JL0

小鳥「じゃあ、私は今日はこのへんで……お疲れ様でした」

P「ええ。事務所の鍵は明日の朝、ちゃんと開けておきますね」

小鳥「ありがとうございます。残業、大変でしょうけど、頑張ってくださいね」

P「あははは……はい」

小鳥「それじゃあ……」

ガチャッ

律子「……っと」

小鳥「あら、律子さん」

律子「……小鳥さん、いま帰りですか?」

小鳥「ええ。……あら?」

律子「な、なにか?」

小鳥「……ふふっ。なんだか、今の律子さんの顔を見たら、
   伊織ちゃんに何があったのかわかっちゃったかもしれません」

律子「! い、伊織? あはは、なんのことだか……」

小鳥「プロデューサーさんに話して、慰めてもらうといいですよ」

律子「ええっ!? な、慰めるって……もう、そんなつもりはありませんからっ!」 


80:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 10:15:26.87 :urzOP9JL0

律子「……」テクテク

P「いつも通りの俺、か……よし!」

律子「……あ、プロデューサー」

P「おお律子! あはは、聞いてくれよ!
 実はさ、今度、あの番組のオーディションに参加できることに──



  *  *  *



トボトボ……

やよい「……失敗、しちゃった」

やよい「だ、だめだめっ! 気にしないでっ、元気にならなきゃっ!」

やよい「……でも」


やよい「伊織ちゃん……いま、何してるのかな……」 


83:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 10:22:41.56 :urzOP9JL0

やよい「あぅ……気になっちゃう……」

やよい「で、でもでも! 終わったらちゃんと話す、って、伊織ちゃんも言ってくれたし」

やよい「だから……」

やよい「……」


──────

『……いやなこととかがあったら、学校の友達とかプロデューサーに電話するの。
そしたらそしたら、いやなことなんてすぐ忘れちゃうんだから!』

『ケータイって、どんなに離れてても、いつでもどこでもお話できるから、すっごいよね』

『でこちゃんもきっと、やよいとお話できたら、いやなこともすぐ忘れちゃうよ?』

──────


やよい「……美希さんが言ってたこと……それって、私もしていいのかな」

やよい「伊織ちゃんのことを心配して電話をかけるんじゃなくて……」

やよい「今日、私に何があったのかって……伊織ちゃんに話すのは……」 


84:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 10:30:11.58 :urzOP9JL0

やよい「……よーしっ!」

ポパピプペ

プルルル……

やよい「……」


『……でも、だからって、考えてることがなんでもわかるってわけじゃないでしょう?』


やよい「……でも、だからだもん」

やよい「考えてること、なんでもはわからないけど……
    わからないから、ちゃんとお話ししなきゃいけないですっ!」

やよい「伊織ちゃんは私の、一番の友達だから……!」

ピッ

伊織『……もしもし? やよい、今度はどうし──』

やよい「伊織ちゃんっ!!」

伊織『な、なによ、そんな大声だして』

やよい「私、今日、失敗しちゃいましたっ!」

伊織『え……な、なにを急に言ってんの?』 


85:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 10:39:03.67 :urzOP9JL0

やよい「あのっ、だから……元気がなくなっちゃったんですっ!」

伊織『あんたの声を聞いてると、とても元気がないなんて思えないんだけど……』

やよい「これって、きっと、伊織ちゃんの「だめ」がうつっちゃったからかなーって!」

伊織『だめって……ちょ、ちょっとやよい? あんたどうしたの?』

やよい「……」

伊織『……いつものあんたらしくないじゃない』

やよい「いつもの私?」

伊織『いつものやよいはもっと、ポジティブでしょう? 失敗なんて気にしないで……』

やよい「……でも、だめって、うつるよ……」

伊織『……』

やよい「だからねっ! 私、伊織ちゃんに元気になってほしいんだっ!」

伊織『……はぁ?』

やよい「だって……! だって、元気もうつれば……お互い、ポジティブになれるからっ!」 


87:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 10:47:48.81 :urzOP9JL0

伊織『……ぷ、ぷぷっ……』

やよい「え……」

伊織『な、なに言ってんのよ……ぷぷっ、もう、そんなばかみたいなこと言って』

やよい「あ、あの……」

伊織『……私のこと、まだ心配してくれてるの?』

やよい「ちっ、ちがうよ! だって伊織ちゃんは、ちゃんとお話するって言ってくれたし……
    だから私は、私のことを話そうかなーって……」

伊織『いいわよ、そんなうそつかなくたって』

やよい「うそなんかじゃ……」

伊織『……それくらい、私にもわかるわよ』

やよい「……」

伊織『……昨日はあんなこと言っちゃって、ごめんなさい。
   そうね、今のやよいの声を聞いたら……、昨日のやよいの気持ち、わかったわ』

伊織『友達だから……声を聞いただけで、なにを考えているかわかる』

やよい「伊織ちゃん……」 


90:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 10:56:41.26 :urzOP9JL0

伊織『……昨日は、私にも少し余裕が無かったの。だから……ごめんね』

やよい「ううん! 私、そんなこと気にしてないからっ!」

伊織『……昨日あんたが言いかけたとおり、律子とね、喧嘩しちゃったのよ』

やよい「え……?」

伊織『最近、あんた達がすごい勢いで成長してるから、律子もあせっていたんでしょうね』

伊織『ひたすら仕事を取ろうって必死で……
   そりゃあ、プロデューサーとしてはそれが正しい形かもしれないけど、でも……』

伊織『……私や亜美、あずさのことを、忘れてるんじゃないかって思ったのよ』

やよい「……伊織ちゃん、さみしくなっちゃったの?」

伊織『ちっ、ちがうわよっ! ただ私は、ユニットのリーダーとして……』

やよい「えへへ……うん!」

伊織『ほ、ほんとにわかってるのかしら。絶対、勘違いしないでよねっ!』 


92:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 11:03:07.25 :urzOP9JL0

伊織『……あと、こんなこと言ったって、絶対律子にはナイショよ?』

やよい「え、なんで?」

伊織『だって律子は、私を信頼して、ユニットのことをまかせてくれたんだから……』

やよい「……」

伊織『……昨日、やよいと電話してから考えたのよ』

伊織『私はユニットのリーダー。だから……いつまでもこんなんじゃいけないって』

やよい「……仲直り、できる?」

伊織『……どうかしらね。たとえ私が謝ったとしても、律子も、素直じゃないから』

やよい「えっへへー……プロデューサーの言ってたこと、ホントでした!」

伊織『え? プロデューサー?』

やよい「プロデューサー、いっつも律子さんのこと話してて……」

『律子は素直じゃないからなー』

やよい「って言ってるんですっ!」

伊織『……そうなの。あのバカデューサーも、ああ見えて、意外とわかってるのね。にひひっ♪』 


93:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 11:09:51.01 :urzOP9JL0

やよい「ねぇ、伊織ちゃん。美希さんが言ってたんだけど……
    電話って、たしかにすごいねっ」

伊織『すごい? どういうことよ』

やよい「だって、どんなに離れてても、こうやってお話できて……
    伊織ちゃんの気持ちだって、なんだってわかっちゃうから」

伊織『……そうね』

やよい「だから、伊織ちゃんも……」

伊織『……ええ。律子に、電話、かけてみることにするわ』

やよい「はいっ!」

伊織『……ほんとに、ありがと。それじゃあ、やよ──』

ピピッ

伊織『あら? キャッチだわ』

やよい「きゃっち?」

伊織『他の人から電話がかかってきたみたい。えーっと……』

伊織『……! り、律子……?』 


94:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 11:13:20.55 :urzOP9JL0

やよい「えっへへー……それじゃあ伊織ちゃん、私、もう切るね!」

伊織『ええっ!? ちょ、ちょっと待って! まだ心の準備が出来てないわよっ!』

やよい「だいじょうぶですっ! 伊織ちゃんなら、ゼッタイぜーったい、仲直りできるかなーって!」

伊織『……』

やよい「また、明日ね!」

伊織『……ええ。また……』

伊織『また、明日!』


──────
────
── 


95:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 11:20:52.17 :urzOP9JL0

小鳥(そして、その翌日……)


ガチャッ

伊織「おはよう」

やよい「あっ、伊織ちゃん! おっはようございまーっす!」トテテ

伊織「やよい……昨日は悪かったわね、あんなこと話しちゃって」

やよい「ううん! それで、その……」

伊織「……ええ、ばっちりよ!」

やよい「ホントですかっ!」パァァ

伊織「言いたいこと、お互いにちゃんと話して……また明日ねって言えたわ」

やよい「それなら、私もとーっても嬉しいですーっ! うっうー!」ピョンッ 


98:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 11:28:52.43 :urzOP9JL0

伊織「それで、その……」

やよい「え?」

伊織「だからっ……」

P「おっ、伊織じゃないか」

伊織「げっ、変態プロデューサー」

P「のっけからそれか……傷ついちゃうぞ」

P「それよりさ、ほら」クイッ

伊織「なによ? ……あ」

律子「……」モジモジ

P「……さっきから隅っこでモジモジしてる、お前のプロデューサーがいるだろ?
 声、かけてやってくれ。仲直りしたとしたって、顔を合わすのは恥ずかしいんだよ」

律子「なっ、なな、なにを言ってるんですか!?」

P「よしっ! それじゃあやよい、俺達はもう行こうか!」

やよい「はーいっ!」トテテ

伊織・律子「ちょ、ちょっとふたりともっ!?」 


100:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 11:41:05.21 :urzOP9JL0

律子「……お、おはよう」

伊織「……」

律子「伊織、改めて言うけど……最近、私──」

伊織「もういいわよ、そんなこと」

律子「えっ……」

伊織「でも、亜美やあずさにもちゃんと話しなさいよね?
   亜美なんて、『律っちゃんが亜美たちのこときらいになっちゃったんだー』って言って
   泣きそうになることもあったんだから」

律子「……そうだったんだ……」

伊織「にひひっ♪ あとでどんな目に合うか、今から楽しみね!」

律子「あはは……そうね」

伊織「……律子」

律子「なに?」

伊織「これからも、よろしくねっ!
   あんたは、私のプロデューサーなんだから!」

律子「……ふふっ。ええ、こっちこそ!」 


101:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 11:45:28.63 :urzOP9JL0

律子「……伊織、顔、真っ赤よ?」

伊織「う、うう、うるっさいっ! あんたに言われたくないわよっ!」

伊織「そもそも、あんたがねぇ……



  *  *  *



ブロロロ……

P「……やよい、元気になったみたいだな」

やよい「はーいっ! えっへへー、元気もうつっちゃいましたっ!」

P「そっか……うん、本当に良かったよ」

ピピピッ

やよい「あれ? 電話……」

やよい「! 伊織ちゃんだ……」

P「まだレッスンスタジオまで時間あるし、出てもいいぞ」

やよい「……はいっ!」 


103:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 11:51:26.86 :urzOP9JL0

やよい「もしもし……」

伊織『あ……やよい?』

やよい「うんっ! どうしたの?」

伊織『……さっき、ちゃんと言えなかったから』

やよい「さっき?」

伊織『……本当に、色々とありがと』

伊織『こんなこと、面と向かって言えないけど……
   私、やよいのことは、一番の友達だって思ってるからね』

やよい「! えへへ……うんっ! 私も!」

伊織『そ、それだけよっ! じゃあねっ!』

やよい「え──」

ピッ  ツーツーツー……

やよい「……切れちゃいました」

P「……ふふ。もう一回かけてみたらどうだ?」

やよい「……」フルフル

やよい「えへへ……もう、十分かなーって!」 


106:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 11:58:16.56 :urzOP9JL0

やよい「……プロデューサー」

P「ん?」

やよい「いっぱい話さなきゃわからないこともあるけど、
    ほんのちょびっとの言葉でわかることも、あるんですねっ!」

P「……うん、そうだな!」

やよい「よーっし! 私、またやる気がメラメラーって出てきましたっ!」

やよい「今日も、ガンバっていきましょーうっ! うっうー!」

P「ああ!」

──────
────
──

小鳥「……ふぅ。以上です」テカテカ

P「長いかと」

小鳥「ええっ!? 私なりに、まとめたつもりだったんですけど……」

春香「というか小鳥さんっ! いまの伊織、ツンデレですか!?」

小鳥「え……わからなかった?」

春香「どこにツンがあったのか探さなきゃ見つからないレベルです……」 


107:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 12:07:16.15 :urzOP9JL0

P「伊織のあの声だからツンデレっぽく聞こえるだけだよなぁ」

春香「そうですね」

小鳥「……そこまで言うなら、それじゃあ聞いてくださいふたりとも」

小鳥「そもそもツンデレとはなんですかっ!?」

P「そりゃあ……」

ツンデレとは……
特定の人間関係において敵対的な態度(ツンツン)と過度に好意的な態度(デレデレ)の両面を持つ様子、
又はそうした人物を指す。(wikipediaより)

P「でしょう? まぁ、さっき俺があんな妄想したあとにこう言うのもあれですけど」

小鳥「その通りですっ! ……ね? わかったでしょう?」

春香「ね? って言われても……」

小鳥「伊織ちゃん、ツンツンしてたじゃない」

春香「やよいに対しては、わりと素直だったと思うんですけど」

小鳥「ノンノン」

小鳥「やよいちゃんじゃなくて、律子さんにツンツン、してたでしょ?」

P・春香「な、なんだってー」 


113:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 12:53:18.16 :urzOP9JL0

小鳥「考えてもみてください。伊織ちゃんって、誰に対してもツンツンしていますか?」

P「……!」

小鳥「そうです。伊織ちゃんが本当の意味でツンツンしちゃう相手は、
   自分のプロデューサーに対してだけなんですよ!」

P「言われてみれば……」

春香(そうでもないと思うけど……)

小鳥「伊織ちゃんはアイドルである自分に対して、誰よりも誇りを持っています。
   だからこそ、そんな自分を導くプロデューサー……
   つまり自分のパートナーには、求めるものが非常に多いんですよ」

小鳥「キュートでプリティで完璧なアイドルを目指す自分の隣に立つ人は、
   完璧でいて欲しいって、そう思っているんです……
   でも! 実際問題そうもいかないっ!!!」

春香・P「」ビクッ

小鳥「そんなとき、伊織ちゃんは戸惑ってしまうんです。
   だけど、誇りを持つ彼女だからこそ、プライドが高い彼女だからこそ、素直になれない。
   言わなくてもわかってほしい。ついつい怒っちゃう。変態! ド変態! とか言っちゃう」

小鳥「そういう、信頼関係があった上でのツン。
   それこそが、伊織ちゃんの持つ至高のツンだと思うんです……」

小鳥(自分でも何を言ってるのかわからなくなってきたわ……) 


114:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 13:04:23.85 :urzOP9JL0

小鳥「……まあ、なんだかんだいって、最終的には気持ちなんですけどね」

P「気持ち?」

小鳥「伊織ちゃんを大事だって思う気持ち。不器用でも、完璧じゃなくてもいいんです。
   ただひたすら、伊織ちゃんの味方でいるぞっていう気持ちを持っていれば……
   それはいつか必ず、伊織ちゃんに伝わる」

小鳥「そのとき彼女は、本当の意味で自分のパートナーのことを認めるんですよ。
   伊織ちゃんの心の成長とともに……その価値観は次第に、あたたかく変わっていく。
   そして最後には……彼女のほうから歩み寄って、こう言うんです」


『……私がここまでこれたのは、あんたのおかげ』

『自信を持ちなさい、プロデューサー。あんたがMVPよ』


小鳥「ってね! これこそが伊織ちゃんの最強のデレなのよ!」

P・春香「おおー……」パチパチ

小鳥「興味の無い相手には猫をかぶったり、傲慢な態度を取る彼女だからこそ、
   ツンを見せられたときに『おっ、きたこれ』って思えばいいって、私はそう思います」

小鳥「そしてただひたすら、虎視眈々と、真のデレが垣間見える瞬間を狙うんですよ……。
   軽くデレが見えたくらいでよろこんではいけません!」

小鳥(話が変わっている気がするけど……ご、誤魔化せているかしら) 


115:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 13:12:41.05 :urzOP9JL0

春香「小鳥さんの熱意は、すーっごく伝わりました。でも……」

小鳥「うっ……で、でもなに?」

P「でも音無さん。今言ったのって……さっきの妄想とは全然違う話ですよね」

小鳥(誤魔化せてなかったー!)

小鳥「……か」

P・春香「え?」

小鳥「可愛ければいいでしょう!? 文句は言わせませんっ!」

P「おお……逆ギレだ」

小鳥「伊織ちゃんはそうなんですっ! そこらへんのツンデレとは違うんですー! うわーん!」

P「かわいそうに……幼児退行しいらっしゃる」

春香「……よーしっ! それじゃあ小鳥さんの番も終わったし……
   ついに、私の出番ですねっ!」

春香「百年経ってもやよいおりなら、千年経ってもはるちはってところを見せてあげますよ!」

小鳥「わぁい!」

P「立ち直りはやいなぁ……」 


119:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 13:43:35.33 :urzOP9JL0

【千早の場合】

春香「はぁ……はぁ……」タッタッタ

春香「……あっ! 千早ちゃーん!」タタッ

千早「! ああ、春香……」

春香「ご、ごめんね、待たせちゃって……」

千早「大丈夫よ、私もいまきたところだから」

春香「えへへ……うそばっかり」

千早「え?」

春香「手と、鼻の頭、赤くなってるじゃない。寒い中ずっと待っててくれたんでしょ?」

千早「……」

春香「……ごめんね、オーディション、ちょっと長引いちゃって」

千早「ふふっ、それはさっき、電話で聞いたわ」

春香「でも……」

千早「走ってきてくれたあなたの姿を見たら、文句なんて言えるはずもないわよ。
   それに、音楽を聴きながらなら、待っているのも苦じゃない。……さ、行きましょう?」

春香「……うん!」 


122:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 13:55:46.31 :urzOP9JL0

春香「それにしても……千早ちゃんとお買い物なんて、結構久しぶりだよね」

千早「そうね。最近はお互い、忙しかったから」

春香「ほんとだよねぇ~……。今日はさ、レッスンとオーディションが重なっちゃって、すっごくハードだったんだ。
    もーくたくた……美希なんて、歩きながら寝てたんだから!」

千早「……つらい?」

春香「……ううん、そんなことない。
   いま私、夢に向かって進んでるって感じがするもん!」

千早「……ふふっ」

春香「え? な、なに?」

千早「そう言うだろうって、わかってた。春香の顔を見ればね」

春香「……えへへ」

千早「でも春香? 事務所に寄る前に、無理言って抜け出してきたのは、感心しないわね」

春香「う……で、でもほんとは、オーディションが長引かなければ、時間通りにここに来れたし」

千早「それでも、よ。あなたのプロデューサーはあんな感じだから、
   こういうのも許してくれたんだろうけど、けじめはちゃんとつけないと」

春香「あはは……うん、これからは気をつけます」 


124:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 14:03:26.55 :urzOP9JL0

春香(……それだけ、千早ちゃんにはやく会いたかったってことなんだけどな)

春香(恥ずかしいから、そんなこと言えないけど……)

千早「……でも」

春香「えっ?」

千早「……私を待たせないために、プロデューサーに無理を言ってくれたこと。
   それに、一生懸命走ってきてくれたこと……それは……」

春香「……」

千早「……嬉しいわ」

春香「ち、千早ちゃん……」

千早「も、もう行きましょう! お店、閉まっちゃうわよ!」

春香「ねぇねぇ! 今の、もっかい言って!」

千早「……」プイッ

春香「いじわる~!」 


125:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 14:14:40.50 :urzOP9JL0

春香(……千早ちゃんは、プロデューサーさんが765プロに来る前からのお友達です)

春香(誤解されることも多いけど、千早ちゃんはただ、ほんのちょっと不器用なだけで)

春香(あと、ほんのちょっと、真面目すぎるだけで……本当は、とっても可愛い女の子なんですよ!)


春香「えへへへ……」

千早「何よ、そんなに笑って……」

春香「ううん。今日は、千早ちゃんに似合う服、めいっぱい選んであげるからねっ!」

千早「ええっ!? は、春香が、自分の服を買うだけでしょう?」

春香「そんなこと言わないでっ! ね、きっと可愛いから!」

千早「……服なんて、清潔にさえしていれば、なんでもいいと思うけれど」

春香「そんなんじゃもったいないよ! 千早ちゃん、背も高いし、スタイルいいんだから」

千早「……スタイル……」

春香「ほらほら、お店、見えてきたよ!」グイグイ

千早「そ、そんなに引っ張らないで……もう、わかったわよ」 


129:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 14:40:42.09 :urzOP9JL0

 
  *  *  *

千早「……ねえ、春香」

春香「なにー? あ、店員さん、あとこれも試着していいですか?」

店員さん「かしこまりましたー」

千早「あの……私は、あなたの着せ替え人形じゃないんだけど」

春香「お人形さんみたいに可愛いって思うよ!」グッ

千早「どこをどう解釈したらその台詞が出てくるのよ……」

春香「ほらほら! 次、このスカートなんてどうかな?」

千早「あまり露出が高いものはちょっと……って、聞いてるの!?」

春香「わぁ~……うん、やっぱりいいと思うっ! ね、お願いっ! 着てみて~!」

千早「……もう。これで最後だからね」

春香「うんー! それじゃあ、あとこれを……ついでにこれも」

店員さん「ええ、どうぞー」

店員さん(このふたり、どっかで見たことある気がするわね)

店員さん(でも私はプロのモブ。余計なことは言いません) 


131:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 14:47:37.94 :urzOP9JL0

──────
────
──

春香「えへへ……いっぱい買っちゃったね」

千早「主に、私の服をね……」

春香「千早ちゃん、それ、絶対着てね!」

千早「……でも、こんな服、着る機会もないわよ」

春香「えー? そんなことないって思うけどな……だってほら、このスカートなんて……」

千早「……ねぇ、春香。聞きたいことがあるんだけど」

春香「んー? ……ああそうだ、そういえば今日、やよいがねっ!」

千早「おねがい、聞いて」

春香「……うん」

千早「……勘違いだったら、ごめんなさい。でも、気になってしまって」

春香「……」

千早「今日は、どうしてそんなに、元気でいようとしてるの?」 


136:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 15:00:49.47 :urzOP9JL0

春香「……それは……」

千早「今日はやけに元気で、笑顔でいようとしてるけど……本当は疲れてるんでしょ?
   最近は、ずっとレッスンやリハーサルを重ねていたものね」

春香「た、たしかにそれはそうだけど!
   だって、今日は久しぶりに、千早ちゃんとこうして遊べたんだし……」

千早「……うそ、ついてるわね」

春香「うそなんかじゃ……!」

千早「さっきあなたが言ってくれたように、私だって顔を見ればわかるのよ」

春香「……」

千早「疲れもそうだけど……でも、何より」

千早「……明日のライブ、緊張しているんでしょう?」

春香「……!」

千早「……やっぱりね」

春香「……えへへ。バレちゃった……」 


138:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 15:11:12.24 :urzOP9JL0

千早「ライブ前日に、レッスンとオーディションなんて……無茶しすぎよ」

春香「……でもさ、しかたないよ。
   今日のオーディション、参加するだけでも大変なやつだったんだから」

春香「プロデューサーさんもね、ちゃんと私たちに聞いてくれたんだ。
   かなりハードになるから、受けてもいいかどうか、って」

千早「反対、しなかったの?」

春香「……」フルフル

春香「そんなことできないよ。私は、ユニットのリーダーだから……
   美希とやよいがあんな顔してたんじゃ、なんにも言えない」

千早「……そう」

春香「最近ね、あのふたりすごいんだ。やよいは体力がますます増えてるし、
   美希なんて、まるで半年前とは別人みたいで……」

千早「……春香はどうなの?」

春香「私? 私は……」

春香「……どうかな。なんにも変わってないって思う……相変わらず、普通の女の子」

千早「……」

春香「だからこそね、明日は、絶対に失敗できないって思うんだ。
   リーダーらしいこと、まだなんにも出来てないから、せめて……足を引っ張っちゃいけないって」 


139:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 15:19:44.80 :urzOP9JL0

春香「……なーんて。えへへ……ごめんねっ!
   こんな風に愚痴っちゃうなんて、私らしくないよね!」

千早「春香……」

春香「天海春香は、元気だけが取り得の女の子なんだからっ!」

千早「……」

春香「……さ、千早ちゃん。次のお店、行こ?」

千早「……ごめんなさい。今日はもう、帰るわ」

春香「え……な、なんで?」

千早「気分が優れないのよ」

春香「……うそ、だよ」

千早「……ええ、うそよ。でも、わかるでしょ?」

春香「わ、わかんないよ……なんで、私がこんな話したら、急に帰るなんて言っちゃうの?」

千早「春香を休ませるため。家まで遠いんだから、あなたもはやく帰りなさい」

春香「そっ、それならっ! どうして、今日会ってくれたの!?」

千早「……春香が、どうしてもって言うから」

春香「……!」 


142:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 15:27:50.65 :urzOP9JL0

春香「……そっか」

千早「……ごめんなさい」

春香「……ううん、いいよ。私こそ、ごめんね」

千早「春香が謝ることなんて、何もないわよ」

春香「……ある、もん」

千早「……」

春香「ち、千早ちゃんに……っ、そんなこと、言わせちゃった……!」

千早「! は、春香? あなた、泣いて……!?」

春香「泣いてないもん……!」

千早「……」

春香「……う、うぇぇん……!」

ポロポロ……

千早「……。はる──」

美希「あれ?」ヒョコッ

春香「え!? み、美希!?」 


143:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 15:36:08.17 :urzOP9JL0

千早「美希……あなた、どうしてここに?」

美希「ミキね、お仕事の帰りとかに、いっつもここでお買い物してるんだ~。
   ……それより春香、どーしたの?」

春香「え、どうしたって……」

美希「もしかして、泣いてた?」

春香「……!」ゴシゴシ

美希「あはっ! 隠さなくてもいいの。春香ってば、意外と泣き虫さんなんだねっ!」

春香「うう……こんなところ見られちゃうなんて……」

美希「でもでも~……なーんか、ラッキーだったかも!」

春香「ら、ラッキー? なんのことよ……」

美希「いっつもガマンしてるけど、春香が泣くとこなんて、ミキ、初めて見たから!」

春香「……!」

美希「写真撮っちゃおーっと」ピロリン

春香「ちょ、ちょっと! け、消しなさいよっ!」 


145:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 15:46:45.97 :urzOP9JL0

春香「……あの、美希。いま言った、我慢って……?」

美希「え? だってそーでしょ?」

春香「そんなこと……」

美希「やよいとも、いつも話してるよ。春香は最近、すっごくガンバってるって!
   でもね、ときどき……あ、泣いちゃうんじゃないかなぁ~って思うときもあるんだ」

春香「……」

美希「あはっ! だから今日は、実にラッキーだったの」

千早「……美希」

美希「なーに、千早さん」

千早「あなた、何も考えていないように見えて、意外と鋭いのね」

美希「え~!? 何も考えてないなんて、ミキに失礼ってカンジ!
   なんにも考えてないのは、亜美と真美くらいだよっ!」

千早「ふふっ……、たしかにそうね。ごめんなさい」

美希「……でもでも、千早さんに褒めてもらえたから、
   今日はもう一個ラッキーだったかなぁ~。えへへー……」 


146:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 15:53:41.15 :urzOP9JL0

ぐ~

美希「あ……それじゃあミキは、お腹もすいちゃったし、もう帰るね」

千早「ええ。……ほら、春香」ポンッ

春香「う、うん……あ、あのっ、美希!」

美希「なーに?」

春香「……その……」

美希「……?」

春香「あ、明日のライブ、頑張ろうねっ!」

美希「うんっ! でもそんなの、トーゼンだって思うな!
   だってだって、これまでいっぱい、いーっぱい、お昼寝もガマンしてレッスンしてきたんだもん」

春香「……えへへ……そう、だね……!」

千早「……」

春香「それじゃあ……また、明日ね!」

美希「また明日なのー! ばいばーい!」 


147:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 16:02:27.43 :urzOP9JL0

 
  *  *  *

千早「……春香」

春香「……」

千早「あなたのユニットのメンバーは、ちゃんとあなたのこと、見てるのよ」

春香「うん……そうだね。私、ひとりで勝手に、余計なプレッシャー感じちゃってたかも」

千早「……無理に元気であろうとしなくてもいい。
   高槻さんや、美希……それにプロデューサーも、みんなあなたの仲間なんだから」

春香「えへへ……でもプロデューサーさんは、律子さんに夢中だからなぁ」

千早「えっ、そうなの?」

春香「実はね、そうなんだよっ! プロデューサーさんはそんなことないって顔してるけど、
   でも、言わなくたってわかっちゃうもん!」

千早「初耳だわ……まぁ、なんでも、いいですけれど」

春香「ふふっ、そんなこと言っちゃって。千早ちゃんもそういう話、嫌いじゃないでしょ?」

千早「そ、そんなこと……」 


150:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 16:20:06.12 :urzOP9JL0

春香「こないだなんてさー……」

千早「……ふふふっ」

春香「って、どうしたの? 私、なんかへんかな……」

千早「ううん。いつもの春香に戻ってくれて、安心しただけ」

春香「……えへへ。ごめんね、心配かけちゃったね」

千早「いいのよ、心配をかけるなんていつものことだし……
   それじゃあ、そろそろ、行きましょうか」

春香「え? 行くって、どこに……あっ、また帰るなんて言うの!?」

千早「ちがうわよ。買い物の続き。あんまり遅くになるのはだめだけど……もう少しくらいなら」

春香「……! ほ、ほんとに?」

千早「ええ。それで、少しでも春香の気持ちがリラックスできるなら……私も嬉しいから」

春香「ち、千早ちゃん……!」

ぎゅっ

千早「な、なに? この手……」

春香「……いいでしょ、女の子同士なんだから……手を繋ぐくらい」

千早「……ええ、まぁ……、いいけど」 


152:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 16:25:57.71 :urzOP9JL0

テクテク……

千早「……ひとつだけ、訂正しないといけないわね」

春香「訂正?」

千早「あの、さっき……私、こう言ったでしょ?
   春香に、なんで今日会ったのかって聞かれたとき……」

『……春香が、どうしてもって言うから』

千早「……って」

春香「ああ……でもそんなの、気にしないよ。千早ちゃんの本心、わかってるもん」

千早「そ、そう……じゃあ、言わなくてもいいわね」

春香「うん……ん?」

春香(いやでもここは、言わせておいたほうが……)

春香「やっぱり言って!」

千早「ええっ!? な、なんで急に!?」

春香「いいから~! ね、ね! 私、千早ちゃんの考えてること、全然わかんないからっ!」

千早「……もう……それじゃあ、一回だけね」

春香「うんっ!」 


158:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 17:09:11.92 :urzOP9JL0

千早「……今日、あなたに会おうって言われたとき……
   本当は、その……」

春香「……じー……」

千早「私だって、春香といっしょで……」

春香「うん、うん!」

千早「……嬉しかったのよ。久しぶりだったし、楽しみにしてた……から」

春香「うー、わっほい!」パァァ

千早「何それ……relations? ……と、とにかく、もういいでしょう!」スタスタ

春香「ああっ、ま、待って! もっかい、もっかいだけお願い!」

千早「……一回だけって約束だったから、もうだめよ」プイッ

春香「でもでも、千早ちゃんの貴重なデレだし……それに今の、録音してなかったし……」

千早「ろ、録音!? 録音してどうするのよ……」

春香「えへへー、寝る前に聞くの!」

千早「……」

春香「う、なんて冷たい瞳……でも、そんな瞳の千早ちゃんも、カッコよくて、悪くないかも……えへへ」

千早「……はぁ……。付き合い方、考えようかしらね」 


159:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 17:16:57.78 :urzOP9JL0

春香「……ね、千早ちゃん」

千早「なに? もう言わないわよ」

春香「そ、そうじゃないよぅ。えっとね……ただ、これを言いたかっただけ」

千早「これって?」

春香「……これからも、ずっと、ずーっと! 友達でいようね!」

千早「……ふふっ。ええ、そうね」

春香「えへへー……約束だよっ、約束!」

──────
────
──


P・小鳥「……」

春香「ふふふ……私の妄想は以上です!」

小鳥「……ねぇ、春香ちゃん。まず一個だけ聞いてもいいかしら」

春香「なんでも聞いてくださいっ! 千早ちゃんの可愛いところなら百個は言えますよ!」

小鳥「クーデレって知ってる?」

春香「なんですかそれおいしいんですか?」 


163:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 17:25:50.16 :urzOP9JL0

春香「千早ちゃん、ツンツンしてたじゃないですかっ!」

小鳥「そうかしら……」

春香「たとえばほら、最後の、冷たい瞳で見るところとか……」

P「春香にとってのご褒美になっているように見えたけどな」

春香「えへへ……じゃ、じゃなくて!」

春香「私にとっては、そっけないところとかも含めて、あれが千早ちゃんのツンなんですっ!」

P「……まぁ、たしかに、二面性という点ではそうかもな」

小鳥「はるちはは永遠だから、私にとってはすばらしかったです」

P「俺もそう思います。でも……」

P・小鳥「なんか、納得がいかない」

春香「え~……」

小鳥「……あの、私、ちょっと思ったんですけど」

P「なんですか?」

小鳥「結局これって……自分が考える、
   その人にとっての可愛いところを言い合ってるだけなんじゃないかなって……」

P・春香「…………」 


165:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 17:32:54.86 :urzOP9JL0

P「ま、まさかぁ!」

春香「そそ、そうですよ! いやそんな、無理矢理こじつけてるなんてそんなつもりは」

小鳥「そっ、そうですよねっ! あは、あはは……」


みんな「…………」


P「……ツンデレって、人に伝えるのが難しいな」

春香「そうですね……結局、ついつい『自分が知ってる』デレの部分を話すことが、多くなっちゃうから」

小鳥「……自分が知ってる?」ピクッ

春香「あ」

小鳥「……まるで、本当にあった出来事みたいに言うのね」

春香「も、妄想ですよ?」

小鳥「そ、そうよね!」

春香「……小鳥さんもプロデューサーさんも、妄想ですよね?」

P・小鳥「もも、もっちろん!」 


167:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 17:41:49.64 :urzOP9JL0

春香(……それにしては、なんていうか)

小鳥(お話の中で、ところどころリンクしてる部分があった気がするけど……)

P(……触れないでおこう。下手に触れたら、自分がケガしそうだ)


みんな(たまたま、たまたま……)


P「……そ、それじゃあ、勝敗はどうしよっか?」

春香「あ、そういえばそういう話でしたね……。すっかり忘れちゃってました」

小鳥「いいんじゃないですか、みんな優勝ってことで」

P「……そうですね。結局、いくら話しても、
 自分が考えるのが一番だっていうのは譲れないでしょうし。
 春香もそれで──」

春香「千早ちゃんが世界一可愛い」ボソッ

P「ん?」

小鳥「お?」

春香「えへへ……なんでもないでーす!」 


168:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 17:48:55.91 :urzOP9JL0

P「……ま、それじゃあ今日は、こんなところで」

春香「ああっ! 気が付いたら、すっかり遅くなっちゃった~……」

小鳥「春香ちゃん、おうち遠かったわよね? 終電、大丈夫?」

春香「はいっ! それじゃ──」


律子「話、終わった?」


P「えっ」

律子「……」

P「り、律子……!? お前、いつからそこに……」

律子「ふふっ、あなたが私の話をし始めてからですよ♪」

P「あはは……つまり、最初っからかぁ……それならそうと、出てきてくれればよかったのに」

律子「ちょーっとお話があるんですけど、いいですか? いいですよね、プロデューサー殿♪」

P「……はい……」 


171:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 17:54:41.44 :urzOP9JL0

律子「……あの空気で出てこれるわけないじゃないですかっ!」ヒソヒソ

P「うん、うん……」

律子「ったく、ほんとに……あれほど、あのことは──だって……」

P「はい……すみません……」

律子「もう……ほんと、恥ずかしい……!」



春香「……プロデューサーさんたち、どんなこと話してるのかなぁ」

小鳥「……春香ちゃん」

春香「え、な、なんですか?」

小鳥「春香ちゃんも、はやく帰ったほうがいいんじゃない?」

春香「……そ、そうですね! あはは、それじゃあ、お疲れ様でし──」

千早「その前に、ちょっといいかしら」

春香「……はい……なんとなく、こうなるんじゃないかなって思っていました……」 


173:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 18:02:06.79 :urzOP9JL0

千早「……私はね、プロデューサーとちがって、やましいことなんて何もないからいいけれど……
   話すなら話すで……もっとこう、事実を伝えられないの?」

春香「じ、事実だったじゃない!」

千早「……それにしては、やけに私があなたにデレデレしてたように聞こえるんだけど」

春香「えー? そーかなー」

千早「……はぁ……。だいたい春香は……」

春香「はい……はい……すみません……」




小鳥「……ごくり」

小鳥(と、いうことは……この流れでいけば、きっと……)

小鳥「……」ドキドキ

小鳥「……」

小鳥「……? 伊織ちゃーん? 出てきてもいいのよー?」 


174:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 18:08:54.56 :urzOP9JL0

小鳥「……」

小鳥「──ああ、そうか」

小鳥「ふふっ、そうだったのね……すっかり忘れていたわ」

小鳥「伊織ちゃんの嫁は、やよいちゃんだった」

小鳥「そして、私は……そう、私だけが」


小鳥(……そうよ。だって、そうじゃないとおかしいわよね)

小鳥(ふふふ。だって私が、やよいちゃんと伊織ちゃんだけの会話を……知れるはずがないもの)

小鳥(いま すべてを理解した)

小鳥(私だけが……、プロデューサーさんの話を聞いて……)

小鳥(その場で、妄想を作り上げたんだった──)



小鳥「……でも、まぁ、楽しかったからいいわね!」

小鳥「今日は色々と捗るわ~……! うふふ、ふふふっふふふ!」

おわり 


178:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/12(火) 18:14:43.37 :urzOP9JL0
おわりです。読んでくれた方支援してくれた方ありがとうござました
ツンデレなんて無かった もっとツンツンさせれば良かったかなって思いました
まぁいいよねみんな世界一可愛い 


元スレ
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1360613375